何を以て善と為し、何を以て悪と為すのか   作:Noah/Deal

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自嘲せし愚者

―――もしそれが虚構であっても、存在していると言う事実があるならば真実となり得る。

 

―――逆に、真実であったとしても存在しない以上は虚構に過ぎない、ということだ。

 

――その点()は面白い。虚構を宿しながらも、真実を失っていないとは。

 

――良く見ておくと良い。娯楽として楽しむならば、最高の素材だよ……

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

……己の体感では、随分と久方ぶりになるだろうか。

()()の瞳、その器官に入力される光。

それに僅かながら眩しさを覚えるも、それも一瞬。両の手で支え、地に伏せていた我が身を起こす。

 

 

「……ック、全く…。 最近の子供は礼儀の一つも習っていないのか?」

 

 

眼前には、先程と変わらず得物をこちらへと向ける少女が映る。

その姿、その形を目に入れた瞬間――-

 

 

「-――ッ――-」

 

 

無機質に、だがそれでいて機能的に己が脳髄の端の端まで浸透していく理解不能の感覚。

 

―■■―た――■―■■―い――

 

だが、()()己に叩き込まれた感覚で無い為か、抑え込むことは容易だった。

……考えなくても理解できる。この生まれた感情の意味、そしてその理由も。

 

 

「クソ■■■■が、そこまで道化を望むか……」

 

 

思わず呟いた一言。しかし答えは返ってこない。

―――当たり前だ。■にしてはこんな一言を聞く事など、ツイッターを眺めるより面倒な筈だから。

……さて、そのような戯言を考えている合間に自身のコンディションは把握できた。

五体満足五感正常、一部の異常を除けば精神的にも肉体的にもオールグリーン、ってな。

 

―――自分が自分で無いような気がする?

 

オーケーオーケー、気にするな。少なくとも今は()()()()()()()

自分の状態くらい、自分が一番把握しているさ。この状態がそう長くは続かないって事も。

まぁ、その間に少しくらいは足掻かせてくれよ――

 

 

《……Sir.》

 

「大丈夫、バルディッシュ。これも母さんの為だから……!」

 

 

こちらが動きを見せない事に痺れを切らしたのか。

眼前の少女が得物を振りかざし、雷速と比喩しても不自然でない程の超速で迫る。

だが、こちらとしても黙って嬲られる趣味は無いんでね……ッ!

 

 

「――ッセァァ!」

 

 

突き出した右腕、その先端から生まれる粒子は次第に形を為し、紅き一振りとして形成される。

初撃を受けられた事に動揺しているのか、少女の動きが一瞬だが止まった。

その隙に、槍の柄を掴み後方へ跳躍。一寸遅れて雷撃が着弾するが、己の身は既にその数m後方に在った。

 

 

「―-、ハッ―――!」

 

 

「ほぅ、そのような年でこれ程の――」

 

 

驚いた様子の少女だったが、直ぐに口を固く結び、"戦闘者独特の”表情を形作る。

切り替えが早い。それに対しては己も素直に賛辞を送る。

だが、その年でそれほどの思考制御が出来るとなると、彼女の境遇に少しばかり興味が沸く。

それに対しての考えを深めるより、彼女が再び踏み込んでくる方が早かったのだが。

上段からの斬撃、それを柄でいなし右方へ飛ぶ。

そしてすぐさま反転し、相手の体勢が整う前に、穂を突き立てるべく突貫するが――-

 

 

「――アーク、セイバーッ!」

 

《Arc saber》

 

 

「―――ッチ、早すぎる――-!」

 

 

これが()()か。これが彼女の言う魔導師か。

己が振り返った時点で既に、体勢を整えるどころか――

我が身を両断すべく程の光刃が、不規則に回転しながら飛来して来ていたのだから。

 

 

――僕はここで■ぬ訳にはいかない

 

自身の内から響く声。それをごく自然と感じている己がいて。

"当たり前だろう?まだ何も為していないのだから"

 

――■■■の役を帯びて僕は転生したってのに

 

識っている、知っている。この感覚を己はシッテイル。

"……■■■? 笑わせる。転生した以上、二度目の生を謳歌したらどうだ?"

 

――役目を果たせない僕に、■■■としての資格はないよ

 

■■■という言葉、それすらが虚構に感じられる。そう忘れていた、己は――

"――いい加減黙れよ、(オレ)の■■が。"

 

 

脳裏に奔るノイズを強制的にカット。煩しい煩しい、ナニモカモが煩しいッ―――!

ノイズに意識を向けると共に、先程まで抑えていた原因不明の感覚が全霊を以て己に流れ込んできた。

 

それに呼応しているのか――右手に握った槍、その表面に無数の紅き光条が走る。

脈動するかの如くその身を震わせる槍に、思わず恐怖すら感じた。

しかし、その恐怖すらも今の己には最高の感情だ。ああ嘆かわしい、出来るならばこの感情を永遠に……!

 

視線を前方に向ける。そこには相も変わらず飛来する刃が二つ。

だが次の瞬間、我が身、その本来の反応速度を超えた速度で槍を振るった。

振るわれた紅槍は―― その一瞬の交錯で、身を裂く筈の光刃のその全てを消滅させる。

 

――否、それすらも餌として"喰った"。

それはあくまで比喩表現に過ぎないが、実際に光刃を構成していた術式は綺麗に霧散し、そこには魔力の残滓すら残っていない。

 

魂を構成する第五要素、ある世界ではエーテルとも呼ばれるそれを喰らい、震わせる。

曖昧な形ではあるが、"彼"の願いに対してカミサマが創り出した一振り。それがこの紅き長槍。

しかし、自らの存在すらも喰らい、書き換えかねない為ある意味では失敗作でもある。

 

―――最も、"彼"の場合は別の意味で深刻な問題を抱える訳だが。

 

 

「――ハハッ、楽しいねぇェ!!」

 

 

前方へ。右方から。左方から。下方からも。

眼前に映る獲物を捕らえるべく、自らの自制心を捨てて次々と槍を振るう。

 

残像すらも残さない神速に、眼前の雷速でさえも身をかわす事が限界に見える。

その槍捌きは、まるで獲物を狙う蛇が如く。

魔導師の戦闘スタイルとは全く異なる戦法に、少女も随分と厳しい表情をしているように見えた。

 

 

「こいつぁー、ちっとばかしイテェぞっと――」

 

 

激しい近接戦の中、己は何故か言い難い高揚感を感じていた。

自分が自分でない感覚とは、まさにこのような感覚なのだろう。

それを終わらせる事は少々惜しくはある。だが、同時に終わらせなくてはならないという使命感も抱いている。

 

故の一撃、脈動する紅き光芒が穂に集中し、一筋の流星として路地裏を駆ける。

だが――

 

 

《Blitz Action》

 

 

突如、響く機械音声。次の瞬間には、眼前から少女の姿は掻き消えていた。

目標を失った流星は、路地裏の壁を抉りクレーターを生んだ。

だが、それで己の高揚感は満たせはしない。

 

その数瞬にも、己の知覚域から少女は離脱していく。

追うことも出来ただろう。だが、不思議と己はそれを良しとしなかった。

 

槍を粒子に還元し、自然と路地裏の壁にへたり込む。

 

 

―――ああ、煙草が吸いたい、な――

 

 

……吸った事すら無いそれを、今は不思議と吸いたくなった。




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