気持ちのいい朝。
私は珍しくスッキリとした気分のまま破れかかる襖を開け放ち、そのまま気持ちのいい朝陽を体いっぱいに浴びる。
「んー、これで賽銭でも入ってれば文句なし――って、何やってんのよ?」
「あら、随分と遅いお目覚めなんですね。羨ましい限りです」
せっかくのいい気分を害する緑色が、追い打ちと言わんばかりの満面の笑みを向けてくる。本気でイラついてくる顔だわ。
「あんたは耳が聞こえないわけ?」
「ごめんなさい。鳥たちのさえずりで雑音が消されてしまったみたいです」
朝っぱらからこの緑色は鬱陶しさが全開な様子のようね。
「あんたが居ると増える賽銭も増えなくなるでしょうに……あー鬱陶しい」
「私が居た方が奇跡的に賽銭が入るかも知れませんよ?」
徹底抗戦の構えを示すのね。それならこっちが取る手段は一つだけ。開け放った襖を閉じる。それだけ。
「あーっ! もう、冗談じゃないですかー。本気にしないで下さいよー」
間の抜けた声が襖越しに聞こえる。本当にこいつは真意が読み取れない奴だ。
今だってその言葉が冗談に聞こえてくるもの。
「それじゃ用件だけ聞いてやるわよ。なに?」
「えへへ、遊びに来ただけです」
屈託のない笑みで小首を傾げる姿に、私は開けた襖をまた閉じる。
「えーっ! なんで閉じるんですかー?」
本気で鬱陶しい。
これならどこぞの魔法使いもどきの方が幾分かは相手にしてられるわよ。
「そんなに私のことが嫌いなんですか……」
急に声色を暗くするが構わない。
襖を開ければすぐにあのムカつく笑顔が復活するんだから。
「私はこんなに霊夢さんのこと、好きなのに……」
言葉の随所で鼻をすする音が聞こえる。
本当に泣いてるって言うの?
「……もう、帰ります」
流石にやり過ぎたかな。
このままでは明日からの目覚めが悪くなりそうなので、私は嫌々に襖を開ける――
「えへへ、どうでした? 本気で――」
さっきと同じ顔が見えたので、私は開いた両腕をそのまま元の位置に戻す。
本当にこいつは何なんだろう……。
「もう、霊夢さんは短気なんですから」
襖越しにでもあの緑が引っさげている表情が浮かんでくる。あの人を小馬鹿にしたような笑顔が。
もう一回寝ようかな。
「えへへ、実はちゃんとした用事があって来たんですよ?」
起きた状態のまま放置してある布団へ向かおうとしたけど、少しだけ変わった声色に足を止めてしまう。
無視すればいいのにね。
「少しでも霊夢さんの退屈を紛らわせたいんです。そんなんじゃ、襖は開けてはくれませんか?」
不十分ね、と言いたい所だけど。
「布団を干そうと思ってた所だし、手伝ってくれるなら開けてやってもいいわよ?」
「お安い御用ですっ!」
本当にこいつは訳が分からないやつよ。
でもまあ、悪い奴じゃないのかもしれない――
「なんちゃってぇ。引っ掛かりまし――」
私はもう寝ることにした。