スミレには嘔吐等を引き起こす毒がある。   作:へりこにあん

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前にじファンでやっていた物のリメイクです。でもにじファンはとうに削除されてますし中身が別物です。


純玲は魔獣に出会った

抑揚の無い声が流れる中、時折すすり泣きが聞こえ、線香のにおいが私の鼻を突く。

 

私を含むそこにいる一様に黒い服を着た人間達の注目が集まる先には花に囲まれた一枚の写真。

 

特にひねりやひっかけがあるわけでなく葬儀をしているだけ。決して怪しい宗教の儀式だったりはしない。

 

そんな不謹慎なことを考えている十四歳の少女。彼女の名前は純玲(スミレ)という。謙遜、慎み深さ、誠実……そんな花言葉を持つ花の名前を本当に持っていいのか疑いたくなるがそういう性格なので仕方がない。

 

純玲は今も、宗教によって人間が暴走することは少なくなく、アメリカ西部の開拓の裏にある理不尽な攻撃などを忘れてはいけないと思う。とか葬儀に関係のないことを考えているがそれは決してふざけているわけでも死を悼んでいないわけでも葬儀に出たくなかったわけでもない。

 

むしろ両親、兄妹、祖父母あたりの近い親族と同じかそれ以上に誰よりも真剣で、誰よりも悼もうとしていて、結果誰よりも葬儀に出ることを望んだ。

 

ここにいる人間は彼女を除けば実はすべて親族である。

 

親友だからという理由で呼ばれ、親友だからちゃんとお別れしないとと思ってきたのだが純玲はどうしても彼女の死を受け入れられなかったのだ。

 

あの支離滅裂な思考は簡単に言ってしまえば現実逃避。

 

しかし結局今日の内にでも純玲は現実を認識するだろう。それからどうなるかはわからない。

 

引き籠るのかもしれない。

 

傷心しつつも元の生活に戻るのかもしれない。

 

自暴自棄になるのかもしれない。

 

案外あっさりといつも通りになるのかもしれない。

 

しかし今の状況を見るに一番目の可能性が濃厚だ。

 

元々の純玲という少女は座右の銘は他人の不幸は蜜の味だと言ってたりするろくでもない部類だ。かといって特に何かやる程勇気も無い。実害を出さない代わりに何も特筆した結果を出せない。

 

そんな純玲にはそんなに友達がいるわけがなく一人しか友達がいなかった。

 

朝は家まで呼びに来てくれ、一緒に登校し、昼は喋りながら昼食を一緒にとり、日が暮れるころに一緒に帰る。休日も一緒に遊んだり勉強したり直接会わなくても四六時中メール。

 

そんな友達は家族よりも一緒にいる時間は長く、親友という言葉では余る程。

 

そんな親友を失った今の彼女には明日への希望なんて無い。そもそも今は現実逃避で精一杯。

 

まともに家に帰ることすらできない状況である。

 

辺りのものが皆温かみのある赤に染まる時間帯。大人しい彼女の好きな時間帯。小さい頃は五時になったら帰ってきなさいよって言われてたのに頑なに彼女が帰りたがらなくて一緒に怒られたことが何度もあった。

 

この道は登下校での寄り道になるけど一番夕焼けがきれいに見えるのでよく通った。

 

このまま進めば河に出る。十歳ぐらいの頃川流れしてみようとしたら彼女がだめです、だめなのです!と泣きながらスカートを引っ張ってきたのでやめた。やめた後も引っ張られ続けてそのまま帰ることになったのを覚えている。

 

何を見ても純玲の頭には親友のことばかり浮かんでくる。

 

確か河原に一本生えてる木の根元に幼稚園の卒園式の日にタイムカプセルを埋めた。

 

もう九年になるのだから掘り返してもいいだろう。

 

純玲の足は家と反対方向にある河の方へと向いて動き出した。

 

親友と何度も通った道だ考えなくともよどみなく足が運ばれていく。

 

階段を無視して土手を駆けのぼって駆け下りる。

 

もう夕陽も沈みかけ、暗くなってきたが純玲にはその木を探すのは難しいことではなかった。一本だけぽつんと立っている木はさびしげに長い影を落としている。

 

この木には異界から攫おうとする者の目印だという都市伝説があり純玲も当然それを知っている。

 

日が落ちるにつれ木は不気味さを増し、葉擦れの音が妙に大きく聞こえる。

 

しかし今の純玲には聞こえていない。親友と残したタイムカプセルを探すのに夢中だ。手が汚れようが爪に泥が入ろうが気にしない。まるで憑りつかれたかのように掘り続けている。

 

――カツッ

 

スコップ代わりの石が何か硬い物にぶつかる。

 

純玲はさっきまでよりもさらに激しく掘り返しそれを取り出す。

 

あったのはクッキーなどを入れる缶。ひらがなで二人の名前とたいむかぷせると書かれている。

 

それを一度愛おしそうに撫でてから開けた。

 

中には真空パックされた二枚の手紙。かわいらしい絵とお母さんに書いてもらった文面。

 

最初は純玲のものから読む。いくらいなくなったとはいえ少し気が引けるのだろう。

 

「アハハッ」

 

自分が書いたものとはいえ幼稚すぎる。小学校を卒業したら二人で一緒に世界中を回るとか書いてある。

 

「この手紙のままだったら今頃私たちアメリカにいることになるよ!?ねぇクルミ……クルミも見て……よ……」

 

そうだ。今、隣には誰もいないんだった。

 

もしかしたらいつかは二人で世界中を回ることもできたかもしれないのに。

 

今だけでなくずっといないのか。これから、ずっと。彼女は、クルミは死んだ。クルミは死んだんだ。

 

そう心の名で反復し、

 

「……クルミは死んだ」

 

口に出した時純玲の中で何かがすとんと納まった。

 

途端に純玲は知りたくなった。親友の手紙にはなんて書いてあるのか、彼女は何を望んでいたのか、その場ではその手紙からしか知れなかったから。

 

そして純玲が見たのはとても簡潔な一文だった。

 

すみれちゃんとずっといっしょにいたいのです。

 

「クルミったらバカなんだから……短冊じゃないんだから願い事を書いたって叶いやしないのに」

 

そうだ、もう何したって叶わないんだ。

 

もっと色々したかったのに。二人で笑って二人で泣いて、そのうちクルミが彼氏を作ったらのろけ話を聞いたり、もっと二人で何かこう……

 

「ずっと……えぐっ、一緒に……ひくっ、いたかったのに……」

 

自然と口からは嗚咽が漏れ、目からは涙がこぼれる。

 

――ぴちゃん

 

純玲は目を疑った。涙が落ちたところから光る波紋が広がったのだ。

 

地面に草に水面にと、純玲を、純玲の涙を中心にして光の波紋が広がる。

 

光の波紋はスーッと音も無く五メートルほど広がると徐々に光を失って消える。純玲が涙をこぼした数だけ波紋が広がる。

 

一瞬その美しさに涙が止まるがすぐにまた涙が出る。それは感動の涙ではなく、悲しみの涙。

 

なんでクルミと一緒にこの光景を見れなかったのか。きっと二人で見た方がずっとずっと美しく感じただろうに。

 

そんな気持ちが純玲に涙を流させ、赤子のように叫ばせる。

 

波紋の間隔が短くなり、一見するとただ地面が発光しているように見える。

 

――ザザザザザザザザザザザ……

 

葉擦れの音がより大きくなり次第に止まらなくなる。

 

風が純玲を中心に渦を巻く。

 

ふと地面の光が上に立ち上り始める。

 

――サワッ……

 

頬を撫でる感覚に純玲がふと顔を上げると紫色の体を持った魔獣の尻尾が涙を拭いていた。

 

「……誰?」

 

この狼のような魔獣に誰と聞くのはおかしいと純玲は思ったが訂正しなかった。

 

「……わからないのです。でもあなたに呼ばれた、それだけはわかってるのです」

 

立ち上った光が二人を、いや、一人と一頭を包み込む。

 

――ザザザザザザザザ

 

葉擦れの音が止まり、風が止まり、光が消えた頃。そこには魔獣も少女もいなかった。

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