『・・・ストライクドラモンから俺は色々なことを聞いて知った。
ウィルス種のデジモンは皆一様に悪事を働く。いたずら程度の物で済むものも容赦をすればいずれ危険な存在になりえるということ。
ストライクドラモンのような一部のワクチン種のデジモンはウィルス種を駆除するのが使命。しかしその数は少なく、もうすでに危険な存在にになってしまったウィルス種に対処するのが精一杯ということ。
データ種やそフリー、弱いワクチン種はウィルス種に毒されてしまうことがあり、その多くの場合はもう手遅れなので殺さざるを得ないということ。
今俺が探しているあの子の親友のあいつがとても凶暴な、それでいてまだ堕ちることができるサングルゥモンというウィルス種と一緒にいてその世話をしているらしいこと。
そのサングルゥモンのせいでもう二体の勇敢で高潔なワクチン種がやられ、怪我だけならそのさらに何十倍何百倍にも上ること。しかもサングルゥモンが逃げるために二体の仲間のウィルス種を生贄にしたこと。
そういった事を聞いて知った後、いくつかのことを体感して知った。
自分の携帯が変わったこのみょうちくりんな物、これがデジヴァイスという名前で人間だけが使えるデジモンを《進化》させられるもの。しかし俺はパートナーというものであるストライクドラモンしか進化させられないこと。
《進化》というのはゲームとかに出てくる概念のものに限りなく近く、強い姿に変身することで幼年期Ⅰ、Ⅱ、成長期、成熟期、完全体、究極体と段階がある。
通常は《進化》するとそのまま戻らないがデジヴァイスを使った《進化》の場合はすぐに戻ってしまうということ。
そしてウィルス種のデジモンが本当に恐ろしい存在だということ。
最後二つはストライクドラモンと一緒にに戦って初めて知ったことだ。
俺が来てストライクドラモンと少し言葉を交わしパートナーであると知った直後、街にフーガモンというデジモンが降りてきたのだ。
そのデジモンは生贄にされた一体のオーガモンというウィルス種の弟分でオーガモンの友人で二体目の生贄であるワルシードラモンの加勢に来ていた。
しかしそのワルシードラモンが一日前に死んでいたことを知ると逆上、ワルシードラモンを殺したデジモンを炙り出そうと大声で叫びだしたのだ。
その暴挙をストライクドラモンは放っておけずに飛び出し、駆除を始めた。町の住民達は先の駆除でまともに戦えるものは怪我をしているのが大半。まず戦えないものの避難を優先したためフーガモンとストライクドラモンの一騎打ちになった。
最初押していたストライクドラモンだがフーガモンの仲間、ヒョーガモンが来て形勢が逆転。そこでデジヴァイスが光りだしストライクドラモンが進化、サイバードラモンとなって二体を駆除したのだ。
そこで俺はストライクドラモンと行動を共にすることになった。』
「・・・サザイ。まだか?」
「今終わった。」
今までのはナレーションではなく冴才の日記である。せっかく異世界に来たのだから記録を付けたいととフーガモン、ヒョーガモンを倒した時にお礼としてもらったのだ。
今二人がいるのは蜘蛛の魔女の森と呼ばれる森の入り口である。
とりあえず道が続いている町や村は他のデジモン達も合わせて二週間以上かけて虱潰しで探したのだが目撃情報の一つも出て来ず、それぞれの町や村の捜索隊と道の無い場所を探す部隊とで別れたのだ。
ちなみにストライクドラモンは徹底的な種族主義から来る協調性の無さと足手まといな冴才がいるせいで一人だけになったのを全て冴才のせいだと考え不満に思っていたりする。
「なら行くぞ。ここはウィルス種の害蟲共の巣窟、お前を守りながら戦える保証は無いからな。」
しかしストライクドラモンは本音を言うことはしない。力が欲しいからだ。
「わかった。進化のタイミングはどうする?」
そして冴才はそんなことには気づかない。純玲のように切羽詰まった状況に陥っていないために異世界に呼ばれた俺スゲーな思考をしているから自分のことしか考えていないのだ。
「合図をする。」
お前はただ俺に力を与えればいい。そう言うのはやめておいた。サングルゥモンにとってあの人間が何か特別な何かであるのは間違いなく、そしてこの人間はその間のつながりを断ち切れる可能性がある。なら機嫌を損ねるのはあまりよくない。
「わかった。」
ウィルス種の巣窟。もしかしたら下法的な死人を蘇らせる術なんかもあるかもしれない。あいつを助けなきゃいけないのは癪だがもしあの子を蘇らせることができたならあいつに邪魔されないように恩を売っておくのはいいことだ。
お互いに自己中心的に考えているのなんて知らずに二人は森に入った。
獣道とも言えない道なき道を歩き始める。
「・・・いるな。」
時々ストライクドラモンが止まって周りを見渡し冴才にデジヴァイスを用意するように促す。
しかしそれはすぐに去っていく。ストライクドラモンも冴才もそれを相手が恐れていると認識した。
実際はストライクドラモンが純玲とクルエルの話に出てきたのとその隣に人間がいたから念のためアルケニモンが対応しようとしているだけである。アルケニモンは完全体。成熟期・・・いや、完全体でも地の利があるために真正面から戦って負けることはまず無い。
冴才とストライクドラモンの二人は着実にアルケニモンの待つ小道に誘導されていた。
「・・・止まれ。この先に何か強いのがいる。」
ストライクドラモンの言葉を受けて冴才がデジヴァイスを取り出して構える。二週間の間に検証した結果ストライクドラモンに画面を向けないと効果が出ないことが分かっている。
そして実はすでに二人は罠にかかっていた。
――ガサッ
ストライクドラモンが物音に反応して後ろを向く。
睨むのは木々の間に佇むアルケニモン。よく見るとその周りにはすでに糸が張り巡らされている。
「・・・蜘蛛の魔女。」
ストライクドラモンの髪が青白く燃え上がる。
「蜘蛛の魔女じゃなくて森の女王、覚えときな。」
アルケニモンが手を前に出して小道に沿った木々に次々に糸を張り巡らせていく。これで二人の逃げ道は進行方向だけになった。
「・・・気持ち悪っ。」
呟いたのは冴才だ。
「あんたの隣にいるのも大概だと思うけどね。」
アルケニモンは自分を醜いとは思わない。綺麗とは言えないがドクグモン達の女王としてはこれ以上に適した姿は無いと思っている。
「サザイ、進化だ。」
ストライクドラモンは見た目なんてどうでもいい。相手は駆除すべき対象であるかということだけわかればそれでいいし自分は駆除するのに適した姿であればそれでいい。
「ストライクドラモン、進化!」
冴才の叫びに呼応してデジヴァイスの画面が明るく光りだす。
明るい光は空気中で筋のようになり黒ずみながらストライクドラモンの体を包み込んでいく。
仮面の角は二本に、体は機械と黒いラバーに包まれ、余った光は赤黒い四枚の翼となった。
「進化・・・サイバードラモン。」
「話し合いは・・・好きそうじゃないね。」
姿の変わったストライクドラモンを見てアルケニモンは説得が不可能であることを知った。
コイツの種族主義は行き過ぎている。一朝一夕で改められるものじゃない。
アルケニモンは片手をサイバードラモンに向けて警戒を解かずにもう片方の手を天に向け糸を出した。
今アルケニモン達がいる場所をアルケニモンは自らの糸で囲ってある。入ってきた入口と天井さえ囲めば成熟期にはとてもじゃないが出られない牢獄となりえるからだ。
アルケニモン自身もそう容易には切れない糸だが問題ない。サイバードラモンの動きを一瞬止められれば確実に縛り上げることができる自信がアルケニモンにはあったからだ。
「あんたら!出てきな!!」
――ザザザザザザザザザザザザザザ・・・
コドクグモンとドクグモンの大群がどこからともなく現れ糸の牢獄の外側に張り付く。
「・・・駆除対象だらけだな。」
「なんでそんな冷静なんだよ!」
冴才にリアクションを返すようにコドクグモン達が一斉に糸を吐く。
――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ・・・
羽音のような振動音がサイバードラモンの爪から鳴る。
爪は糸を容易く引き裂き寄せ付けようとしない。
しかし物量が多すぎるからか寄せ付けないだけで他のことをする余裕が無い。
それを見てアルケニモンが手を動かす。
それに合わせてドクグモン達も糸を吐き出す。
少しづつサイバードラモンが押され、腕に糸がまとわりついていく。
まとわりついた糸は時間がたつと振動により解けるのだが一瞬、腕が封じられる。
その一瞬をアルケニモンは見逃さない。
片手から出した糸はサイバードラモンの両足を一つにまとめ上げ、サイバードラモンの迎撃をさらに遅くする。
もう片方の手から出た糸は四枚の翼の一枚に絡みつく。
「ぐぅっ!」
アルケニモンが翼を引き寄せるようにするとサイバードラモンの上半身が引っ張られ反射的に両手をついてしまう。
そうなるとサイバードラモンはただ飛んでいるだけの蝶と同じ。蜘蛛の巣から逃れられない。
降り注ぐ糸は翼を地面に縫い付け。それを振り払おうと伸ばした手は両方纏めてさっきまでドクグモン達の陰で待機していたディノビーモンにねじあげられる。
振動しているだけならそれをいなすのは同じ完全体であるディノビーモンにとっては容易いこと。いなした振動は翅を震わせ少し浮かせるぐらいでしかない。
アルケニモンも一度糸を手元から離し馬乗りになると腕と翼を強く縛り上げる。
その後ディノビーモンに足を抱えてもらって新しく縛り直し、更に簀巻きのように糸で巻いていく。
「サイバードラモン!?」
それはアルケニモンやディノビーモン、サイバードラモンなら目で追うのは当たり前。そこから取捨選択しながら行動できるぐらいのもの。しかし純玲のようにそう言った攻撃を避けざるを得ない立場になったわけでもないただの人間の冴才から見れば一瞬の出来事だった。
「・・・人間、だよな?」
ディノビーモンがサイバードラモンへの注意は逸らさずにしかし冴才の方をしっかりと見て聞いた。
冴才はその感情の無い目が恐ろしくてたまらなかったがなけなしの勇気を振り絞って睨み返した。
「だったらどうした!」
「どうしてデジタルワールドに来たのかちょっと興味があるのさ。人間はそう見れるもんじゃないからね。一生で一度見れた私はラッキーかもしれない。」
代わりに答えたのはアルケニモンだ。
実際聞きたいというのも確かにあった。スミレは望まざる戦いに巻き込まれていた。もしこの人間が自由に行き来できるならスミレも帰れることになる筈。アルケニモンはそう考えたのだ。
しかしそれ以上にアルケニモンは自分達が純玲と会っていないように見せたかった。
どういう形であれこの人間がスミレを追っているのはストライクドラモンといることから確か。そしてクルエルに対して敵対しているのも同様に確かと見ていい。
それはアルケニモンとディノビーモンの間で共通の認識だった。
「答える義理は無い!」
しかし冴才は恐怖心を紛らわせるのに必死でそんなことに気づく余裕は無かった。
「・・・嫌われたものだな全く。」
ディノビーモンはそう言ってさて、どうする?とアルケニモンの方をちらりと見た。
アルケニモンは森の入り口にでも放り出すかそれとも近場の町にでも放り出すか軽く思案しながら冴才の方を改めて見た。
とても一人だけで食べ物を採ったりできそうにない。糸を切れるとはとても思えないし・・・
そんなことを考えていたのだが冴才にはそうは見えず、どう料理しようか考えているように見えた。
だから冴才はデジヴァイスを握りしめながら死にたくないと強く、それこそ純玲のこともあの子のこともサイバードラモンのことも頭から無くなるほど強く願った。
「・・・起動したか。」
オメガモンはデジヴァイスのプログラムが解凍され、起動したのを確認して笑みを浮かべた。
最初の解凍条件は人間が触れること。これによって完全体への進化を可能にするプログラムが解凍され、持ち主の気持ちの強い高まり。それによってデジヴァイスの効果で完全体に進化したデジモンを更にもう一段階、究極体への進化を可能にするプログラムが解凍される。
最初のプログラムは人間の手から離れると自動的に圧縮されるようにもなっている。解凍されっ放しだと冴才の価値がなくなってしまうからだ。
ストライクドラモンからの究極体がどう転んでも戦闘に向かないデジモンになることが無いのは大樹の半分ほど失われたデータバンクで調べることができていた。
デジヴァイスの力が上乗せされた究極体デジモン。完全体二体に成熟期と幼年期が多数であれば負けるわけがない。
そう考えての笑みだった。
実際オメガモンの予想通りに蹂躙していく様を警邏システムは映し出した。
ディノビーモンの翅が毟られ、アルケニモンの体が二つに切り裂かれる。逃げるドクグモンやコドクグモン、遠巻きに見守っていたフライモン達は電撃に焼かれている。
逃げ延びた者達も一体、また一体と握り潰され、電撃に焼かれ、真っ二つに切り裂かれたりもしている。
笑みはより深くなる。
蹂躙が終わったら冴才に前と同じように通信をしてアルケニモンのミスリードを正せばいい。思ったよりも早いが問題は無い。
オメガモンにはそれ以外にもやらなければならない事があった。
他のロイヤルナイツへの情報操作である。
彼らは自らの正義を絶対として行動するためにその行動は読めない。傍観を決め込んでくれるのなら問題ない、しかし介入されると困る。
冴才の味方ならばまだいい、一番大切なのはサングルゥモンを始末することだから。でも万が一サングルゥモンの味方に付かれればどうなるかわからない。
現在転生中のメンバーが八人、元から消息不明どころか本当に存在するのかもわからないのが一人。それからオメガモン自身を引いた三人にサングルゥモンの情報が行かないようにする。
一人はあるデジモンに変わってデジタルワールドの中核、カーネルを守っている。そもそも情報操作をする必要が無い。
一人は辺境の地に自らの城を建てそこにて部下の育成と庭いじりをして過ごしている。こちらもあまり警戒する必要は無い。
問題は最後の一人。かねてから大樹のデータバンクの修復に挑んでいたが限界を感じ自ら情報を集め新しくデータバンクを構築するために古代遺跡を巡っている。
一つの遺跡に入れば一月は出てこないのだが逆に言えば一月に一度出てきてしまうかもしれないという事でもある。
そのタイミングも遺跡によりまちまち。それに遺跡在住のデジモンがいた場合そこから知ってしまうかもしれない。
「ドゥフトモン。いっそのこと・・・」
オメガモンの右腕、竜の頭部から両刃の剣が伸びる。そこに刻印されているのは全てを終わらせるための技の名前。
オメガモンはただただ蹂躙劇を見つめていた。