スミレには嘔吐等を引き起こす毒がある。   作:へりこにあん

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間空きすぎまして本当にすみません。


人間【クルミに近づけなくてよかったと思える】

パイルドラモンの元へと広い広い草原を走る純玲達一人と二匹は当然ながらアルケニモンやディノビーモン、ドクグモン、フライモンにコドクグモン達が森ごと殺されたことなど誰にも教えてもらってはいなかった。

 

しかしそれを純玲達はなんとなく察していた。それは勘とか虫の知らせとかそういったものによるものではなくて視覚的に捉えられる異変があった。

 

蜘蛛の魔女の森、すなわちアルケニモンとディノビーモンの森が燃えていたのだ。原因はジャスティモンのブリッツアームによって放たれた雷。

 

けれど原因が分からなくてもおかしいことには気づける。休み休みではあるものの半日以上純玲達は歩いたのだ。よっぽど火が回っていない限りとてもじゃないが見えるわけがない。そしてアルケニモンやディノビーモン達が生きているならば、そんなことはありえない。絶対阻止するだろうことを純玲達は知っている。

 

「・・・クルエル、コドクグモン。行こう。」

 

数十分以上続くことになった沈黙を破ったのは純玲だった。

 

それは純玲が薄情だったからでは無くて留まっていたらアルケニモン達を殺したものかどうかは別として追手に追いつかれる。そしてそれはきっとアルケニモン達の意思に反するだろうと思ったからだ。

 

「アルケニモン達がそう簡単に死ぬわけないよ。きっとまだ戦っているだけよ。」

 

先に述べたとおり純玲は全然そんなことは思っていない。

 

純玲はアルケニモン達は死んでいるだろうと半ば確信してすらいる。しかしその細い希望にすがりつきたいとも同時に思っている。

 

「・・・そうですよね。」

 

コドクグモンは表情がわからないがそれでもわかる程に暗くなっていた。

 

「そうなのです。それにクルエル達の疑惑が晴れたらお礼をしに行かなきゃいけないのです。」

 

クルエルが体を低くしてスミレ達に乗るようにと催促する。

 

「そうそう、とりあえずパイルドラモンを尋ねに行こうよ。竜の谷だったっけ?」

 

風圧で飛ばされないようにコドクグモンを肩ではなく風を受けない首裏に位置をずらして純玲がクルエルに跨る。

 

しっかりつかまるのですと軽く声をかけてからクルエルはまるで弾丸のように勢いよく駆け出した。

 

すぐに離れるべきだというのもあったがそれ以上にコドクグモンの気持ちを変えたいと思っていた。普段ありえないほどのスピードに乗っている時良くも悪くも気持ちというのは変わらざるを得ないだろうと考えたのだ。

 

しかしその姿を見ていた者はそうは捉えてくれなかった。

 

「・・・サザイ、突然サングルゥモンが全力で駆け出した、こちらに気づいたのかもしれない、急ぐぞ。」

 

見ていた、いや、正確にはセンサーで捕捉していたのはサイバードラモン。まだ近くにいるのではないかと考え飛べないジャスティモンから飛べるサイバードラモンにあえて退化したのだ。

 

冴才がデジ文字を読めないので最初気づかなかったのだが成熟期から究極体の間なら自由に進化退化させられる仕様になっていたのだ。

 

「そうか。どうする?サイバードラモン、ジャスティモンに進化させた方がいいか?」

 

スピードもパワーも防御力もサイバードラモンよりも格段に上。強いて弱点を上げるとしたら体格が二周り以上小さくなることぐらいだ。

 

「・・・いや、やめておく。サングルゥモンを駆除するためにあの人間をお前に排除してもらう必要がある。」

 

ジャスティモンだと小脇に抱えることができなくなってしまうのをサイバードラモンは嫌った。

 

サイバードラモンにとって冴才はあくまで力をくれる道具である。とてもじゃないが冴才のために両手を埋める気にはなれないのだった。

 

「行くぞ。」

 

おもむろに冴才を小脇に抱えて駆けるように地面を蹴って低く飛ぶ。

 

竜の谷と呼ばれる谷と魔女の森の間にあるまばらに木の生えた緑の絨毯の表面がサイバードラモンの飛行に伴って逆巻き、掘り返され土が道を作り出していた。

 

もちろんそんなことをすればただ森の上空で飛んで索敵していた時のように気づかれないままでいるということは不可能。

 

けれど気づかれないようにするにはこの草原では距離を取る必要がある。そうなればいつまで経っても射程には入らない。

 

しかしそもそもサイバードラモンは完全体でサングルゥモンは成熟期。気づかれても何の問題も無い。また身代わりを使うとすればあの人間しかいない。それはそれで好都合。サイバードラモンはそう考えた。

 

「・・・誰か来るのです。」

 

音が近づいてくることと目の前の草原の広さを考えクルエルは一度反撃して弱らせてから逃げることを決め徐々に減速しながら止まって純玲とコドクグモンを下ろした。

 

「クルエル?」

 

クルエルの呟きが聞こえなかった純玲が突然止まったクルエルを不審に思って聞き返した。

 

「ストライクドラモンとちょっと嫌な匂いがするのです。」

 

クルエル自身なぜ嫌な感じがするのかはわからない。そもそも感覚というものは科学的である物を基に生まれる抽象的な物だから自分自身のことであっても理解できないのは何ら不自然なことではない。

 

ちなみに皆さんお察しのように嫌な匂いの元は冴才である。

 

――ザザザッザザッ

 

待ち構えるクルエルの前方十メートルぐらいのところにサイバードラモンが降り立ち抱えていた冴才を横に乱暴に立たせる。

 

「・・・サングルゥモン。そろそろ大人しく駆除される気になったか?」

 

サイバードラモンの背中の翼が一度ばさりと振るわれた。

 

「クルエルの名前はクルエルなのです。サングルゥモンじゃないのです。」

 

クルエルは軽く足を開き冴才を一切気にかけずサイバードラモンに向けて牙を剥いた。

 

「クルエル、ちょっとそこの人間と話がしたいんだけど。」

 

実際は純玲は話したくなんかなかった。けど話さなきゃいけないと思った。何故いるのかもそうだし何故よりによってストライクドラモンと一緒にいるのかを聞きたかった。

 

クルエルは当然のように賛成の意を示して頷いた。しかしサイバードラモンが襲ってこないとは限らないから足は軽く開いたままだった。

 

「・・・サイバードラモン、頼む。」

 

サイバードラモンは本音を言えば無視したかった。この短期間で宿敵とも言える存在になったサングルゥモンが目の前にいるのだ。爪で引き裂いて頭を噛み砕いて、足で踏みつぶし、尻尾で薙ぎ払いたいと思っていた。

 

けれどそれで力を奪われたら勝てるかわからない。勝てても自分が死ぬのは許せない。

 

「・・・好きにしろ。」

 

サイバードラモンのお墨付けを受けて冴才が少し離れた位置にひょろりと立っている木を指さした。

 

二人きりで話そうという事らしい。純玲は嫌悪感を感じたがナイフも持っているしコドクグモンもいるからと応じて歩き出した。

 

それを見てクルエルは一抹の不安を感じ、サイバードラモンは一時的にとはいえサングルゥモンを一匹にできたことに内心にんまりしていた。

 

「・・・とりあえず先に言いたいことがるなら言ってくれる?」

 

純玲は冴才の目をまっすぐに見つめた。デジモンじゃないただの中学生はもう純玲にとって一切脅威じゃなかったから向き合うことに躊躇は無かった。

 

「お前はあの時からそう高圧的だったよな。」

 

「あんたはクルミ目当てだってすぐに分かったからね。でもそんな話を聞きたい訳じゃないの。」

 

冴才は純玲の親友と仲良くしたいがために一時期純玲に近寄ってきたことがあった。というより大概クルミを狙う男子は最初に純玲に認めさせるところから取り掛かろうとしていた。純玲は最大の障害で避けられない障害だった。

 

「俺はあの子のためにあの子の親友のお前を助けに来た。」

 

「ごめん。さっぱり意味が解らない。」

 

おそらく純玲で無くともそうなるに違いない。襲い掛かってくる恐怖の対象である相手の隣にいて助けに来たもくそも無いだろう。

 

「お前はもしかしたら騙されているのかもしれないがウィルス種の奴らはとても危険なんだ。ワクチン種やデータ種の何の罪も無いデジモンに襲い掛かって殺してしまう。」

 

冴才は自らの聞いたことをそのままずっと話し続けた。ウィルス種は屑で、駆除するしかない。絶対に分かり合えない種族、できることならば幼年期の段階で全部駆除するべきだということ・・・とにかく何でもかんでもそれが普遍的で不変的で不偏的な唯一絶対の真理であるかのように話し続けた。

 

「――でも、もう大丈夫だ。サイバードラモンは強いまだもう一段階進化させられる。安心して俺と一緒に元の世界に帰ろう。あの子も、クルミちゃんもそれをきっと望んでる。」

 

親友の名前に純玲はついついピクリと反応し、心が揺らぐ。

 

「・・・進化させられるってどういうこと?ストライクドラモンが進化したのは制限付きなの?」

 

純玲はアルケニモンのところで進化についても最低限のことを学んでいる。だから進化させるという言葉に違和感を感じた。

 

「そんなことなんで気になるんだ?すぐ帰れるんだぞ?」

 

冴才の中では二人そろっての帰還はすでに決定事項になっているらしい。

 

「だって、ストライクドラモンが、負けたら・・・私、帰れないでしょ。」

 

どんな状況に置かれようとやはり純玲がどこにでもいる普通の女の子であることに代わりは無い。大切なのはクルミのような常に傍にいるべき友達や家族、そして自分自身だった。

 

純玲の心情の変化を感じコドクグモンが首裏から背中、足と伝って冴才に気づかれないように慎重に距離を取る。

 

「このデジヴァイスさえあればいつだって進化させられる。もつ時間もそこまで短い訳じゃない。」

 

冴才がデジヴァイスを掲げるように純玲に見せつけて軽く笑う。

 

「・・・信じていいの?」

 

純玲が不安そうに尋ねると

 

「もちろん。」

 

冴才はデジヴァイスを握ったままの手で胸を叩いてそう言った。

 

それを見て純玲は軽く俯いて、一歩冴才の方に出しかけ、引っ込め、そして強い決意の表れであるかのように思いっきり踏み出して一気に走り出した。

 

「うわっ!?」

 

純玲に思いっきり抱き着かれ冴才はバランスを崩しながら間抜けな声を上げた。

 

「「・・・」」

 

最初はきょとんとしていたがその内状況に気づいて冴才は顔が赤くなり、自らの鼓動が速くなるのを感じた。

 

「・・・ありがとう。」

 

そんな状況で沈黙を破ったのは純玲の方だった。その声はがらになく震えていてか細かった。

 

「って、きっと、クルミならそう言う。」

 

純玲の手がぎゅぅっと冴才のシャツを握った。

 

――でも私はそんなこと自分の言葉として言えない。

 

その言葉に純玲はそう続けて思いきり冴才の股間を蹴りあげた。

 

「――ッ!!!??」

 

冴才が声にならない声を上げ、コドクグモンがデジヴァイスへと糸を飛ばす。

 

それを見てサイバードラモンとクルエルが動く。

 

サイバードラモンはデジヴァイスを奪われてたまるものかと翼を広げ駆け出し、クルエルがそれを阻止せんとする。

 

「スティッカーブレイド!」

 

クルエルが飛ばした刃をサイバードラモンはもろに喰らい翼に穴を空けられバランスを崩す。

 

その間に飛ばされた糸はデジヴァイスを捉えコドクグモンの元へと引き寄せられる。

 

それを確認してサイバードラモンはデジヴァイスの奪取の阻止を諦め、前のめりに追ってきているクルエルの迎撃のためにぐるりと体を反転させ爪を突き出した。

 

「イレイズクローォオォオオッ!!」

 

その必殺の一撃は確かにクルエルの顔を貫いて命を奪い去る、筈だった。

 

しかし実際はそんなことは起きなかった。

 

確かにクルエルの顔に風穴は空いた。しかしそれはクルエルが意図的に開けた物。

 

消滅させる爪が通り過ぎた後穴は塞がりクルエルの大きく開いた顎がサイバードラモンの頭を包み込み、その牙をもって装甲に罅を入れた。

 

一方きっかけを生み出した純玲は握った拳の皮膚が破れるのも構わずのけぞって悶絶する冴才の顔面に倒れこむように一撃を加えた。

 

「あー!!よかったっ!!!」

 

倒れて起き上がってこようとした冴才を蹴って純玲が叫んだ。

 

「クルミにあんたを近づけさせないでほんとーーーーーーによかった!!!」

 

純玲は普通の女の子である。大切なのは友達や家族、自分自身。

 

その中でも一番大切と言っても過言で無い親友を理由に虐殺をした奴を一体どうすれば許せるというのか。

 

「何を・・・言ってんだよ。」

 

「あんたはいいわねーーー!気楽でさーー!いざとなればいつでも帰れて!言われた通りのことを俺が主人公って感じでやって!それでいいんだもんねーーー!!」

 

戸惑う冴才を思いっきり見下して純玲は自分の中の鬱憤をぶちまけていく。

 

「・・・俺が、何か気に障るようなことでもやったのかよ!」

 

冴才の叫びに純玲は一気に無表情になる。

 

「は?何言ってるの?」

 

純玲が冷たく言い放ったまさにその時コドクグモンはサイバードラモンの進化の解除ボタンを押した後起きた変化に戸惑っていた。

 

デジヴァイスがシルバーから赤色に変わり出していた。

 

オメガモンは進化ばかりに気を取られていたためデジヴァイスに内蔵されたある機能を知らなかった。

 

その機能はよりイグドラシルの意思に近いもの、すなわちこの世界の定めた正義に近い意志を持つものをデジヴァイス自体が選ぶ機能。

 

もうそこにあるデジヴァイスは冴才のものではなくオメガモンも誰も影響できないものだった。純玲以外には。

 

「なんでそんなこともわからないの?」

 

デジヴァイスがより濃く純粋な赤色へと塗り替えられる。

 

「自分がクルミを盾に何したかわかってないの?」

 

デジヴァイスの画面がただただ赤く発光する。

 

「それにあんたは本当にクルミのこと好きだったわけじゃないでしょ?本当は女子なら誰でもよかったんでしょ?」

 

その光に呼応するかのように狼狽えているコドクグモンとストライクドラモンと睨みあうクルエルの体がぼんやりと赤く光りだす。

 

「あんなに嫌ってた私に抱き着かれてドキドキしてたしね。中学生で体目当てとか酷いと思わない?」

 

クルエルの光りはピンクにコドクグモンの光は少し赤黒く変わりだした。

 

「私にあまりに反発されて自分でも好きなのかなって思い出したのかもしれないけど元々は頼まれたら断れない性格の子なら何でもよかったんでしょ?」

 

クルエルのそれはクルエルの体に染み込んでその姿をひらりとした服を来た舞踏家の武闘家へと変えていく。コドクグモンのそれは外を覆い鎧武者の形を作り上げていく。

 

「結局あんたは自分のことも他のことも他人から聞いたことでしか判断できないんでしょ?」

 

途中から純玲は考えるのをやめていた。いや、考える必要が無かったと言ってもいいのかもしれない。口を開けば言葉が勝手に放たれていく。

 

「・・・違う。」

 

冴才はそう呟くことしかできなかった。

 

「違うなら何とか言ってみなさいよ。他人から聞いたこと全部忘れて、自分が見たものだけ信じて、考えうる限り色々な角度から現象を捉えて、納得いくまで考えて、それで自分のやっていることは正しいんだってさ!!」

 

純玲のデジヴァイスが放った赤は純粋な怒りの色。しかしそれ以上にその根底にある愛の色だった。

 

それは自分が不快になりたくないという利愛であり、クルミに対しての友愛であって友愛が行き過ぎた狂愛であった。

 

もしかつて選ばれし子どもと呼ばれたもの達のように純玲に紋章を与えたのならきっとそれは愛情になるだろう。そして彼らが言うところの暗黒進化を果たすだろう。

 

クルエルとコドクグモンの二体は二人となり純玲の感情を受け止める器となる。

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