スミレには嘔吐等を引き起こす毒がある。   作:へりこにあん

12 / 31
人間【いろいろと揺らいでしまっている】

「くそっ!」

 

オメガモンは朽ちかけたイグドラシルの内部で悪態を吐いた。

 

何が起こった?デジヴァイスはイグドラシルが力を渡すための道具では無かったとでも?

 

デジヴァイスは確かに力を与えるためのものではあるがロイヤルナイツがいる時点でイグドラシルには自分の制御下にある力は不要だった。

 

デジヴァイスは主にロイヤルナイツを送れない事案に対処するために使われたがその本来の目的はイグドラシルが暴走を始めた時に予備機構よりイグドラシルを壊すために作られたもの。

 

使用者が基本的に人間に限られるのもその辺りに起因する。人間ならイグドラシルの制御は基本的に及ばないためである。

 

制御不可?デジヴァイスはイグドラシルの端末である筈なのに何故だ?

 

オメガモンは困惑しているがイグドラシルを壊すためのものだと知っていれば想像するのは非常に容易い。

 

イグドラシルを壊すために力を与えるものがイグドラシルに制御されたらイグドラシルを壊せない。ただそれだけ。

 

今まで干渉できていた点についても軽く触れてみると、オメガモンはハードと一部のソフトだけ起動したので機能がフルには発揮されていなかった。そこで純玲が残りのソフトも起動し、本来の機能が働くようになった。ただそれだけ。

 

しかしオメガモンにはそれだけのことがわからなかった。

 

進化の条件に関してだけとはいえオメガモンはデジヴァイスのプログラムを書き換えていた。そのために一から十まで把握しているように勘違いしていた。

 

何かしらのウィルスに感染?分解していたサングルゥモンのデータ?コドクグモンの糸?

 

オメガモンは検討違いにウィルス感染を疑い、その思考は一つの結論に達した。

 

「・・・人間からのウィルス感染。」

 

あの人間が高度なウィルスプログラムを作れるとはとても思えない。

 

しかしデジモンにあるように人間にもデータで捉えたら種族分けができる可能性はある。あの人間がウィルス種だとすればイグドラシルにとっても未知のウィルスと言えるかもしれない。

 

もちろん実際はそんなこと無い。確かに人間にはある程度デジモンの属性に対して向き不向きはあるが人間自体に属性があるわけではない。

 

断っておくと決してオメガモンが無知な訳ではない。オメガモンはロイヤルナイツとして捌くべき対象であるかどうか判断するに十分すぎるほどの知識を有しイグドラシルのプログラムを書き換えられるだけの頭もある。デジヴァイスの目的や人間の属性といった事はそれだけ知られていないことなのだ。

 

そもそも原因を考えている場合ではない。

 

あの人間はナイフを持っていて怒りに任せて罵倒し続けている。ふとしたきっかけで冴才が刺されることも十分に考えられる。

 

ストライクドラモンはもっとまずい。コドクグモンは成熟期のムシャモンに、サングルゥモンは完全体のマタドゥルモンに進化している。サイバードラモンとマタドゥルモンですら分が悪いというのにストライクドラモンな上に相手は二体。しかも両方同格かそれ以上。

 

どちらにしても負けるのは火を見るより明らか。どうして逃がすかについて考えなくてはいけない。

 

 

 

 

 

「・・・ねぇ、今どんな気持ち?訳が分からなくて怒ってる?せっかく助けに来てやったのにって怒ってる?」

 

純玲は自分が壊れそうになっていることに頭の片隅で気づいていた。

 

「理不尽だって思ってるのが一番?」

 

だからどうした、壊れたからなんだ。純玲はそう思った。

 

「だとしたら私は笑い死にするかもね。」

 

壊れなかったらみんなが戻ってくるのか。

 

「中学生にして体目当て、女子ならだれでもいい考えの浅い言われたことを全部が全部真実だと思い込むヒーロー気取りのダメ人間が自分のやったことについて何にもわからずに理不尽だって思って怒ってたらもう滑稽で仕方がないでしょ。」

 

壊れなかったからって誰も戻っては来ない。

 

「さっき聞いたことの答え用意できた?自分は正しいって自信持って言える?」

 

ちょっとチンピラっぽいオーガモンは戻ってこない。

 

「自分が何をやってしまったの理解できた?」

 

見た目に反して義理堅かったワルシードラモンも戻ってこない。

 

「クルミに対してどう思っていたか本当に理解できた?」

 

わがままなところもあるけど仲間思いのアルケニモンと冷たいようで仲間に優しいディノビーモンも戻ってこない。

 

「私が行ってることの意味、理解できてる?」

 

ちょっと強面のドクグモン達も少し羽音がうるさいフライモンもいろいろと気が付くコドクグモン達もみんなみんなみんなみんな戻ってこない。

 

おろおろ必死に考えているのはいいけどそれに集中しすぎて返事を返さないのは癪に障る。

 

バッグの中にナイフがある・・・いつでも殺せる。

 

ふと鞄に手を伸ばしかけた時、不意に後ろから声をかけられた。

 

「スミレ。これ、持っていてください。」

 

そこにいたのは赤い鎧を着た武者。差し出してきた右手にはさっきまで冴才の手にあったものによく似た物が握られている。少しびくっとしたがなんでかコドクグモンなんだなとわかった。

 

実際それが少し色と形状の変わった同じものだとは純玲も元々の持ち主である冴才も思わなかった。

 

「ぐぅっ!?」

 

「コドクグモン。何これ?」

 

倒れたままの冴才の腹に垂直に足を落として逃げられないようにしてから鎧武者に尋ねる。

 

「今はムシャモンです。アルケニモン様に聞いた昔話に出てくるデジヴァイスに似ている気がするんですが・・・よくわかりません。」

 

ムシャモンはとりあえず純玲にデジヴァイスを握らせすみませんと頭を下げた。

 

「もともとはそこの人が持ってた物なので聞いてみるのもありだと思いますよ?」

 

ムシャモンがそう言って初めて純玲と冴才はそれがさっきまで冴才の手に握られていたデジヴァイスだと思い当った。

 

「・・・だったらさっき色々自慢された時に聞いた。デジヴァイスとか言う名前でデジモンを進化させるとかなんとか。」

 

ムシャモンが話しかけたことで純玲は壊れる寸前でなんとか立ち止まった。

 

純玲は冴才に向けた言葉自体には何の後悔も無く、最初にデジヴァイスを手放させるためにしたことも一切悪いとは思わなかったがナイフに手をかけたことに対して恐怖を覚えた。

 

自分は普通で巻き込まれただけの被害者であるという立ち位置が変わって巻き込まれるのが当たり前で傷つけられるのが当たり前の加害者になってしまいそうな気がしたのだ。

 

そしてそれはあながち間違っていない。レオモンを誤ってとはいえすでに殺してしまっている以上傍から見ればすでに加害者、もしもクルエルの隣にいる純玲までもが誰かを殺してしまったらそれは疑いをはさむ余地も無くなる。

 

もちろんパイルドラモンに支援を頼むことも不可能になり、延々と逃亡の旅をし続けることに繋がりかねない。

 

純玲はできれば世界を回りたいと思っているがクルミの分まで楽しむのが目的であるためこそこそとではなく堂々と旅することを望むだろうことはわざわざ言うまでもない。

 

ふと純玲がクルエルの方を見るとひらひらと服を泳がせながらストライクドラモンを軽くあしらっており、ムシャモンの加勢が必要ないだろうことを感じさせた。

 

それを確認して純玲は自分がやるべきことをもう一度よく思い返した。

 

まずはパイルドラモンに会うこと。そして誤解を晴らすこと。そしたらオーガモン達をちゃんと弔って、クルミに約束したように世界を回ってみる。本当は元の世界でやるべきだけどどれだけ待たせることになるかわからないからこの世界でいい。このダメ人間とストライクドラモンは退けなきゃいけないけど殺さなきゃいけない理由はない。

 

純玲はもう一度ナイフに意識をやったが手を動かす代わりに足を冴才からどけて三歩後退した。

 

「クルエル!」

 

気圧されて涙目の冴才を無視して純玲が呼ぶとクルエルは袖から出ている両刃の剣の腹でストライクドラモンの頭を地面に叩きつけ刃は袖に収納すると無邪気にぶんぶん袖を振った。

 

「先急ぐよー!」

 

純玲はその動きにクルミの面影を見たが無理に笑顔を取り繕えた。

 

「わかったのです!」

 

クルエルはストライクドラモンの方をちらりと見た後、純玲に向かって光に包まれながら向かい、隣に収まる頃にはいつもの狼の姿となっていた。

 

「あれ?クルエルは戻るんだ。」

 

純玲は自然にクルエルの背に乗りながら疑問を口にした。

 

確かにムシャモンはコドクグモンに戻らずにそこにいて冴才とストライクドラモンが変な挙動をしないか見張っていた。

 

まぁストライクドラモンは気絶してたし冴才は手足が震えて立ち上がることすらできなかったので心配はするだけ無駄だと言ってよかった。

 

「せっかく歩く必要がないポジションだったんですけどね・・・」

 

ムシャモンがコドクグモンだった時はずっと純玲の肩が定位置だったので純玲がクルエルの背に乗っていないときでもさりげなく歩いていなかったのだ。

 

「とりあえずクルエルが疲れたらスミレをお願いするのです。」

 

「えー、ムシャモン固そうだから嫌だ。」

 

純玲の言葉にムシャモンはクルエルの方を向いてにやりと笑った。

 

「仕方ないですね。やはりクルエルに頑張ってもらいましょう。」

 

「ところでムシャモンはムシャモンのままでいいのです?」

 

「どういうことですか?」

 

ムシャモンが首を傾げるが純玲はこの時点でだいたい何が言いたいかわかっていた。クルミも要領を得ない喋り方をする人間だったからだ。

 

今までの例に漏れることはなく、クルミの面影を見たがさっきと同じように表情に出さないでいることができた。

 

「クルエルはサングルゥモンなのです。でもクルエルなのです。スミレも人間なのですけどスミレなのです。」

 

結局わかりづらいのだがクルエルが何を言いたいのかと言えば進化とか言うのをしてすぐ種族が変わってしまうのなら種族としての名前じゃなくて個体としての名前は無くてもいいのですかということである。

 

「そうですね・・・確かにこれからもスミレがこのデジヴァイスを使うなら何度か進化することはあり得ますしね。」

 

さっきまで殺し合いをしていたのに終わった途端のんびりと歩きながら雑談をしているのはよく考えなくてもおかしい。

 

だがそれは理由が無かったらの話である。

 

純玲は一時的に自分だからこそであるけれど自分らしくない行動をとってしまったことに少なからず恐怖を持ち、普通なことをすることで自分が変わっていないと証明しようとしていた。

 

クルエルは純玲がまた何かしら悩んでいてそこに何故か自分が関係しているような気がして異常ではあると思いつつも純玲を安心させたかった。

 

ムシャモンは純玲の豹変ぶりよりもデジヴァイスを恐れていた。この世界の伝承や物語の中でのデジヴァイスとは世界を救うために来た人間とそのパートナーを繋げるためのもの、力を発するためには強い正の感情が必要になる。

 

しかしあの時純玲が示したのはムシャモンには理不尽に対しての憎悪や怒り、悲しみ。そうなると今の自分は暗黒進化とか言われているものをしてしまったのではないだろうかとムシャモンはそう考えてしまう。

 

あの森で今まで見てきたどのコドクグモンもムシャモンにはなっていない。ムシャモンは暗黒の力を持つデジモンではないが通常種とは異なる進化を遂げたのは間違いない。あの負の力を受けてクルエルは元の種族的には正で一般的には負の進化をした、しかしコドクグモンの進化は脈絡も関連も正でも負でもない解なしとでも言うべき進化を果たした。

 

デジヴァイスが本当に伝承にあるデジヴァイスであるならあのデジヴァイスはどこかイカれてしまっている。その影響を受けている自分もいつかイカれてしまうのではないかという恐怖をムシャモンは感じていた。

 

つまるところ純玲よりもクルエルよりもムシャモンは現実を見たくなかったのだ。

 

二人と一匹は二人の存在を頭から無理矢理締め出しながら先を急ぐことにした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。