スミレには嘔吐等を引き起こす毒がある。   作:へりこにあん

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神に仕える聖騎士【薔薇輝石】

――ブブブブブブブブブブブブブブブ・・・

 

冴才達と別れて半日ほど経った純玲のセーラー服のポケットの中でデジヴァイスが振動する。

 

座って休みながら未だに決まらないムシャモンの名前について案を出し合っていた二人と一匹間の間に緊張が走る。

 

「スミレ、もしかしてなのですけど・・・」

 

「うん・・・」

 

あの後純玲が適当にいじくった結果デジヴァイスには通話機能など多彩な機能があることが判明していた。そしてこのデジヴァイスは元々は冴才のもの、衛星は無いらしいのでGPSは無いだろうと純玲とクルエルは考えたが冴才から通話ができてしまう可能性は十二分にある。そして通話ができると後ろに聞こえる音を分析することで場所が特定できることがある。デジモンの中には機械型もいることだから通話は十分な脅威だ。

 

しかしバイブレーションは着信によるものでは無かった。

 

取り出すと画面に現れたのはイグドラシルの警邏網とその警邏網から逃れてある場所へと向かうルート。

 

イグドラシルの警邏網は触れることで記録される赤外線センサーのようなシステムになっている、蜘蛛の巣のように播磨抉らされているとは言っても所詮はイグドラシルを中心として張られたもの、遠く離れれば離れるほど網の目は粗くなる。今純玲達がいる位置で人間十人がフォークダンスできるぐらいの隙間になっている。

 

デジヴァイスが指し示したのルートの目的地はパイルドラモンのいるという竜の谷では無かった。竜の谷はオメガモンが設定をいじったことにより本来無い位置にまで線が張られ、他の場所に比べてありえないほど目が細かく、一キロ以内に近づいただけで捕捉されるのは間違いないほどだった。ただそのためにイグドラシルの警邏網には歪みが出てしまい一部の目が粗くなっており、デジヴァイスはそうした歪みを的確についたルートを提案していた。

 

ムシャモンはもちろん純玲もクルエルもアルケニモン達のおかげでこの世界の文字が読める。よってデジヴァイスの画面が示しているものを正確に把握することができた。

 

「ねぇ、あいつがこの網を使える可能性ってあると思う?」

 

純玲が疑問形なのには理由がある。ピンポイントで付いて来ていたから誰かしら使えるのは間違いなくデジヴァイスが関係しているように思えるから冴才が一番有力なのだが冴才がこれを利用していたら先回りして罠でも張っていたのではないかと漠然と考えたのだ。

 

実際には罠を張らせるとどちらに非があるかごまかせなくなってしまいそうだったためにオメガモンがそう指示したに過ぎない。

 

純玲は冴才は過小評価しているがストライクドラモンに関してはオーガモンが言っていたこともあって若干の過大評価をしていた。まぁ当人はワクチン種がウィルス種に負けるのは道理が通らないと考えているから罠を張るのは好まないだろうが。

 

「仲間がいないとは限りませんしそちらが使えるかもしれないというのは考えられますね。」

 

ムシャモンはデジヴァイスの情報を信じてもいいのか少し疑っているが純玲とクルエルが信じているようなのでとりあえず信じていた。が、警告はするべきだと考えていた。

 

「でもそもそもこのデジヴァイスを信じていいんでしょうか?」

 

伝承や物語について知らない純玲とクルエルも言われてみればと言う風に少し考える。

 

「だけど、私なんだか信じていいと思う。」

 

純玲はそのデジヴァイスがもうすでに自分以外のものでないことを直感的に感じていた。自分以外のものでないのだから自分に害を及ぼすと思えなかった。さっき言ったのもそう考えはしたが考えただけで純玲自身言ってみただけとういうところが大きかった。

 

「そういうものなのです?」

 

「多分そういうもん。」

 

デジヴァイスはイグドラシルを壊すためのイグドラシルの端末。デジヴァイスは壊すために選ばれた人間を守ることを第一とする。イグドラシルの警邏システムをハッキングし選ばれた人間の保護者となり得るデジモンを探し、そのデジモンを頼るための最良のルートを決める。

 

今回デジヴァイスのプログラは守ることにこれ以上ないぐらいに相応しく、しかし同時にイグドラシルを壊すためのものとしてはこれ以上なく皮肉めいた人選をした。

 

指し示されていたのはとあるロイヤルナイツの拠点。

 

オメガモンの言葉を借りると辺境の地に城を建て、部下の育成と庭いじりをして過ごしている聖騎士である。

 

しかし拠点の位置だけ示されたのでそれが誰なのか純玲達はわからないのでとりあえずの問題はそこではなく異様に遠い場所であり、そして指定されたルートがそれなりに過酷であることだった。

 

その間イグドラシルの警邏網には引っかからなくてもストライクドラモンのような類に捕まるのはおそらく間違いない。仮に捕まらなくてもその過程をただの人間の純玲と鎧のせいで体の重いムシャモン、土地勘以前に記憶のないクルエルの二人と一匹が乗り越えられるのか怪しい。

 

そう思いはしたがだからといって元々の目的地は間違いなく罠が張られている。それにディノビーモンもパイルドラモンはガルダモン達よりだと言っていた。コドクグモンがムシャモンになったこの状況ではディノビーモンの紹介だというのすら疑われそうな気さえする。

 

結局ムシャモンが警戒してもクルエルが疑っても他の方法も同じぐらい不確か、それにどうせムシャモンもクルエルも純玲がデジヴァイスを信じられると言っているのだから従うしかない。

 

純玲はこの世界に置いて頼れる相手がほとんどいないがムシャモンは身内が全員殺されたから、クルエルは過去の記憶が無いからほとんど同じような状況に置かれている。お互いにお互いを見捨てることができないのだ。

 

「じゃあ早く行くのです。」

 

クルエルが尻尾を振って純玲に乗るように促しムシャモンも立ち上がった。

 

その時デジヴァイスの画面を見ていた純玲があることに気が付いた。

 

「途中にあるここってさ、アルケニモンの言ってたブラックウォーグレイモンの住処じゃない?」

 

アルケニモンから渡された紹介状に書かれた場所と一致する。

 

それはもちろん偶然ではなくデジヴァイスがブラックウォーグレイモンを傍に置くことで騎士ほどではないがそれなりに安全性を向上させられると考えたのだ。

 

「私はブラックウォーグレイモンを頼るのははあまりいい判断とは・・・女王様も引くも進むも地獄のような状況になったらと言っていましたし・・・・」

 

ムシャモンはブラックウォーグレイモンを知っている。元々口の悪いアルケニモンだが他人に紹介する時まで悪口で通すのは珍しいことだということもやはり知っていた。

 

「ムシャモンはブラックウォーグレイモンを知っているのです?」

 

ムシャモンはまずいなと思い純玲の方を見たのだが純玲もやはり気になるのでクルエルと同様期待しているのだった。

 

デジヴァイスがまたバイブレーション作動させてくれないかなと期待してみても動くわけがない。再度純玲を見て、クルエルを見て、デジヴァイスを見てムシャモンは軽くため息を吐いた。

 

「ブラックウォーグレイモンは決して悪いデジモンではないのですが・・・」

 

ムシャモンは実際にあった時の多少不鮮明な記憶とアルケニモンの話を元にブラックウォーグレイモンについて自分の知りうる限りのことと自分の印象、正直会いに生きたくないというところまで全部説明した。

 

ムシャモンの話を聞いて純玲は笑い飛ばし、クルエルも似たような反応を返したのでムシャモンにもう選択の余地は無かった。

 

「・・・やっぱり、行くんですか?」

 

それでもあきらめきれないムシャモンは一夜明け、数時間歩いたにも関わらず何度目かになる問いかけをしていた。

 

「行くのです。今まで会ってきたデジモン達もみんな個性は強かったのですし、さらに個性が強かったとしてもクルエル達が避ける理由にはならないのです。」

 

クルエルは今日何度目かになるので全部まとめて言って立ち止まりもせずに歩き続けていた。

 

ちなみに純玲はというとデジヴァイスを調べていた。

 

デジヴァイスの機能はざっと適当に見ただけでも純玲の想像のはるか上を行き、進化させるだけではなく今まで出会ったデジモンが一覧という形で示される機能やデジタルワールド全域から一つ一つの町や村などの細部に至るまでの詳細な地図、デジナマズやデジイワシ、デジタケなど元の世界のものと似ているけどどこか違ういろいろな生物の図鑑まで入っていた。

 

もちろん実際は他にもいろいろと機能があるのだが変にいじられていい機能と悪い機能があるためにブロックされているため純玲は知らない。

 

そんな風にクルエルの背中でデジヴァイスを見ていた純玲だったが結構早く飽き(と言っても起きてからずっと見ていたのでかなりの時間ではある。)デジヴァイスを見てはいたがうつらうつらし始めていた。

 

――ブブブブブブブブブ・・・

 

その時、またデジヴァイスのバイブが作動した。

 

今度はマップの表示では無かった。最初に純玲達が恐れたとおりのもの、通話だった。

 

しかしおそらく発信先であろう画面に表示された名前は純玲達の予想の範疇には無かった。

 

「ロードナイトモンです?」

 

「なんかアルケニモンが何か言ってたような・・・」

 

震え続けるデジヴァイスを見ながら純玲とクルエルは何故か妙に落ち着いていた。

 

一夜明けると頭の中が整理される。純玲の中でデジヴァイスは味方であると確定されていた。そしてクルエルはそんな純玲を愚直に信じた。

 

そんな中一人声も出ないほど驚いたのはムシャモンである。ムシャモンは、というより普通のデジモンはロードナイトモンがどんな組織に所属する誰なのかを知っている。

 

「スミレ。ロードナイトモンは、ロイヤルナイツの、一員です。」

 

ムシャモンがそれだけのことを言うまでに三十秒はかかった。同時に純玲とクルエルがそれだけ放置していたということでもあるのだがまぁ誰か知らない相手からかかってきたのだから仕方ないと言えば仕方ない。

 

しかしロイヤルナイツが何かぐらいは純玲もアルケニモン達のおかげで知っている。デジタルワールド最高の位置に存在するセキュリティ機関、神に選ばれた十三いる騎士の一柱、自ら考える正義を執行する者。

 

純玲が即座に通話ボタンを押したのは無理ないことだった。ただクルエル達にもきこえるようにとにスピーカー設定にするぐらいの落ち着きと冷静さと度胸はあった。

 

「・・・もしもし。」

 

純玲が出るとすぐに返事が来た。

 

『もしもし、そちらはスミレという人間の少女で間違いないだろうか?』

 

「間違いないけど誰?」

 

誰かはわかっていたがいたが純玲は下手に出る気はいっさい無かった。弱気だとまるで罪が自分にあると認めるようで嫌だった。

 

『私はロードナイトモン、ロイヤルナイツというデジタルワールド最高のセキュリティ機関に属する一員だ。率直に言わせてもらう。おそらくそのデジヴァイスには私の城の位置が表示されそこに行けと暗に指示が出たと思うがその必要は無い。』

 

デジヴァイスが指し示した場所がロードナイトモンの城だということも驚きだったがそんなことが些細なことに思えてしまう宣告だった。来る必要が無い。それは遠まわしに来るな、私は保護する気は無いと言っているように純玲は受け取った。

 

「それは私達が悪いって捉えたってこと?クルエルが危険なデジモンだから?クルエルもムシャモンもウィルス種だから?レオモンに殺されかけて仕方なく防衛したら殺してしまったから?」

 

純玲の怒りに呼応してデジヴァイスが赤く光りだす。

 

『すまない、言い方が悪かった。迎えに行くから下手に動かないでくれるとありがたいということだったのだが勘違いさせてしまったようだ。本当にすまない。』

 

ロードナイトモンは真っ先に謝罪した。

 

理屈や理由を言ってから謝罪するよりも先に謝罪した方が相手は受け入れやすい。

 

実際純玲は毒気が抜かれ、自らの勘違いを恥じた。

 

「ごめんなさい。」

 

『追われている状況を考慮して話すべきだった。代わり・・・と言っても当たり前と言えば当たり前なのだが君達が私の城に着くまでの間は傷一つ付けさせないと誓おう。』

 

「どんなデジモンが迎えに来るの?」

 

今更純玲の頭にはアルケニモンから聞いたロードナイトモンの情報がよみがえっていた。

 

Rhodonite(薔薇輝石)とLord of Knights(騎士を統率する)の二つが名前に含まれ、名前の通り騎士達を統率し、美しいものこそが正義であるという考えを持っていると聞いていた。

 

純玲もムシャモンも(クルエルはロードナイトモンの情報をまだ思い出していない。)部下の騎士型デジモンが来るのだと解釈していた。

 

『イグドラシルからもてなせと言われているのに部下だけを遣わすような無礼はしない。私が自分で行くのが筋というものだ。』

 

ロイヤルナイツが一柱、ロードナイトモンが直々に出迎える。このことはスミレが元いた世界で例えるなら国連の安保理構成国十五か国の内一か国の元首、または軍部のトップ、例えば日本の総理大臣が出迎えるのとほとんど変わらない。国というものがあちらほど多く存在しないデジタルワールドの事情を考慮すればむしろ足りないと言ってもいいかもしれない。

 

「・・・どれくらいで来るの?昨日戦ったばかりだからここに留まっていると襲われそうで怖いんだけど。」

 

純玲はまさかストライクドラモンが死んでいるとは思っていないしデジヴァイスが無くてもストライクドラモンは襲ってくる筈だと純玲もクルエルもムシャモンも思っている。

 

『大丈夫。そちらの近くに出向している私の部下を一人先に向かわせている。グレイドモンという金色の鎧と青いマントの双剣の騎士だ。愛想のいい奴ではないが完全体ながら剣の腕は私をも超える。信頼して問題ない。』

 

「でも私はそもそもあなたを信用していいか怪しいと思ってるんだけど。」

 

デジヴァイスは確かにロードナイトモンを保護者に選んだがロイヤルナイツは自らの正義に忠実なデジモン達。それが必ずしも純玲達の主張と重なるとは限らない。

 

『確かに私は味方とは限らない。君達を保護するのは事態の全貌を把握するためであって全てが分かった後どう判断するかは私自身もわからない。しかしデジヴァイスに選ばれた事は間違いなくプラス材料。話してみた感じも好印象だというのは嘘ではない。』

 

「わかった。それ以上いい方法も思いつかないし。」

 

――ブツッ

 

純玲は一方的に通話を切り、ムシャモンとクルエルの方を向いてどっとため息をを吐いた。

 

話している内に相手の凄さと自分達がどれくらいこの世界で問題になっているか、色々なことを自覚させられ、内心縮み上がっていた。それでも強気でいられたのはきっと親友の代わりに矢面に立ち続けたりしていたから今までと同じようにクルエルとか精神的に自分に依存している相手のいる前で他人に弱いところを見せられなかったのだ。

 

「スミレ。ロードナイトモンにそんなに高圧的な態度取ったら・・・」

 

ムシャモンが言い終える前に純玲の膝が折れる。

 

「・・・怖かった。すごく怖かった。」

 

それで察したクルエルが純玲の頭を尻尾で撫でる。一瞬純玲はそういう時は手で撫でるんじゃないのかなとか思ったが前足でやったら土も付くし場合によっては切ってしまうのだと思い当り仕方ないかなと思った。

 

ムシャモンはそれを見て叱ろうかどうしようか迷っているのか固まっている。

 

「なんか安心したらお腹へってきた。」

 

純玲が言うとムシャモンも叱るのをやめて二人と一匹は早速デジヴァイスの機能を使ってデジタケと呼ばれるキノコを複数と藪から出てきた蛇を一匹、そして何故か落ちていた冷蔵庫から卵を数個拝借しキノコと卵の炒め物を食べながら血抜きした蛇を雑にいぶしつつ話していた。

 

二人と一匹はアルケニモン達のことは忘れたかのようにそれは楽しく愉快に話していた。

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