「・・・グレイドモンだ。ロードナイトモン様より連絡を受けロードナイトモン様が来るまで及びロードナイトモン様の城に着くまでの護衛として来た。」
金色の鎧に青いマント、腰に双剣を携えた騎士グレイドモンはロードナイトモンの連絡を受けほどなくして、具体的に言うと純玲とムシャモンがいぶした蛇肉を、クルエルが純玲の食べた残りの蛇の骨を頬張りながら話している時、ロードナイトモンとの会話が終わってからだいたい一時間半後、十分日が落ちたぐらいの時に来た。
不気味なぐらいに静かに気配を感じさせずに現れたグレイドモンに純玲はデジヴァイスをポケットから取り出して何ができるでもないのに構えた。
「クルエル!」
「スミレ!」
適当に噛んでいた骨を勢いよく噛み砕きクルエルがグレイドモンと純玲の間に割り込んだ。
ロードナイトモンから連絡があったにも関わらずそんな反応を取ったのは話し掛けてくるまで気配を感じさせなかったことだけではなく話しかけてきた今も気配が無く、存在が無いような不気味さがあったからだ。
純玲が感じた恐怖はガルダモンやサイバードラモンに対して抱いた直接的な恐怖でも自分自身のやってしまった罪に対して抱いた湧き上がるような恐怖でもないもっと根源的な得体がしれないものに対するそれ。
それは根源的であるがゆえに強く、サイバードラモンの時ほどではないにしてもそれなりに激しく発光しクルエルを進化へと導き、その場に武闘家の舞踏家を出現させた。
クルエルは隠すための袖を無視して五爪のような剣も敵意も剥き出しにしていつでも戦えるように腰を落とした。
「・・・何故剣を向けられているのかわからないのだが。」
グレイドモンは呆気にとられ、ムシャモンは訳が分からず一歩も動けずにいた。
「私もわかんない。あなたのことをロードナイトモンがつかわしたっていうけどそもそも私はロードナイトモンも信用してない。ましてや突然背後を取ってくるし得体のしれないあなたのことを手放しに信用しろっていうのは無理でしょ?」
純玲がそう言うとグレイドモンは一つ頷いて腰の剣に手をかけると今まで希薄だった気配が一気に確かな並々ならぬものとなり、ただの人間である純玲すら感じ取れるほどになった。
「・・・グレイダルファー。」
――ギィィン
純玲がグレイドモンの言葉を聞き取るとほぼ同時にクルエルの五爪の剣がグレイドモンの右の剣を受け止めた。
そこからはもう純玲には見えずただ金属音が耳に響くだけだった。それはムシャモンすら目で追うのがやっとの舞踏と剣戟の応酬。
最初の剣を受けた後クルエルは足の刃でもってグレイドモンのふともも部分を横から狙い、それをグレイドモンは左の剣を上から突き刺すようにして間に入れ防ぎ、下から半回転させるように足を持ち上げバランスを崩し右の剣で五爪を弾き横薙ぎに首に向け切りかかる。
それが決まる前にクルエルの足の刃を立てての蹴りが鎧を貫かないまでもへこませつつ弾き飛ばし、グレイドモンも純玲には離れたと認識されないぐらいにはすぐに体勢を建て直して起き上がる前のクルエルに肉薄、両方の剣を上段で振りかぶり十字に振り下ろす。
クルエルは二本が一点で重ならないように右の剣を左手の五爪で軽く弾きタイミングをずらさせ先程蹴った足と逆の足の刃で受け止め先程蹴り飛ばした時のような咄嗟の攻撃ではなく完全に力で押しのけ今度は速やかに体勢を立て直した。
最初の立ち合いのような構図になり純玲にも一瞬輪郭がはっきり見えるようになったがすぐまた戦いに戻り純玲に見えなくなった。
再度グレイドモンの剣から始まった。右手の剣を振り下ろされるがクルエルは一歩下がって避け、それを追撃しようとグレイドモンが大きく踏み出すとクルエルが体勢を思いっきり低くし懐に入りさっき蹴りの入った箇所に左の五爪を突き出す。
グレイドモンは五爪の内三爪を何とか剣の腹で受けるが、受けられた腕の袖から五爪とは別に新しい刃が突き出して決定的ではないにしろグレイドモンの鎧を叩いた。思いがけぬ攻撃にグレイドモンのバランスが崩れわずかに隙が生まれる。
その一瞬クルエルからグレイドモンのものとは別種の気配が溢れ出し嗤ったように見えた。
クルエルは五爪を引きグレイドモンの顔面に足の甲をめり込ませるように思いっきり振りぬいた。
「・・・」
後ろに飛ばされたグレイドモンがむくりと立ち上がり剣を鞘に収め、構えを解くと先程まで張りつめていた気配がまたおぼろげになった。クルエルの気配も一瞬だけのものですぐに影を潜めわからなくなった。
「・・・これでわかったと思うが俺はそこのと打ち合いを演じられるぐらいの実力はある。もし俺が危害を加えるつもりだったなら奇襲でとっくに終わっている。」
確かに最初から攻撃していれば瞬く間も無く純玲の首が飛び、クルエルもムシャモンも時間の問題となっていただろうだけの実力なのは純玲にも十分理解できた。
「危害を加える気が無いのはわかったけどやっぱりいきなり後ろを取ったり切りかかってくるような奴を信用するのは無理。」
純玲が言うのはもっともなことだった。胡散臭いとクレーム付け敵意を表して剣を向けたら全力で剣を向けられ殺し合いを演じた。いくら純玲達側にも火があったとは言えその全ての事を流せるような人間は聖人君子でもない限りありえない。
「・・・まぁ仕方ないか。俺は少し離れたところにいることにしよう。」
グレイドモンはそう言って夜の闇の中に静かに歩いて消えていった。
「最後に一つ忠告する。魔王は目覚めてしまった、クルエルを究極体に進化させてはいけない。」
見えなくなったグレイドモンの声が響いてくる。少し気になる言い方ではあったが純玲とクルエルは流した。
ムシャモンは一連の流れに付いて行けなかった。
突然金色の騎士が現れ、スミレとクルエルが喧嘩を売り、騎士がその喧嘩を受け、とても自分では対応できない激戦が繰り広げられ、スミレが再度騎士を拒否し、騎士がそれを当たり前のように受け入れた。
むしろ何故スミレとクルエルは受け入れられているのか理解できる気がしなかった。
「クルエル。グレイドモンどこまで行ったのかわかる?できれば周りに誰もいないのかとかも。」
そんなこと当の純玲は気にしていない。グレイドモンがどう出るかわからない以上その警戒が最優先。ムシャモンのことを気にするだけの余裕が無かった。
「・・・かなり遠くてよく嗅ぎ取れないのですけど数百mは離れてる気がするのです。多分他にはいないようなのです。」
退化してサングルゥモンとなったクルエルが空気を嗅ぐ。グレイドモンが少なくとも今日は攻撃しようとしていないことだけは明らかになった。クルエルが頼りにしてるのは臭い。辿っていくなら別だがその場で嗅ぎ取れるということは風上にいるとみていい。今日攻撃する気なら行動を察せられかねない風上には移動しない。
でもグレイドモンが危害を加えなかった理由だって明らかになったわけじゃないし風上に立つことで油断させようとしているだけかもしれない。
クルエルはロイヤルナイツが出張ってくるほどの犯罪者なわけだから人知れず殺しても騒ぎが終息しない可能性がある。大勢の前で処刑でも行うか大勢のデジモンで囲んで殺したりしないと終息しないかもしれない・・・そう考えたっておかしくない。
だとすると明日にでもなると他のデジモンを連れてくる可能性もあるし純玲かクルエルを攫おうとする可能性もある。
「じゃあ、大丈夫かな?ムシャモンも一応警戒しといてね。他も来たら多分対応しきれないから。」
グレイドモンだけならクルエルが互角に戦えるのはついさっきのやり取りで実証済みである。
「・・・は、はい。」
状況についていけていないムシャモンの戸惑いを含んだ返事に純玲は不安を覚えた。
ストライクドラモンがアルケニモンとディノビーモンを殺せたのはサイバードラモンの先に進化させたからだと純玲はわかっていた。クルエルが一段階進化しても倒せない敵がいる可能性は限りなく高い。グレイドモンがどれくらい強いのかわからないけどグレイドモンが本当にロードナイトモンの部下だとすればそれよりも上のレベルの強さを持ったデジモンがいるということになる。
最低クルエルだけでなくムシャモンも次のステージへと進化させたいと純玲は考えていた。
――ブブブブブブブブブブ・・・
そんな時にまたロードナイトモンから通信が入った。
純玲は今度はどういう理由でかけてきたのかと気になって仕方が無かった。
さっきのグレイドモンのこともあるしやはり君達を殺すことに決めた。とでも言われたらもうどうしようもない。
「・・・もしもし。」
『もしもし、何度もすまない、ロードナイトモンだ。』
「まだ二回目だし気にしてない。」
『そうか、サングルゥモンが忌み嫌われるようになった理由について詳しい話を明日するつもりなのだが私を敵だと認識されかねない内容だからある程度大雑把に話しておくべきかと思ったのだが・・・今、大丈夫か?』
「大丈夫。さっきまでは少し色々あったけど。」
流石にあなたの部下とうちのクルエルが本気の殺し合いを演じていましたとはとてもじゃないが言えない。
『そうか、少し心配だ。はやく合流できるようにペースをあげよう、朝までには合流できる筈だ。』
「ありがとう。」
『さて、サングルゥモンが忌み嫌われる様になった理由だが・・・私の所属するロイヤルナイツと七大魔王の確執に全てがある。』
七大魔王についてムシャモンはともかく純玲達は何も知らない。
「スミレ、七大魔王はこの世界に害成すウィルス種の代表格のようなデジモンで悪魔型デジモン達を総べ世界に反抗し続けるようなデジモン達です。でも今は確かもういない筈です。」
ムシャモンに手で感謝の意を示しロードナイトモンの言葉の続きに耳を傾ける。
『そしてその責任のほぼ全てが我々ロイヤルナイツの側にある。もちろんそれは私自身も例外ではない。だが現状君達の敵ではないということに変わりは無い。どうか信じて欲しい。』
衝撃の告白とまではいかないがそれなりに驚きではあった。ロイヤルナイツは基本平等な組織だという風な印象だったから特定の種に対して不利になるようなことをするというのが信じられなかった。
「わかった。」
そう言って純玲はまた一方的に通話を切った。実際に会ったらすぐ化けの皮が剥がれそうでも強気の姿勢で行きたかった。
とりあえず純玲は素直に信じることにした。本人が言ったことではあるがロードナイトモンと実際に喋った印象から信じていいと判断した。
反抗期に入りかけ、周りの意見を聞きたくないという気持ちも多少含まれてはいるがだいたいは冴才みたいなのを見てきたからだった。
純玲は明日また聞けるのだからとこれからロードナイトモンが来ると言った夜中までどうするのか一連の会話ムシャモンとクルエルはそれぞれ違ったことに関心を持った。
ムシャモンはロイヤルナイツと七大魔王の戦争について普通に知られているぐらいのことは知っていたからサングルゥモンがそこにどう関係あるのかということについて自らの記憶を探っていた。
クルエルは自身が狙われる理由そのものよりもそこから自分自身がなんなのかということを知ることができるんじゃないのかと考えた。
そもそもクルエルは自身の存在があまりに曖昧だと気付いていた。
サングルゥモンという器は周りから認識されているから間違いなくこの世界のもの、しかしクルエルの意識は何故だか知らないが自分はこの世界のものではないと思った。さらに自分の居場所は純玲の横だと確信すらしているだけど過去の記憶は純玲と出会った後からのものしか存在していない。
この世界の存在なようでこの世界の存在じゃないようで、別の世界の存在かと言われればまた違う気がする。純玲の隣が居場所だとは思うもののそれはただ最初に出会ったのが純玲だったからなのではないのかとも思えるし、体ももともと自分のものなのか怪しい。結局クルエルを証明する物は何もない。
だからクルエルは自分の存在について知れるかもしれないことに期待した。その場所にいた誰よりも。