「おとぎ話の中みたい・・・」
純玲が普段なら隠すだろう普通の女子中学生らしい感想を口から漏らしてしまう程ロードナイトモンの居城は美しく荘厳だった。
広大な森にスーッと通った一本道の先、開けた場所に入ると突然に見える白亜の城はテーマパークや何かの中にあるものとは規模が違う。城下町まで含まれている一つの国家だと言われた方がしっくりと来る規模。城壁には傷一つない・・・というと言いすぎだがこのサイズでよくこの美しさを維持できるなと思うぐらいには白い。アルケニモンの森から考えるとほぼ大陸をほぼ縦断していたのだがそんなことが頭から無くなるほどのインパクトがあった。
そんな風に感動している純玲の隣にクルエルもムシャモンもいない。ついでにグレイドモンもいない。隣にいるのはロードナイトモンだけである。
何も置き去りにしたり道中で死んでしまったわけではない。クルエルやムシャモンと比べ物にならないほどロードナイトモンは速く、現状を見て早い段階で城へとつく方がいいためにデジヴァイスの機能の一つにあったパートナーデジモンの収納という機能を使用してみたのだ。ロードナイトモンが来ていなければ使わなかっただろう機能だがロードナイトモンがいる限りそうそう危険は無い。クルエルとムシャモンが表に出ていなくても問題なかった。
二人とも収納できたことと収納という言葉なのに少し純玲は首を傾げたがロードナイトモン曰くこのデジヴァイスは過去のどのデジヴァイスとも姿が一致していないため元々そういう性質のものなのだろうということだった。
ちなみにグレイドモンはどこにいるのかというと純玲がどうしても信用できないということなので数十メートル離れて後ろから付いて来ている。
「私の五代前のロードナイトモンが建てた城らしい。千年弱ロイヤルナイツを目指す騎士デジモン達を見守ってきた歴史の見届け人と言っていいだろう。」
ロードナイトモンの言葉を聞くと白亜の城はより誇り高い物に見えて純玲は少し恐ろしく思った。
『ロードナイトモンって受け継がれていくものなのです?』
デジヴァイスから流れてきた質問は白亜の城ではなくロードナイトモンに関してのものだった。デジヴァイスからは城が見えないから仕方のないことだとも言えるが純玲はもう少し余韻を楽しみたかったので少し残念だった。
「ロイヤルナイツの十三の種族は確定している。神を囲む円卓の席のようなものだ。ただその種族に進化したからロイヤルナイツになるのではなく、ロイヤルナイツに選ばれたからその種族に進化する。」
『じゃあロードナイトモンが二人いたりとかもあるのです?』
「聞いたことはないがありえないことじゃない。過去に人間のパートナーを持つデジモンがアルフォースブイドラモンやオメガモン、デュークモンに進化したという話は聞いたことがある。七大魔王、三大天使も同じようなシステムだと聞いている。グランドラクモンも似たようなシステムで成り立っている可能性はあるな。」
純玲は話しているロードナイトモンを見ながらもちらりちらりと白亜の城に視線が流れてしまうのを止められない。
「・・・先に城のどこに何があるかぐらいは知っていた方がいいだろう。少し空から回ってみよう。」
そんな純玲の様子に気づいてロードナイトモンがさりげなく提案する。空から見ても実際その場に降りてみるのとでは全然違うためにあまり参考にならないのは承知の上での提案である。純玲の性格を測ろうとする思惑が少しだけあったりもするがおもてなしの精神とでもいうべきものが大半である。
純玲を抱えてロードナイトモンが地面を蹴る。実は走った方が速いのだがそれでも完全体のディノビーモンやサイバードラモンよりも速い。
飛ぶとゆうよりも浮遊と表現すべき形でロードナイトモンと純玲は宙に浮く。空から見ると白亜の城はまた違った側面を見せる。内部に広がる色とりどりの果樹園に菜園、元の世界ではまずありえない植物の様に肉が生える肉畑。
大小様々なデジモン達が鍛練に勤しんでいる大きな広場。
なんと言っても圧巻なのは半分以上の面積を誇るであろう薔薇園だ。城から城壁へと扇状に十四のエリアに別れ、それぞれに一体ずつデジモンらしい像が立っている。
「薔薇園に立つ像はロイヤルナイツの十三の種族と創始者をを表している。最も東に創始者、インペリアルドラモンパラディンモード、次に空白の席の主アルファモン、途中に私や他のナイツが入り最後に終わりを関する騎士、オメガモンが入る。」
オメガモン。純玲はどこかでその名前を聞いた気がした。歴史の話をされた時はテンパっていてわからなかったがロードナイトモンの空気に多少なれた今はその既視感に気づくことができた。
十四の像を見ながら考えているとふと騎士らしくない翼が体の半分以上を占めているように見える竜が目に止まった。
竜・・・アルケニモンとディノビーモン、ドクグモンやフライモン、コドクグモン達に送り出された時の目的地は竜の谷だった。そこでパイルドラモンとか言うデジモンに協力を求める予定だった。その途中で冴才とストライクドラモンに襲われて・・・
「あっ!」
『どうしたのです?スミレ。』
クルエルの言葉は純玲の耳に入っているようで入っていない。今純玲の頭の中で今までのことについての不可解な部分を解消するかもしれない推論が組み立てられている真っ最中だった。
「オメガモン・・・あの体目当てが言ってた。」
純玲に冴才がウィルス種に対する偏見を喋った時、冴才は今までに聞いたことを話した。その中に信用できる話であるということを示すためにオメガモンの名前を出していた時があったのを純玲は思い出したのだ。
「体目当てというと、例のサザイとか言う人間か?」
ロードナイトモンは道中ざっくりと純玲達から話を聞いていた。特に冴才が親友を理由に言いたい放題だったことなんかはクルミの名前は出さなかったが特に詳しく話していた。
「うん。私が殴る前、ウィルス種は滅すべきみたいなこと言ってた時。クルエルかムシャモン覚えてない?」
クルエルはサイバードラモンと対峙していたがムシャモンはその時幼年期のコドクグモンとして純玲の肩に乗っていた。聞いていてもおかしくない筈だった。
『クルエルはわからないのです。何とか避けるのに必死だったのです。』
『私も覚えてません。』
だが残念なことにその直後に純玲は進化させてしまった。ムシャモンの記憶はより印象の強いそちらに大部分が占められ、冴才の言葉を覚えてはいなかった。
「でももしそうだとしたら色々と説明がつくと思うの。少なくとも体目当てがこの世界に来たこととデジヴァイスを持っていたこと、あとロードナイトモンがこのことについてデジヴァイスから連絡があるまで知らなかったことも。」
「確かにそれは考えられることだ。説明付かない部分も多々あるがイグドラシルの連絡網のこともあるし私の方でも考慮するとしよう。」
ロードナイトモンは居城の説明を切り上げ薔薇園のロードナイトモンの象の近くに降り立った。
「スミレ、クルエルとムシャモンを出しておくんだ。不審者だと思われないように私の部下達に紹介しておかなければいけない。」
純玲はロードナイトモンに言われるままにクルエルとムシャモンを出す。さらりとクルエルが身をかがめ純玲がその背中に乗るあたり信頼関係が深まっていっているのが窺える。
薔薇園、菜園、果樹園、肉畑、広場、城内という順に回りながら部下達に顔を見せに行くのだという。
純玲とクルエルのことはある程度出発前に伝えられていたらしくいざ行ってみるとだいたいのデジモン達が友好的だった。中には普段闘わない相手と戦いたい、打ち合ってくれないかと言ってきてムシャモンがそれに付き合うと一緒に騎士を目指そうと言ってきたりした。
ただ純玲達を驚かせたのはそこでは無かった。例えば機械装甲に体を包んだ赤い竜であったり意識を持つ刃の尻尾を持つ仮面の狐のようなデジモンだったりとあまりに騎士らしくないデジモン達が揃っていた。ついでに言うと打ち合いを希望したデジモンも騎士というよりはどこかアマゾンの部族のようないでたちで包丁のような大剣と剣。鎧兜をつけていない竜人だった。
ロードナイトモンに純玲が聞いてみると騎士は種族で決まるのではなく、ましてやロイヤルナイツを目指すのだから重要なのは自分の正義を確立し遵守することなのだとか。そう言われて純玲はロイヤルナイツの像の中に素手だったり四本足だったりする物があったのを思い出し納得した。
「ロードナイトモンはどんな正義を確立してるのです?」
純玲達がアルケニモンから聞いた話では美しいものを正義とするらしい。ただ、今目の前にして話してみて美しいものとは何のことを言っているのかがよくわからないのだ。
純鈴達から見て特に美しいものについてこだわっているような様子が見えなかった。
「私の正義は《美》を守る事だ。」
ロードナイトモンの口調に淀みは無い。純鈴にもクルエルにもムシャモンにも容易に本心であると確信できた。
「この世界には無情なことも理不尽なこともあるが情もあるし道理が通ることもある。ありとあらゆる環境があり、その環境の中で自らの行うべきこと、強い美学を持ったものが生まれる。私にはこの世界は原石も丹念にカットされた宝石もすべてごちゃ混ぜになっている宝石箱のようにに見える。」
忠誠を尽くした神が殺された中で未だ神に与えられた道理を通す仕事を続けるロードナイトモンならではの言葉の重みがそこにあった。
「その全ての原石に可能性がある。私の手の届く範囲で原石を磨いていくことで美しい宝石へと昇華すること、そして原石や宝石が理不尽に砕かれようとしている時にそれを阻止すること。つまりここでロイヤルナイツに選ばれるにふさわしい騎士デジモン達を育てること、ロイヤルナイツとして悪を捌き罪を裁くこと。」
最後の言葉に込められた威圧に純玲達は自分達が裁かれるかもしれない立場であることを改めて自覚する。
ロードナイトモンは裁判官兼刑の執行官、純玲達は被告。純玲達もロードナイトモンもオメガモンも全貌を把握していない真実が分かるまでその構図は変わらない。ただそれは真実が明らかになるまでは裁かれることはなくロードナイトモンによって安全がほぼ保障されているといことでもある。
そんな会話をしながら最後に連れて行かれたのは厨房である。そこには騎士を目指すデジモン達とは少し雰囲気の違うデジモン達がいた。気高い感じというよりはオーガモン達みたいな泥臭い感じ、スミレとしてはよっぽど落ち着く雰囲気だった。
「マミーモン。こっちに来てくれ。」
ロードナイトモンに呼ばれたのは長身細身の頭にターバン、残りを帯で巻かれたデジモン。妙なアンバランス感が純玲に多少アルケニモンを思い起こさせた。
「・・・あぁそれが言ってた人間とデジモンか。どれぐらいここにいることになるんだ?」
マミーモンの動きはかなり気だるげで鈍重そうに見えた。だけど眼球はぎょろりと純玲、クルエル、ムシャモン、そしてまたクルエルと鋭く見ていた。
「まだ未定だ。サングルゥモンの噂が広まりすぎていることもあるから特に罪が無かった場合にはここで世話をしていくことも考えてる。」
純玲とクルエルは罪が晴れたらすぐにでも世界中を回りたいと思っている。しかしただでさえトラブルが起きるだろうそれに普通のデジモンに比べて大きな危険が付き纏うだろうことも確かだった。
もうすでに島から大陸に渡ったり大陸内を縦断せんばかりに移動しているから十分だとも考えられるが本人達に自覚は無い。
「ふぅん・・・じゃあそこの人間、俺のところに寄こせよ。長いこといるんだったらそれなりに働いてもらわなきゃな。」
マミーモンが長い手を伸ばして純鈴の頭をわしゃわしゃと撫でる爪は鋭くて少し恐ろしく思えたがその手つきは妙に優しかった。
「スミレ本人がいいならばそれでもいい。ただ傷つけたり先入観を与えないでくれ。」
ロードナイトモンが純鈴を見る。
「私はその方がいい。ただ結果待ってるとか我慢できないし、結果出たらすぐにクルエルと世界回るから。」
純鈴は撫で続けるマミーモンの腕を掴みその目を見る。マミーモンもそんな純玲の目を見返す。
「ケケッ、いいじゃねぇか。ロードナイトモンが結果出す時には自分で最後の晩餐作れるぐらいにしてやるよ。」
ふとマミーモンが目を逸らし短い笑い声をあげそう言い放った。皮肉めいてはいるが純玲を気に入ったのだけは間違いなかった。
「よろしくマミーモン。私は純玲。」
純玲が手を出す。
「よろしくな、スミレ。」
マミーモンがその手を取る。
「えと、クルエルはクルエルなのd」
「あぁ、お前はいい。とりあえず厨房に入るんじゃねぇ。料理に毛が落ちる。」
「私はm」
「お前もいい。鎧がガチャガチャうるせぇ。」
マミーモンに一蹴されてクルエルとムシャモンがとぼとぼ厨房から出ていく。
「さて、私もそろそろ行こう。色々とやるべきことがあるのでな。」
ロードナイトモンがそれに続いて出て行った。
「・・・おいてめぇら集合。新入りが入ったぞー。」
マミーモンが呼ぶと厨房に散らばっていたデジモン達が集まってきた。
「初めまして、純玲って言います。よろしく。」
純玲の厨房での生活が始まった。