厨房で働くことが決まってから三週間経った今、純玲は戦場にいた。
怒号が飛び交い、銃弾が降り注ぎ、花びらが宙を舞い、銃声が絶えない。
そんな中で純玲は母親の言葉を思い出していた。
『食卓は戦場、女子だからって小食アピールなんてしなくていいからね。おごってもらう時は遠慮なく頼みなさいよ、サラ金に行かせるぐらいの気力で。』
笑顔で言うお母さんと苦笑いしていたお父さんの姿を純玲は思い出していた。
「食卓よりも厨房の方が前線に近いかも。」
クロンデジゾイドというこの世界で最高の堅さを誇る金属で作られた調理台の陰に隠れ、氷水で冷やしながらクリームを泡立てていた純玲は呟く。
「おいそこの毒舌人間っ!!サボってんじゃねぇぞ!!」
マミーモンが純玲を怒鳴る。本人はどうなのかというとマシンガンから放たれる銃弾で肉叩きという斬新でバイオレンス、かつグロテスクな調理法を行っている。銃声が絶えないのはだいたいマミーモンのせいである。
「サボってないわよ!生クリーム泡立ててんのわかんないの!?死霊さんにでも聞いてみなさいよ?」
マミーモンという種族は魂を扱え、死霊を操る。よってネクロマンサー、死霊術師と呼ばれる。
純玲はその話を聞いた二週間前から根暗マンサー、根暗、生きている友達っているの?などと毒を吐いていて、根暗マンサーことマミーモンも純玲のことを毒舌人間、毒舌、なるべく生ものに触れるなよ?食中毒とか起こされたらたまらねぇからなどと応戦していた。
「嘘吐け!!時間かかりすぎだろぉがよぉっ!!三十秒で作れ毒花!!」
「生クリームは基本だけどだからこそ重要なの!!六分立てからは四、五回混ぜるだけで状態代変わってくるんだから!!昨日こんなん簡単だろって言って私から奪ってやってぼっそぼそにしたうえで泡だて器折ったの誰でしたっけ!!?」
怒号が飛び交うのはだいたこの二人がこういうやり取りを少し楽しんでいるせい。でも怒鳴り声になってしまうのは銃声が絶えないせいである。
「二人とも落ち着きなさいよー。」
間延びした声と共に二人の首に花で作られた首輪がかけられる。
銃声と跳弾の嵐が止み、続々と調理台の下に隠れていたデジモン達が自分の仕事に戻る。
花輪をかけたのは葉の羽を持つピンク色の花の妖精リリモン。身長は純玲より少し高い程度、おそらく高校生ぐらい。ついでに言うとデザート担当で厨房ではマミーモンに次いでナンバーツーの位置にいる。
「肉たたきどころかミンチになってるしー、スミレちゃんのクリームもそろそろ出来上がりよー?」
リリモンが言うように純玲のクリームは八分立て、スポンジに挟むのにちょうどいいぐらいの感じであと数回混ぜれば完成の状態。マミーモンが壁に貼り付けた肉はミンチになり落ちてこれまたクロンデジゾイド製の壁が見えている。跳弾の原因は肉が無いところにひたすら打ち込んでいたことにある。銃弾が降り注いたのはこのせい。
「チッ、今日のメインはハンバーグに変更だな。」
マミーモンが首にかけられた花輪を引き千切って投げ捨てる。花びらが舞うのはこういったやり取りが繰り返されているせい。すなわち厨房が戦場になるのはだいたいマミーモンのせいということである。
もちろんそれ以外にもきっかけはある。
炎で形作られた人のようなデジモン、メラモンが火加減を誤って西洋の雪だるまのような見た目のユキダルモンが冷やしているアイスケーキを溶かしてしまってリリモンが笑顔でエネルギー弾を撃ちまくったりとかどことなくディノビーモンに似た二足歩行の昆虫型デジモン、スティングモンが爪で微塵切りにするのが楽しすぎてとんがり帽子をかぶった魔女のようなデジモンがじっくり煮込んでも形が残るようにと大きめに切っておいた食材をついつい切り刻んでしまって高圧水流を喰らったりとかだいたい女性型デジモン陣を怒らせるとマミーモンがそれを擁護し女性陣を逆なで、戦場になる。
やっぱり戦場になるのはマミーモンのせいということになる。
「あ、スミレちゃん。私が持ってくです。」
隣の調理台でオレンジバナナのシャーベットを作っていた白い修道服のほぼ人間にしか見えないデジモン、シスタモン ブラン(以後ブラン)が純玲からボウルを受け取ってユキダルモンに冷やしてもらいに行く。
純玲はブランがボウルの代わりに忘れていった作りかけのオレンジバナナのシャーベットを持ってユキダルモンの元へと早足で歩く。
「あれ?シャーベットが無いです。」
「・・・ブランはもう少し注意深くなるんだよ。ほら、後ろからスミレが持ってきてくれてるから。」
ユキダルモンに頭を撫でられながらブランは首を傾げる。
「私のやつ持っていって自分のやつ忘れたらだめでしょ。」
純玲からユキダルモンがシャーベットを受け取る。
「これはフリーザーの方?それとも途中の段階?」
「途中の段階です。」
「あいよ。」
ユキダルモンがシャーベットの入った容器を軽く小突くと固まりすぎない程度に冷えて固まる。
それを純玲に渡し、生クリームをフリーザーにしまう。
「ありがとう。」
「ありがとうです。」
純玲がウィッチモンの方に歩いていく後ろからトコトコとブランが付いて行く。
「まるで姉妹みたいだねぇ。」
その様子を見てユキダルモンはほほえましげに独りごとを言った。
純玲とブランがウィッチモンのところに行くとぐつぐつと煮えたぎりながら勝手にかき混ざる大なべをニタリと笑いながら指を動かしていたウィッチモンが顔を上げ、純玲の持つものをちらりと見た。
「あぁ、ミキサーね。」
ウィッチモンが調理台からスミレが元いた世界のミキサーと似てるようで似てないものを取り出す。元の世界のミキサーの下に大きな円盤を付けたような形だ。
下の円盤部分に水を入れ、ミキサーの内側にシャーベットを入れ、ふたをする。
「じゃあいくわよ。」
ウィッチモンが人差し指をくるりと回すとミキサーが回転し始める。
実はミキサーの下の円盤部分には水車が入っていてそこが回ると上の刃の部分もまわる仕組みになっている。ウィッチモンが水の魔術を使って強い水流を生み出すことでミキサーの刃が高速回転している。
さらに風の魔術を併用し空気を含ませるという素人目にはわからない高等技術を用いることでシャーベットはすぐに滑らかになり後は冷やして盛り付けるだけの状態になる。
「ありがとう。」
「ありがとうです。」
それをバットに入れ、ウィッチモンにお礼を言ってまたユキダルモンのところに持っていく。
「・・・本当、ノワールに似てるわね。」
ウィッチモンのつぶやきを背にユキダルモンにバットをフリーザーに移してもらい保管。二人それぞれの調理台に移動する。
純玲はまた生クリームブランは超電磁レモンのシャーベットを作り始める。
最初の三日ぐらいは腕が痛くて仕方が無かった純玲だが普段走るクルエルに掴まっていたおかげかディノビーモンのサバイバル講座のおかげか大丈夫になっていた。
それはそうと騎士を目指すデジモン達が修行をする場であるここに甘いものはあまり似つかわしくないように思われるかもしれないが事実ここでは妙に甘いものが充実していて朝食、昼食、夕食の時間の他にティータイムが設けられている。
理由はロードナイトモンにあって、彼曰く甘味は心に余裕を生み修行に励む平淡な生活に置いて休むことと修行することとのメリハリをつける役割も持つとのことらしい。ロードナイトモンが甘党であり、常に自家製ローズヒップティーに合う甘味を探していることとはきっと関係が無い。
現在はティータイムが終わり夕食の準備中。朝食に昼食、ティータイムは抜くデジモンも少なくないが夕食を抜くデジモンはいない。そのくせ反動で夕食はよく食べるため量が必要になり厨房が最も忙しくなる時と言っても過言ではない。
その上でロードナイトモンが美しさを尊ぶせいでかなりの量が必要であっても見た目に高いクオリティを要求される。
そのために厨房側が取った手がバイキング形式にして大皿に美しく盛り付けること。皿の上がぐちゃぐちゃとなり汚くなるのは取る側の責任、盛り付けるのが下手なのが悪いということにした。
ただその弊害もある。一つには長く置かれると温度変化だったりで最高の状態で食べてもらえない事。
特にそれが顕著なのはデザート類。肉が冷めるのはまだ食べられるし見た目はほとんど変わらない。でもシャーベットは溶けると味も変われば見た目も変わる。大皿に美しく盛ることも難しいために結局デザート類は小さい器に盛りつけられユキダルモンがマイナス数十度にまで冷やした鉄板に乗せることで保温することになった。
あと配膳が面倒くさい。
大皿ということに、美しく繊細に盛り付けてあることも重なってとにかくめんどくさい。
マミーモンみたいに力のあるデジモンやウィッチモンみたいに浮かせて運ばせたりできるデジモンしか大皿を運べない。
そのためできたところから運ぶことになる。余計に冷めたりするが美しくないとロードナイトモンからお説教を受けるしメラモンみたいなデジモンは温かく食べられる。
「マミーモーン、あれ運んでねー。」
リリモンがひき肉から乱雑に銃弾を取り出しているマミーモンの周りを飛びながら話し掛ける。
指差す先にはデジサケを使ったチャンチャン焼きの様な料理がある。野菜もとれ濃いめの味付けで食も進む人気料理である。
「わかった。ちょろちょろ飛ぶなリリモン。」
――べちゃっ
中途半端についた肉ごと銃弾を適当に投げ捨てる。
「うわー。掃除すんの誰だと思ってんのー?」
「ウィッチモン、ユキダルモン、メラモン。」
厨房の掃除法はウィッチモンが高圧水流で厨房の床を隅々まで水浸しにし、ユキダルモンが凍らせ、氷の状態で回収。回収した汚れから水分をメラモンが過熱して飛ばすというクロンデジゾイド製の厨房じゃないと成立しない方法だったりする。
「おい毒花。ちょっと来い、話がある。」
「ぐうぇっ。」
マミーモンが純玲の首に包帯を巻きつけて引っ張ると純玲の口からは女の子らしさの欠片も無い声が出てしまう。
「乱暴は駄目よー。」
リリモンはのんびりとした口調でと裏腹に素早くエネルギー弾を放ち包帯を切る。
「けほっ、根暗マンサーはコミュニケーションの取り方も知らないの?コミュ障なの?」
毒を吐きながらもマミーモンの方へと純玲は歩いていく。一応マミーモンは上司だから従わなきゃという意識があった。
「それは悪かったなぁ。毒を吐けなければ少しは可愛くなるかと思ったがあの感じじゃダメだな。デジナマズみたいだった。」
「で、話って何ー?スミレの貞操に関わる様だったら私は容赦しないけどー?」
「それはねぇから安心しろ。」
「リリモンはリリモンで怪しいしね。頭の中はユリの花で埋め尽くされているから。」
ブランのそれににた黒い修道服に身を包むデジモンが会話に割り込んできた。
「今日は早いね。」
純玲は特に驚きはしない。黒い修道服のデジモンはシスタモン ノワール(以下ノワール)といいデジモンでは珍しいことなのだがブランの姉であり、騎士見習いの一員でありながら厨房によく出入りしている。
「ブランに危機が迫ってる気がしたから早く来てみたら案の定だった。」
「確かにブランは可愛いけどー。ブランはノワールとのカップリングの方が輝くからねー、スミレの方が今はいいかなー。」
スミレは少し悪寒を感じ一歩リリモンから離れる。
「それはブランよりスミレの方がかわいいってこと?喧嘩売ってるの?」
ノワールは黒い二丁拳銃を抜き取ってリリモンに向ける。
ノワールがここに来る理由、それは重度のシスコンゆえの過保護である。
「ノワール。落ち着いて後ろを見て。ブランが止めようかどうしようかうろうろしてるから。」
純玲に言われてノワールが言った通りうろうろしているブランの方を見る。
「大丈夫よブラン。お姉ちゃん喧嘩とかしてないから。」
ブランが持ち場に戻るまでにこやかな笑顔を作っていたがブランが戻った瞬間元の様にリリモンを睨みつけ、ブランに見えないように銃を構えた。
「そういえばノワール。クルエルは?一緒じゃないの?」
純玲がブランを見てノワールがクルエルを見る。純玲とノワールはそういう関係を三週間の内に構築していた。
「・・・毛が落ちるから入んないんだってさ。銃弾が入ったひき肉はありで毛の一本二本に神経質だなんて根暗マンサーってわからないよねー。」
「ひき肉床に投げ捨てる癖にほんとうに根暗マンサーってわからないよねー。」
「「ねー。」」
二人のこのやり取りは二週間ほど少し言葉を変えて毎日何度も何度も繰り返されている。純玲はクルエルを入れたい。ノワールはブランにつく悪い虫をけん制するというメリットがお互いにある。
「・・・わかったよ。ねちねちねちねち口が二倍になるといらだちも二倍だな。」
マミーモンは流石に耐え兼ねてか許可を出す。
「クルエル、入っていいってさー。」
「わかったのですー。」
純玲が言うととことこと早足で歩いて純玲の横にぴたりと止まった。
「・・・ちょっとー。忘れてるかもしれないんだけどー、マミーモンとっとと運んでよねー。」
ふと周りを見ると色々なところですでに盛り付けが済んでいる大皿が多発していた。
「とりあえずスミレは話があるから来い。他は話の邪魔だから来んな。」
厨房から大広間までの間は基本的に騎士デジモン達は来られないようになっている。内緒話にはもってこいの場所だ。
「まさか、本当に口説く気ー?」
「それは駄目なのです!クルエルも付いて行くのです!!」
「それはねぇっつってんだろぉが!!大事な話かもしれねぇし気にしなくてもいいかもしれねぇ話だ。」
マミーモンはリリモンとクルエルを怒鳴りつけて純玲の手に包帯を巻きつけ大盛りの野菜炒めを持って厨房から出て行った。
「ちょっ・・・」
スミレもマミーモンに引き摺られて厨房から出ていく。クルエルはそれを不安そうに見送っていた。
厨房から大分離れた大広間との中間地点でマミーモンは立ち止まり純玲の方に黄色い二つの目をぎょろりと向けた。
「・・・何よ。」
スミレも負けじと睨み返す。
「クルエルとか言ったよな、あのサングルゥモン。」
マミーモンはゆっくり歩き出し、スミレの手に巻きつけた包帯を解いた。
「そうだけど。」
「お前がどれだけあいつを良く知ってても気を付けろ。」
「は?」
「あいつの中には間違いなく死霊がいる、でも生きてもいる。あんな魂は今まで感じたことがねぇ。」
純玲は毒の一つでも吐こうと思ったがマミーモンの表情が真剣だったのでやめておいた。
「一応覚えとく、ありがと。」
素直に純玲が礼を言うとマミーモンは驚愕して今にも吐きそうな顔をした。
「・・・うわぁ、急に礼とか言われると気持ちわりぃな。吐いちまいそうだ。」
「あんたが真剣な顔したのも十二分に気持ち悪かったけどね。吐かずに立っていられる私自身をほめてあげたいわ。」
これでとくに純玲はマミーモンに付いて行く理由がもうなくなったので厨房に引き返すことにした。
途中、クルエルを自由に進化させられたらもう少し大皿を運ぶのが楽になるんじゃないかと思い歩きながらデジヴァイスをいじってみた。
どう進化させるのかわからないので適当に今まで出会ったデジモンの一覧に検討を付けてみる。
一番上からサングルゥモン、レオモン、オーガモン・・・となっていて冴才が出会ったフーガモンや純玲自身が言葉を交わさなかったデジモンは表示されていない。完全に純玲専用なのだと純玲は見て実感する。
当初の目的を忘れて適当に見ているとデジモンが三種類に区分分けされていることに気づいた。サングルゥモン、ムシャモン、マミーモンなどは赤く、レオモン、オーガモン、ワルシードラモン、ストライクドラモンなどは灰色でグレイドモン、ロードナイトモンなどは青色で表示されていた。
灰色は他にアルケニモンやディノビーモン、コドクグモン、フライモン、ドクグモン、ガルダモンなどがあったので死んだデジモン達だとすぐに分かった。
「ストライクドラモンも死んだんだ・・・」
敵対はしていたが純玲はストライクドラモンの死を悼んでいた。なんでかよくわからないけどストライクドラモンも種族に踊らされただけな気がしていた。
青色はロードナイトモンとグレイドモンに言葉は交わしたけど特に仲が良くはないデジモン達がほとんど。味方以外ということだろうかと純玲は思った。
赤色はクルエル、ムシャモン、ブランとノワール。と仲がいいデジモン達なのだが何故かリリモンやマミーモン、ウィッチモン達も青色だった。
少し首を傾げているとそれぞれの名前を選択できることに気づいた。試しにクルエルを見てみると種族の特徴の他に進化可能の文字、それに続けてlevelⅥと書いてあった。
ムシャモンを見てもlevelⅥの文字。マミーモン、ノワールはlevelⅤ、ブラン、リリモン、ウィッチモン、ユキダルモンはlevelⅣその上でムシャモン、ノワール、ブラン以外には進化可能が書いていなかった。それで純玲は色の条件がなんとなくわかった。
進化させられるデジモンが赤色、死んだデジモンが灰色、それ以外が青色で表示されている。
ちょうどそこまで考えたところで厨房に着いた。
「スミレ、何の話だったのですか!?」
すぐさま純玲の元にクルエルが駆け寄ってくる。
純玲はマミーモンの言った事を頭の中で反芻する死霊がいる、でも生きてもいる。まさかと考えてみたがそんなことは無いだろうとすぐに頭から追い出すした。
ここはデジタルワールド、クルミの魂がここを彷徨っているわけがない。
そう考えて純玲は気づいた。あの日、タイムカプセルの中を見て親友の死を受け入れた気がしていた。
でも受け入れきれてなかった。知っただけであって未だ自分は親友の死を受け入れきれていないのだと気づいてしまった。
ずっとクルエルに親友を重ね、厨房の中でブランの傍にいるのも結局親友のことを思ってでしかなかった。
「・・・スミレ?」
クルエルが急におかしくなった純玲を見て呟いた。
「・・・大丈夫、多分大丈夫。」
顔を上げると心配するクルエルはやっぱりクルミにしか見えなくて、ブランとノワールがクルミと私に、厨房が学校に見え、個性的な厨房のメンバーがみんなクラスメイトのように映って見えた。
「・・・やっぱ休んだ方がいいかも。」
純玲がそう呟くと両肩に包帯を巻かれた手が乗せられていた。
「落ち着けスミレ。クルエルはクルエル、ブランはブランノワールはノワールだ。」
戻ってきたマミーモンがぼそっとそう言葉を続けた。
「・・・なに?私の心の中でも、覗いてんの?」
くらりとしながら純玲がマミーモンに問いかける。
「・・・あまりに魂が不安定な奴は断片的に見えちまうことがあるだけだ。とにかくゆっくり休め。」
倒れた純玲を抱え上げて誰にも聞こえないように言った。
「じゃあ私がベッドに連れてくよー。」
リリモンが前に進み出る。
「お前は駄目だ。毒花の貞操に関わる。」
「クルエルが運ぶのです。」
「・・・それも駄目だ。今毒花の魂は荒れに荒れてる、親しい相手はいい意味でも悪い意味でも魂を揺さぶりやがる。そこそこ仲がいいぐらいの奴が一番揺さぶらねぇ。おい、ウィッチモン!!」
マミーモンはクルエルからスミレを庇うようにしてウィッチモンに呼びかけた。
「じゃあ行ってくるからノワール、焦げ付かないように代わりにかき混ぜといて。」
箒に腰かけたウィッチモンが純玲を優しく受け取り厨房から出ていく。
クルエルはマミーモンに阻まれそれをただ見送ることしかできなかった。