四大竜の試練。デジタルワールドに伝わる言い伝えの一つでチンロンモン、ゴッドドラモン、ホーリードラモン、メギドラモンの四体からなる四大竜それぞれが科したとされる試練をひとまとめにした総称であり、それぞれが連携した試練ではないため試している事柄が被るようなこともままありそれぞれの試練場を回る必要があるがその全てを超えるにはありとあらゆる面において高い能力が必要になるのは間違い無い。
メギドラモンの試練は自らの内に眠る邪なる力を抑えこむこと。試練場の内に描かれた魔方陣の中央に立ち自らの闇と対峙する。自らの闇を殺すことはすなわち死を意味し闇を受け入れることにその試練の答えはある。
ホーリードラモンの試練は聖なる炎に焼かれること、聖なる炎は邪なる存在を許さずその身を焼く。自らの邪念を昇華する意志の力が必要とされできなくばその身は天に召されることとなる。
この二つが意思の試練、残り二つが力の試練と呼ばれている。
ゴッドドラモンの試練は破壊と再生。致死性の毒を飲み体の内部で起こる破壊から再生する耐久力を試す。
チンロンモンの試練は天を裂くこと。剣を握り地に立ちながら天へと剣を振り雲を裂くことができなければ試練を超えたことにはならない。
「・・・何とか超えたなドラコモン。」
「そうだねサザイ。これで究極体になれるようになったしグランドラクモンとも戦えるよ!!」
冴才はあの後オメガモンからデジヴァイスをもらい、ストライクドラモンを追いかけてストライクドラモンの故郷であるファイル島に行った。そこで冴才はデジモンの卵、デジタマの生まれる場所始まりの町に入り、頭の中に響くオメガモンの声に導かれ一つのデジタマを取った。
今冴才の隣にいる小竜、ドラコモンはそのデジタマから生まれたデジモンで冴才を経由してオメガモンからの情報しか基本的に与えられていないデジモンである。
試練のために外界から隔絶されその状況に一切の疑問を抱いていないドラコモンは洗脳されていると言っても差し支えないような状態。冴才も含めてオメガモンの操り人形と言っていい。
さて、何故オメガモンがわざわざ四大竜の試練を冴才に受けさせたか。選民意識を助長するためというのもあるのだが一番の理由はクルエルの場所を特定するまでの時間稼ぎである。
イグドラシルの警邏網を抜けて逃走したスミレ達はオメガモンからすれば突然消えたに等しく数か月経っても竜の谷に現れずどこに行ったかもわからない状況にオメガモンは困惑していた。
まず警邏網が何故知られているかということに困惑した。デジヴァイスはイグドラシルの端末ではあるが警邏網には関係が無い筈、しかしドゥフトモンは死にロードナイトモンはもう無駄だろうにロイヤルナイツが生まれるための場所を守っている。
ふと最後に残った生きているかどうかもわからない始まりの騎士を思い出したが匿う理由がわからない。グランドラクモンという種族とアルファモンという種族は因縁があると聞いていた。
そういうわけでオメガモン自ら調べに回っていた。と言ってもオメガモンの調査というのはイグドラシルの警邏網に気づくような特別な要素が無いかの確認と近場での目撃証言が無いかの調査。
それぐらいしかすることはない。
しかしそれについてはあまり効果を上げてはいなかった。そもそもオメガモンにそういうことに適した能力は無くあまり大きく動くと冴才を切り捨てられない。
なのでオメガモンはその線はさっさと切り捨てて別のことを調べていた。
それは何故純玲がデジタルワールドにいるかということ。サングルゥモンは純玲と共に突然現れた。それまでに成長期の段階でファイル島にいたという話は出てきていないのだからそこには何かしらの関連性があると考えるのが妥当だとオメガモンは考えたのだ。
オメガモンがもし最初に発見できていれば秘密裏にサングルゥモンを葬り純玲を強制送還、それで終わっていた。しかし現実は最初はレオモン、オメガモンが気づいたのはフォルダ大陸に渡ってしまった後。
オメガモンはそれが偶然では無いと考える。警戒していたわけでもないレオモンがいきなり見つけられファイル島中に情報が広まったことはサングルゥモンのネームバリューだけではないのは明白だ。
まずレオモンがいなくなっただけでサングルゥモンを特定することが不可能なこと、それにあくまで有名なのはグランドラクモンであってサングルゥモンはそこまでの脅威でもない。あれだけのことになったのには誰かが情報を煽ったに違いないとオメガモンは考えた。
そして煽ったのは何故かと考えるとおそらくそれはロイヤルナイツから守るためとしかオメガモンには考えられない。殺したいのならばロイヤルナイツに通報でもすればいいからだ。終わりの聖騎士であるオメガモンは自身の体の様にはっきりとした二択で考える傾向にあった。今回は殺すか生かすかの二択、利用するにしても生かしたい筈、ロイヤルナイツに見つかるのは時間の問題だと知っている筈という考えである。
もしロイヤルナイツから守るためだとするならばその誰かはロイヤルナイツ、又はロイヤルナイツに近しいデジモンでサングルゥモンに関してロイヤルナイツ以上に何かを知っているに違いない。
そこでオメガモンは止まった。何もできなくなった。推測することしかできなくなり動こうにもどう動くべきかわからない。
そして二ヶ月近くオメガモンはこうして何もできずにいるのだった。
しかしふとオメガモンが過去の純玲の足跡を辿って行った時に思わぬ情報を手に入れた。
サングルゥモンが出現したことに関して幾人かのデジモン達が色々なデジモン達の証言を集めていたという情報。大方三大天使あたりの手のものだろうと思ったオメガモンだが一応調べてみるとどうやらそうではないらしい。バラバラな種族で統一性が無いようで質問や聞き方、そして騎士然としているという特徴があげられる集団だった。
その集団を派遣したものに対しオメガモンの心当たりは一つ。ロイヤルナイツに反するようにウィルス種で武器も拳でも槍でも剣でもなくリボンで一風変わった正義の形を掲げる騎士。雑多な種族をもうロイヤルナイツはほぼ崩壊したのにロイヤルナイツの候補として育て上げる滑稽極まりない騎士――ロードナイトモン。
ロードナイトモンならば警邏網の穴を突ける、自分のところへ純玲が来たくなるように導くためにオメガモンに殺させないためにレオモンに発見させたとすればそれも説明がつく。
オメガモンはロードナイトモンの最近の動向を調べ、最近ロードナイトモンがファイル島を訪れていることを知った。
ロードナイトモンの城は深い森の中にありほとんど隔絶されたも同然の状態。情報が出て来なくてもおかしくない。
そう言った経緯を経てオメガモンは今呑気に喜んでいる冴才の上空に佇んでいた。イグドラシルを通じて頭に話し掛けるのはロードナイトモンが敵かもしれない以上適策ではない。場合によっては会話を知られる可能性すらある。
「・・・大分成長したようだな。サザイ、ドラコモン。」
「「オメガモン(様)!」」
冴才とドラコモンが歓声を上げる。冴才の手の中には前のものと少し形状が違うデジヴァイスが握られている。四大竜の試練を超えるためにか冴才の服はあちこちが擦り切れ何度か洗ってはいたがそれでもボロボロになっていた。
「ついにサングルゥモンとの決戦か?」
冴才がデジヴァイスをぐっと握りしめる。勝手にストライクドラモンの死に様を捏造したこともあって冴才はサングルゥモンに憎悪を抱くようになっていた。
「朗報だ。おそらくではあるがサングルゥモンの居所が分かった。」
「じゃあ今すぐ乗り込んで・・・」
ドラコモンの言葉に冴才が大きく頷く。
「・・・サングルゥモンはグランドラクモンというデジモンになる。そしてグランドラクモンにはあらゆるデジモンを闇へと堕とす魅了の力がある。」
スミレが帰りたがらない理由の一つとしてグランドラクモンの魅了の話を冴才にしていた。普通に考えたなら以前の話と矛盾すると気付くはずなのだが冴才はわからないと考えるのをやめるため特に問題なかった。
「それは前に聞いたけど・・・」
「どうやらその力をサングルゥモンはどう言う方法かはわからないがスミレに移したらしい。・・・今奴らがいるのはロイヤルナイツが一体、ロードナイトモンの居城だ。」
冴才とドラコモンの顔に驚愕と困惑の表情が浮かぶ。
「ロイヤルナイツってオメガモンと同じ組織だよな?なんでそんなデジモンがあいつらを・・・・」
「ロードナイトモン様はロイヤルナイツでは異端のウィルス種・・・種族として闇に堕ちやすくてスミレに魅了されてしまったってこと?もしかして城にいる他のデジモン達も?」
ドラコモンは少なくとも冴才よりは頭が回るようでゆえにオメガモンに簡単に騙されてしまう。しかしこれは今まで事実上外界との接触が無かったことも関係しているのでドラコモンに非は無い。
「・・・考えたくはないがおそらくそうなのだろう。そうなると奴らの戦力はこちらのそれを大きく超えてしまう・・・もう小規模に抑えるということは無理だろう。」
グランドラクモンを巡ってのロイヤルナイツとロイヤルナイツの争い、それはただの内輪揉めとは言い切れない規模にならざるを得ない。ドゥフトモンが生きていれば間に立ってもらい交渉の場を設けるという選択肢もあったがもはやそれは不可能。冴才が少しでもオメガモンの名前を出していたらロードナイトモンはオメガモンを敵と認識するのは間違いないからだ。
「だがそれでも被害は最小限に抑えたい。」
ロードナイトモンの居城は人里から離れている。地形を変えるぐらいのことは起きてもデジモン達の認識としてオメガモンが矢面に立つことはない。例えばロードナイトモン達を皆殺しにし冴才をリアルワールドに送り、その後進化できないドラコモンを殺せば目撃者はゼロ。オメガモンが七大魔王の残党が大挙して攻めてきてロードナイトモンは残党を全滅させたが命を落としたとでも言えばいい。
「下手に救おうとすればきっと被害は大きくなる。勝てるかどうかも怪しい・・・私達はロードナイトモンも含めて薔薇の城にいるデジモン達を殲滅する。」
オメガモンは苦渋の決断と言った空気を醸し出す。実際デジタルワールドの平穏を保つ組織がオメガモンただ独りになるという点では苦渋の決断なのだから難しくは無い。
「そんな・・・どうにかならないのかよ。例えば・・・サングルゥモンを殺したりとかしたら解放されたりとかしないのかよ!」
冴才がデジヴァイスを握りしめて叫ぶ。
「無理だ・・・もしそれが可能だったとしてもその場合殺すのはサングルゥモンでは無くスミレになるだろう。だがきっと誰かが自分達は魅了なんてされていないとか言いだすだろう。しかしそれも言わされているだけ、その言葉を信じてはいけない。」
オメガモンは首をゆっくり横に振り冴才とドラコモンに非常に自分に都合のいいことを言う。確かに仮に魅了されていたとしても魅了されているとは言わない、疑わしきは罰するべきなのだと考えれば正しい。
「・・・サザイ、覚悟決めようよ。ウィルス種じゃなくても汚染されたなら僕達は殺さなきゃいけないんだよ。」
ドラコモンが歯を食いしばりながら言う。
そんな二人の様子を見てオメガモンは滑稽だと思った。
行っていることは一般に必要悪と言われる行為だ。自分の正義の形、悪を滅ぼすことが正義であるという考えに則れば正義だが漠然とした一般の正義観からすれば悪と断言される。そんなことにも気づかず無邪気に私が正義だというからという理由で正義だと断じ自らの感情を裏切る。
それとも自分を悲劇の主人公にでも仕立てあげたいのだろうか。だとしたら尚更滑稽。
しかし滑稽だと思うオメガモンもこの一件で純玲に、デジヴァイスに散々踊らされていたのだとは気づかない。そんなオメガモンはひどく滑稽だった。