スミレには嘔吐等を引き起こす毒がある。   作:へりこにあん

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ついに最終章です。エピローグ含めて七話になります。

最初は十話で終わらせるつもりだったのに全部で二十九話になることになりますね。はい、すみません本当。


幸せだった【墜ちる薔薇】

それは突然の出来事だった。

 

純玲が懐に持つデジヴァイスから赤い光が放たれて厨房全域を覆った直後、何かを切断するような音と共に床が大きく傾いた。

 

――ダンッ

 

「落ち着けてめぇら!!この厨房はそう簡単に壊れねぇからとりあえず落ち着きやがれ!!」

 

パニックに陥る厨房にマミーモンの怒号が響き、どうしても落ち着かないデジモン達をリリモンが物理的に眠らせた時純玲は今まであったデジモンの一覧を急いで開いた。

 

そこにあった文字列を純玲は一心不乱に見ていって叫びそうになるのを何とか堪えた。

 

つい昨日まで青色だった名前がいくつも灰色になっていて純玲の見ている前で変わってしまうものすらあった。

 

「・・・殺された。」

 

フラッシュバックするのはあまり話したことも無いそのデジモン達の顔だけじゃない。アルケニモンにディノビーモン、フライモン達、ドクグモン達、ワルシードラモン、オーガモン、何故かストライクドラモン、それにクルミ。

 

純玲が拳を握るとデジヴァイスが強い赤色を発して隣にいたブランや静かにさせているマミーモン、リリモンやウィッチモン達に限らず厨房にいるデジモン達全員がうっすらと赤い光に包まれる。

 

「・・・スミレ?これっていったい・・・」

 

なんです?ブランはそう続けようとしたが純玲の表情を見て息をのんだ。

 

「スミレ?どこに行こうと・・・」

 

止めようととするユキダルモンの手を払い純玲は厨房から出て行こうとする。

 

「おい毒花、早まるんじゃねぇ、成熟期、完全体が一撃でやられるような相手にお前がまともに戦えるわけがねぇだろ。」

 

マミーモンが純玲の手を握って止める。厨房の中でマミーモンだけはたった今死んだ死霊達から聞いて情報を整理していた。

 

「お前らも早まるなよ!今この城は半壊状態でこの赤いのが消えたらいつ崩れるかわかんねぇ!!だがこの厨房は壁も床も天井もドアもクロンデジゾイド製で食料もある!!死にたくねぇなら下手に外に出るな!!いっそ崩れた後で瓦礫から抜け出す方がよっぽど楽・・・おいっ!!」

 

「ス、スミレッ!!」

 

純玲がマミーモンの手から逃れて厨房から外へと走る。それを追ってブランも一緒に外に出てしまう。

 

――ガラガラガラッ

 

「チッ!!」

 

厨房から出てすぐの廊下の天井が崩れ通路が埋まり、マミーモン達は厨房に閉じ込められることになる。

 

なんとか厨房から抜け出た純玲とブランは長い廊下を走っていた。

 

「待つです!!スミレッ!!」

 

その途中でブランは純玲のセーラーの袖を掴み引き留めた。

 

「離して。」

 

純玲はブランを振り払おうとするがマミーモンみたいに他に気を取られていなければデジモンの手を人間が振り切れるわけがない。

 

「ダメですっ!!スミレもハックモンみたいに死んじゃうです!!」

 

ブランはかつて目の前で殺されたデジモンの名前を叫び純玲の腕を掴んで離さない。

 

「・・・じゃあどうするの?厨房への道は瓦礫で塞がってる、ここもどれくらいもつかわからない。」

 

「そ、それは・・・」

 

純玲の言葉にブランは詰まった。結局今できることは前に進むことだけしかないのだとわかったからスミレをトンウェルことができなくなった。

 

「クルエルやノワール、ブライモンとかと合流したほうが安全でしょ。」

 

ブランは離れないように純玲の横について走ることにした、片手には本当は使いたくなんてない三つ又鉾をぎゅっと握って。

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間は戻ってデジヴァイスが反応した直後。

 

ロードナイトモンは弾かれたように城の外に飛び出して上空から浴びせられる隠してはいるものの濃厚な殺気の元に向かって矢の様に向かっていた。

 

「グレイソードッ!!」

 

放たれた赤い熱の刃をロードナイトモンは伸縮自在の金色の帯で全身をくるむようにして防ぎ右手のパイルバンカーを原因のデジモン、オメガモンの顔面へと振り上げた。

 

「オメガモン・・・これは一体どういうつもりだ?」

 

オメガモンの右腕、機械狼の形をした砲とパイルバンカーがぶつかった刹那ロードナイトモンはそう問いかけた。

 

地上ではロードナイトモンがあえて喰らい威力をそいだにもかかわらず城には斜めに線が入り内側からにじみ出た赤い光に覆われる形で何とかその姿を保っていて、落ちた瓦礫に十何体かが潰されている。

 

被害は甚大だと言わざるを得ない状況、攻めてきたのは城主と同じロイヤルナイツに属する聖騎士。パニックになっていないのは攻めてきたもう一体のデジモンと一人の人間と対峙していて他を気にする余裕のないデジモン達だけ。

 

「グランドラクモンを生み出してしまった時のことを考えればこの程度は必要悪だ。」

 

オメガモンの刺突をロードナイトモンは剣の腹を手の甲で払いのけて一旦距離を取る。

 

地上にいるのはドラコモンの究極体、白鎧に身を包みいびつな大剣フラガッハを構えた竜人の剣客――スレイヤードラモン。対峙するのはフラガッハと比べると頼りなく見える双剣グレイダルファーを構えた金色の流星の異名を持つグレイドモン。

 

ロードナイトモンはちらりと二体の闘いを見て思考する。剣技はグレイドモンが圧倒的に上、スピードも互角以上、だが膂力では明らかに劣りおそらくクロンデジゾイドの鎧に攻撃は決定打になりえない。どちらに分があるかと言えば7:3でスレイヤードラモンに分がある。

 

他のデジモン達が介入できればグレイドモンに分があるがこの城で介入できる程の剣技の冴えを持つデジモンは他にいない。できるとすればマミーモンぐらいだがマミーモンは厨房を優先するだろう。

 

ロードナイトモンはオメガモンを倒さなければ皆が死ぬのだということを改めて確認した。

 

「お前には聞くべきことがあるオメガモン。お前は何故執拗にクルエルを追う?」

 

オメガモンは砲を、ロードナイトモンはパイルバンカーを構えながら空中で対峙する。

 

「グランドラクモンになる前に殺すべき、それだけだろう。」

 

オメガモンは姿勢を崩さず視線を冴才とスレイヤードラモンにやることはない。

 

「確かにその通りだ。しかし今と状況が違う、クルエルの性質は大人しく、戦うこと傷つけることを嫌いスミレが指先を少し切ったぐらいで狼狽える。グランドラクモンになってしまったとしても過去のようなことが起こるとは思えない。」

 

ロードナイトモンは地上で瓦礫に足をはさまれたノワールを助けようとしているクルエルを指さす。

 

――ドウッ

 

オメガモンは黙って砲をクルエルと放ちロードナイトモンもまた無言で帯でそれを遮る。帯が一瞬凍りつくがそれもすぐに振り払われる。

 

「・・・戦うしかないのか?」

 

「死にたいならばそうすればいい。騎士を統べる者と言えば聞こえはいいかもしれないが実際貴様は独りで戦える程の力が無い。完全体に剣技で負けるようにな。」

 

オメガモンは挑発の言葉を発する。

 

「戦闘力の欠如に関して私は否定しない、エネルギーの総量で私は巨体を誇るエグザモンはもちろんアーマー体であるマグナモンにも劣る。剣技でグレイドモンに劣るのも間違っていない、認めよう。」

 

ロードナイトモンはだらりと両手を下げ帯を戻す。

 

「だが騎士を統べる者と呼ばれる所以は騎士を統率するからだけではない。」

 

帯がロードナイトモンの両腕にある程度巻きついた後腕にそってまっすぐ延びあたかも剣のような形を取る。

 

「・・・それは、アルフォースブイドラモンの真似でもしようというのか?」

 

憤怒の魔王と共に散った蒼龍の騎士その武器は手甲からまっすぐに伸びる光の双剣だった。ロードナイトモンのそれは長さも形状も非常に類似している。

 

オメガモンは馬鹿にしているのかと吐き捨てるがロードナイトモンは静かに双剣と化した帯を構えてオメガモンをまっすぐ見つめる。

 

「何故騎士を統べる者であるロードナイトモンの武器がこのような帯だと思う?」

 

オメガモンが戯言をと砲から数発の氷弾を放つ。それは避けるのは簡単だが受け切るには難しく、受けなければ城に着弾する軌道を通る攻撃。ふざけた双剣の形で受けられるわけがないとオメガモンは思った。

 

「騎士を統べる者は騎士の模範たる存在、剣であろうが槍であろうが斧であろうがありとあらゆる武器を使えるべき存在こそが騎士を統べる者。」

 

喋りながらロードナイトモンは氷弾を双剣を巧みに操って容易く受け止める。

 

ロードナイトモンの剣技を見てオメガモンは思わず息を呑んだ。その剣技が並の領域に無いことは剣を主体とするオメガモンにはよくわかってしまった。これを超える完全体がいることが信じられないような高み、オメガモンと比べても遜色無い領域にいる。

 

他の武器を模した形態を取ったとしてももちろん帯のままの形で戦ってもこれと同じかそれ以上のクオリティを誇るとすればオメガモンは技の面で完全に負けている。

 

だがそれでもオメガモンは優位にいた。その場に守るべき『正義』があるロードナイトモンは攻撃を受けないという選択肢は無い。たとえそれが自分の防御能力を超えたとしても致命傷を負うことになってもロードナイトモン後ろにこれ以上の攻撃を許さない。

 

オメガモンは攻撃を当てることを考えなくていい。一方でロードナイトモンはオメガモンに攻撃させないことが基本条件になってしまう。

 

ロードナイトモンの手元の帯が双剣から右側のみに身の丈を超える槍のような形を形成する。それはちょうど嫉妬の魔王と刺し違えた竜帝エグザモンの持つそれに類似した形状。

 

形成した次の瞬間オメガモンは濃厚な殺気を感じ右腕の剣で自らの首元を、左の砲でデジコアを庇う。それとほぼ同時に刃と槍がぶつかる。

 

オメガモンが咄嗟に蹴り上げようとした右足をロードナイトモンは左足で踏みつけて止め左の拳をオメガモンの顔面へ向けて振りぬく。

 

「ぐっ・・・」

 

帯で刺してくると予想していたオメガモンは虚を突かれその拳を甘んじて受け後ろに飛ばされる。しかしロードナイトモンは追撃を止めない。純白のマントの端を右手で掴み手元に手繰り寄せオメガモンの鎧の無い脇腹に回し蹴りを入れて憑代から離れさせる。

 

徒手空拳で戦うのは飛竜騎士デュナスモンの闘い方。オメガモンはロードナイトモンの皮肉を混じらせたような攻撃に右腕の砲を乱射した。

 

それはロードナイトモンならば本体を省みなければすべて防ぎきることができる攻撃で実際ロードナイトモンはそうした。その結果右腕に一撃喰らうことになったが数多く撃つことに焦点を置いたためにそれはロードナイトモンの腕を折ることもできない。

 

オメガモンが攻勢に転じ距離を詰め剣を上段から振るおうとすると大盾の形を模した帯に振り下ろす前に止められることになった。

 

ロードナイトモンの右腕には馬上槍を模した形の帯、紅蓮騎士デュークモンを模したものであるのは明らかだった。

 

その槍がオメガモンのデジコアめがけ放たれるがそれを砲で逸らしオメガモンは距離を取った。

 

「・・・一体何を考えている。ふざけているのか?」

 

オメガモンはロードナイトモンに問いかけた。殉職した騎士達の戦闘を模倣する行為に何の意味があるのかと思った。

 

「私は至ってまじめだ。ふざけているのかはこちらの台詞、何故わざわざ人間を呼び出しデジヴァイスまで持たせた。クルエルを殺したいだけならば必要なかっただろう。」

 

「あのような騒ぎを起こされては立場上審議せねばならない。サングルゥモンを殺すために世界が呼んだ存在として冴才を呼んだ。貴様がレオモンに騒ぎを起こさせたから今貴様は自分の守るべきものを危険にさらしている。皮肉なことだな。」

 

ロードナイトモンの問いかけにオメガモンは答える。お前のせいだと。

 

「何を勘違いしているのかわからないが私はレオモンをけしかけてなどいない。あれは貴様が殺す大義名分を建てるためにやったことだろう。そういうことにしたいのならば勝手だが私の城に手を出した以上許すわけにはいかない。」

 

それを聞いてオメガモンは困惑した。ならば誰がレオモンをけしかけた?サングルゥモンをファイル島に出現させた?人間を召喚したのは一体誰だ?

 

その困惑を見てロードナイトモンもまた困惑した。サングルゥモンの突然の出現もレオモンの死もオメガモンの演出でなければ一体誰がやったことなのか。

 

しかし二人とももう戻れない。今から対話に転じることなど不可能だ。

 

「・・・それに、ドゥフトモンを殺したのも貴様の筈だ。」

 

ロードナイトモンは歯切れ悪くオメガモンに注意を戻す。純玲とクルエルの証言を確かめようとする過程でロードナイトモンはおそらくドゥフトモンが死んだことを知っていた。ドゥフトモンが籠っていた筈の遺跡には争ったと思われる様子は無く、ドゥフトモンが警戒することが無く殺されたことは明白。無警戒状態から一瞬でブラウンデジゾイドの鎧を貫けるのは同じロイヤルナイツぐらいしかいない。

 

「・・・確かにそれは私だ。」

 

オメガモンもロードナイトモンも別に何者かが裏にいる可能性を感じながらも剣を構え、帯を伸ばし、お互いの正義を掲げて二人は戦うしかない。

 

ロードナイトモンの帯が右腕に巻きつき帯がきつく巻かれて針の様になりまるでレイピアのような細剣を形作る。それはドゥフトモンのそれを模したスタイル。

 

嵐のような突きの連撃をオメガモンは小さな傷を受けながら耐え忍び、熱を帯びた剣をロードナイトモンが振り切られる前に帯を何重にも巻きつけた腕で止める。帯が咲かれ鎧に浅く剣が刺さるがロードナイトモンは動じることなく使っていない帯でオメガモンに襲い掛かる。切れた帯もすぐに伸びて再生される。

 

ロードナイトモンはもう少しオメガモンにダメージを与えてからロードナイトモンの基本にして奥義の体術と不定形の帯を使おうと考えていたがオメガモンの一撃の威力を考え一旦距離を取ってそのスタイルに移行した。

 

形ある武器とは比べ物にならない自由度がある武器であってもどうしても一人が使うのだから傾向が生まれそれは読めてしまわれかねない。ロードナイトモン自身簡単に読まれる気も無いし読まれることも考えてはいるが性能に差があるオメガモンに知られるリスクは他と比べても高い。

 

そこからのロードナイトモンとオメガモンの闘いは熾烈を極めた。

 

それを見たものは何が起きているのかきっとわからないだろう。金属音が鳴り響き姿すらおぼろげな戦いの中で時々姿が見えたかと思えばその度に双方に傷が増えて見える筈だ。

 

何度目かもわからない程の衝突の中オメガモンもロードナイトモンも同時に事の真相について考えていた。

 

突然現れたサングルゥモンに純玲、あまりにも早く見つけ襲い掛かったレオモン、妙に早く広がった情報、そしてサングルゥモンとリアルワールドで一瞬会ったという純玲の証言、それを行ったのはロードナイトモンでもオメガモンでもない・・・

 

ロードナイトモンは気づく、グランドラクモンは古代よりいるデジモン、サングルゥモンの中にいる死霊と死んでいない魂・・・マミーモンの話を思い出し全ての真相をロードナイトモンは悟り一瞬動きが止まってしまう。

 

その一瞬の隙をオメガモンが逃すわけがない。

 

ロードナイトモンを両断するには至らないものの深い線を斜めに走らせ城内の広場にも深い線を描く。

 

斬られたロードナイトモンは糸の切れた人形のようにただ重力に従って城の付近の森に落ちた。

 

地上では城から出てきたばかりの純玲はその両眼に墜ちるロードナイトモンを映し、手の内のデジヴァイスを強く強く握った。

 




二日後か三日後ぐらいに次投稿します。
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