スミレには嘔吐等を引き起こす毒がある。   作:へりこにあん

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これ含めて後六話で終わります。


幸せだった【スミレの色】

純玲達が厨房から飛び出した頃、ムシャモンは空中から飛来する青い飛竜、その背にいる人間を見て刀を抜きはらった。

 

殺そうという気はない。ただあれだけのことをして純玲にあれだけの温情をかけられてそれでもこうやってクルエルをウィルス種を殺しに来る冴才をもう一度懲らしめないといけないと思った。

 

周りで戸惑うデジモン達を押しのけてムシャモンが走り出すと青い飛竜の上で冴才が何か言ったのがムシャモンには見えた。そしてムシャモンは何と言っているのかわかった。

 

あれがサングルゥモンだ。

 

ムシャモンがいる位置はちょうど飛竜とクルエルとの間の中間地点。冴才はムシャモンのことを覚えてすらいなかったということだ。

 

飛竜の口が開いて内に蒼く揺らめく光が見えたのでムシャモンはさらに前に出た。もう飛竜との間に他のデジモンはいない。

 

「ブレイズソニックブレス!!」

 

飛竜の口から放たれた青いブレス、完全体のウイングドラモンの必殺技であるそれをまともに受け灰になる筈だったムシャモンは突然体から立ち上った赤い光に守られた。いや、守られたというと正確には違う、純玲から与えられた力を使ってムシャモンがそのブレスを受けた。

 

クルエルの方に流れないように、後ろにいるデジモン達が喰らわないようにムシャモンは予備動作が見えていたのに受けた。むろん多少受け損ねた分もあるしムシャモンは受けながら距離を詰めることで少しでも受けの腰を減らしていた。

 

いくら純玲からの力があっても無謀なことだがムシャモンはそうしないわけにはいかなかった。もう一度居場所を失うのはとてもムシャモンには許せなくて自分の命を賭してでも守るべきだと決めていた。

 

だがいくら純玲の力があっても成熟期のムシャモンに同じようにデジヴァイスの力を受けた完全体のウイングドラモンのブレスを完全に止めるのは無理がある。そもそも渡されている力の量も違う、一体にだけ集中する冴才と城中の知り合いのデジモンに大なり小なり力を与える純玲。ムシャモンが今持っている分はそのほんの一部に過ぎない。

 

「・・・下がっていろ」

 

じり貧になりつつあるムシャモンの後ろからグレイドモンがウイングドラモンへと飛びあがり双剣を振るう。

 

それを避けるためにウイングドラモンは高く飛びあがりムシャモンはブレスから解放される。

 

グレイドモンが着地しムシャモンにクルエルの傍へ行くように促すとウイングドラモンが空中で銀色の光に包まれ究極体スレイヤードラモンとして出てきた。

 

しかしグレイドモンの興味はそっちには無く今さっきまでブレスを受けていたムシャモンとその力を与えた純玲に向いていた。

 

ほんの一部でありながら成熟期後からを完全体レベルまで引き出す力。考えられるパターンはいくつかある。

 

一つは純玲の持つエネルギー量が莫大であること、デジヴァイスは感情を力に変えるのだからそれだけ純玲の感情が冴才に比べて大きいということでもあるがこれは根拠に乏しい。ムシャモン以外のデジモン、純玲と一度に土話しただけのデジモンが纏っているものまでそれだけのエネルギーを持っているとすれば純玲は冴才の何百倍もの濃い感情を持っていなければならない。

 

一つは無印の誰でも使える冴才のデジヴァイスに比べ純玲専用の赤いデジヴァイスの方が感情の変換効率が高い場合。しかしこれも怪しい、安全装置と考えることもできるがどれだけ最適化してもここまでの力を出すにはやはり純玲の感情があまりに濃密でなくてはならない。最低でも狂ってしまっていることは必須。

 

ならばとグレイドモンが考える三つ目の可能性、過去の人間達の様にただの力とは異なる性質を持っている。パートナーとの関係性や人間の思考傾向などが大きく影響する。

 

これが一番可能性があるかとグレイドモンはスレイヤードラモンの剣を避けつつ軽く反撃しながら考える。

 

対象は純玲が今まで接してきたデジモン達と城で例外はグレイドモンとロードナイトモンの二体。

 

少なくともどういう形かで進化を誘発させるのは間違いない性質であることを加味して考えなければいけない。冴才のそれは単純に力を与えて殻を破らせる方法、ならば純玲のものはどうなのか。少なくとも単純な力では説明がつかないのはわかっている。

 

グレイドモンが注目したのはさっきムシャモンが受け止めることができたという事実とムシャモンの生い立ち。

 

森の女王たるアルケニモンに対し仕え、女王のためになる存在になるために見識を深めようと純玲達に同行し逃げる過程でコドクグモンからムシャモンへとイレギュラーな進化を遂げた。

 

サングルゥモンに関しては元々がイレギュラーなので参考にならない。コドクグモンのムシャモンへの進化と今回のムシャモンがブレスを受け止めたことに純玲の力の性質の特徴が出ている筈だとグレイドモンは推測する。

 

フラガッハの軌道を双剣で軽く逸らし鎧の隙間に薄く剣を刺し込んで反撃の前に抜く。

 

それにしても究極体にしては歯ごたえが無いとグレイドモンは意識を一旦スレイヤードラモンに戻した。相応の膂力こそあれどブライモンどころかムシャモンにも及ばない稚拙な剣技、長引くがグレイドモンが死ぬことはない。しかしグレイドモンはエネルギー総量で劣るのだということもわかっている。冴才はエネルギータンクのようなもの、感情さえあればエネルギーが充填される相手に持久戦なんて悪手でしかない。ただ鎧は堅く刃が通らない。

 

しかしそんなことは些事、それよりも純玲の力の方が危険。グレイドモンはスレイヤードラモンとの戦いを維持しながら思考を続ける。

 

ロードナイトモンやグレイドモンには純玲の力が適応されていないことも踏まえてグレイドモンは一つの答えを導き出す。

 

純玲の性質は自分の力を一つのきっかけとしてそのものの性質を最大限引き出すこと。

 

ロードナイトモンとグレイドモンはすでに完成しているために力が効果を成さなかった。

 

ムシャモンは仕え守る意識が高かったために仕える者である武士を元にしたムシャモンに進化し、完全体のブレスをも防ぐ防御力を生み出す。

 

城は元々何かを守るためのもの、その性質を最大限に出したためにロイヤルナイツが一体オメガモンの一太刀に耐え崩れずその姿を維持している。

 

無くなると戻ることになりかねないとはいえあくまできっかけだからあまり力の量は必要ない。

 

悲しい力だとグレイドモンは思う。過去にデジヴァイスを持ったもので自分が戦えるようになったものはそう少なくない、むしろ全員大なり小なりそういう方向に近づいていっていた。だが純玲のそれは過去の例とは真逆の方向に向かう力。お互いに高め合うわけでもなく一緒に高まるわけでもなく自らを踏み台にする力。踏み台にされてでもどんな扱いであっても独りになりたくないと主張するかのような力。

 

グレイドモンは知らないがかつて純玲がマタドゥルモンとムシャモンへ進化させた時、その光の元は純玲のクルミに対する友愛と狂愛だった。今の純玲はクルミの死を受け入れた結果、より孤独を身近なものとしてしまいその力はより他者への依存性を増してしまっていた。

 

あの時のままならばきっとクルエルやムシャモン、精々シスタモン達やマミーモンの範囲までだっただろう。しかし孤独を身近に感じだして純玲は他者とのつながりを無意識で重んじるようになり、少しでも知っている相手が死ぬことを拒絶する心がその能力に現れた結果が知っているデジモン全員への力の分配。

 

当の純玲はちょうどブランと一緒に城から出てきたところで全員の状況を確認しようとして目を走らせ、堕ちていくロードナイトモンを捉えた。

 

赤いデジヴァイスから放たれた一筋の赤い光。それはクルエルに注がれその姿を狼から舞踏家へと変える。

 

「クルエル!!!」

 

光の筋を辿ってクルエルを見つけて純玲が呼ぶとクルエルはノワールの足の上に乗っていた瓦礫を細かく切り裂きノワールだけでどけられるようにしてから純玲のところに駆け寄る。

 

「・・・ブランはノワールのところ行って足が大丈夫そうだったらみんなを避難させる手伝いして。」

 

負傷したデジモンは当然ノワールだけでは無く、瓦礫に挟まれたりブレスの余波を受けたりして多くのデジモンが負傷していた。

 

「後・・・できればその中で無事な人達で協力して厨房までの道を作って。」

 

クロンデジゾイド製の厨房は核シェルターの様に独立していてオメガモンですらそう簡単には壊せない。逆に言ってしまえばその中に閉じ込められたらマミーモン達が自力で出るのは難しい。

 

「スミレとクルエルは・・・どうするです?」

 

ブランは愛用の三つ又鉾を振るえる手で握って純玲に問い、ちょうどそこにクルエルがやってくる。

 

「とりあえずあれは私達を追ってきた奴だから。大丈夫、ただちょっと説教かますだけだから。」

 

純玲は冴才を指さしてブランに笑いかける。明らかに作り笑いだとわかるそれなのにブランはどうしても止めようという気になれなかった。

 

結局ブランは制止できずクルエルは純玲を抱えてスレイヤードラモンの方へと走り出した。

 

それに冴才が気づき、スレイヤードラモンもそっちに視線を走らせる。

 

「グレイドモンお願い、そいつの相手は私達にさせて。」

 

「・・・いいだろう。ただそのままで勝てないならば変われ、マタドゥルモンを究極体にさせては絶対にならない。」

 

その時間俺はオメガモンを足止めしていようと言ってグレイドモンはスレイヤードラモンの懐をすっとすり抜けて場外のオメガモンの方へと悠々と歩いていった。それは素人目に見ても圧巻で今まで何故スレイヤードラモンと互角の勝負になっていたのかわからない程の速さ。

 

「久しぶり、冴えない才能略して冴才くん。」

 

クルエルに下ろされた純玲は冴才にへらっと笑いかける。

 

「・・・お前、自分が何やってんのかわかってんのかよスミレ!」

 

冴才がスレイヤードラモンの横に立って純玲に叫ぶ。

 

「きやすく名前で呼ばないでよ、私はあんたと友達になるつもりも無ければ赦しても無いから。」

 

純玲はへらへら笑ったまま声を凍りつかせる。

 

クルエルとスレイヤードラモンはお互いに攻める機会をうかがって睨みあっている。しかし実際はそこに意味はほとんど無い、お互いに隙がないのはわかっている。お互いに探っているのは隙以上にパートナーたる人間の動きだった。クルエルは純玲がスレイヤードラモンは冴才が動揺すれば同じように動揺が走り隙になる。それが致命傷にならなくても主導権は相手に譲られゆくゆくは命に届きかねない。

 

それを冴才は理解していないが純玲は理解している。実戦経験は冴才の方があっても純玲の様に実際にナイフを持ったりしない闘いであり常に危険に晒されるのはドラコモンだけだったのだゲーム画面越しとほとんど変わらない。

 

「私は自分が何やってるかわかってる。ウィルス種だか許されない種族だからというだけで突然命を狙われたクルエルと一緒に黒い服着てるからってだけで闇に生きる者だとか言われてレオモンに殺されかけてクルエルが私を死なせないために攻撃したら殺しちゃって。」

 

純玲はへらへらとした表情を崩さないように話す。少しでも崩せばクルエルの邪魔になると知っている。

 

「その後ストライクドラモンとガルダモンに襲われオーガモンとワルシードラモンに庇われてファイル島からなんとかフォルダ大陸へ逃げ延びて、ひたすら一日中走って途中でいくらかデジモン傷つけちゃって、クルエルと身を寄せ合って野宿して。」

 

冴才はぽかんとしたように口を開けている。冴才の中ではオーガモンとワルシードラモンは逃げるための生贄にされたのだ。

 

「毒のある実を食べてアルケニモンに助けられてディノビーモンにナイフの使い方とか蛇の捕まえ方とか食べられる草の見分け方とか教えてもらって餞別に鞄とナイフ、鍋なんかも貰ってコドクグモンと一緒に行くことになって。」

 

純玲はいざという時盾にもなると言われたバッグの中に左手を入れてナイフを取り出す。切れ味にこだわるスティングモンが砥いでくれたナイフはきらりと光っている。

 

「それで・・・あんたが勘違いしたまま連れ戻しに来て。」

 

ナイフを右手に、デジヴァイスを左手に持ち替えた純玲を見て冴才ははっとして一歩後ろに下がる。

 

「このデジヴァイスが私しか使えないようになって、このデジヴァイスに導かれてロードナイトモンに容疑者として庇護されて私はここの厨房で働いて、クルエルはその手伝いしながら他の騎士見習い達と一緒に頑張って、ムシャモンはここで騎士見習いになって。」

 

純玲はへらへらとした表情のまま自分の視界がにじむのが分かった。この涙がこぼれた時、何かが抑えられなくなるようなそんな予感を感じながら言葉を続ける。

 

「久瑠実が死んだことも完全にじゃないけど受け入れて、根暗マンサーと喧嘩したりちょっとクルミに似てるブランがノワールに送るケーキを一緒に作ったり、ノワールにお返しに何あげたらいいか相談されて何故か一緒に崖に生える綺麗な花を取りに行ったり、リリモンにセクハラされたり、ウィッチモンの迷子になった使い魔見つけたり、告白できないスティングモンに呆れたり、ユキダルモンに世話焼かれたり、水こぼしてメラモンに水がいかに大切か説教されたり、ブライモンに刀で髪切ってもらったり、グレイドモンに廊下を走るなと怒られたり、ロードナイトモンに先代のコレクションの使い道を相談されたり・・・」

 

冴才はなんで純玲が笑いながら泣いているのかわからなかった。むしろわけわからな過ぎて自分が泣きたいとすら思っていた。

 

「・・・とにかく。」

 

純玲が笑うのをやめて涙を拭いながら言う。

 

「私もクルエルも誰かに迷惑かける訳でもなく幸せに過ごしてんの。ロードナイトモンが自分で調べて正当防衛だった、でも今出て行くとうるさくなるから当分大人しくしてろって言われて私はクルミにした約束を延期してまでここにいるの。」

 

赤い光が強くなり、避難している途中の傷ついたデジモンの中で純玲と話したことのあるデジモン達の傷が少しづつではあるけれど確実に塞がっていく。それはそのデジモン達の性質を引き出したのではなく純玲の元の城に戻したいと言う性質を力に付加した結果だった。

 

「私も聞いていい?あんたは自分が何やってるかわかってるの?」

 

いつの間にか話を聞いているのは冴才だけではなくなっていた。クルエルは聞かなくてもわかるので聞いていない、ただスレイヤードラモンはそれを聞いていた。そしてストライクドラモンと同じように疑問を覚え、オメガモンの言葉を疑い始めていた。

 

「サザイ・・・僕にはオメガモンが言うように魅了されているとはとても思えない。そもそも人間に能力を渡したって無理があるし・・・」

 

スレイヤードラモンの視線はクルエルにあるものの注意は純玲にあり、それは間違いなくクルエルにとっては絶好の隙だった。だがクルエルは仕掛けない、それがスレイヤードラモンの疑念を裏付けていた。言われた通りの人格なら絶対に襲ってくると思った。

 

冴才はそれでも訳が分からなかった。オメガモンが言ってることが正しくなかったとしたらと考えることを冴才は放棄した。

 

「俺は・・・オメガモンにあの子の、クルミさんのためだって言われて・・・言われた通りに・・・」

 

冴才は気づく。前に純玲が言った台詞の意味に、自分で考えろと言う言葉が本当に文字通りの意味だったことに。

 

冴才が言葉を続けようとした瞬間、クルエルは純玲を抱えて跳び、スレイヤードラモンはそれを見て冴才を地面に押し付け自分もしゃがもうとして、スレイヤードラモンの首が飛んだ。

 

「え?」

 

クルエルの視線の先を純玲が辿るとたオメガモンが左腕の剣を斜に薙いでいた。見ると純玲達との間にはグレイドモンが剣も一緒に二つに裂かれて転がり、スレイヤードラモンの首はオメガモンの渾身の一撃の余波で裂かれたのだという事実を伝えていた。

 

「・・・貴様に罪が無いのはわかっている。だがグランドラクモンは償いきれない罪を背負った存在、生み出してはいけない。」

 

オメガモンが満身創痍であることが素人目にもわかるぐらいに純玲達との距離を詰め、切り裂こうと剣を構えたまさにその時、後ろから金色の帯がオメガモンを束縛した。

 

肩から腰にかけて斜めに深い傷を負ったロードナイトモンが分解されかけの姿でオメガモンの後方に立っていた。

 

ロードナイトモンはオメガモンを束縛するのにほとんどの力を注いでいるらしくたっぷり数分かけて純玲達の前に辿り着いた。

 

「ロードナイトモン・・・」

 

「もうすぐ私は死ぬ。」

 

ロードナイトモンは毅然とした態度だったが右腕はすでに無い。

 

「この城のことは心配してはいない、だからこの時間はクルエルのことに当てようと思う。」

 

「どういうことだロードナイトモン・・・」

 

オメガモンが束縛されたままロードナイトモンを睨んで言う。

 

「オメガモンとも話してみてわかった。クルエルは・・・デジモンではない。」

 

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