「壱の太刀。」
タクティモンは鞘に入ったままの大太刀、蛇鉄封神丸を地面へと打ち付けた。打ち付けた場所を中心として地震のように周囲に振動が走り城の崩落が進み、グランドラクモンは足を取られわずかにその身を捩らせる。
崩落する城を見てアルファモンは冴才を抱えたまま後ろに跳びもう一回り距離を取り、ブライモンもそれにしたがって距離を取る。ただノワールは一旦距離を取ったもののすぐに避難している筈のブラン達の方へと向かう。ノワールは今グランドラクモンよりもブランの方が気になっていた。
「鬼神突!」
小さな隙を見てタクティモンはグランドラクモンの細い上半身に凄まじい速度で蛇鉄封神丸での突きを放つ。
本来ならグランドラクモンにとってあまりに直線的で愚直な一撃は攻撃として何の意味も持たない、避けることも受けることも容易に選べる。抜いていない鞘のままなら尚更楽。
ただ今は完全復活を果たしたわけでもなく体勢も十分でない、そしてタクティモンの蛇鉄封神丸は鞘の中にあるというのに力が満ち満ちているのがグランドラクモンには目に見えてわかる。喰らうわけにはいかないとタクティモンを拳を上から叩きつけ翼を広げ後ろに距離を取った。
地面にめり込んだタクティモンも上半身部分の意外な膂力以上に蛇鉄封神丸の禍々しい力を感じていた。今の鬼神突も壱の太刀もタクティモン自らの技であるが自らの技じゃない。蛇鉄封神丸を力を伝えるための媒介とするのではなく自らが蛇鉄封神丸の力を使うための媒体になっていることにタクティモンは気づく。
タクティモンを構成するのは間違いなくムシャモンの性質を純玲が引き出したもの。蛇鉄封神丸もムシャモンの中に確かに存在していたもの、有体に言えば負の感情というべきものの結晶だった。
ムシャモンの中に渦巻く負の感情のほとんどはあの森での惨状に対しての悲しみや怒り、そこに今の生活を奪われたことなどの苦しみなども積み重ね丁寧な態度の裏に隠してきた激情。その隠された激情を純玲の力は鞘から抜かれることのない呪われた大太刀、蛇鉄封神丸という形で顕現した。
タクティモンは明確な形になった蛇鉄封神丸を確実に持て余していた。純玲に皆純玲が常に笑顔でいることを望んでいる筈だと言ったにも関わらず自らは自らの負の感情に引っ張られている。
蛇鉄封神丸が体よりも先行して動いている。壱の太刀ももっと大規模にできたはずで鬼神突も体と蛇鉄封神丸が合わさればよりすばやく強い一撃になったはず。
「・・・参の太刀。」
タクティモンがもう一度地面に蛇鉄封神丸を突きつけると今度はただの振動では無く地面が円柱型に何層にもわたって連続的に隆起しグランドラクモンへと襲い掛かる。
この攻撃もタクティモンのイメージとずれる。
「どうもあまり気持ちよく戦えているようには見えませんね。」
グランドラクモンは参の太刀を容易く避けるが反撃を行わない。
グランドラクモンの持つ技は魅了と敵を水晶へと変えるクリスタルレヴォリューション、魅了はある程度精神が負の方向に揺らいでなければ使えない。クリスタルレヴィリューションも堕とせていれば一瞬だがそうでなければクリアしなければいけない条件は多いから使えない。さっきオメガモンにどちらか使っていればもう少し違ったかもしれないがグランドラクモンも決定的な攻撃ができない。
「あなたも聞いているより窮屈そうです。」
今のグランドラクモンは様子を見ている。どう言う攻め方が有効であるかを考えるために冷静に。
「でもそんな様子では私からこの体を奪い彼女を取り返せるようには思えませんね。このままじゃこの物語は吸血の魔王の勝利でバッドエンドです。」
グランドラクモンは純玲達を殺せるがタクティモンはクルエルも死ぬので殺せない。殺せるかどうかは攻撃の遠慮なさに直結し、遠慮ない攻撃ができなければ敵を追いこむことなどできない。
タクティモンは考える。果たしてこの蛇鉄封神丸は抜くべきなのか抜かないべきなのか。
抜けばとりあえずは勝てるだろう。アルファモンは守るかどうかを決めるのだからそもそも危険を消せば世界は守れる、ただ制御できず蛇鉄封神丸に飲まれればクルエルを殺してしまうことになる。抜かなければこのままだ。力関係は平行線でグランドラクモンにいずれ押し切られて終い、世界は滅ぼされるだろうしクルエルも結局死んでいるのと同じ状態で最悪の結末。
アルファモンはこれを正と負の対決のように見ているらしい。それを考えれば蛇鉄封神丸に頼る戦いは負と負の闘いになりどちらが勝ってもこの世界に守る価値は無いと判断されそうだ。
グランドラクモンを倒しアルファモンを倒す選択肢は無い、アルファモンが死なないのはタクティモンがその目で確認した。グランドラクモンが言うバッドエンドを回避しハッピーエンドを迎えるにはグランドラクモンを封じ、クルエルを主人格にして、アルファモンを認めさせる必要がある。
アルファモンを認めさせるには個で勝たなければいけないようなことを言っていた。しかしタクティモン一人でグランドラクモンを封じかつクルエルを主人格にするのは無理がある。
グランドラクモンとタクティモンが睨み合い、空気が張りつめる。その場に動く者は無く、ただ崩壊する城のところどころから爆音のような音が聞こえてくるだけだった。
「・・・私!!クルエル取り戻したらタクティモンも一緒にアルケニモンのいた森に行くんだー!!!」
突然純玲が叫んでその場にいた者達の力が軽く抜けた。
「スミレ?突然何を?」
タクティモンがグランドラクモンから視線を逸らして振り返って聞く。グランドラクモンはグランドラクモンで優雅に唇に指を当て笑っている。
「リアルワールドのお決まりの台詞パターンの一つで死亡フラグって言うの。だいたいこれ言うとその後で死ぬことになるんだけど、私は死なないと信じてる。」
純玲はタクティモンから少し離れてはいるものの未だ危険な位置にいる。そんなことにもタクティモンは気づけていなかった、途中で逃げたと思ってた。
「それにアルケニモン言ってたじゃん、好きなものに進化して帰ってきなさいって。タクティモンの姿ならバッチリでしょ?」
しかし恐怖のピークを過ぎ妙に冷静になった純玲はいつも通り笑っていた。
それをみてタクティモンは気が張りすぎていたかもしれないと息を吐く。いくらアルケニモンとディノビーモンのためで純玲のためでクルエルのためで世界のためでと際限なく乗っかっていても気を張りすぎたからって何か変わるわけでもない。究極体に進化し純玲の力ももうこれ以上及ばないのだから無駄な感情の揺れは意味がないどころかマイナスでしかない。
「私がまた生まれ変わってしまったらその台詞を伝記にでも書いてあげましょう。最期の言葉としてもなかなか良い台詞じゃありませんか。」
グランドラクモンはうっすらと笑いながら艶やかな声で囁く。魅了の含まれたバリトンの声は一気に場の空気をグランドラクモンの色に染めていく。
「私、死ぬ時は青酸カリをペロッてなめてこれは・・・青酸カリ!って言って死ぬつもりだから。それを最期の言葉にする気はない。」
純玲の発言を聞いてタクティモンは苦笑する。最初に会った時は毒を持つ果実を食べてアルケニモンに救われて泣いてと情けない感じだったと記憶していたのに今は純玲がとても頼もしく感じられた。
タクティモンはもう一度冷静に自分にできることを考える。進化した時にタクティモンがどういうことができる種族なのかということは頭に流れ込んできた。
まず全身全霊の突き鬼神突、そして大地を揺るがす壱の太刀をはじめとした弐の太刀、参の太刀、死の太刀、悟の太刀、無の太刀。
壱の太刀をはじめとする六つの太刀技、これがタクティモンにとって問題の技。参の太刀まではあまり問題はない、ただ死の太刀からはそれまでとは違う。負に呑み込まれて精神が死に、その死を乗り越えて悟ろうともがき、悟った末に無を望む。死の太刀から先は負の力が前面に出ている使ってはいけない力だ。
ただタクティモンの技は幸いにもそれだけではない。
背中の三つの砲口からタクティモンは三つの弾を放つ。何も太刀にこだわる必要などない、最終的に太刀を使わざるを得ないかもしれないけど仕方がない。
銃による攻撃をタクティモンは続ける。体格の面でグランドラクモンよりも直接の攻撃はリーチが短くとも銃を用いればその差は覆せる。
「これは少々武人らしからぬ攻撃ですね・・・しかしそれにしても爆音がうるさい。もう少し静かだと雰囲気も出るというのに。」
グランドラクモンの口調は変わらないが動きは確実に制限され間合いに入れない。それでも距離を取った分確実にその弾を弾き、喰らい、避けと多彩に無効化してダメージを受けることはない。
膠着状態を見ながら冴才は思う。自分がやっていたことはなんだったのかと、純玲は実際に戦いに参加していないが参加している。空気を怖し、塗り替え、舌剣を以ってあのグランドラクモンと渡り合っている。それだけじゃない、純玲の腕にはやはり細いけれどもそれなりに筋肉がついている。
一方自分は偉そうにストライクドラモンに命令しスレイヤードラモンに命令し、一度純玲に体術で負けたにもかかわらずデジモン相手では無駄だからと体を鍛えもせず、好きな子のため?何でもやれたはずなのに何もせずこれができると言われてそれに飛びつき考えもせず、最低だ・・・
その冴才の自己嫌悪の感情をグランドラクモンは感じ取って微笑んだ。冴才が堕ちればグランドラクモンは純玲の時のように力にできる。純玲のように引き出すものではないから単純な力の上乗せが可能。
「いやしかしさっき堕ちたばかりとは思えないぐらい力強い瞳ですね、普通はそんなに強い人などいないものです。」
グランドラクモンは純玲に向かって話しかける、体を装って冴才に自分を正当化させるための餌を与える。勿論堕ちさせるための毒入りの餌である。
「自分の罪を感じたら、何かショッキングな出来事に出合ったら堕ちてしまって可笑しいわけじゃない。そして堕ちたらそのままでいい、その方が楽です。楽を求めるのが当たり前、普通なのですから自ら堕ちに言ったっていい・・・」
冴才の耳からその言葉は浸透していく。
次第に冴才は反復して呟きだす。自分は悪くない、堕ちて楽になりたい、楽になることは別に悪いことじゃない・・・
グランドラクモンとアルファモンがこれで堕ち、均衡状態が終わると思った。
「何言ってんの?それのどこが楽なの?馬鹿なの?」
純玲はグランドラクモンに臆することなく暴言を吐く。自分より何百倍何千倍と生きているかもわからない相手に毒を吐く。
「少なくとも私は楽じゃなかったけど?死んでった皆に責められて苦しくて辛くて死にたくなったぐらい辛かった。」
だから私は今の方がよっぽど楽だと純玲は続ける。
「だいたい私そんな強くないでしょ。あんた復活させてもタクティモンにおんぶにだっこ、ここでの生活も皆に頼りっぱなしだし、ここ来てからもいっつも誰かに助けてもらってここにいる。あっちにいた時だって久瑠実に依存して友達も作んないで・・・私に比べたらあっちの冴えてるやつの方がまだマシかもよ?」
思わぬところから自分の名前がでて冴才は思考を切り替える。
「いやいや、やはりあなたはとても強いですよ。」
そして厄介だ。グランドラクモンは見誤っていたと表面上笑いながら心で歯噛みする。
おんぶにだっこ?奮い立たせて力を引き出して空気を変えて目論見も舌剣で貫いて、八面六臂の大活躍の間違いだろう?私がここで生んだ被害は今のところオメガモンの死だけ、ほとんど押さえ込んでいるくせに皮肉なのか?
城から連続的に聞こえてくる爆音をBGMにグランドラクモンはタクティモンの銃撃を無効化し続ける。
その時ふとグランドラクモンは思う。この爆音は一体何なんだ?何故城から爆音が響いてくる?
一瞬の戸惑い、タクティモンは砲を戻し大きく一歩踏み込んで体重を乗せた渾身の一突きを放たんと四肢に力を込める。
「鬼神突!!」
余分な力が抜けたこともあってさきの一撃よりも少しだけ早い攻撃。純玲や冴才には違いがわからなくてもその違いの意味は決して小さくない。
「がふぅっ!?」
さっきのタイミングで避けようと試みたグランドラクモンは太刀自体は避けたもののその際にタクティモンが咄嗟に横に伸ばした腕が腹に当たり体をくの字に曲げる。無理に伸ばしたのでタクティモンの腕も相応の反動は受けたがグランドラクモンに比べればダメージは小さい。
まだ怯んでいる内にタクティモンは再度純玲とグランドラクモンとの間に入る。追い立ててもいいのだが純玲がこれ以上の危険に晒されてしまうのはタクティモンが許せない。
「一度そういう声を出されるとさっきまで魅力的だった声もなんだか霞んで聞こえますね。」
タクティモンは蛇鉄封神丸をそのまま中段で構えてグランドラクモンに向き直る。鞘から蛇鉄封神丸を抜く気はもう一切なく、その表情は何かをふっきったようにも見えた。
グランドラクモンも様子が変わったことには気づいていてさっきまで以上の集中力でタクティモンと対峙した。
もう城からの爆音は止み二人の間には静寂、純玲もさすがに今度は口を出さずただデジヴァイスとアルケニモンから貰った鞄の紐を強く握りしめていた。
グランドラクモンとタクティモン、どちらが先に仕掛けるかはすでに決まっている。タクティモンだ。壱の太刀、弐の太刀、参の太刀の三種のリーチはグランドラクモンよりも長い。ゆえに隙も大きいのでその隙がグランドラクモンの反撃のチャンスになる。
タクティモンが蛇鉄封神丸を持ち替え鞘の切っ先を地面に向ける。壱の太刀から参の太刀までの三つの技で共通する構え。
「・・・弐の太刀。」
突き刺した地面は揺れもしなければ隆起もしない。ただ地面から影のような黒いものがいくつもいくつも持ち上がってくる。
グランドラクモンは反撃に出かけた足を制止し飛んで宙に逃げようとしたが時すでに遅し。黒いものの一つが人の形を取りグランドラクモンの足を引き地面につなぎとめる。
黒いものはより細かい部分まで形を変え、帯を纏う薔薇輝石の騎士ロードナイトモンを形作る。
他の死んだデジモン達の形を取りだす。オメガモン、スレイヤードラモン、他にもこの城で死んだデジモン達の数だけ黒いものは持ち上がりそれぞれのデジモンの形を取り牙で爪で剣で手で槍で斧でありとあらゆる手段でグランドラクモンを地面に縫い付け動きを縛る。
「これだと私では無くあなたがたが魔王の様ですよ。」
タクティモンは死霊に力を与えて疑似的な肉体と力をもたらし黄泉返らせた。しかしそれはもちろん擬似的で完全では無く、ロードナイトモンもオメガモンもストライクドラモンもただのタクティモンの傀儡であってロードナイトモンでもオメガモンでもストライクドラモンでもない。
「私も気は進みませんでした。」
黒いものに侵食される魔王を見ながらタクティモンは言う。ただこの技はまだ生者の領域にある技で死者の領域までは足を踏み入れていない、限りなくグレーだけど生きる者と同じ次元に持ってくる技であることは違いない。
「・・・しかし拘束したところでどうします?この体の主人格は私ですよ?また封じ込めても私が眠りから覚めている以上クルエルは常に私と第一人格を巡り戦い続けることになりますよ?」
グランドラクモンにとって体の死は敗北ではない、どうせまた記憶を持って転生するのだから一時的な撤退となんら変わらない。だからグランドラクモンは殺せと要求した。封じ込められて余計な記憶を積み重ねるよりもその方がいい、スミレ達にとってもその方がいい筈だから一応winwinの関係が出来上がる筈だと考えた。
純玲は考える。グランドラクモンを本当の意味で殺さないと意味なんてないのではないかと。体を殺しても数十年の後にまた現れるのならばあまり意味は無い、繰り返すだけだ。繰り返さないようにするには魂に付加されている記憶とやらを消し去る必要がある。でもタクティモンはこれ以上の進化ができないからその方向に向かうのは不可能。
「スミレ、何も悩むことはないですよ。グランドラクモンをちゃんと殺せるデジモンはすでにいます。」
タクティモンは純玲の様子を察し確信に満ちた声で言う。
そして純玲はタクティモンが指さした先を見る。崩れた城、ところどころから煙が上がっている。ぱっと見そこには誰もいない、あの中で死んだデジモンは何体いるのだろうと純玲が思った時、視界に金属製の大きな箱のようなものが移った。
慌てて純玲はデジヴァイスを確認する。崩落していたからてっきり死んだだろうと思っていたデジモン達の名前を示す色は灰色では無かった。
――ガンッ
箱の内側から扉が開けられ見慣れた包帯男が這い出てくる。何かつぶやいてマシンガン片手にマミーモンは純玲の方へと歩きだした。
マミーモンは死霊術師とも言われる種族、魂が不安定だと魂を通じて考えていることも読めたりするのだから多少イレギュラーな魂を正常な状態に戻すこともできる筈。そうタクティモンは考えた。
完全体であるのにグランドラクモンから飛ばされるプレッシャーを無視しタクティモンにも死霊達にも反応せずマミーモンは真っ先に純玲の前に行き、そして黄色い目で純玲のことをじっと見下ろした。
「・・・何?」
純玲が一歩後ずさるとマミーモンは一歩進んでまたじっと見下ろし、そして腕を持ち上げて額へとやり、
「痛っ!?」
純玲の額にデコピンした。
「ふざけんなよ毒花ぁ、早まるなって言ったよなぁ?まったく厨房にいる限りは俺の下だろぉが毒花。」
マミーモンは連続でデコピンを繰り返す。いくら手加減していてもデジモンが人間にやる以上その威力はなかなかのもので純玲の目の端に涙がにじむ。
「・・・そういうのは後にしてください。」
尚も続けようとするマミーモンをタクティモンが強引に引き剥がす。
「・・・毒花、後でリリモンと密室で二人っきり耐久三時間だからな。」
マミーモンはそう捨て台詞を言って地面に縫い付けられたまま放置されているグランドラクモンに向かって歩いていく。後ろで身の危険を感じがたがた震えている純玲のことはもう気にしていない。
事情はもう死霊使って聴いたとタクティモンに言ってマミーモンはグランドラクモンに向き合う。
「今からお前の魂に刻まれちまった記憶を引っぺがす。また何回か転生したら蓄積するかもしれねぇがとりあえず今のグランドラクモンの人格はここで死ねる。ただ抵抗されるとうまくいくかわかんねぇ、抵抗すんな、受け入れろ。」
マミーモンの申し出をグランドラクモンが断るわけも無い。グランドラクモンは清々しい笑顔で素直に頷いた。
これで死ねる。グランドラクモンは自分の体と魂が切り離される死んだ時に似た感覚の中でそう思った。
皮をむくように記憶がボロボロと落ち、よかったことも嫌なことも全てが闇に消えていく、次第に自分すら何なのかわからなくなり、何も思い出せるものが無いことに気づき、意識も闇へと溶けていく。
その時グランドラクモンは死んだ。
マミーモンの手にはマミーモンだけに見える無垢な魂がある。グランドラクモンの中にクルエルの死霊が眠っていることを確認してマミーモンはそれを天に放った。
「こいつらも解放してやれ。もうこいつは終わった、とっとと次やることやらねぇと駄目だろ。」
マミーモンがクルエルから離れまた純玲の方に歩いていくのを見送ってタクティモンは死霊達を解放しアルファモンの方を見た。
アルファモンは一瞬でグレイドモンへと姿を変え冴才を下ろしてタクティモンに向けて頷いた。
タクティモンは縮んだクルエルをお姫様抱っこのようにして抱えて純玲のところに行き引き渡した。
「しかし・・・こりゃ派手に壊れたな。」
マミーモンがただの瓦礫の山と化した城を見ながらつぶやく。
「そういえば次やることと言っていましたけれど・・・」
タクティモンがクルエルを下ろしながら言う。
「あぁ?そんなの決まってんだろぉが。」
マミーモンは笑いながら純玲のポニーテールを掴んで引っ張り厨房だったものに向かう。
「ちょっ、痛い!はげる!!何すんの?」
純玲が脇腹をナイフの柄で殴ってささやかな抵抗を試みるがマミーモンは気にせず引っ張っていく。
「俺達がやることは城が壊れようが変わんねぇだろぉが毒花。」
「えぇ・・・私色々疲れた。」
そう言いながらも純玲は素直に厨房に向かう。近くによるとブランやノワールも厨房に近寄っているのが分かり純玲は少し歩くスピードを上げる。
それに気づいてブランとノワールが純玲に大きく手を振る。
「厨房掘り出すの時間かかっちゃってごめんねー!!」
ノワールが純玲に向けて叫ぶ。さきの爆音は城の瓦礫を負傷していないデジモン達がめいめいの大技を使って押しのけるときの音、タクティモンと同じようにマミーモンが必要だと感じたノワールが号令を取って行った採掘作業の音だった。
「大丈夫ー!」
純玲もノワールに叫び返して笑い、二人に駆け寄る。
数時間後、クルエルは生き残ったデジモン達の宴の声で起こされることになる。