一か月経ち、城のあった場所には前のものより一回りほど小さい城が完成した。
前よりもよっぽど雑で汚く、厨房だけ独立状態で存在していたりするがデジモン達のパワーは重機などと比べても大きく、周囲が森で木材の調達が容易だったのも一因だろう。
純玲はそういうことには役立たないということで力仕事をするデジモン達に力与えたり食事を作ったり裏方として頑張っていた。
ちなみにそんな中で二日だけ時間をもらてタクティモンとクルエルと一緒にアルケニモン達の森に行ったりもした。タクティモンはアルケニモン達の家から少しづつ城でも使えそうなテーブルクロスやアルケニモンが吐いた糸、ディノビーモンの熟成させっぱなしの蜂蜜酒などを持ち帰り、純玲とクルエルと一緒に一泊した。
「・・・さてと、行こうかな。」
そして今、純玲は厨房に最初に来た時の黒のセーラー服でいた。肩からはアルケニモンからもらった鞄をかけ、中にはディノビーモンから貰ったナイフと折りたたみ鍋、あとデジヴァイスを入れて、他には何も持っていない。純玲はリアルワールドへと帰ろうとしていた。
「持っていくのそれだけでいいの?」
ノワールの手の中にはお土産として用意したものが山の様にあったが純玲はそれを拒否した。
「うん、後いるとしたらみんなの写真かな。城潰れちゃったから無いだろうけど。ありがとうねノワール。」
そう言うとブランとマミーモンが顔を見合わせて笑った。
「ふふん、これのことです?」
ブランが純玲に得意げに一枚の写真を渡す。確かにみんなで撮った写真、まだタクティモンがムシャモンでロードナイトモンが生きて写っている写真。
「でもこれどこに?」
「マミーモンが探すのを手伝ってくれたです。」
ブランがニコリと笑ってマミーモンの方に純玲の視線を動かさせる。
「お前が自分で最後の晩餐作れるようにできなかったからその埋め合わせだ。」
そういえば最初に会った時そんなこと言ってたなと純玲は笑ってマミーモンの腹を軽く殴る。するとマミーモンは純玲の頭をガシガシと乱暴に撫でまわす。
「まったく素直じゃないなー。マミーモンはー。マミーモンの部屋だった場所からその写真見つけたんでしょー?」
リリモンがマミーモンの周りを飛び回りながら言う。ツンデレ―?と言ったあたりでマミーモンのマシンガンが火を噴きだす。
メラモンとユキダルモンが止めに行くものの止まらず、とりあえず純玲の周りはタクティモンがすべて叩き落とすので安全だとウィッチモンとスティングモンがスミレに近寄ってくる。
「しかしマミーモンも素直になればいいのにな。」
スティングモンがため息をつく。
「あれは違うよ、どっちかと言えばペットみたいな感じだと思う。それに・・・スティングモンは人のこと言えないでしょ。言っちゃうよ?置き土産に爆弾投下しちゃうよ?」
純玲はちらちらとウィッチモンの方を見ながら言う。実際はスティングモンの好意をウィッチモンは知っているし厨房全体のでスティングモン以外には爆弾でもなんでもないのだがそれを知らないスティングモンはおおいに焦る。
「まぁとりあえずクルエルのことは任せといていいから頑張りなよ。」
ウィッチモンはそんなスティングモンを放っておいて純玲の乱れた髪をササッと風の魔術で直す。
「うん。ありがとうウィッチモン。」
純玲は髪が直っているのを確認してウィッチモンに笑いかける。
「じゃあ今度こそ行ってくるね。私人を待たせるのの嫌いだから。みんな今までありがとう!!」
純玲が一言叫ぶとクルエルが厨房の扉を開けてタクティモンと一緒に純玲達は出て行った。
「・・・さよならですスミレ。」
その扉が閉じ数分経った頃、厨房には銃弾の乱舞する音に混じってブランのすすり泣く声が聞こえた。
タクティモンは純玲を抱えて城の近くの高台へと向かった。アルファモンとの待ち合わせ場所がそこだったのだ。
「じゃあ私はここで、後でクルエルは迎えに来ます。」
純玲を下ろしてタクティモンはそう言って高台から城へと歩き出す。
「タクティモンもありがとね。クルエルのことよろしく。」
「こちらこそありがとうございました。」
タクティモンは振り返らずにそう言って森の中に入っていく。泣くことこそないもののアルケニモンの次に心の拠り所としていた純玲との別れは辛く、どこかで一人でいたい気分になっていた。
残されたのは純玲とクルエルの二人だけ。
「二人っきりは久しぶりだよね。」
「そうなのですね・・・」
純玲がポツリと言うとクルエルもポツリと答える。
「私さ、この一か月考えてたんだけど、クルエルとクルミは違うでしょ?」
「そうなのです。クルエルはスミレとの日々も思い出せないのです。」
クルエルは少し申し訳なさそうに言う。
「でもクルエルが昔はクルミだったことも間違ってないでしょ?」
「・・・?」
クルエルは何を言っているんだろうと首を傾げる。
「だからクルミに一度言っておきたかったこともクルエルに言っておきたかったことと一緒に言ってもいい?」
純玲は今クルミの死を乗り越えようとしていた。
葬式の後タイムカプセルを開けてクルミの死を知り、クルエルとの生活を通して自分がクルミに対して持っていた気持ちの大きさを知り、マミーモンに言われて純玲の死と向き合って、そしてリアルワールドでちゃんと生きるためにクルミの死を乗り越えようとしていた。
「もちろんいいのです。クルエルもちゃんとしたいのです。」
クルエルも純玲ほどではないものの悩んでいた。
純玲の隣にいた最初の理由はクルミの未練とも言えるものだった。じゃあ今まで一緒にいた理由の全部がそうだったのかそれとも途中からはクルエルとして純玲に好意を持っていたからなのかはっきりさせるいい機会だと思った。
そしてクルエル本人は気づいていないがそもそも自分はクルエルなのかクルミなのかということでもあった。
「ずっと一緒にいているのが当たり前になってて・・・なのに大切な存在だって気づけなくてゴメン。私は久瑠実と一緒にいれて幸せだった、ありがとう。」
言葉で全部表しきれているわけじゃない。純玲はそうわかってはいたけれどこうとしか言えない気がした。これ以上言葉を連ねたら言葉に重みが無くなりそうだし連ねれば連ねる程純玲の中の気持ちが希薄になりそうだった。
「これで久瑠実への言葉は終わり。さようなら久瑠実。」
純玲は少し寂しそうに、少し名残惜しそうにそう言って一旦目を瞑り深く深く息を吐いた。
「次はクルエルへの言葉。」
クルエルは純玲の言葉に小さく頷いて心構えをする。
「クルエルのこと最初は久瑠実と重ねてたし最後まで少し久瑠実と似てると思ってた。でも、クルエルはクルエルで久瑠実とは違うってわかって、私はクルエルがいたから久瑠実がいなくても大丈夫だって思えるようになった。本当にありがとう。」
クルエルはその言葉を聞いて自分が純玲に好意を持つきっかけはクルミだったけれど今純玲を好きだと、好きだったと確信できた。そして今から別れなきゃいけないと改めて認識して泣いた。
「こちらこそありがとうなのです。スミレ。」
純玲はその返事を聞いて笑ってクルエルの首に抱きつく。何度目かわからないけどここにいるのはクルエルだと確信した、スミレと呼ぶクルエルなのだと確信して泣いた。
純玲とクルエルが高台で抱き合って、純玲は笑いながらクルエルは悲しみながら泣いているところに冴才を小脇に抱えて現れたアルファモンは何も言わなかった。
「・・・アルファモン、俺どうしたらいいんだ?」
アルファモンは空気を読まない冴才の首根っこを掴んでその場に開いたリアルワールドへとつながる空間の門へと無言で放り込んだ。
冴才の発言で我に返った純玲とクルエルは咄嗟に離れて涙を拭いた。
「・・・もう一度確認する。本当に戻るのか?」
あの後、冴才はすぐに帰りたいと言った。しかし純玲はその時は帰りたいと言わなかった。ただじゃあ私も帰ろうかなとだけ言った。
アルファモンの目には純玲は悔いがあるように見えていた。
「戻る。よく考えたら久瑠実との約束あっちで守らなきゃ意味ないしね。」
だが今の純玲にはさみしさの色は見えたが悔いはなさそうだった。
「・・・そうか。戻る時間帯は冴才があっちで世界を渡った次の日の夜中、場所はあの木の根本だ。」
好きなタイミングで入れとアルファモンは言う。
純玲は高台から一度城を見下ろし、ファイル島のある方向を見て、クルエルの顔を見た。
「今までありがとーーー!!私はこの世界でも幸せだったーーーー!!!」
空いっぱいに響くように純玲は叫んで振り返らずに門に飛び込んだ。
「最後の最後までスミレはずるいのです・・・スミレはずるいのですーーーー!!!」
残されたクルエルは笑いながら純玲が叫んだ夕焼け空へと叫んだ。
クルエルは夕焼けを大好きになった。
今までスミレ毒に付き合っていただき本当にありがとうございました。
あまりデジモンらしくなくぽんぽんぽんぽん命が失われていく作品でした。
私には何か伝えたかったとか高尚なものはまだ18歳の若僧ですのでありません。でもテーマとしては最初から最後まで『純玲が親友の死を乗り越えるまで』という話でした。
エピローグは乗り越えた後の純玲のリアルワールドでのお話です。テーマから考えれば蛇足かもしれませんが乗り越えてからも純玲の人生は続いていくのでその始まりとして見ていただければ嬉しいです。