時は流れて中二の三月、久瑠実が死んで約四か月が経ち、デジタルワールドではちょうどグランドラクモンが復活しだした頃に当たる。
失踪していたのを軽いノリの叔母のところにショックから家出していただけと口裏を合わせてもらい警察に怒られるだけで済ませ、乗り越えたこともあり純玲は滞りなく社会復帰した。
冴才はそうでもなく、なんだか変な感じになって友達も離れ、デジタルワールドをある意味共有した純玲に言い寄って断られ、ばらすぞと言ってすればと言われ、全部言いふらして痛い子認定されてと少し可哀想なようなデジタルワールドでのことをことを考えれば生ぬるい目にあっていた。
社会復帰した後純玲は同情されたことを切っ掛けにそれ相応の数の友達と久瑠実から流れてきた男子人気を獲得した。
「ごめん、私そういうの興味ない訳じゃないけどあなたは考えられない。」
そんなこともあって今、純玲は気落ちしている君を支えたいんだという告白を正面から断っていた。相手の男子は元々久瑠実を好きだった男子の内の一人で顔も性格もそこまで悪くはない。
「他の人達にも言っているけどそんなに簡単に好きな相手が変わるような人に恋愛感情を持てる気がしない。私が久瑠実に近づけないようにしてた奴は私が付き合おうと思えない奴なんだ、だからあなたは考えられない。気持ちは嬉しいんだけどごめん。」
無言でどこかに行く男子を見送って純玲は大きく息を吐きしんどいと呟く。これでもう冴才含めて七回目、純玲が弱っていると思い込んで告白する男子は後を絶たない。久瑠実の追っかけの数から考えるともう少し来てもおかしくはないかと考えてのため息だ。
教卓の上の方にある時計を見ると午後五時、人目に付かないところで告白したいなら屋上ででも告白すればいいのにと純玲は思う。帰宅部の純玲は時間指定だったりするとわざわざ相手のために待たなきゃいけない事の方が多い。
「おーい、下駄箱にまたラブレター入ってたよー!!」
学校推奨品の鞄を持ち上げ教室を出ると玄関の方から女子生徒が一人走ってくる。久瑠実がいなくなってからできた友達の一人で文学部所属で五時になると帰宅する。
「野乃花(ノノカ)、人の下駄箱勝手に見ないでって言ったよね?野乃花のそういうところ嫌いじゃないけど私じゃなかったら怒ってるよ?」
「えーと、黒木 純玲さんへ、僕は久瑠実さんと一緒にいるあなたをずっと追いかけて・・・うわぁ、堂々ストーカー宣言してるよこの人。どうすん・・・痛い痛い痛い!!髪引っ張るのは止めて!!」
注意を聞かない野乃花の短髪を引っ張りながら純玲は手に持っているかわいらしい便箋を奪い取る。
「私もこんな歯の浮くような台詞とかどうだかなとは思うけど本人はまじめな筈なんだからあまりそういうこと言うと・・・ぷっ」
手紙を見ながら純玲は野乃花に説教を始めようとするがその内容を見て噴き出す。
「ほらー、純玲も笑ったじゃん!!」
「私はもらった当人だからいいの。」
噴き出した純玲を野乃花が責め、それを純玲が強引に一蹴する。中学生は夢見がちで変に詩的だったり物語のような表現を好む傾向が強い、実際に経験してしまった純玲は冷めているためそういうのがあまりにも滑稽に思えて仕方がなかった。例えば妖精に例えられているのだが純玲の中で妖精と言えばリリモンだからあまり褒め言葉にもならないしついつい思い出して笑みが漏れる。
「それにしても森羅さんの分の人気がそのまま純玲に行ったよね。私もモテてみたいなー・・・」
「私がトラックにはねられて死んだら野乃花に行くかもよ?」
「純玲ー・・・そのブラックジョークは重すぎるよ。天国から見てる森羅さん泣いてるよ?」
不謹慎な上に当事者で吹っ切った純玲にはよくても他人にはとても笑えない。むしろ切り返せただけ野乃花は褒められるべきだろう。
「それは無いけどこういうの野乃花が引き受けてくれるんだったらその方がいいと思うんだよね、野乃花は可愛いし料理も上手、成績も悪くないし・・・怒ってる?」
「・・・純玲が言うと皮肉にしか聞こえないんだけど。」
久瑠実と一緒にいたから目立たなかっただけで顔のパーツは人より整っていて、料理もあっちで四か月毎日朝から晩までやっていたので家庭料理ぐらいなら普通にでき、授業を聞けば八割強身に着けてしまう。純玲は意外と万能だった。
「平均値から見れば十分可愛いし料理もできるし成績もいいんだからいいんじゃない?」
「うわ、ナチュラルに見下されたー。これだけストレートだといっそ好きになっちゃうよー。」
「とりあえず野乃花でも告白して来たら振るから。」
そう言って笑いながらぺちんと野乃花の額を叩く。純玲は特に身長が高い訳ではないが野乃花は小さいので純玲は子供みたいに扱っている。
「もう振ったみたいなもんじゃない?それ?ていうか誰でも振るつもりなの?」
「まぁね。ちゃんと友達から積み重ねていってーって感じがいいな、よく知らないし知られていないのに告白は私は無いと思う。」
「そんなこと言ってると何時まで経っても彼氏できないよ?」
「興味無い訳じゃないけどそこまで欲しいわけでもないからいいよ。」
「でも人間はひとりじゃ生きていけないもんだよー?」
野乃花の言葉に純玲は少し悲しそうに微笑む。デジタルワールドで独りじゃ何もできないことを見せつけられた純玲に言葉だけは知っている野乃花が言うのは釈迦に説法とでもいうべき状況。
「・・・そうだね。でも野乃花もいるし他にも友達いるから大丈夫だと思うんだ。」
「純玲、急にそんなこと言われるとむず痒いんだけど・・・」
「まぁ狙ってるからね。野乃花は単純でわかりやすいし。」
「そんなことないよー!!」
純玲は上げて落として野乃花をわざと怒らせる。
「でも、嘘は言ってないから。」
「うぅー・・・掌の上で遊ばれてる感がぬぐえないー・・・」
純玲は野乃花の頭をあの城で何度もやられたようにわしゃわしゃと撫でながら玄関まで行く。
「やっぱりラブレターだった?」
「どうせ今回も振るんでしょ?男子達も懲りればいいのに。」
玄関には文学部の女子が二人、野乃花と純玲を待っていたらしく早く行こうと呼びかけてくる。
いつもは久瑠実と二人で帰っていた道、家の方向はみんな純玲と同じ方向で実は小学校も同じ三人だからそれとほとんど同じ道を通る。
時折純玲も交えながら純玲に告白してくる男子を値踏みして色々と当人には可哀想で聞かせられない会話をしている三人を見て純玲は少し微笑む。
「あのさ、ちょっとだけ寄り道していい?」
本当は次の交差点で曲がるところを純玲はもう一つ先で曲がろうと提案する。最短ルートよりも大回りになる道だったが三人は口々に賛同する。
「あ・・・」
「なっちゃんどうしたの?」
「いや、その・・・いいの?純玲。」
「うん。ここが一番夕焼けがよく見える道だから。」
そこは久瑠実の大好きだった夕焼けのよく見える道で久瑠実がトラックにひき殺されてしまった道。もう二度と久瑠実が通ることはないけれどそれでも変わらない夕焼けが見える道。
道に供えられた花束を見て気づいていなかった二人もそれに気づく。
だけど純玲はまたこの道を誰かと歩けることが嬉しかった。独りで通ってもそれはなんだか味気ない。
「それにさ、見えるわけないし聞こえるわけないんだけど久瑠実に今も私は幸せだって、いい友達ができたから心配しないでって伝えないとね。」
ロードナイトモンの城から見るのと何も変わらない美しい夕焼けを背に三人にありがとうと告げる。
三人は純玲をおしくらまんじゅうのように囲んで騒ぐ。純玲も一緒になって騒ぐ。
四人を温かい色に染まった町が包む。
これで完全に終わりです・・・が、もしかしたらちょこちょこ番外編ということで純玲でもクルエルでもないキャラが主人公の後日談を上げるかもしれません。