スミレには嘔吐等を引き起こす毒がある。   作:へりこにあん

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黒い仮面の海蛇

「・・・オーガモンを助けにいかないと。」

 

オーガモンが身代わりにになったのだと知った純玲の最初の言葉。

 

「駄目なのです。」

 

純玲を止めたのはクルエル。ワルシードラモンと違ってそんなに知り合って時間があったわけでもない。順当だと言えないことも無いがそれが純玲にはとても奇妙に思えた。

 

この世界では命が大切なことには違いないがあまり悼むと言う風習は無いようだったからだ。

 

でもクルエルはどっちかと言えば純玲に近い思考をしていた。戦いから無縁だった人間と同じような思考。だから純玲はきっとクルエルも同じようなことを言うと思っていたのだ。

 

「クルエルの言う通りだぜ。それに俺が引き返さなきゃお前らはもどれねぇ。」

 

「・・・オーガモンは友達じゃないの?」

 

「大切なダチだ。だからこそ頼まれたことはやり遂げなきゃいけねぇんだ。《悪いデジモン》の俺達は阻害されるから結束しなきゃいけねぇから信用を失うようなことはタブー。蹴落としあって全滅なんてしたくねぇからな。」

 

ワルシードラモンの口元から一筋血が流れる。ワルシードラモンだって辛いのだ。むしろ付き合いが長い分二人よりもよっぽど辛い。

 

純玲はその血を見て初めてそれに気づく。

 

クルエルは察していたというのもあるがオーガモンの気持ちを踏みにじるように思っていた。実際はどうか知らないがクルエルはオーガモンが辛そうだという印象を受けていた。

 

敵を悼む。漫画とかだと少なくは無いが実際はそうあることではない。

 

純玲にとっては死者であればみんな悼むべきだという認識があるがそれは平和ボケしていると言ってもいい日本だから通じたことだ。

 

オーガモンがレオモンを悼んだのにはそれなりの理由があったと考えた方が自然だと考える気持ちもわからないことは無い。

 

その場が沈黙する。誰も口をきかない。

 

純玲は何故あったばかりの自分達を庇ったのだろうと考えざるを得なかった。あのままでも純玲が絶対死んでいたとは限らない。飛び降りてクルエルに受け止めてもらえば精々骨折ぐらいで済んだだろう。

 

考えれば考えるほど純玲には答えが遠のいていくように感じた。

 

クルエルはクルエルでまた別のことに疑問を感じていた。

 

それはオーガモンのことに関していたけどオーガモンのことではなく、自分が何者なのかということ。

 

オーガモンがどうなったのかクルエルには見えていなかったけど途中までは聞いていた。

 

純玲達を庇った台詞を。そしてそれを聞いた時クルエルは何故か親近感を覚えたのだ。

 

行為ではなくその台詞に親近感を覚えたのだ。

 

その行為には少なからずレオモンが関係している。だからかクルエルはその行為自体には誰が死んでも思うだろう感謝と悲しみしか抱かなかった。

 

《だって俺が殺したんだからよ。》

 

その台詞にのみクルエルは親近感を覚えたのだ。

 

クルエルは記憶を失う前何をして、何で記憶を失い、どうして純玲に呼ばれたのか。それがクルエルの頭の中で廻り続ける。

 

ワルシードラモンはさらにまた別のことを考えていた。

 

純玲という人間は一体何なのか。

 

あって間もない筈の悪いデジモンのレッテルが張られているあのオーガモンを助けたいと願ったのか。

 

サングルゥモンの話は知っているがガルダモンはオーガモンに仇を討とうとは思わないのかと言った。

 

それはつまりガルダモンは純玲達がレオモンを殺したと知っていて、さらにそれが周りに当たり前のように知られていることを示唆している。

 

ただのサングルゥモンが現れただけでそうなるのだろうか?そうワルシードラモンは考えてしまうのだ。

 

さらに不自然なのは何故この世界の守護神ロイヤルナイツが現れないかだ。

 

ガルダモンやストライクドラモン、レオモンのように戦おうとするものだけでは無い筈。とすると誰かがロイヤルナイツに通報していると考えざるを得ない。

 

ワルシードラモンはオーガモンよりも色々なことについて少しだけ詳しく知っている。サングルゥモンは魔王になるとも言われているし人間なんてこの世界に数えるほどしか来たことは無い。

 

ワルシードラモンがロイヤルナイツの立場だったら真っ先に潰しに行く。

 

そして思考が最初に戻る。純玲と云う人間は一体何なのか。

 

三者三様の思考は突然に中断させられる。

 

「・・・そこまで来てやがる。波の動きが不自然だ。」

 

最初に気づいたのはワルシードラモン。

 

現在地はフォルダ大陸まで約2キロメートルの地点。

 

そこまで来ているとワルシードラモンは言っていたがそれはあまり正しくない。正確にはそこで何かが待ち構えているのだ。

 

待ち構えられているということはフォルダ大陸に少なからず情報がわたっているということだ。

 

だとすればここで事を構えて到着が遅れれば遅れるほど純玲とクルエルの危険は増すことになる。

 

「オーガモンにもお前さんらにも悪いんだがおれっちはどうやらフォルダ大陸まで送っていくことはできそうにねぇや。」

 

「え?それってd」

 

どういうこと?と純玲が続けようとしたところでワルシードラモンは長い体を思いっきり持ち上げてその言葉を遮った。まぁ正確には衝撃で口の中で勝手に純玲が転んだのだが。

 

クルエルが口の中から鬣の中へと純玲の襟を加えて移動する。

 

「でもまぁ道の一つや二つ、いや一つだけだけどぐらいは作ってやっからよ。」

 

ワルシードラモンが体を捻ると夕暮れの曇り空を映した暗くて黒い海に乳白色の渦が巻かれる。純玲はそれを見てコーヒーに入れたミルクみたいだなと思った。

 

ミルクと間違われた白い渦の正体は氷。正確には凍りつく寸前の水である。水は静かに冷やしていくと零度より低くなっても液状のままであるという現象がある。

 

しかしそれは少しの刺激が入ると簡単に凍りつく。白いのはその水の中で刺激が加わってしまってできた氷だ。

 

渦は次第に大きくなり、白い範囲は増えていく。

 

「メイルシュトロ-ム!」

 

ワルシードラモンが咆哮すると渦が横にぱっと広がり、それが高く持ち上がり津波となる。

 

「よし、じゃあ行って来いや。」

 

――フワッ

 

ワルシードラモンに純玲とクルエルの体が投げ出される。

 

「ワルシードラモン!?」

 

――とぷん

 

純玲が何か言おうとするがその前にワルシードラモンは海の中へと潜っていく。

 

「スミレ!」

 

クルエルが襟を加えてさらに上に投げる。

 

「げほっ、ク、クルエル?」

 

せき込みながら困惑する純玲をクルエルが体を分解して追いかける。

 

そしてそのすぐ下を津波が過ぎる。

 

過ぎた後には氷が敷かれたかのように広がっている。

 

――パリンッ

 

純玲を背に乗せたクルエルが氷に乗るとそれなりに大きな罅が入る。

 

「走っていくのです。スミレはちゃんとクルエルの首に掴まるのです。」

 

いまだに軽くピンと来ていない純玲を背中に乗せてクルエルが津波の後ろを歩く。

 

まぁ津波とはいっても水量はワルシードラモンの生み出した分だけで氷になった分は確実に減っていくのでどんどん波は低くなる。

 

二人の前方の氷の中に何体か待ち伏せていただろうデジモン達がいるが目なりはみ出ている部分が動いているので死んではいないようだ。

 

「クルエルっ・・・」

 

「足元が崩れる前に行かなきゃ駄目なのです。津波はクルエルよりも速いのですしこのままだときっと陸まで足場にできる氷は続かないのです。」

 

クルエルは純玲が助けようと言い出すのをだいたい理解していた。

 

実際助ける必要なんて欠片も無い。氷は不純物が混じっている方が溶けやすいし脆くなる。ましてや常に流水に触れているとなれば少し罅が入るだけで割れて外れる。

 

なるべくデジモンの入った氷を避けてクルエルが走る。徐々に入る罅も大きくなっていくがクルエルはスピードを緩めずに、むしろスピードを上げながら走る。

 

――ビュッ

 

二人の後ろから攻撃が飛んでくる。さっきまで氷に閉じ込められていたデジモン達によるものだろう。

 

「メイルシュトローム!」

 

後ろでもう一度白い津波が持ち上がる。

 

純玲が声に振り返るとワルシードラモンの津波が呑みこみ切れなかったデジモン達が標的を二人からワルシードラモンへと変えて攻撃を放っている。

 

「クルエルッ!」

 

「クルエルは水の上を走るなんてできないのですし、ただワルシードラモンの邪魔になるだけなのです。」

 

クルエルの言っているのは正論で、しかし感情的にはとても受け入れづらい。

 

ついさっきオーガモンにしたことと何が違うのか。ここで逃げるのは自分達が殺すのと何が違うのか。そう純玲は考えてしまう。実際は明確に違う。力が及ばないのに戦えというのはあまりに酷で異常だ。

 

「・・・クルエル。もし、私がガルダモンとかを相手にしないほど強かったらワルシードラモンを助けに行くことに賛成した?」

 

純玲はそれを一応は理解した。それを実際に実行できるかはまた別だが。

 

「賛成したのです。スミレじゃなくてクルエルに力があったのなら。」

 

クルエルは純玲の方を少しも見ることなく答え、そしてその後純玲がいくら話しかけても喋らなかった。

 

 

 

 

 

「・・・っはぁ、ってえなぁこの野郎ども。」

 

悪態をつくワルシードラモンの体表には氷の破片や刃物が刺さり、兜は今にも崩れ落ちそうなぐらい罅が入っている。

 

しかしワルシードラモンは引くに引けなかった。

 

ワルシードラモンは約束を破るのが嫌いだったからだ。

 

ワルシードラモンは悔しかったからだ。

 

ワルシードラモンとガルダモンの間の実力差は微々たるもの。普通に戦えば少し分が悪い。しかし海で戦えば間違いなく勝てる。その程度の差しかなかったのだ。

 

その程度の差のせいで友人を失った。その程度も差があったからあの軍勢を正面突破できず、メイルシュトロームを放つことになった。その程度も差があってしまったから自分の氷に阻まれて二人を追いかけられなかった。

 

ワルシードラモンは本当はずっと付いて行くつもりでいた。陸地でも普通には行動できる。

 

しかしそれをするだけの実力が無かった。そうしたら追手にはすぐにばれ、陸では全部撃退することはできない。

 

傷つきながらも敵をひきつけられているのは海の中で一人だからだ。

 

しかしいくらオーガモンとの約束があると言ってもあくまで初対面。とても死ぬ気にはなれない。

 

だから二人が逃げ延びたのなら逃げるつもりでいた。

 

しかしワルシードラモンにもよくわからないが少なくとも陸地に二人がついたのは見届けたというのに何故か逃げる気になれなかった。

 

「・・・シャドーウィングッ!!」

 

ワルシードラモンは海の中に沈んで逃げる。

 

「あぁ、なんで逃げる気になれなかったのか・・・よくわかった。」

 

オーガモンの仇を取りたかったのだ。絶対ガルダモンは追ってくる。それが感覚的によくわかったのだ。

 

「ダークストロームッ!!」

 

ワルシードラモンの周囲の海が紫色になり外巻きの渦を発生させる。

 

周りの氷は外へと押し出され、近くにいたデジモン達も空にいたガルダモン以外は流されていく。

 

本来は内巻きに流れを作る技だが一対一で戦いたかったがために慣れない逆回転で発動させたのだ。

 

「・・・そんなに一対一で戦いたいか?」

 

ガルダモンが両腕を組み見下すように聞く。

 

「あぁ。オーガモンの仇はもちろん。お前さんがあの二人を追おうとしてるのなら余計な。」

 

「なら受けて立とう。」

 

ガルダモンが髪の中から一体のデジモンを取り出して陸の方にふわりと投げる。

 

燃え上がっている鬣、メタルプレートの付いた体。徹底的にウィルス種を憎むデジモン。ストライクドラモン。

 

「彼がいたら一対一にはならんからな。先に彼には追って行ってもらうことにするよ。」

 

ガルダモンがファイティングポーズをとる。

 

「・・・っお前さんはやっぱり好きになれねぇ。あの二人は何もしてねぇだろうがよ。」

 

ワルシードラモンも額の刃をまっすぐガルダモンへと向ける。

 

この二人の戦いの場合お互いの技は知り尽くしており、さらに実力は拮抗しているので大技はお互いに当たらない。

 

自然と直接的な暴力による戦いになる。

 

「本当に何もしていないと言い切れるのか?まだ会って一日も経っていないのに?」

 

「俺達は《悪いデジモン》だから利益が大好きで、利益を得るために嘘をつくなんてのはその場だけで先のためにならんから大嫌いなんだ。」

 

「全て利益でしか判断できないのか・・・悲しいな。」

 

「綺麗言を言っておきながらあの二人を疑うことしかできないお前さんの方がよっぽど悲しいわ。」

 

ワルシードラモンの体は依然傷だらけでいくら有利なフィールドでも勝てるかどうかは微妙なところだ。

 

「さぁてと、ストライクドラモンは通しちまったが・・・ガルダモン。先に行きたいなら俺を倒してからにしやがれっ!」

 

ワルシードラモンはそんなそぶりすら見せず、強がりながら咆哮した。




ワルシードラモンは私的にかなり好きなデザインです。シードラモン系かっこいいですよね、本当に。でも空気竜さんも同じぐらいかっこいいと思ってます。なぜ系列がいないのか・・・メガエアドラモンとかワルエアドラモンいきましょうよ。メタルエアドラモンでもいいですよ?

以上、後書きっぽくない後書きでした。
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