スミレには嘔吐等を引き起こす毒がある。   作:へりこにあん

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孤独感

純玲とクルエルは一応は無事に逃げ切った。

 

しかしそれはそう簡単では無く、陸に上がってからも結局戦い、傷つけてやっとこさ逃げ延びたのだ。

 

その傷つけたデジモン達はきっとそのほとんどが善良で勇敢な何かを守ろうとしているデジモン達だったとみて間違いない。

 

せめてレオモンのように理不尽に罵ってくれればいいのにと純玲は思った。

 

そうならば自分達を正当化することができるのに、それをさせてもらえない。彼らはただ純粋に《いいデジモン》なのだ。

 

そんな中では自分達は悪いことなんてしていない。自分達は被害者だという意識すらも歪んでしまいそうになる。

 

「ねぇクルエル。私達この世界にきてまだ二日しかたってないよね。」

 

純玲がもうめっきり暗くなってしまった空を見上げて言う。普段なら綺麗な星が見えるだろうけれど今は厚い雲で覆われており星どころか月の明かりすらも見ることは叶わない。

 

来たその日は起きてすぐ、顔を洗う間もなくレオモンに襲われた。

 

そして今日、オーガモンに出会い、ストライクドラモンに襲われ、ワルシードラモンに出会い、ガルダモンに襲われ、オーガモンと別れ、大量のデジモン達に襲われ、ワルシードラモンと別れ、今何とか逃げ延び息を潜めている。

 

「・・・そうなのですね。」

 

クルエルは体を休められるように、そしていつでも走り出したりできるように伏せている。

 

「私はただクルミともっと一緒にいたかったって願っただけなのに・・・」

 

死に別れた友人ともっといたかった。そう願った結果二日の間に襲い掛かってきた相手が一人死に、なぜか親切にしてくれた相手がおそらく二人死に、自分も命を狙われた。まるで世界が自分を皮肉っているようだと純玲は思った。

 

純玲は本当にただの中学生。大人なら世の中は理不尽なものなのだからとあきらめもつくかもしれないがとてもあきらめきれず、現状はとても現実感に欠けていた。

 

それにもし純玲が現実のものと真正面から受け止めたところでそれはそれで別のことに悩むのは目に見えている。

 

それは例えば純玲がもともとこの世界の存在では無いことであったり、帰る方法が無いことだったり、親友の死にすべて失ったつもりでいても冷静になれば結構多くの物が手元にあることだったりする。

 

「・・・クルエルはそもそも記憶が無いのです。」

 

クルエルもクルエルで何かが違うと感じていた。自分は本来ここにいるべきではないのだという気がしている。

 

しかし一方でならば自分がどこにいるべきなのかということはわからない。いや、純玲の隣がその場所だとクルエルは確信している。しかし純玲といる場所がここではないとも思っているのだ。

 

だからどこにいるべきがかわからない。

 

「私達・・・これからどうすればいいの?」

 

純玲がどう嘆いたところで状況が変わることは無い。

 

純玲もわかっている。嘆いたのは相談の意味もあったけど同時に儀式でもあった。自分の状況を理解し、整理し、少しでも冷静になるための儀式。

 

「クルエルはスミレがやりたいことを一緒にやるだけなのです。」

 

クルエルはその意図を理解していない。物事をそのままにしか受け取れないと言い換えてもいいかもしれない。

 

だからずれたことを言ってしまっている。今の純玲は長期的にどうしたらいいのかと聞いている。案を出し合いたくて相談したいのだ。

 

クルエルは純玲の、純玲と、純玲が、といった考えが根底にあってしまうから自分の意見を出そうとしない。

 

相談は異なる意見であろうが同意見であろうがお互いが意見を出し合って初めて成立する物。すなわちこの二人では成り立つ訳が無いのだ。

 

「・・・とりあえず死にたくは無い。でもこのまま生きていくのも辛い。自分が何をしたいのかなんてこの状況でまともに考えられない。」

 

純玲はやはりただの中学生で、クルエルに依存されているというのはただただ重荷でしかない。少し冷静になってしまったせいでその重荷に気づいてしまった。

 

すると冷静になったはずがそれに引っ張られて他のことを考える余裕を無くさせる。

 

自分が不用意な発言をすればクルエルも死ぬ。きっと身代わりになられてしまう。また死なれてしまう。

 

「じゃあクルエルはスミレが死なないように頑張るのです。」

 

《スミレが死なないように》この言葉は純玲の考えを確信させるのに充分だった。

 

じゃあクルエルは死んでもいいのか?というふうに考えた時にクルエルの今までの行動は思い当る点が多すぎたからだ。

 

レオモンの獣王拳を受け止めた時、熱されたメタルプレートにタックルした時。そのどちらも自分を守るための行動だった。

 

クルエルとしてはスミレだけじゃ生き残れるか不安だしスミレを独りにさせないように強くなったり、知識を身に着けたり・・・そういうことを頑張る。そういうつもりで言った言葉で。

 

純玲の身代わりになるというのは最後の最後の手段。レオモンの攻撃を受けたのだって所詮殴打だし耐えられると思ったから。ストライクドラモンにタックルしたのもそんなに長い時間触れるわけじゃないし体は長い毛で覆われている。ひどい火傷を負う理由が無い。

 

二人の台詞も思考も食い違っていた。

 

純玲は二日でこの有様だからこの状況は時が経つにつれどんどん酷くなっていくと悲観的に考えている。

 

クルエルは自分達は何もしないしわざわざ姿を現すつもりも無いのでいずれ追手は少なくなっていくと考えている。

 

純玲は妙な親近感を覚えてはいたがそれは親友に似ているためで、今隣にいるのは自分もクルエルも独りになりたくないからだと思っている。

 

クルエルは純玲の隣にいるのは理由など探す必要もないほどに当然のことだと思っている。

 

純玲はオーガモン、ワルシードラモンに関してとても強く責任を感じている。もしも自分が戦えたら、もしも自分に逃げられるだけの力があれば、もしも自分がこの世界に来なければ。そう思っている。

 

クルエルは自己責任が多分に含まれていると思っている。全く引け目を感じていないというわけではないがオーガモン達はあの二体の主義とかまで知っていたのだから何度か戦い、そして逃げ延びたことがある筈。オーガモンは死ぬつもりだったようだから死んでいると思っているがワルシードラモンは生きててもおかしくないと思っている。

 

「・・・もう、寝ようか。」

 

「クルエルは起きて番をしていることにするのです。」

 

純玲はそれにさっきの会話でうっすらと気づいてしまった。クルエルは気づいていない。

 

気づいたから、クルエルをほんの少し理解したから、純玲は孤独を感じた。

 

自分と同じ世界に生きる存在じゃないと思ってしまったのだ。

 

純玲は眠れる自信は無かったが瞼を閉じた。

 

・・・寂しい、悲しい、辛い、苦しい。

 

純玲の心に浮かぶものは冷たくて、

 

クルミはハンバーガーショップに行くとだいたいシェイクだけ頼んでたなー。基本的に甘党だったのに全然太ってこなかったのが今も気になるんだよね。

 

無理に親友のことを思い出して楽しい気分に浸ろうとするが、

 

・・・でももういないんだよね。

 

逆効果で余計寂しくなり悲しくなり辛くなり苦しくなった。

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