「・・・」
純玲は黒曜石のようなガラス質の鉱石と木で作ったナイフとを腰に差し、頭に鍋を被っている。
そんな珍妙な格好で純玲は中腰であたりを注意深く見渡した。
ディノビーモンやアルケニモン・・・クルエルさえもその隣にはいない。
その内純玲の視線は茂みに止まった。確信を得た純玲はゆっくりと体の正面を茂みに向け両手を開いて待ち構えるような姿勢を取った。
いや、実際待ち構えていたのだ。そんなことも知らず茂みからお目当ての生物が出てくる。
その紐状の体の生物はそこにいる純玲が自信を狙っている狩人だなんて知らなかった。
「ふっ!!」
純玲は素早く地面を無様に這う生物の尻尾を掴みその勢いのまま振りその胴体部を木に叩きつけた。
叩きつけられたそれは筋肉をフル活用しその牙を持って純玲に噛みつこうとする。
「むんっ!!」
しかし純玲との間の体格差、そして位置関係は大きかった。純玲は今度は位置を修正し頭部を正確に木に叩きつけ気絶させた。
「さてと・・・蛇も最初は血抜きだったよね。」
純玲は念のために頭にナイフを一回、二回刺し首の部分を切断しない程度に掻き切った。
次に尻尾の先を木の枝に結び頭を下にして枝から吊る。
後は適当に時間を潰せば血抜きが終わる。純玲はとりあえずなるべく綺麗な葉っぱでナイフについた血を拭い、まだ血抜きが終わっていないのを確認すると近場の食べられる木の実を枝ごと数種類回収し手ごろな太さの蔓で枝部分を括り纏めた。
しかしそれでも血抜きは終わっていない。血抜き中は匂いが強いので野犬やデジモンが寄ってくることがあるので離れられずあまり食べられる木の実を見つけられなかったのだ。サイズも野苺のように小さい。
今純玲が何をしているのかそろそろ説明して置く。純玲は九日前アルケニモン達にサバイバルに関してや逃げ切る方法を教えてもらえることになった。まぁ実際に教えてくれたのはドクグモンやコドクグモン、フライモンだったのだが細かいことは気にしてはいけない。
とりあえず一週間講義と一つ一つの行動について習い、昨日からとりあえずコドクグモンについてもらってクルエルもいない状況で過ごす訓練をしているのだ。
少し間が空くが川辺に来た純玲は風の通り道を考えながら石を使ってコの字型のかまどを作り枯枝を集めて火をつけた。
そこに川の水を入れた鍋をくべる。アルケニモンやディノビーモンはそのまま飲めという感じだったのだがドクグモンやフライモンにデジモンなら少しお腹痛いぐらいで済むはずのあの毒で吐くぐらいにひ弱なのだから生水はやめておけと言われたのだ。
沸騰するまでの間に川の中で蛇の首につけた傷から皮を剥ぎ、首を切り取って肉にする
沸騰したところでナイフ先を煮沸消毒した後鍋を火からあげて冷やす。代わりに蛇を適当な枝に刺して焼く。
焼いている間にさっき採った木の実をナイフの腹で潰して簡単に甘酸っぱいソースを作り、味を見る。
「ん~・・・このままでちょうどいいぐらいだから煮詰めたいところだけど・・・まぁ私は薄味好きだしいいか。」
そう言いながら純玲はクルミならもっと濃い味付けがいいとか言いそうだなとか思って少し笑った。
しかしその一瞬後にはクルミがいないという現実を思い出して暗くなった。
手が止まった純玲を見て何かを察したコドクグモンはこっそり肉にソースを塗っておいた。そして同じことを察した物陰から見ている審査官役のフライモンはちょうど空の雲に思いを馳せることにした。
「牛肉とかよりも私、蛇の方が好きかも。」
肉はけっこうあっさりしていておいしく、ソースも肉の味を邪魔しない程度に甘酸っぱくて美味しくてデジタルワールドだと食べられないけどご飯が欲しくなった。
「ギュウニクってなんですか?」
「喋れたの!?」
純玲はドクグモンやフライモンが喋るのは聞いていたがコドクグモンが喋るのは聞いたことが無かった。
「あ、はい。で、ギュウニクとは?」
「牛って名前の生き物のお肉の総称。デジタルワールドは牛いないの?」
「さぁ?私はこの森から出たことないもので外ならいるかもしれません。」
「そうなんだ・・・」
その時考えたのはパソコンや携帯さえあればだいたいなんでもすぐ調べられてしまう自分達の世界だった。
「・・・ねぇ私とクルエルはもうすぐ行くことになるんだけどさ・・・」
純玲は自分なんかよりコドクグモンのほうがよっぽど世界を回ってみたいんじゃないかと思った。自分は小さい時にふと思っただけ、これから回ることになるだろうけどそれは逃避行、何かを楽しむ余裕なんてない。
「ついて来いと言うのなら付いて行きませんよ。」
コドクグモンは純玲が言わんとしていることを先読みして答えた。
「なんで?」
純玲がそう聞いたのはこのコドクグモンが他のコドクグモンに比べて知識欲が強いと思っていたから。
そして実際そうでこのコドクグモンは純玲達に飲み物を持ってきた個体で会釈してきた個体で講義とかの際にも協力してくれた個体だった。
「僕はこの森に何十体もいるコドクグモンの一体で代わりなんていくらでもいます。」
純玲のなんでには本人も意識していなかったがそういう意味もこもっていた。
「でも僕はこの森の住人なんです。アルケニモン様がクイーン、ディノビーモン様がキング、僕はジャックにもエースにもなれないただの数札ですけど同じ数字のコドクグモンも同じマークのコドクグモンもいますけどもしかしたら僕じゃないと成立しない役もあるんじゃないかと思うんです。」
コドクグモンに表情は無いが純玲には笑っているように見えた。
「ふーん。まぁそんなこと言うつもりなかったんだけどね。」
純玲は嘘を吐いた。
「え?」
「何かお土産とかってくれないの?って聞こうとしたの。」
「ナイフと鍋だけでいいじゃないですか。」
「ポーチの一つぐらいくれると嬉しいんだけどなぁ。ところでそろそろクルエルが迎えに来る時間じゃなかったっけ?」
「そうですね。」
コドクグモンが同意する。しかし正確な時計の無い森では一時間二時間は遅れに入らない。
「ところで君案外饒舌だね。」
「人見知りが激しいタイプなんです。」
「八日間も人見知りって続くの?」
「そうなんじゃないでしょうか。」
そんなどうでもいい会話を数分していると審査官役のフライモンに連れられてディノビーモンとクルエルがやってきた。
「スミレ。大丈夫だったのですか?」
「大丈夫。コドクグモンもいるし。」
純玲がクルエルの首の毛を触りながら言う。クルエルの毛はついつい触りたくなってしまうようなふんわり感を有している。
この九日の内にふと純玲は親友の絹のようなとまでは行かないまでもさらさらとした指通りのいい髪を思い出して暗くなったりしたのだが純玲は九日間で少しづつ立ち直るまでのペースが早くなっている。
「む~。それは大丈夫な理由になるのです?」
「それは酷いですよ。」
コドクグモンが反論する。
「ごめんなさいなのです・・・っ喋ったのです!?」
「お前・・・喋れたのか?」
無表情なディノビーモンに初めて感情の色が見えた気がする。
「というかディノビーモンまで知らなかったの?」
「あぁ・・・フライモン達も喋らないしな。」
「彼らも喋れますよ。ね?」
コドクグモンが審査官役のフライモンに呼びかける。
「そうそう。俺等キシャァ以外も喋れるよ。ディノビーモン様。」
あっさりと喋りだすフライモン。
「なんだと・・・じゃあ今まで羽音とか動きでコミニケーション取ってたのは?」
「本当に知らなかったんすか・・・?普段から敵にわからない連絡方法を使っておくことで有事の際に戸惑わずに済むようにする気じゃなかったんすか?」
「いや、全体で共通する連絡方法があった方がいいかと・・・」
「ディノビーモン様・・・無いわ。それは無いわ。」
ディノビーモンとフライモンが途端に人間味を帯びてきた。しかし人間味の帯び方がなんだか少し悲しい。
「アルケニモン様まで把握して無かったとかないですよね・・・」
「大丈夫だと思うよ、うん。多分ね。」
「クルエルも大丈夫だと思うのです。きっと。」
「・・・そうですよね。ちゃんとわかってますよね。もしかしたら。」
確信を持てないのが怖いところである。
案の定知らなくて脚の配置と動きでコミュニケーション取ってたのは!?とか言われたりするのはその次の日の話。