酩酊   作:晴宮零太


原作:牙狼
タグ:R-15 残酷な描写
何もかも忘れてひたすら酒を飲みたい時もある しかしだからといって越えてはいけない一線がある

 次回 酩酊 

酒は飲んでも飲まれるな

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前半『大山さん』が活躍しておりますが、彼はオリ主ではありません。


酩酊

「大山さん ここ訂正願います」

 

つっけんどんに若いOLが『大山さん』に書類を突き返した。

 

「あっ ごめんなさい」

 

『大山さん』はオドオドと謝る。

 

あるオフィスでの日常。

 

『大山さん』はよく注意される。

 

なんか『大山さん』いっつも同じ所記入漏れあるんだけど

 

ちょっとボケてきてるんじゃない?

 

みんな『大山さん』に聞こえるように悪口を言う。

 

『大山さん』はそれには一切反応しない。

 

去年まで『大山さん』は課長職であった。しかし、会社の人事規程で年齢により役職定年というものが設けられ、本年よりその課長職を解かれ、一介の平職員となった。

 

『大山さん』には出世欲がなかった。口下手で上司の覚えもとりたてていいわけではなく、鳴かず飛ばずな毎日ではあった。しかしながら、課長という地位には誇りを持ち、ひたすら真面目にこの歳まで勤めあげたつもりだった。

 

それなのに、単なる年齢という括(くく)りのみで、地位を剥奪されてしまった。

 

俺が今までやってきたことはなんだったんだろう

 

『大山さん』の中で何かがぷつりと切れた。

 

それからは、仕事に対しての情熱を失い、日々こなすという作業を繰り返すだけとなった。

 

かつて、部下であった明らかに自分より能力が劣る若者達の下で働くということ。

もう会社には何も期待しなかった。

 

 

 

「ただいま」

 

玄関の鍵を開け、暗いリビングに向かって呟く。

 

妻はまた外出だろう。

 

なんでもご近所の奥さん方と『専業主婦友の会』なるものを発足し、誰かの家に集い、またはどこかの店の一角を占拠し、みな喋り倒しているらしい。

 

一人娘は彼氏の家に入り浸りで自宅には寄り付かない。

 

たまにメールで生存確認を行うだけである。

 

『大山さん』は夜の繁華街へと出掛けた。

 

なじみの店で夕食を兼ねた晩酌をするのが日課である。

 

小さなスナック。ここのママとは20年来の付き合いである。これでよく経営が成り立っているな、と思うくらいいつも客がいない。有力な後ろ楯がいるのであろうか。ちなみに今日も客は『大山さん』ただ一人だ。

 

「ママ老けたね」

 

「いやだぁ『大山』ちゃん それはお互い様でしょ」

 

ママは若かりし頃かなりな美人であった。今は化粧で皺を誤魔化すようになってきてしまったが、それでもそれなりに朽ちかけの女性ならではの色気がある。

 

この日『大山さん』はいつもより多めに酒を飲んでしまった。

 

「飲み過ぎよ」

 

ママからやんわりと諭されたが、飲んでも飲んでも飲み足りないような気がした。

 

ブラウスから覗くママの白い肌がやけに艶(なまめ)かしく見える。思わず胸元に手を入れる。

 

「きゃ」

 

ママが小さく悲鳴を上げ、キッと『大山さん』を見た。

 

「ここはそうゆう店じゃないわ そうゆうことがしたいなら他所(よそ)へどうぞ」

 

ママの拒絶が心にいる凶暴な何かを呼び覚ました。

 

カウンターを乗り越えママにのし掛かりブラウスを引き裂いた。

 

「警察を呼ぶわよ」

 

もう後戻りは出来ない。このあとどうなってもどうでも良かった。今はただ目の前の女をめちゃくちゃに犯したかった。

 

ママは必死に抵抗した。

 

「キャー」

 

かなり大きな声で叫び始めたので手で口を塞ぐ。ママの華奢な両手首をブラウスで拘束し、スカートをたくしあげストッキングと下着を乱暴に剥ぎ取る。ブラジャーを無理矢理押し上げ胸を露にし、そう大きくはないやや張りを失いつつある白い乳房にむしゃぶりつく。乳首をきつく吸い上げ、それから股間に手を伸ばした。

 

と、ここで先程までばたついていたママの手足がだらんとしていることをに気付いた。

 

はっとして身体を離す。ママは顔面蒼白で目を見開いていた。

 

脈がない。

 

『大山さん』の手はママの口だけではなく、鼻まで覆ってしまっていたようだ。

 

人を殺してしまった

 

昨日までの凡庸な人生が一変する出来事。

 

呆然と座り込む『大山さん』に、倒れたウイスキーの瓶から這い出た黒い帯がそっと忍び寄る。

 

「うわぁ」

 

黒い帯は『大山さん』の顔面にまとわりつき凄まじい勢いで目や口から体内に侵入し始めた。

 

 

 

「ゼロ 番犬所から指令よ」

 

「へいへい」

 

寝起きの零はやや気だるげであった。寝ぼけ眼(まなこ)で指令書をライターで炙る。

 

宙に魔導文字が浮かび上がる。

 

「酒をゲートとして現れしホラー ドランカードを封印せよ」

 

「酒かぁ」

 

零はその魔導文字を見ながら自分の神経が研ぎ澄まされていく感覚を味わっていた。

 

 

 

「ゼロ 近いわ」

 

夜の繁華街。ホラー狩りに出た零はシルヴァの言葉を受け、慎重に周囲を伺った。

 

ビルとビルの間の狭い路地。その薄暗い中に蠢く影を見た。

 

「ホラーの気配よ」

 

遅かったか

 

いかにも今『食事』を済ませたような気配がある。すくっと立ち上がったその姿は冴えない中年男性そのものであった。

 

零は双剣を構えた。

 

「間違いないわ あれがホラーよ」

 

シルヴァの言葉が合図のように中年男性が零に襲いかかってきた。

 

ゆらゆらと足元がおぼつかないかのようだが、予想外に鋭い蹴りと突きを繰り出す。

 

そのトリッキーな動きにやや戸惑う零。

 

ようやく対応出来るようになり、形勢が零に傾いた時、中年男性が口から液体を吐き出した。

 

「くさっ」

 

その酒臭い液体を浴びたとたん、周りの景色がぐにゃっと歪んだ。

 

 

 

零は、人気(ひとけ)のない空き地の屋台に座っていた。掲げる赤提灯には『おでん』の文字。

 

「まぁ飲んで飲んで」

 

屋台の店主は先程闘っていた中年男性。零に日本酒をすすめてくる。

 

「魔戒騎士ってゆうのも大変でしょう?今日はお勘定はいらないんでどんどん飲んで」

 

零は普段飲まない日本酒をチビリチビリと飲んでみた。

 

「まぁね 番犬所からはしょっちゅう呼び出されるわ 昼はゲートの封印 夜はホラー狩り」

 

やや顔を赤めた零が店主に愚痴る。

 

「完全労働基準法違反だね」

 

コップをたんっと置く。

 

「私も会社に勤めて35年 身を粉にして働いて来たつもりですが この年になると厄介者扱いですよ」

 

店主も同調し身の上話を始めた。

 

「家に帰れば女房は友達と遊び歩いているし 娘は私なんかに関心ないし」

 

店主がふぅっと溜め息をつく。

 

「私の人生ってなんだったんですかねぇ」

 

哀愁漂う表情でおでんを皿に盛る。

 

「ですから」

 

店主の目が白く鈍い光を放つ。

 

「そんな家族喰らってしまおうと思いましてね」

 

またしても一瞬で場面転換し先程の路地裏に引き戻された。

 

零は双剣で中年男性の攻撃に対応する。

 

「人間の一生なんてつまらないもんだよな」

 

攻撃を巧みにかわしながら中年男性に向かって叫ぶ。

 

「あんたの気持ちわかるよ」

 

中年男性が奇声を上げ、攻撃の手数を増やしてくる。

 

「でもみんな必死なんだ それぞれの事情を抱えて 生きている限り少しでも幸せに近づこうと努力しているんだ」

 

突如中年男性が溶けてホラードランカードが出現した。ヌメヌメとしたその肌感がおぞましい。

 

「俺は人間のそんなとこ捨てたもんじゃないと思う」

 

零は頭上に双剣を掲げ、円を描いた。

 

蒼く銀色の鎧が召喚される。

 

ドランカードは液体を吐きながら不測の動きで攻撃してくる。

 

零はドランカードの真上にジャンプし、二本の剣の柄の部分を繋ぎ合わせた。

 

月と銀の狼が一つに重なる。

 

脳天から垂直に銀河銀狼剣を突き刺した。

 

おおおぉぉ

 

ドランカードが断末魔を上げながら溶け落ちていく。

 

「だから守りし者となる」

 

暗い路地裏に降り立った銀狼は、闇を神々しい銀の光で照らしていた。

 

 

 

「う~頭痛い」

 

「ゼロ あなたそんなにお酒弱かったかしら」

 

シルヴァが心配そうな声で話しかける。

 

「甘いカクテルとかならいけるんだけどね ホラー酒は悪酔いするね おえっぷ」

 

はぁ、と大きく酒臭い息を吐き、

 

「酒なんてこの世からなくなっちまえばいいのに」

 

やや八つ当たり気味に机に突っ伏せる。

 

「人間はお酒の力で『憂(う)さ』を晴らしたい時もあるのよ」

 

しょうがないわねぇとばかりシルヴァが零を慰める。

 

零が頭をもたげ、なぜかエアカメラ目線で言った。

 

「飲み過ぎには注意しましょう」

 


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