これは僕が21ぐらいの時(現在は31)に書いたものです。誰か一人でも、気に入ってくれる方が居たら嬉しいです。
「ねぇ、咲。あんた、彼氏はできたの?」
親友・雛城 御砂(ひなしろ みずな)の何気無い一言に、はしたなくも口に入れていたジュースを吹き出してしまったのは、文化祭まで三週間を切った秋、食堂で昼食をとっていた時のことだった。
「けほっけほっ‥‥。ちょ、ちょっと御砂!?いきなり何言ってるの!?」
頬杖をつき、ストローをくわえながら呆れた表情で私を見る御砂は言う。
「あんたさ、高校生活を寂しく過ごそうっていうの?大体、もうすぐ文化祭なのよ?彼氏作って、一緒に文化祭を楽しみたいとか思わないわけ?」
思わない、‥‥‥そんな事を言うのは嘘になるから御砂の言う事を私は否定しない。正直、私だって彼氏は欲しいなとか思わなくもない。と言うか、好きな人なら居る‥‥‥。
緋椿 柚杜(ひつばき ゆずと)先輩。
遠くから見ているだけで充分だった‥‥。ううん‥‥‥、私にはあの人を、遠くから見ている事だけしか出来ない‥‥。廊下ですれ違っても声をかけるなんて大それた事、私にはとても無理‥‥‥。
じゃあ、このままで良いの?あの人に想いを伝えないまま、あの人が卒業しちゃっても‥‥。
良いわけない‥‥!‥‥でも、私が想いを伝えた所で無駄に決まってる。私の想いがあの人に届く事は絶対に無い‥‥。だってあの人には‥‥‥、彼女が居るんだから‥‥‥。
「はぁ~‥‥‥」
飲み直しているジュースに、くわえているストローの先から私の溜め息が泡となって出ている。はぁ~‥‥‥緋椿先輩‥‥‥。
「咲、緋椿先輩のどこに惚れたん?」
音を立ててストローの先から泡が一気に吹き出し、口の中のジュースを再び吹き出してしまった。またもや親友の何気無い一言は、私に幾度の衝撃を与えてくれるのだろうか。今の一言はかなり大きかった。
「み、御砂‥‥?!」
なんで知ってるの?!声に出さない私のこの一言を御砂は、最初から答えが解りきっている問題を解くような口調でかわした。
「見てりゃ分かりやす過ぎんのよ。一体、あんたと何年の付き合いだと思ってんの?‥‥‥あんたも馬鹿よね、緋椿先輩に本気で惚れるなんてさ」
確かに、私は御砂の言う通り馬鹿なのかもしれない‥‥。緋椿先輩に一目惚れをして、あの人に彼女が居ると知ったのは入学したての春、四月も残り六日で終わろうとしていた時‥‥。あれから私は、ずっと片想いをしている‥‥。終わったはずの恋を、私はまだ‥‥‥。
「‥‥‥咲に朗報を一つ。緋椿先輩、彼女の佳ノ崎先輩との仲、最近は良好じゃないらしいわよ。喧嘩しているらしく、噂じゃあ別れるのも時間の問題だとか」
御砂の話を聞いて、私はふと思ってしまった。
ー私にもチャンスがあるんじゃないのか‥‥?ー
(‥‥‥‥‥‥)
私、最低だ‥‥。一瞬だけでも、先輩の不幸を喜んでしまった‥‥‥。
それから文化祭までの三週間、緋椿先輩と佳ノ崎先輩の仲が気になる日々を過ごし、文化祭当日を迎えた。
私達、二年二組の出し物は喫茶店。衣装は女子全員メイド服。
お客の入りも良好で忙しくなり始めた頃、御砂が言った言葉に私は衝撃を受けた。
「咲、あんた、やっぱ邪魔だわ。教室から出てってくんない?」
御砂の言葉に、私は持っていたプラスチック製の食器を落としてしまった。御砂は左腕で私の首を挟み、私の耳に小声で囁いた。
(そんなに緋椿先輩が気になるんなら行ってきなさい)
(えっ‥‥‥?)
気付けば、女子全員、御砂から話を聞いたと言わんばかりに笑顔で私を見ている。『ほら、邪魔なんだからさっさと行く』、そう言って私に後押しをする御砂。御砂だけじゃない‥‥、皆からも後押しされてるような気持ちになる。
「皆‥‥。‥‥‥御砂、有難う!」
私は教室を飛び出した。
文化祭だけあって生徒の中にはコスプレをしてる人の姿が見える。それに救われ、メイド服のままで校内を走り回っても違和感は無かった。
「先輩‥‥‥!」
二階には居なかった。一階にも校舎の外にも体育館にも、三階にもやっぱり居なかった‥‥。
残す場所は一つ。
私は逸る気持ちを抑え、最後の場所へと出る扉の前に立ち、静かに開けた‥‥。
「あっ‥‥‥」
居た‥‥。先輩は独り、フェンス越しに遠くを見ている。
「‥‥あ、あの‥‥‥。‥‥‥緋椿先輩‥‥!」
私の声に驚き、先輩の肩は僅かに震えた。先輩は少し間を置き、私の方へと振り向く。その際、先輩が涙を拭ったのを私は見逃さなかった‥‥。
「君は‥‥‥?」
「二年二組、桜 咲(さくら さく)です‥‥。‥‥緋椿先輩、こんな所でどうしたんですか‥‥?」
私の質問に何も答えない先輩。
私達の間に沈黙が続く‥‥。
沈黙を破ったのは先輩だった。表情は笑ってる。
「‥‥‥いや~、さっき梨奈に振られちゃってね。『私達、もう終わりにしよ‥‥』だって。ん~、不思議だよね。独りになったっていうのに、何だか凄くスッキリしてるんだ。今の僕は絶好調って感じかな?」
先輩、笑ってる‥‥‥。でも‥‥、その笑顔もその言葉も‥‥‥本当の気持ちを隠しているだけなんですよね‥‥?
私には分かります。先輩、本当は寂しいんですよね‥‥?顔は笑ってても心は泣いてます‥‥。それだけ、佳ノ崎先輩の事を今でも‥‥‥。
「‥‥‥‥‥私じゃ、駄目ですか‥‥‥?」
‥‥‥言おう、私の想いを。届かぬ想いと分かってても、私は後悔したくない。
「先輩が独りで寂しいなら、私が先輩の側に居ます!ずっと先輩の側に居て、先輩の辛いことも悲しいことも苦しいことも全部、私が受け止めます!だって、私は貴方の事が‥‥‥!」
その瞬間、私を残し、世界の全てが、時間さえも止まったかのように思えた‥‥‥。
「緋椿‥‥‥先輩‥‥‥?」
「ごめん‥‥‥。しばらく、このままで居させて‥‥‥」
そう言って先輩は私を抱き締めてくれた。
嬉しかった‥‥。私の想いが先輩の心に届いたんだ‥‥。私の腕も、先輩を抱き締めようとする。
‥‥‥その時だった。
私は自分の中のある想いに気付き、自分の腕を止めた。
私は先輩が好き。それこそ、佳ノ崎先輩に負けないぐらい。だから先輩に抱き締められて嬉しい、はずなのに‥‥‥。
どうして‥‥?全然、嬉しくない‥‥‥。
考えるまでもなかった。ううん‥‥‥、考える意味すら無かった‥‥‥。答えは最初から決まっていたんだ‥‥‥。
(そっか‥‥‥)
私は先輩の肩を押し返し、俯いたままで答えを言葉にした。
「‥‥‥先輩。やっぱり駄目ですよ、私になんかに振り向いてちゃ‥‥‥。先輩、本当は今でも佳ノ崎先輩の事が大好きなんですよね‥‥?別れたくなんかないんですよね‥‥?‥‥‥だったら、先輩は私の前に居るべきではありません。あっ、この場合は私が先輩の前に居るべきじゃないんだっけ」
私は先輩の後ろに回り、先輩を後押ししてあげた。ちゃんと、笑顔で‥‥‥。
一歩一歩前へ進む先輩。止まる度に私を見ている。私は言った。
「大丈夫。先輩の、嘘の無い正直な想いを言えば、それは絶対に佳ノ崎先輩の心に届きます」
一歩を踏み出さない先輩に私は叫ぶ。
「先輩、ダッシュダッシュ!」
先輩の姿が私の前から消えていく。
(先輩、頑張ってください‥‥‥)
今日は実に文化祭日和。天気は快晴、時々、私にだけ雨‥‥‥。
緋椿先輩と佳ノ崎先輩のその後を、私は知らない‥‥‥。
☆☆☆
「──っ!さ──!──く!咲っ!」
文化祭が終わった最初の日曜日。いつの間にか私の部屋に来ていた御砂に起こされた時には、とっくに午前11時を過ぎていた。
「あぁ‥‥‥御砂ぁ‥‥‥」
「いくら日曜だからって、こんな時間まで寝てるんじゃないわよ。ったく‥‥‥、聞く勇気が無いっていうあんたの代わりに聞いてきてあげたわよ」
言い出しっぺの私が思うのも変だけど、どんな結果が来ようと正直な所‥‥‥、あまり聞きたくなかったりもする‥‥‥。
「緋椿先輩と佳ノ崎先輩、文化祭終わってから仲を戻したそうよ」
そっか‥‥‥。
「あっ、そうそう。緋椿先輩から咲への伝言を預かってるんだけど」
「先輩から‥‥‥?」
「うん。たった一言、『ありがとう』だってさ‥‥‥」
ありがとう、か‥‥‥。多分、これで良かったんだよね‥‥‥。緋椿先輩の『大好き』は佳ノ崎先輩。私が先輩の『大好き』になれなかったのは残念だけど、後悔はしていない。
これで漸く、私の恋は本当に終わった。
緋椿先輩、佳ノ崎先輩とずっと幸せで居てくださいね‥‥‥。
緋椿先輩、私は貴方の事が‥‥‥
大好きです‥‥‥。
いかがだったでしょう?書いた当時も恋愛経験は一切無かった自分がよく書けたなと、今でも感心しています。
メンタルは弱い方なので酷評は控えてくれると助かります。では、感想があれば待っています。
2015/6/26 誤字修正