音SAGA   作:姫崎しう

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二十三音目

「と、テナーが立ち直ったところで、ここからが本題っすよ」

 

 ユメが真面目な顔をするので、テナーが緊張した面持ちで「どういうこと?」と問いかける。

 

 しかし、ユメの視線はテナーではなく、セグエの方へと向いた。

 

「今話した通り、これは歌姫が関わって来るっす。

 

 下手しなくても、世界規模の問題になっているのは理解出来るっすよね。だから、勝手な行動されると困るんすよ」

 

「わたしにどうしろと言うんですか?」

 

「どうもしなくていいっすけど、事が収まるまでユメ達の目の届くところに居て貰うっす。

 

 言いましたよね、あとから聞かなければよかったは無しだと」

 

「……ええ、わたしもそのつもりでしたから」

 

 急に口調の変わったユメに緊張と怯えを見せながらもセグエが頷くのを見て、ユメは満足そうに頷いてから話し始めた。

 

「さて、じゃあ本題に入るっす。これも確認なんすけど、テナーはもしもソプラと敵対することになっても戦えるっすか?」

 

「ソプラと……?」

 

「まさか、散々人から仕打ちを受けてきたソプラが、また人々を守るために星を集めているとでも思っていたっすか?」

 

 おどけた様子のユメに、流石にテナーも首を振る。だから先ほど、止めなきゃという言葉が口から出たのだから。しかし、ソプラの矛先が自分に向くとはテナーは考えてもいなかった。

 

 俯きそれ以上、答えられずにいたテナーにユメが変わらぬ軽さで語りかける。

 

「現状ソプラと戦うことになっても出来る事は逃げる事くらいっすけどね。少なくとも、ユメやテナーじゃ手も足も出ないっす」

 

「ソプラさんってそんなに強いんですか?」

 

「星を一つ取り込んだルーエを倒したって話っすよね。だったら無理っす。しかも二つ目の星も手にしたんすから、絶望的と言っても過言じゃないっすね」

 

「ちょっと待ってください、そう言う話だとソプラさんを止めるにしたって、三つ目、四つ目と手に入れられるより前に何とかしないと手が付けられなくなるんじゃ……」

 

 焦りが浮かぶセグエをよそに、ユメは「そうっすね」と、諦めたような声を出す。

 

「それなら」と急かすセグエにユメは待ったをかけた。

 

「ユメの予想が正しければ、すでにソプラは千の兵を集めて来ても勝てないっよ。このままソプラが星の数を増やしても、千が万になるだけで手が付けられないのは一緒っす。化け物が超化け物になっても結果が早く出るか、少し遅くなるかくらいの違いしかないっす」

 

「それならユメはどうしようって考えているの?」

 

 セグエがショックを受けたような顔で何かを言いかけたが、先にテナーに言われてしまったので飲み込む。

 

 テナーにしては低く、責めるような声にもユメは顔色一つ変えない。

 

「力で駄目なら、話し合うしかないっすよ」

 

「人を恨んでいるであろう、ソプラさんが話し合いの場に立ってくれるでしょうか?」

 

「絶対とは言えないっすけど、結構勝率は高いと踏んでいるっすよ。何せテナーがこうやって生きているんすから」

 

「テナーが世界を救うって言ってましたね。それってどういう意味なんですか?」

 

「俺が? と言うか、ソプラが世界を?」

 

 セグエの急な言葉に驚くテナーを見て、ユメが呆れたような顔をする。

 

「この際だから順番に話していくっすよ、ユメの憶測も入るっすけど。現在のソプラの目的は失った星を探す事っす。

 

 音が無いと不便だから……とかじゃなくて、星が歌姫の力の源だからっすかね。ソプラが魔法を使ったのは一つ目の星を手に入れてからみたいっすし。

 

 五つすべての星を集めたら、世界を滅ぼすかもしれないっす。まあ、滅ぼさないまでも人に対して復讐くらいは考えるんじゃないっすかね」

 

「大体、世界を滅ぼすって、歌姫にそんなことできるの?」

 

「ユメは出来ると思うっすよ。今の段階でソプラより強い個人は存在しないっす。だとしたら、今のソプラがどこかで暴れただけで一地方くらいは簡単に道連れに出来るんじゃないっすかね。

 

 全部の星を集めた歌姫の力がどれくらいのものか、ユメには分からないっすけど、世界を滅ぼすほどの力があるだろうってのがユメの考えっす。

 

 逆に言うと、星をすべて集めるまでは大きな行動はしないと思うっすから、それまでがタイムリミットっす。むしろ、変に刺激した方が怖いっす。

 

 ユメ達がやるべきことは、タイムリミットが来るまでに、歌姫について知る事っすかね。

 

 何も事情を知らない人に説得されても白々しいだけっすから。なんでテナーかと言われたら、テナー以外ソプラが話をまともに聞いてくれそうな人思いつかないっすからね。

 

 ユメが話しても、冗談だって思われそうっすから。何か聞きたいことはあるっすか?」

 

 ユメが一気に話し終えると、テナーとセグエが息をつく。

 

 しかし、質問を待つようにニコニコ笑うユメを見て二人は必死に質問を探し始めた。

 

「歌姫の事を知るって言うけど、ユメには何か心当たりがあるの?」

 

「もちろんあるっすよ。って事で最後に一つだけ二人に訊くっす」

 

 ユメが意味深に押し黙るので、テナーはごくりと唾を飲み下した。

 

「犯罪者になる勇気はあるっすか?」

 

「……ユメはどうなの?」

 

「ユメは重罪人っすから。今さら、罪が一つ二つくっ付いたところでかわらないっすもん」

 

「それなら、俺だって中央から追われているから大丈夫」

 

 ユメとテナーの視線がセグエを向く。急に犯罪者になれるかと言われても、答えようが無かったセグエだったが、乗り掛かった舟だと「大丈夫です」と答えた。

 

 ユメは嬉しそうに頷き「罪が一つ増えなさそうで良かったっす」と軽口を叩くが、セグエは一気に背筋が寒くなった。

 

「犯罪って言っても、人を殺せとか盗みを働けとかじゃないんすけどね。後者はするかもしれないっすけど」

 

「盗みはするんだ……」

 

「テナーが小一時間で本一冊くらい丸暗記できるなら盗まなくていい可能性が増えるっすよ」

 

「じゃあ、仕方ない」

 

 茶番のようなユメとテナーの会話を聞きながらセグエは胸を撫で下ろしていた。

 

 先ほどから血なまぐさい話をしていたので、人を殺すなんてことをするのではないかと思っていたから。

 

「基本的にユメ達がするのは不法侵入っす。ぶっちゃけると、歌姫に関する資料の殆どは中央の城の中に厳重に保管されているらしいっすよ。

 

 見る事を許されているのは中央のトップ。つまり、王様だけっす」

 

「つまり、お城に侵入して資料を盗み見て抜け出すって事だね」

 

「最終的には城に潜入するっすけど、最初から最難関を言っても仕方ないっすからね。練習してから行った方が良いと思うっすよ?」

 

「練習ったって……」

 

「殆どって事は、別の場所にも資料はあるんですよね? ユメさんはその場所を知っていると」

 

 頭を抱え始めたテナーの隣でセグエが尋ね、ユメが頷く。

 

「ユメはどこまで知っているの?」

 

「ユメも知ら無い事ばかりっすよ。例えば、何で歌姫の力を持ちながら、ソプラは例の日まで歌姫として歌い続けていたのかとか、そもそも歌姫が何なのかとかはユメにもサッパリっす」

 

 ユメは嘘は言っていなさそうだけれど、まともに質問に答えていないなとテナーは奥歯を噛んだが諦めたように力を抜いた。

 

「ユメ達が最初に向かうのは封鎖された西の町っす。例の事件が起こった所っすね」

 

「史上最悪のモンスター事件が起こったと言う所ですか?」

 

「そうっすよ。話によれば事件以来町は封鎖され、今でも中央の兵が見張りをしているらしいっす。その目を掻い潜るのが今回のミッションっすよ」

 

 セグエの言葉に応えるユメが、なぜこんなことを知っているのかテナー自身、疑問に思ったが今は目的を手に入れた事に安心感を得て下手にかき乱すことが躊躇われた。

 

 結局テナーは「今日明日はこの町に泊まって、明後日の朝には出発っす」とユメが場を切り上げるまで何も言えないままだった。

 

 

 

「それじゃ、おじさんに部屋を借りてのんびりして来るっす」とユメがテナーの借りた部屋を後にしても、セグエは部屋から出ようとしなかった。

 

 真っ先に出ていきそうなものなのに、と不審そうにテナーが見ていると、セグエは一度ドアを開け何かを取り怒ったようにテナーの前に置いた。

 

「勿体ないから食べてください」

 

「ありがとう」

 

 何だか食べ物を見るのが久しぶりな気がして、急にお腹がすいてきたテナーはお礼を言って食べ始める。

 

 テナーを横目に見ながらセグエが呟きはじめた。

 

「これでも、結構心配していたんですよ」

 

「ごめん」

 

「でも、帰ってきてくれたから良いです。全員……ではなかったですが」

 

「うん」

 

 独白のようなセグエの言葉に、テナーは短く言葉を返す。

 

「なんでなんでしょうね。あんなに短い間だったのに、こんなに寂しいものなんですね」

 

「そうだね」

 

「テナーはよく耐えられますね」

 

「俺は……たぶん、耐えられてないよ。何かやる事が無いと頭が可笑しくなりそうになる」

 

 淡々とした答えが返ってきたところで、セグエは思い切ってきり出した。

 

「ユメさん……信用できるんですか?」

 

「セグエの事だから、信用していると思ったんだけど」

 

「何ですか、テナーまでそんな事言うんですか?」

 

「でも、ユメって美人だよね?」

 

「それは否定しませんけど……」

 

 セグエが露骨に目を逸らすので、テナーが笑う。セグエの機嫌が悪くなったところで、テナーが真面目な顔をして話し出した。

 

「もう、俺はユメの言葉を信じるしかないから。それに、以前にも一緒に過ごしていたことがあるんだけど、自分勝手だけど優しいと思うんだよね。

 

 俺としては、セグエがこうやって俺と普通にしゃべっていることが驚きなんだけど」

 

「……テナーは命を懸けてこの町を守ってくれたじゃないですか」

 

「ソプラの音を手に入れる為だったんだけどね」

 

「ですが」

 

「たぶん、何だかんだ言ってもユメも一緒なんだよ」

 

 セグエが半信半疑に頷くので、テナーはセグエに耳打ちをした。

 

「はい?」と曖昧な声を出したセグエは「では、また明日」と部屋を出て行った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 二日後、ムルムランドの町の門に集まった三人は西に向かって歩き出す。

 

 先頭を歩くユメにテナーは何気なく声を掛けた。

 

「ユメは何のために俺の所に来たの?」

 

「世界平和の為っすよ」

 

 さも当然のようにユメが返すのを確認してテナーが「ね?」とセグエの方を見ると、セグエは大きく瞬きをしてから困ったように微笑んだ。

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