音SAGA   作:姫崎しう

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三十一音目

「セグエはどうするか決まったっすか?」

 

 ソメッソと共にアニマートの家に帰ってきたユメが、開口一番セグエに問いかける。

 

 セグエは少し身構えつつも、しっかり自分の足で立ち「一緒に行きます」と返した。

 

「ユメが急に裏切るかもしれないっすよ」

 

「わたしはテナーが信用するユメさんを信じます」

 

 ユメはセグエに顔を近づけてじっと見つめる。セグエは自然と引こうとする身体を抑えて、口を真一文字に閉じてユメの言葉を待った。

 

「そうなったっすか。テナーも隅に置けないっすね。

 

 むしろ、隅におけるタイミング何て一瞬たりともなかった気がするっすけど」

 

「そ、そう言う事じゃないです」

 

「じゃあ、ユメとキスするっすか?」

 

「ユーバーからかうのもいい加減にしろ」

 

 ソメッソが諌めるので、ユメが「分かったっすよ、お父さん」とふざける。

 

 セグエがソメッソに小声でお礼を言うのを、テナーはよくわからないと言う顔で眺めていた。

 

「これからどうするの?」

 

「どうするもこうするも、中央に行くっすよ?

 

 トーベントに来たのだって中央に潜入する練習だって言ったじゃないっすか、忘れっぽいっすねテナーも」

 

「いや、大体はユメのせいで話がこんがらがったんだよ」

 

「元をただせば、ソメッソさんがこんな所にいるのが悪いんっすよ」

 

 ユメがソメッソを見たが、ソメッソは特に何も言わずむすっとした顔をした。

 

 テナーもユメのやり方に溜息だけを返す。

 

「じゃあ、満場一致で次は中央って事で良いっすか?」

 

「中央に行くのはいいんですが、テナーは大丈夫なんでしょうか?

 

 一度は中央に追われていたんですよね?」

 

 セグエの問いかけに、ユメが「んー……」と腕を組んで考え始める。

 

「たぶん大丈夫じゃないっすかね。そもそもの中央の狙いはソプラっすし、ルーエが返ってこない事は中央には伝わっていると思うっすから、ソプラに力が戻りつつあることは把握しているはずっす。

 

 ソプラがルーエよりも力が上だと分かったはずっすから、テナーの相手をしている暇はないんじゃないっすかね」

 

 ユメが話し終わってもセグエが不安そうな顔をするので、ユメは出来るだけ言葉が軽くなるように付け加える。

 

「そもそも、テナーの情報は兵士側にはあまり伝わっていないみたいっすから、今までテナーがであった人と出会わない限り大丈夫だと思うっすよ。

 

 何より一般兵の十や二十くらいなら、逃がす前に倒せる自信あるっすし」

 

 セグエが真面目な顔をして頷いたところで、ソメッソが「決まったなら、いくぞ」と先導を切ろうとする。

 

 しかし、ユメが「お父さんはせっかちっすね」と遮った。

 

「基本的にテナーがリーダーっすからね」

 

「俺がリーダーなの!? ユメがやった方が良いと思うけど……」

 

「テナーあってこそのユメの計画っすからね。テナーが嫌がる事はユメは出来ないっすよ。

 

 だったら初めからテナーがリーダーしてくれていた方が楽っす。

 

 異論はないっすよね?」

 

「わたしは良いですよ。とりあえずテナーについて行くことが、今のわたしがしたい事ですから」

 

「まあ、オレは死人のようなものだからな。反論はすまい」

 

 テナー以外の全員から異を唱えられなかったことに、テナーはさらに焦ってしまう。

 

「まあ、気負わずに形だけと思っておいてくれて構わないっす。

 

 もしもユメ達の中で意見が食い違ったらテナーに従うって話っすから。

 

 極端な話ユメは、それが最も簡単な方法なら人殺しも厭わないっすよ?

 

 となると、止められるのはリーダーの言葉だけっす」

 

 本当にユメが人を殺してもいいと思っているのか、テナーには判断が付かなかったけれど、殺してほしくないと思っているテナーには選択権も無く「わかったよ」と頷いた。

 

 ユメは満足そうに頷いて、テナーに問いかける。

 

「テナーは次、どうしたいっすか?」

 

「中央に行こう。やっぱり歌姫の事……ソプラの事をもっと知りたいから。

 

 でも、もうソプラが全部の音符を集めたって事はないかな?」

 

「まだだと思うっすよ。全部集める前にテナーの前に現れると思うっすから」

 

「どうして?」

 

 テナーがユメに訝しげな目を向ける。

 

 困ったようにユメは目を閉じてから、ユメは降参するように両手を挙げた。

 

「ソプラ自身に聞いたからっすよ。最初の星を手に入れてテナーが気を失っていた時、ソプラが歌姫だと言う事も含めて色々聞いたっす。

 

 あくまでユメの質問に答えて貰っただけっすから大して有益な情報はないっすけどね。

 

 その時にはこんなに早くテナーとソプラが分かれるとは思っていなかったっすから」

 

「ユメは俺とソプラが分かれることを知っていたの?」

 

「あくまで別れるかもしれないって感じっす。

 

 音を失っていると言う段階で歌姫かもしれないと思ってはいたっすから、暇つぶし半分に聞いてみたっす。

 

 あっさり肯定されて、歌姫が受けてきた仕打ちを考えるとソプラが人を恨んでいる事も簡単に想像ついたっすね。

 

 だから尋ねてみたんすよ、テナーはどうするのか、意見が食い違う事が出て来るんじゃないか、みたいなことをっす。

 

 答えは『別れることがあっても四つ星を見つけたら、テナーに選んでもらう』だったっす」

 

「テナーがソプラさんと話せると言うのはこの事だったんですか?」

 

 間に割って入るようにセグエが尋ねると、ユメは歯切れ悪く「大体そんな感じっす」と返した。

 

「つまりタイムリミットはソプラが四つ星を集めて俺の前に現れるまでって事だよね」

 

「その通りっす」

 

「じゃあ、急ごう。ユメ、案内お願いしても良い?」

 

「了解っす。でも、今日中には着かないと思うっすからそのつもりで頼むっすよ」

 

 テナーが頷いたのを確認してから、ユメが先導するようにトーベントを後にする。

 

 

 

 中央へ向かう道中、セグエはテナーに聞かれないようにユメの隣を歩きつつ、ユメに問いかけた。

 

「まだ隠している事がありますよね」

 

「セグエは本当に賢い子っすね」

 

「どうなんですか?」

 

 おどけてもセグエが追及してくるので、ユメも真面目な顔して返すことにした。

 

「嘘はついていない、というのが今のユメが言える事っすね」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 頭を下げて後ろに戻っていくセグエを見ながらユメは「察しもいいんすよね」とぼやいた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 中央の城下町の門をくぐるまでに、一行は両の手足の指ではまるで足りない数のモンスターに襲われた。

 

 馬に似たもの、鹿に似たもの、クマに似たもの等々。しかしながら、一匹たりとも一行を苦戦させたものはない。

 

 大体がユメとテナーで翻弄しつつ、ソメッソの作った亀裂にモンスターを落とすだけですんだから。

 

「やっぱりソメッソさんの魔法は、雑魚殲滅には使えますよね。

 

 ユメやテナーだけだとこうまで早くはいかないっす」

 

「暗にオレの魔法はそれしか取り柄がないと言っているんだな」

 

「逆に聞くっすけど、ソメッソさんは一対一でユメやテナーに勝てると思うっすか?」

 

 ソメッソが首を振る後ろでセグエが申し訳なさそうな顔をする。

 

「わたし、やはり何もしていないんですけど大丈夫なんでしょうか?」

 

「セグエは移動の時に十分働いて貰っているからいいんじゃないかな?」

 

「テナーの言う通りっすね。どうしてもって言うなら、しっかり見ていてほしいっす。

 

 セグエの場合そっちの方が今後役に立つと思うっすから」

 

 テナーとユメの言葉にセグエがしぶしぶ頷いた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 中央と呼ばれる城下町、ベドイテント。

 

 大陸に存在するどの町よりも大きく、活気があり、そこには沢山の希望と絶望がある。

 

 夢を求めて集まった人の何割が成功し、失敗したかも数えられないほどの賑わいは強固で頑丈な壁に阻まれ、外側からはあずかり知れない。

 

「あれが、中央?」

 

「そうっすよ。ベドイテント、五人の領主の頂点がいる所っす」

 

「……五人の領主って何?」

 

 テナーの疑問にユメがあんぐりと口を開けるふりをする。

 

「大陸を五つに分けて、それぞれにまとめ役を一人置いているんですよ。その一番上が王様と言うわけです」

 

「じゃあ、南にも居たんだね。知らなかった」

 

「まあ、確かにユメもテナーくらいの年齢の時には分からなかったっすけどね」

 

 ユメの皮肉にテナーは「そうなんだ」程度に返して、かつてないほどの規模の町――正確には覆う壁――を視界に収める。

 

「お城には普通に入れたりするの?」

 

「入れないっすよ。中は外側から商業区、居住区、行政区、城みたいになっているっす。

 

 この中で一般人が入れるのは居住区までっすから、滅多な事ないと近づく事すら無理っすね」

 

「わたしも入るの初めてなんですけど、行政区には何があるんですか?」

 

 セグエが尋ねると、何故かユメが拍手をする。

 

 不思議そうな顔をするセグエにユメが「目の付け所が良いっすね」と称賛した。

 

「行政区はそれなりに地位のある人物や研究者、兵士とその家族の住むところっすよね、お父さん」

 

 兵士と聞いた瞬間にセグエがハッとして、一度ソメッソを見た後でユメを見る。

 

「兵士でも居住を許されるのは一部だけだけどな。

 

 少なくともオレのような新米には用もなく入ることは出来ん」

 

「もしかしてユメさん、あれ持って来たんですね?」

 

「セグエ、あれって何?」

 

 ニヤニヤとユメが笑う隣でテナーがセグエに尋ねる。

 

 セグエが何かを答えようとするよりも先に、ユメがソメッソに紙の束を手渡した。

 

「これで早く出世してユメ達を養ってほしいっす」

 

 ソメッソが視線を落とした先には、読むことのできない歌姫についての資料が乗せられていた。

 

「幸いソメッソさんは、ユメくらいの子供がいてもおかしくない年齢っすからね。

 

 出世して、とりあえず行政区に潜り込むくらいはしておきたいところっす」

 

「だからオレを父親のように呼ぶんだな」

 

「それは関係ないっす」

 

 ユメは悪戯っぽく返して、自分の前にテナーを立たせる。

 

 それから、テナーの背中を押してベドイテントの方へと歩き出した。

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