音SAGA   作:姫崎しう

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三十六音目

「ほとんど見回りは居ないって、それなら余裕そうっすね」

 

「王は例え兵士であっても、一部のものしか城に入れたがらないからね。

 

 その分、城に入るまでの警備は厳重だよ」

 

「行政区とかに分けられているのも、その辺が理由っすね。行政区の多くは兵士っすから、下手な事をすれば即お縄ってことっすか」

 

「君なら真正面から城に入れそうだけどね。ともかく城に入ったら向かうのは一階の西の端の部屋だ。

 

 特に何も無い部屋だが、中に入った王が長時間出てこないことがある」

 

「了解っす」

 

 フォルスが王城についての説明をしていく中、度々ユメが質問する。

 

 残りの三人はそれを眺めているだけではあったが、どうやって侵入するかは何となく理解することが出来た。

 

 話も一区切りしたところで、時折お茶を飲みながら話を聞いてたセグエが待っていましたと話し出す。

 

「ところで、何故中央はソプラさんの音を奪う必要があったんですか?」

 

「それを話すわけには」

 

「止む終えない理由があったのなら言っておいた方が良いっすよ。

 

 少なくとも説得材料の一つにはなると思うっすし」

 

 ユメにも促され、フォルスは苦虫をかみつぶしたような顔をした。

 

「……戦争、だよ」

 

「戦争?」

 

 聞き慣れない言葉にテナーが首を傾げるので、フォルスは説明を始める。

 

「東西南北、あと中央がそれぞれ分かれて争おうとしていたんだ。

 

 各地域における総力戦さ。罪のない町や村も巻き込まれ、戦火が広がるだろうね」

 

 フォルスの言葉に、テナーはアパの村を思い出す。

 

 いつの間にか噛みしめていた口をゆっくりと開いた。

 

「何でそんな事が起こるんですか?」

 

「北と西の領主がそう言う動きを見せていると言う報告があった。

 

 理由は考えるまでも無いだろうが、中央を打ち滅ぼして自分が大陸のトップになりたいのだろう。

 

 と、言うよりも中央がトップの現状が許せないんだろうな」

 

「中央がトップだと何が困るんですか?」

 

「困る事はないだろうが……。

 

 テナー君は何で中央が長い歴史の中で変わらず君臨し続けているか分かるかい?」

 

 フォルスに問われ、少し考えてみたがテナーはすぐに首を振って、否定を示した。代わりにセグエが答える。

 

「歌姫の力、ですよね」

 

「ああ。町や村を守っている歌姫が居る場所だからこそ従っていたんだ。

 

 自分たちの住む場所が守られなくなったら困るからね。

 

 だが、少し考えて欲しい。歌姫の守護があっても村や町はモンスターに襲われることがあるだろう?」

 

 テナーが今度はこくんと頷いたのを見て、フォルスが続けて話す。

 

「だから北と西は、歌姫の力が微々たるものではないかと考えるようになった。

 

 むしろ、全く効果などないのに、大陸を支配したいがためにほらを吹いているのだとすら考えていたようだな。

 

 歌姫の力の信用性が揺らげば、それを理由にトップに居座り続けている中央の地位も揺らいでくる。

 

 立場上、大陸全土の安全を守らなければならない中央の戦力は各地にばらけているが、他の地域はどんどんと力を蓄える事が出来たわけだ。

 

 それでも、中央の方が戦力は上だろうが、争えばどこも無事では済まないばかりか、仮に中央が落ちてしまえば次のトップを決めるために残った地域同士で次の戦いが始まるのは想像に難くない」

 

「それと、ソプラから音を奪う事はどう関係するって言うんですか」

 

「歌姫が力を無くせば、歌姫によって押さえつけられていたモンスターが活性化し、各地を襲う。そうしたら地域同士の争いどころではなくなるだろう?

 

 同時に中央から兵を派遣して恩を売る事で、もう一度中央の権力を高める事も出来る」

 

「ずいぶん勝手っすね」

 

「勝手だが、戦争になるよりも犠牲は少ないからね。大陸をまとめ直すため、王も苦渋の選択だっただろう。

 

 実際思惑通り戦争どころではなくなったよ」

 

「ま、そっすね」

 

 軽く返すユメに反して、テナーは理解しながらも納得のいかない思いでいっぱいだった。

 

「ですが、歌姫の力を見誤ってより大きな危機に直面しているんですよね。

 

 しかも、その事に隊長である貴方も気が付いていなかった」

 

「全くその通りだよ」

 

 セグエの責めるような言葉に、フォルスが息を吐きながら応える。

 

 しかし、セグエはそれ以上追及することはせずに「分かりました」と身を引いた。

 

「さて、人の愚かしさと中央の無能さを理解したところで、城に潜入しに行くっすよ」

 

「ユメ」

 

「どうしたっすか、テナー」

 

「ううん。ありがとう」

 

 自分が言えなかった人や中央に対する不満をユメが代わりに言ってくれたことで、どこかすっきりしたテナーは、同時に目の前で言われるフォルスが不憫だと思うだけの余裕が出てきた。

 

 フォルスもフォルスで、既にユメの遠慮のなさには慣れつつあったので、言い返す言葉も無いと困った笑みを浮かべただけ。

 

 すぐに「案内しよう」と先頭に立った。

 

 

 

     *

 

 

 

 王城潜入における最難関は行政区と城を結ぶ門。フォルスとソメッソが正面から入るのに対して、残りの三人は二人が警備の気を引いているうちに横を駆け抜ける。

 

 駆け抜けると言っても普通に走っていては捕まってしまうので、セグエの魔法を使いはするが。

 

 幸い隊長が折り入って王に話があるとなれば数多くいる見張りの意識はそちらに向き、強い風が吹いても大して気にされることは無かった。

 

 フォルスから聞いていた通り、門を抜けると庭が広がっていて、整備された庭園には身を隠すところが沢山ある。

 

 ひとまず、植え込みの陰で三人は足を止めた。

 

「上手くいったのかな?」

 

「ばれていたら今頃大騒ぎだと思うっすから、大丈夫じゃないっすかね」

 

「だと良いんだけど。もしもフォルスさんがいなかったらどうするつもりだったの?」

 

「門を守る兵とあの付近の観察をして、ひと気なくて交代までの時間に余裕のあるタイミングを見計らって兵隊さんに眠ってもらうっす。

 

 タイミングを見計らうのに下手すると数週間くらいかかると思っていたので、かなりラッキーだったっすね」

 

「壁を登るとかできないの?」

 

「テナーはユメを過剰評価し過ぎっすよ。教会の壁よりも高いんっすから、何回か練習しないと無理っす。

 

 練習を見られたら一発でアウトっすからリスクが高すぎるっす」

 

 ユメは少し怒った声を出すが、テナーとしては可能であると言う事に驚きを隠せない。

 

 王城敷地内に潜入したと言うのに緊張感のない二人をみて、セグエはため息をつきつつも微笑んだ。

 

「これからが本番だと思うんですけど、変装とかってしなくていいんですか?」

 

「セグエは鎧着て動けるっすか?」

 

「無理ですね」

 

「正解っす。ってことで、いつかみたいにユメが安全を確認しながら先行するっすから、二人はついてきてほしいっす。

 

 見つかっても即アウトではないっすけど、前回よりも深刻な事態になるっすから気を引き締めて欲しいっす」

 

 ユメは二人が頷くのを確認してから、ひとまず城の扉までのルートを頭で描き始めた。

 

 城の中では兵士や研究者を見かける事があったが、侵入者など想定されていないらしく、簡単に移動することが出来た。

 

 しかも、三人が向かう部屋は人の少ない城の中でもさらにひと気のない場所なので、最後の方は気兼ねなしに廊下を歩き、部屋の中に入る。

 

「何て言うか、あっけなかったね」

 

「あっけなくて良いっすけどね。鎧着た人に見つかったらどうやって黙ってもらうか考えないといけないっすし」

 

「お城って言うだけあって、全体的にキラキラしてましたね」

 

 それぞれに感想を言い合うが、見合わせたように視線を部屋の中に移した。

 

「でも、問題はこれからって感じですね」

 

「聞いていた通り何も無い上に暗いっすね」

 

「火つける?」

 

「流石に魔法使うと見つかると思うっすよ?」

 

 薄暗い部屋に置いてあるのは本棚がいくつかと机と椅子。試しに三人で本棚を動かしてみるが、隠し扉のようなものは見つからない。

 

「何かある風には見えないんだけど、フォルスさんの予想が外れたってことなのかな?」

 

「その可能性は否定できないっすね」

 

 テナーとユメが話す隣で、セグエが地面を撫でている。セグエの行動に気が付いたユメが「セグエ、何してるっすか?」と問いかけた。

 

「暗くて分かり難いですけど、ここの地面って白と黒の正方形が交互になっているじゃないですか。トーベントの隠し扉も、この地面の何処かだったなと思いまして」

 

「言われてみるとそうっすね。だとすると……」

 

 ユメがマス目を数えはじめる。それから、迷うことなく一つの黒の正方形をの所までやってくると、それを持ち上げた。

 

「ビンゴっすね」

 

「どうしてわかったの?」

 

「説明は後っす。階段になっているみたいっすから、すぐに入るっすよ。

 

 最後にユメが天井を閉じた所でテナー明かりを頼むっす」

 

 頷いたテナーとセグエが闇に続く階段を下りはじめ、ユメがそれに続く。

 

 ゆっくりと出入り口を閉じた所で控えめに太鼓を叩く音が響いた。

 

 明るい炎に照らされて、ここが石で造られた空間であることが分かる。

 

 テナーの持つ松明から、ガラスで覆われた三つのランプに火を移した所で、テナーが再度ユメに問いかける。

 

「何でユメは分かったの?」

 

「トーベントの仕掛けって、大体がこの城を真似ていただけだったんすよ。

 

 だから、トーベントの似たような場所と同じところが入口ってことっす」

 

「ユメさんがお城に歌姫の資料がある事を知っていたのも、トーベント出身だからなんですよね」

 

「まあ、出身というか、命乞いしながらお偉いさん方が教えてくれたんすよ」

 

「よく軽々と言えますね」

 

「怖くなったっすか?」

 

 楽しそうに言うユメにセグエは首を振って「慣れました」と返す。

 

 最低限の緊張感を残しつつ、雑談しながらしばらく階段を降り続けた所で一行の前に一つの扉が姿を見せた。

 

「ここ、かな?」

 

「他に行く道も無いっすし、思い切って開けるっすよ」

 

 ユメに促されてゆっくりとテナーが扉を開ける。

 

 木でできた扉は簡単に開き、向こうに本棚の迷路とも呼べる空間が姿を見せた。

 

「何か凄い所だね」

 

「まさかこれ全部が歌姫に関するものって事は……」

 

「無いみたいっすね」

 

 手近にあった本をめくりながらユメがセグエの言葉に続ける。

 

 片手で器用に持っていた本を元に戻してから、ユメは辺りを見回した。

 

「この広さ、手分けして探した方が良いっすね」

 

「トーベントの時みたいな文字で書かれたら俺達分からないよ?」

 

「むしろ、そう言う文字の本を探せばいいっす」

 

「なるほど」

 

 テナーが納得したところで、それぞれ本棚と向かい合った。

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