音SAGA   作:姫崎しう

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三十九音目

「ちょうど、フォルスさんの話をしていたところっすよ。タイミングよかったっすね」

 

 チャイムを鳴らしたフォルスを家の中に迎え入れた所で、ユメが機嫌よく話しかける。

 

 話の見えないフォルスは首を傾げた。

 

「私の話をかい?」

 

「正確には違うっすけどね」

 

「フォルスさんは、ソプラから音を奪った方法を知っていますか?」

 

 テナーの問いかけで疑問が解消したフォルスは、しかし、申し訳なさそうに首を振る。

 

「悪いが、私は……いや、私も知らないな。知っているのは、王だけだと思うが……」

 

「王様がっすか?」

 

「ああ。歌姫から音を奪う日、私達ですら城にはいる事は許されなかったからね。

 

 普段城に常駐し、王の世話をしている者たちも、一時外に出されたと聞く。

 

 さらに、私達を使って城の中にネズミ一匹通さないように見張りをさせていたから、ほぼ確実に城内には王と歌姫しか残っていなかったはずだ」

 

 フォルスの説明を聞いても、ユメの表情は晴れない。

 

 不思議に思ったテナーがユメに「まだ何かおかしいの?」と尋ねると、ユメはゆっくり頷いた。

 

「そもそも、王様はどこで人から音を奪う方法を知ったんすかね?」

 

「資料の中には無かったって言っていましたね」

 

「もしかしたら、探しきれなかった中にあるのかもしれないっすけど。

 

 考えてみたら、過去の資料には存在すらしていない可能性があるんっすよね。

 

 音を奪うなんて普通では無理っすし。魔法なら可能性がありそうっすけど、そもそも歌姫から与えられたものっすからねえ」

 

「考えても答え出なさそうだよね」

 

 頭を抱えるユメにテナーが声を掛けると、ユメは諦めたように「そっすね」と返した。

 

「ところで、フォルスさんは王様に命じられて、ユメ達の監視兼西までの同行をしに来たっすか?」

 

「そうだが、主導権は君たちにありそうだね。

 

 きっと、私以上の事を知っているのだろう。昨日、結局どうなったんだい?」

 

「王に会って、西に行ってソプラの星を取ってくるように脅されました」

 

「ユメ的には全然脅せてなかったっすけどね」

 

 真面目に答えるテナーの隣で、ユメが茶化す。

 

 ユメの言葉を無視して、テナーの話だけを吟味しはじめたフォルスに、ユメが問いかける。

 

「王様は戦争を恐れてソプラから音を奪ったんすよね。

 

 それって、今でもっすか?」

 

「どういうことだい?」

 

「王様は今でも戦争を恐れているんすか?」

 

「……違うね。昔に比べてだいぶ好戦的になったように見えるよ」

 

「やっぱり人が変わったって言うのは間違えていなかったっすね。

 

 じゃあ、外のモンスターって言うのも知らないんじゃないっすか?」

 

「何だいそれは」

 

 フォルスが首を傾げるのをユメが観察するが、答えるそぶりを見せなかったので、代わりにテナーが話し出す。

 

「歌姫が人々から遠ざけていたモンスターの事です。

 

 歌姫は大陸の中のモンスターを倒す手段として魔法を与えて、より強い外のモンスターから大陸を守るために歌っていたんです」

 

「外のモンスターって言うのはどれくらい、強いのか分かるかい?」

 

「分からないですけど、俺達が勝てるかは怪しい可能性は十分にあります」

 

「どうにかなるんだったら、歌姫も魔法を与えるだけで十分っすからね」

 

 フォルスは一点を見つめて考えていたかと思うと、「王からその話は聞いていなかったのだが」と漏らした。

 

 耳聡く聞いていたユメは、わざとらしくため息をついた。

 

「王様は外から来たモンスターに勝てると思っているらしいっすよ。

 

 しかも、自分一人でどうにでもできるらしいっす」

 

「まさか」

 

「俺も聞きました」

 

 愚行とも取れる王の判断に落胆するフォルスに、ユメが「フォルスさんはどうするっすか?」と、声を掛ける。

 

 質問の意味が分からず、首を傾げるフォルスに、ユメは遊びにでも誘うかのような気軽な声を出した。

 

「王様に着くか、ユメ達に着くかっすよ。

 

 今は命令に従うっすけど、ソプラと和解したいユメ達と、ソプラを排除したいであろう王様とは必ず道を違えるっす。

 

 王様の狙いはソプラの力をすべて自分のものにして、平和を作る事だと思うっすけど、既にとんでもない力を持っているソプラをどうにかしないといけないっす。

 

 仮にソプラを倒し、王様が力を持ったとしても、歌姫のように大陸を守れる確証はないっすね。

 

 力の源を得たとしても、元は歌姫のものっすから扱いきれない可能性の方が大きいと思うっす」

 

「ユメ君的には王が、歌姫に勝てる可能性はどれくらいあると思う?」

 

「一パーセントよりも下の世界っすね。音を奪う方法が存在する以上、全くないとは言えないと思うっすけど、自分が魔法を意のままに使えると理解したソプラに同じ手が通じるとは思えないっす。

 

 ただ、王様がソプラの星を一つ持っていると考えると、他の人がやるよりも可能性はあるかもしれないっすけどね」

 

「やはり、王は歌姫の星を持っていたのか」

 

 ユメの言葉じりを捕まえて、腑に落ちた顔をしているフォルスに対して、テナーが意外そうな顔をした。

 

「知らなかったんですね」

 

「何となく察してはいたが、直接言われたことも無くてね。

 

 話しを戻すが、逆に君達なら、もっと確実にどうにかできるってわけだね」

 

「ソプラと敵対するよりも、だいぶマシだと思うっす。

 

 問題は今のままだと王様が、ほぼ確実に死ぬってことっすね」

 

「確かに王は歌姫に恨まれているだろうが……」

 

「それもあると思うっすけど、現状生き物が取り込んだ星を取り出す方法が『殺す』しかないんすよ。

 

 既に、星を取り込んだ王様はソプラに命を狙われているっすし、今の王様はソプラ相手に勝てる気っすからね」

 

 二つの道を前にして、フォルスは思考を巡らせる。

 

 民を守るためならば、テナー達についた方が可能性は高いかもしれない。

 

 しかし、王を裏切る事は出来ない。

 

「君たちは王が死んだ方が良いと言うつもりなのか?」

 

「出来れば助けたいです。だからこそ、音を奪う方法が必要なんです」

 

「さっき、『しかない』って言ったっすけど、あくまでユメ達とソプラから見た場合っす」

 

「なるほどな。では、私は君達と道を同じくすることは出来ない」

 

 フォルスの言葉にテナーが肩を落とす。

 

 しかし、フォルスはそのままの力強い声で続けた。

 

「騎士として、王を諌めなくてはならないからね。

 

 すぐにでも王の所に戻るためにも、今は西での問題を急ぎ片付けよう」

 

 フォルスの声に押されるようにして、「はい」と声を出した。

 

 

     *

 

 

 中央ベドイテントを後にして、一行は真っ直ぐ西に向かって進む。

 

 途中、村や町に立ち寄り、数日で海岸線までやって来た。

 

「セグエ君の魔法は凄いな」

 

「お陰様で」

 

「セグエの男嫌いも相変わらずっすね」

 

「これでも結構譲歩しているはずです」

 

 そっぽを向くセグエをユメは微笑ましいもののように見た後で、フォルスの方に向き直る。

 

「そろそろ、モンスターについて教えてもらえないっすかね。

 

 流石に全く情報が無いわけじゃないんすよね?」

 

「まだ話してなかったかな。例のモンスターは海沿いの町で目撃されたらしい。

 

 人が船を使っても行かないような沖の方に、動く島のようなものがあると報告された。

 

 初めは取り合っていなかったが、目撃される頻度が増え、姿もだいぶはっきりしたため、実際存在すると断定してやってきたわけだ」

 

「だから、海まで来たっすね」

 

 天気が悪く灰色に見える海をユメが視界に収める。

 

 しかし、動く島のようなものは観測できない。

 

「その島が、歌姫の星を持っている、と断定したのはどうしてですか?」

 

「歌姫が歌えなくなった日から、しばらくして目撃されるようになったからだね」

 

 棘の残るセグエの問いにフォルスが答え、セグエは仏頂面で頷いた。

 

 これ以上質問はないと判断したフォルスは、話を進める。

 

「ひとまずは海岸沿いにデリランテを目指しつつ、情報収集をしようと思う」

 

「分かりました。それで、モンスターの特徴って何かないんですか?

 

 俺達も海を見ながら行くと思いますし、知っておいた方が良いと思うんですけど」

 

「巨大なスライムのようだったと……」

 

「うぇ……スライムっすか……」

 

 話を遮るように、ユメが心底嫌そうな声を出す。

 

 事情を知っているテナーとソメッソが納得しているのに対して、フォルスとセグエが驚いた顔をする。

 

「ユメ君なら、スライムくらい何とかなるだろう?」

 

「そうですよ。ユメさんが駄目なら、此処にいる全員が駄目って事になります」

 

「二人ともユメの事を買いかぶり過ぎっす」

 

「ユーバーは魔法が使えないからな」

 

「魔法は使えるっす。この中で一番上手に使えるっす」

 

 わざとらしく拗ねたユメを他所に、セグエとフォルスは今一つ分からないと言う顔をする。

 

 ソメッソがユメに睨まれているので、残ったテナーが覚えている限りで話し始めた。

 

「ユメって基本的に、人が出来る事しか出来ないんだよ。

 

 だから、スライムとか人の力じゃ勝てないようなモンスターには負けないけど、勝てないんだって」

 

「言われてみればそうですね」

 

「最初の星はスライムが持っていたから、ユメだけだとどうしようもなくて、俺が手伝ったんだよね。

 

 そう言えば、ユメってあの時はお金第一みたいな感じだったのに、今はそうでもないよね」

 

「お金が、ただの紙切れと鉄くずに変わるかもしれない状況にあるからっす。

 

 あと、ユメはお金を愛しているのではなく自由を愛しているんっすよ。ただ、自由に生きていくにはお金がいるんす」

 

 和やかに、悪く言えば緊張感無く一行がデリランテを目指していく中、海沿いに来て最初の町にたどり着いた。

 

 その町で待っていたのは、トーベントよりも荒れ果てた町の姿。

 

 海風から町を守るために設置された石の壁は、巨大な丸太のようなもので潰されていて、辺りには赤黒い血のようなものが飛び散っている。

 

 壁以外の建物も海から離れるにつれて原型は留めているものの、ほどんどが壊されていた。

 

「酷い有様っすね」

 

「荒れ方から見て、海から来た巨大な何かの仕業だろうね」

 

 取り乱すことなくユメとフォルスが分析をする中、セグエとテナーは此処であった惨状を想像してしまい落ち着かなくなる。

 

 現実から目を逸らすために、キョロキョロと視線を動かしていたことが仇となって、セグエはそれを見つけてしまった。

 

 驚いてその場に座り込んだセグエにテナーがいち早く近づく。

 

「何かあったの?」

 

「あ、あれ……」

 

 セグエが指差した先には、人の足があった。

 

 血に沈んだ足しかなかった。

 

 さらによく見てみると、その足は崩れた家に挟まっていて、足だけではなく体の色々なパーツが地面に転がっている。

 

 急に気分が悪くなったテナーに対して、ユメが「二人は外で待っていてほしいっす」と促したので、テナーとセグエは町を後にした。

 

 

 

 テナーとセグエの元にユメ達が戻って来たのは、しばらくたってからだった。

 

「あれは、何だったの?」

 

「探していたモンスターに襲われたって感じっすね。

 

 ここまで出来るモンスターなんて聞いた事無いっすから、間違いないと思うっす」

 

「壁を壊した何かは、それだけで私達より大きい。もしも、身体の一部だとしたらとんでもない大きさになるだろうね」

 

「って事で、次の町に行くっす。一刻の猶予も無い感じになってしまったっすからね」

 

 どこか急かすようなユメを、ソメッソがじっと何かを言いたげな目で見る。

 

 その事に気が付いているのかいないのか、セグエが「ユメさん」とユメを制止させた。

 

「何っすか。早く行くっすよ」

 

「町の人達はどうなっていたんですか?」

 

「残念ながら、モンスターにやられてしまっていたみたいっすね。

 

 全員、かはわからないっすけど」

 

「町の人間は、モンスターに食べられてしまったらしい」

 

「食べられ……」

 

 絶句するセグエの目の前で、本当のことを言ったソメッソをユメが睨み付けた。

 

 ソメッソは表情を変える事無く、テナーとセグエの方を見る。

 

「残っていた手足は、食い散らかしたようになっていたからな」

 

「何で言っちゃうんすか。テナー達が怯えたらどうするんっすか」

 

「だが、言わないわけにもいくまい。オレ達はそのモンスターを追っているのだから、出くわした時にちょうど人を食べていたら、それこそ二人は耐えられないだろう?」

 

「私も同感だ」

 

 大人の二人に言われて、ユメがしぶしぶと引き下がる。

 

「俺は行くからね」

 

「急に声を出して、テナーどうしたんすか?」

 

「着いてくるか尋ねるつもりだったでしょ? 星を追いかけていたらソプラに会えるだろうから、俺は降りないよ」

 

「なるほどっすね。でも、今さら降りろと言うつもりはないっすよ。

 

 あと、今ソプラに会うのは出来れば避けたいところっす。

 

 一応聞くっすけど、セグエはどうするっすか?」

 

「ついて行きます」

 

 予想していた答えだったとはいえ、二人とも無理をしているように見えたので、ユメが小さく息を吐く。

 

 ユメの心配をよそにテナーは先頭に立って歩き始めた。

 

「このまま、海沿いに南に行くんだよね。早く行こう」

 

「テナー、ちょっと待つっす」

 

「どうしたのさ、ユメ」

 

「一旦、東に戻るっすよ」

 

「どうして?」

 

 まるで、モンスターから逃げ出すような進路に、テナーは不満げな声を出す。

 

「情報が欲しいっすからね」

 

「海沿いの町は既に避難して人がいないかもしれない。一つの町がこんなにも無残な姿になったら、すぐにでも離れたいだろうからね。

 

 考えたくないが、既にほかの町も、という可能性もある。

 

 だとしたら、もう少し内陸にある町に逃げた人から話を聞けるかもしれない」

 

「海沿いを歩いていて、情報も無いままに鉢合わせた場合に、ちょっとどうにかなる大きさじゃなさそう何っすよね。

 

 気が付いたらモンスターのお腹の中は、テナーも嫌っすよね?」

 

「それは……うん」

 

 頷いたテナーの手を引いて、ユメはもと来た道を戻るように歩き出した。

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