音SAGA   作:姫崎しう

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四十四音目

「ところで、音を奪うにはどうしたらいいんっすか?」

 

「詳しくは言えないが、対象が一定時間動かなければいい。

 

 時間は対象によって変わるが、仮に歌姫に使うならば半日以上と言ったところか」

 

「今のソプラを半日っすか。何とも現実味がないっすね」

 

 ベドイテントへの道すがら、ユメがパカートに質問をするが、パカートからの返答に諦めたように首を振る。

 

「現実味がなかろうが、その時間をどうにかするのは君たちの役目だな」とパカートは他人事のように応え、テナーは不満そうに二人のやり取りを見ている。

 

 困ったセグエがテナーに話しかけた。

 

「やっぱり気に入らないんですか?」

 

「セグエはパカートさんの事、気に入ったの?」

 

「男ですから、無理です。ですが、必要な人だと言うのは分かります」

 

「まあ……うん。でも、ソプラを止めるために半日かかるって言っているよ?

 

 今の俺達じゃ、半日どころか何秒と持たないと思うんだけど」

 

「テナーはソプラさんの音をまた奪いたいんですか?」

 

 セグエに言われて、テナーはバツが悪そうに首を振る。

 

「それと、テナーは許さないって言っていましたが、許さないでどうする気だったんですか?」

 

「どうするって……えっと……」

 

 言われてテナーは自分がどうしたかったのか分から無かった事に気が付く。

 

 怒りに任せて炎をぶつけようとはしたけれど、その後どうなるかは全く考慮していなかった。

 

 恐らく殺してしまっていただろう。ユメがいるため助かったかもしれないが、テナーの炎が人に当たった場合普通は助からない。

 

 黙って俯いたテナーの気持ちを察して、セグエが優しい声を掛ける。

 

「テナーは良くも悪くも真っ直ぐですよね」

 

「そう……なのかな」

 

「でも、テナーはユメさんの言葉に耳を傾けて、自分を律することが出来ました。

 

 それはとても凄い事です。

 

 ですから、テナーにお願いがあります」

 

「お願い?」

 

 言葉を繰り返したテナーにセグエが頷く。

 

「彼の事を許せとは言いません。わたしも許したくありませんしね。

 

 ですが、耐えてください」

 

「……分かった」

 

 しぶしぶではなく、思いを飲み込むようにテナーが頷く。

 

 気持ちを切り替えるようにテナーが吼えたので、全員の視線がテナーに集まった。

 

 向いた視線に対して、開き直ったテナーが問いかける。

 

「パカートさんにソプラを止めてもらうのは現実的じゃないし、ソプラから音を奪うのは反対なんだけど、どうするの?」

 

「どうするかって言うと、テナーが頑張るしかないっすね」

 

「そもそも俺で大丈夫なの?」

 

「急に自信なくなったんすか?」

 

 ユメの疑問に、テナーが首を横に振る。

 

「本当にソプラが俺の話を聞いてくれるのか、どうして俺の話を聞いてくれるのか。

 

 確かに久しぶりに会ったソプラは俺の話は聞いてくれそうだったけどね。

 

 でもユメはずっと前から確信しているみたいだったよね、俺の知らない事を知っているんじゃないの?」

 

「まあ、テナー自身何処まで気が付いているかによるっすけど、ユメがテナーに話していない事が一個あるっすね」

 

 悪びれもせずに話すユメに、テナーが「教えてくれるよね?」と問い詰める。

 

 問われたユメをセグエが心配そうな目で見ていた。

 

「良いっすよ。というか、ようやく話せるって感じっす。

 

 本当はもっと早くから話したかったんすけど、なかなか最後の駒が見つからなくて話すに話せなかったっす」

 

「最後の駒って言うのは……」

 

 テナーの視線がパカートに動く。ユメはテナーの視線には応えずに、「順番に話していくっす」と説明を始めた。

 

「ユメが、ソプラがテナーの話は聞いてくれると確信しているのは、今テナーが生きているからっす」

 

「遺跡でソプラに見逃された事だよね。

 

 でも、見逃して貰えたのは、今まで俺が手助けをしていたからで、ここで貸し借りが無くなったって見方も出来るよね?」

 

「今までの情報だとテナーの言う通りっすね。でも、ここで見逃して貰えたって言うのは覚えておいてほしいっす。

 

 で、今までテナーはソプラの星を集めてきたわけっすけど、星を手にした生物の特徴は覚えているっすか?」

 

「すごく強い」

 

 テナーが即答するので、ユメが吹き出し「そうっすね」と何とか声を出す。

 

「じゃあ、人に限って言うとどうっすか?」

 

「魔法が強くなる?」

 

「半分正解っす」

 

 ルーエの事を思い出し答えたテナーだったが、ユメが首を振るので改めて考える。

 

 星を手にした人には二人しかあった事が無いため、すぐにテナーの中で答えが見つかった。

 

「もしかして、魔法がいくつも使えるとか?」

 

「理論上、星は魔法の源っすからね。実際王様は二つの魔法を使っていたっすし。

 

 本当はもっと使えたのかもしれないっすけどね」

 

「ここまでは良いとして、今までの話とソプラが話を聞いてくれるのかっていうのは無関係じゃないの?」

 

「じゃあ、少し話を変えるっす」

 

 勿体つけるようにコロコロ話を変えるユメに、テナーは不満げな表情を見せるが、しぶしぶ「何?」と口を尖らせた。

 

「何でソプラは星が四つ集まったらテナーと会うなんて言ったんっすかね。

 

 星は全部で五つっすよ。全部集めてからテナーに会ったらいいじゃないっすか」

 

「ソプラがそうしたかったからじゃないの?」

 

「問題は何故そうしたかったか、っす。一刻も早くソプラは星を集めてしまいたいと思うんすよね。普通。

 

 少なくとも全部の場所が分かって、ひと段落するまで他の事に手を出さないと思うっす」

 

 ユメの言葉にテナーが混乱したように頭を抱える。

 

 見兼ねたセグエが口を出した。

 

「星の場所をすでに全部分かっているから、ですよね」

 

「何でセグエが言うんっすか」

 

「話が進まないからですよ。ただでさえテナーは精神的に辛い状況なんですから、いじめないでください」

 

「つまり、テナーの為にって事っすね」

 

 ニヤニヤとユメが笑うので、セグエは何かを言い返そうとして、言い返せずに俯いた。

 

 しかしテナーは後半のやり取りには興味を示さず、最初にセグエが言った言葉に反応する。

 

「全部わかっているって、ソプラが?」

 

「まあ、ユメも知っているっすし、セグエも知っていたみたいっすけど。

 

 パカートさんだって、もしかしたら分かっていたかもしれないっすね」

 

「俺だけ知らなかったって事?」

 

「テナーだけ気が付かなかったって事っす」

 

 その二つは何が違うのだろうかとテナーがまた頭を悩ませる中、ユメの話が続く。

 

「残りの一つはテナーも良く知っている人が持っているわけっすけど、テナーはいくつも

魔法が使える人を知らないっすか?」

 

「王以外は知らないけど……」

 

「察しが悪いテナーに質問っす。テナーの魔法はなんっすか?」

 

「ユメは知ってるよね?」

 

「良いから答えるっす」

 

「炎球を飛ばす魔法だよ」

 

 要領を得ないユメに対して、投げやりにテナーが答える。

 

 ユメはまだ気が付かないかとばかりに息を吐き、質問を追加した。

 

「決して爆発を起こす魔法じゃないんすね?」

 

「そうだったけど……でも、外のモンスターを倒した時には……まさか、もしかして」

 

 驚くテナーの胸をユメが軽く小突く。

 

「もしかしなくてもテナーの中っす。テナーって確か星が落ちた日以降に魔法が使えるようになったんすよね?

 

 普通、テナーくらいの年齢なって急に魔法が使えるようになることってないっす。

 

 後天的に魔法が使えるようになることはもっとないっす。

 

 ましてや、使える魔法が増える事なんて有り得ないっす」

 

 言われてみれば、テナーには否定のしようがない。

 

 憧れだった演奏者になれて、舞い上がり、自分が常識外れの存在だと認識していなかったのだ。

 

 しかし、一つだけテナーの中で腑に落ちない点がある。

 

「でも、村の誰も星が落ちてきたなんて言わなかったよ?

 

 北と東と西と中央に星は落ちたけど、南側に落ちたって言っていた人は一人もいなかった。

 

 もしも、俺の知らない間に俺の中に星が入ったとしても、村の誰も見ていないって言うのはおかしくない?」

 

「確かに変な話っすけど、何となくテナーにだけ秘密にしていたって感じがするっすね。

 

 南の全く別の何処かに落ちた、ならまだしも、南に落ちたのを見た人が無いって言うのが怪しいっす。確実に南にも落ちているはずっすからね」

 

「何のために俺に秘密に……」

 

 村人の事を考えようとしたテナーの頭にルーエの顔が思い浮かぶ。

 

 星をその身に取り込む直前、ルーエが謝っていた。何に対しての謝罪だったのか定かではなかったが、もしかして星の事をテナーに教えなかった事ではないか。

 

 それにルーエは死ぬ間際に、歌姫はテナーも殺すと言っていた。

 

 パチリパチリと、テナーの中で真実が形作られていく。

 

 歌姫がテナーを殺す理由は、テナーの中に星があるから。

 

 ルーエはテナーの中に星がある事を知っていたと言う事になる。

 

 星が落ちた日、テナーに記憶はないが、テナーの両親が亡くなった日らしい。

 

 もしも、星が落ちた事で両親が亡くなっていたのだとしたら、その日の事を思い出させないために村の人たちが黙っていたのだとしたら。

 

「そうか、最初の星は俺の中にあったのか」

 

 納得したように、しみじみとテナーが呟いたので、ユメは特に話を聞く事無く話を進める。

 

「じゃあ、最初に戻るっす。ソプラが星を持っているテナーを生かしておく意味があったと思うっすか?」

 

「無い。でも、気が付いていなかっただけかもしれないよ?」

 

「そしたら星を四つ何て言わないっす。星を四つ集めてテナーと会えば全部そろうと分かったうえで言っているんすから。

 

 ユメが話を聞いたのはスライムを倒した後っすから、ムルムランドに行く頃にはすでに知っていたって事になるっす。

 

 でも、二つの星を手に入れて、テナー負ける要素はないのに、ソプラはテナーを生かしたっす」

 

 ようやくユメが自信たっぷりだった理由を理解したテナーは、さらにユメに問いかける。

 

「何で俺の中に星があるって、今まで黙っていたの?」

 

「だって、下手したらテナーに死ねって言わないといけないんすよ?

 

 星を取り出す方法は基本的に持ち主を殺すしかなかったんすから。

 

 直接言わないにしても、テナー自身がこの事実に押しつぶされる可能性だってあったっす。

 

 でも、ようやく音を奪う道具を見つけたから、話せるようになったんっす」

 

「僕を道具だと、バッサリ言うね。

 

 別に道具でも構わないけど、要するに歌姫に星を返せと言われた場合にテナー君から安全に星を取りたいんだろう?」

 

「もちろん、守りについてはちゃんとソプラに頼むっすから安心してほしいっす」

 

「だったら、構わない」

 

 話に入って来たパカートが、ユメの言葉を聞いて納得したように身を引く。

 

 その間テナーがパカートを睨んでいるのをセグエは見逃さなかった。

 

「と言うか、テナーが死んだら元も子もないんすよ。

 

 ソプラを久しぶりに見て確信したっすね。テナーが死ぬ代わりに星を返すって話をしたら、ソプラは人を守るどころか、皆殺しにしかねないっす。

 

 ここまで思われるなんて、テナーも凄いっすね」

 

「茶化さないでよ」

 

「茶化してないっすよ。テナーがここまで思われていなかったら、とっくに人は全滅っすからね。

 

 テナーから音をって言うは念の為っす。

 

 理想はテナーの中に星を残して、ソプラに協力して貰えるようにすることっす」

 

「テナーの中に星があった方が、ソプラさんの能力を制限できる上に、下手な行動をとらせないようにできますからね」

 

「まあ、おまけみたいなもんっすけどね。星が四つの時点で人がソプラに勝てる可能性はゼロっすし。むしろメインは好感度の指標っすね。

 

 テナーの中に星があっても良いかなって思ってくれている間は、ソプラも友好的だと思うっす」

 

 ユメの言葉の後、誰も何も言わないので話が途切れたと判断したのか、テナーが思い出したようにユメに尋ねる。

 

「そう言えば、ソプラとユメの関係、教えてくれるんだったよね?」

 

「約束したっすね。まあ、ここまで来たら隠している必要ないっすし別に話していいん梳けど面白くないと思うっすよ。

 

 単にソプラがテナーから離れる事になったら、ソプラが星を四つ集めるまで、ユメがテナーを守ってほしいってそんな感じっすね。

 

 テナーを守らなければ世界が滅ぶぞ、的な事も言われたっす」

 

「で、ユメは受け入れたの?」

 

「ユメは最初から歌姫についてそこそこ知っていたっすからね。言う事聞いていないと殺されそうだなって思っただけっす。

 

 ソプラには同情できる部分もあったっすしね。

 

 もう気が付いていると思うっすけど、ソプラにはもう歌姫としての記憶が戻っているみたいっすね」

 

「とてつもなく長い時って言っていましたもんね、まるで何百年と閉じ込められていたように」

 

 セグエの言葉に頷いて、ユメは付け加えるように話す。

 

「たぶん、ソプラの記憶が戻ったのは最初の星を取り返した時っすね。

 

 テナーを治すためにユメが魔法を使った時、ユメの魔法が何なのかを分かっていたみたいっすし。ってところで、ソプラはテナーに任せるっす」

 

「……うん」

 

「じゃあ、中央までちゃきちゃき行くっすよ。

 

 もしかしたら、王様を助けられるかもしれないっすからね」

 

 心にもない事をユメが口にして、一行は足を速めた。

 

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