数年後。
王がこの世を去り、人々はしばし混乱し争いが始まろうとしていたが、海の外からやってくる新たなモンスターの存在に次第にまとまりが生まれつつあった。
頻度は決して多くはなく、一年に一、二回しか襲来しないが、一度来てしまえば被害は大きく追い返す事すら困難なモンスターも多い。
しかし、人々が絶望することなくいられたのは『手を結んだ勇者』が助けてくれるから。
町と町を結ぶ道を歩きながら、ユメはつまらなさそうにセグエに問いかけた。
「セグエは良かったんすか?」
「良かったって何がですか?」
「テナーと一緒が良かったんじゃないっすか?
セグエ、テナーの事好きだったすもんね」
「好きとかじゃないです。弟みたいだなって思っているだけで」
「ムキになると怪しいっすよ? 自分でソプラとテナーをくっつけるような事を言い出したから身を引くしかなかったのかもしれないっすけど」
「わたしがユメさんといるのは、わたしの魔法が移動に向いているからです」
投げやりに返したセグエに、ユメは楽しそうに「そう言う事にしておくっす」と応える。
「ソプラと言えば凄かったっすね。あの日から数日後にやって来た奪うものを一瞬っすもん。ユメに分かったことと言えば、奪うものが人型だったって事くらいっす」
「ソプラさんが歌うのと同時に、光で包んで消してしまいましたからね」
「おかげでユメはこうやって好き勝手に旅出来るからいいんすけどね」
胸を張って話すユメに、セグエは白い目を向ける。
「別に好き勝手にじゃないですよね。
外のモンスターが来た時にソプラさんに伝えるために旅をしているんです」
現在、ソプラとテナー、ユメとセグエに分かれて人の住む町々を巡っている。
テナー達は人を知るために、ユメはもとより旅をするつもりだったから。
それぞれがついでに人を助けていると言う形になる。
「正直、この旅もいつまで続くんだろうって感じっすけどね」
「『手を結んだ勇者』ですね。名前は安直ですが」
「結局テナーとソプラの事っすけど、問題は歌姫批判をしていた人達がこぞって称賛しているところっすね」
「もしも勇者が歌姫だったら、と訊いても最初に返ってくるのは『だったら感謝するけどな』みたいな、称賛の言葉ですからね。
直前まで歌姫を貶していた口で、悪びれた様子も無くです」
「ソプラが人を許すよりも、テナーが人を許せなくなる方が早そうなんっすよね」
ユメの言葉にセグエが大きなため息をつき、「まあ」と続ける。
「人の中にはきちんと、歌姫の現実を聞いて謝罪する人もいるのが救いですね」
「それが救いになればいいんっすけどね。
でも今は、この平和を謳歌するしかないっすよ。幸いテナーにもソプラにも、会おうと思えば会えるっすからね」
「次にテナーに会えるのはいつになるんでしょうか」
気の緩んだセグエが洩らした言葉に、ユメが聡く反応してニヤニヤとセグエを見る。
含みのあるユメの表情を理解したセグエは足を速めてユメの方を向いた。
「急がないと置いていきますよ」
「急いでも良い事無いっすよね。そもそも、セグエじゃユメから逃げられないっす」
逆に足を遅くしたユメをみて、セグエはしぶしぶ足を止めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
海の外から現れた巨大な蛇のようなモンスターが、一撃のもとゆっくりと地面に伏す。
突然現れた手を繋いだ二人の男女は特に気取った様子も無く、半壊した町の人達は二人の事を称賛していた。
中にはかつて歌姫と呼ばれた存在と比べ、歌姫を貶め、二人を持ち上げる者もいる。
二人組の男の方が「あの」と大声を出し、人々を黙らせた。
次いで男は「この子が歌姫なんです」と皆に呼びかける。
願うように、諦めるように待っていた男に対して、町の人々は口々に言葉を返し始めた。