本を読みきって、ふと本棚を見上げると、雀がいた。
どうやって入り込んだのだろうか?
そんなことを思いながら何気なく、手を差し出してみる。
すると、雀は何を思ったか、はたまた何も考えてないのか、手の上に降りてきた。
くりくりとした、黒いつぶらな瞳を持つ顔がキョロキョロと動く。
雀の足によってくすぐったい感触が手に伝わってくる。
近くで見ると、なかなかに可愛かった。
そして、少し気が緩んだ私はなんとなく考える。
雀を見るのは何十年ぶりだろうか?
などという、どうでもいいことを。
考えてみれば、そもそも、こんなに近くで雀なんて小動物を見たのは初めてのことだろう。
思えば、何年もここに、いや、何十、何百年とずっとここに引きこもり続けている。
だけど、別にこの生活に不自由を感じたことは無かった。
食事はメイドが運んでくるし、本の整理もわざわざ自分でせずとも部下がやってくれる。
自分はただ本を読んで、貪欲に知識を求め続ける毎日を過ごすだけ。
それは、私にとっての小さな幸せ。
雀が小さく跳ねながら手を登ってきた。
手首、腕、二の腕、順々に私の肌へ、くすぐったさを残しながら上に来る。
肩にまで到達すると、そこが気に入ったのか、動かなくなった。
私が怖くないのだろうか?
今更ながら思う。
自分で言うのもなんだが、私はかなりの魔力を持っている。
制御は勿論のこと、完璧に出来るけれど。
大きな魔力を保有しているだけで、生き物は普通、怯えるはずなのだ。
そんな私の考えを無視して、雀は怖がる様子など見せず、私の肩に乗り続けている。
何となく、雀の頭に指を伸ばしてみた。
半ば逃げられても仕方ないと思っていたのだが、触れてしまった。
危機意識が無さ過ぎだろう。
そんなことを内心で思いつつ、私は壊さぬよう、雀を優しく撫でてやる。
ふと、自分が本当に少しだが、微笑みを浮かべていることに気がついた。
研究の集大成を前にした時の達成感に満ち溢れているものではなく。
相手との話し合いで浮かべる愛想によるものでもない。
それは、自然に、何も考えず、ただ、感情が漏れてしまったような。
そんな微笑みを浮かべた自分が、あまりにも意外で、少し驚いてしまった。
すると、その私の感情の揺れを察したかのように、雀は飛び去って行ってしまった。
暖かい重さを感じなくなった肩に手をやる。
そして、雀によってわずかな安らぎを与えられていたという事実に、また驚く。
一頻り驚いた後、読み終えた本を魔法で元の場所に返した。
ちょうどいい休憩になったと伸びをする。
私は次の本に手を伸ばしながら思う。
少しなら、外に出てもいいかもしれない、と。
庭先で紅茶を飲みながら本を読む自分を想像する。
悪くはない。
そう思えた。
もし、私が外に出たとしたら。
あの雀はまた私の元へ来てくれるのだろうか。
そんなことを考えて、そして、私は、本を開けた。
小悪魔(以下小)「パチュリー様、さっき笑ってました?」
パチュリー(以下パ)「何言ってるの?」
小「え? 笑ってましたよね?」
パ「笑ってないわ」
小「そ、そんな、万年引きこもりでギャグ漫画を読ませても冷静な批評しか言わないパチュリー様が笑うなんて……」
パ「笑ってないわ」
小「ものすごく可愛かったですよ?」
パ「もう、なんでもいいわ」
小「今日はいいことあるかも~」
その日、小悪魔は夕食の生牡蠣にあたって倒れた。