人間と妖怪の恋は叶えることができるのか。
とある家――年中金欠に悩まされている貧乏暮しが住む小屋と間違えるほどのボロ家に訪れた者がいた。
「休~。居るか~?」
今にも強く叩けば穴が空きそうなほどの薄い木材でできた古い扉を力任せにノックする音と共に野太い男の声が聞こえてきた。
「おい賢、やめてくれ。ドアが壊れちまう」
それに 休 と呼ばれた男が自分の家を壊されるのを防ぐべくドアを開ける。
「ちょいと頼みがあるんだが」
休が出て来たことを確認すると両手を胸の前で合わせてすまないと言いたげな顔をしながら言葉を続けた。
「至急なんだか森からこれを取ってきてはくれないか」
と懐から一本の枯れた植物を出して休の顔の表情を確認していた。
「うげ・・・今から?」
露骨に嫌そうな顔をしながら植物を受けとる休。
休が受け取った物はこの里で民間治療で多様されている比較的簡単に入手できる薬草だった。
「妹が風邪を引いちまってな。家には生憎これしか無くてよ。買おうと思ったんだが何処も売り切れでよ。あいつが苦しそうにする姿は見たくねぇんだ。」
「・・・分かった。急ぎ足で行ってくる」
「本当か!?助かった。無理そうなら帰ってくんだぞ?」
「里から少し行った所に沢山生えてるからすぐ戻るさ」
本当は行きたくは無いのだが、彼にとっては命の恩人を助ける事に繋がるので行かないわけにはいかなかった。
休は昔の記憶がない。目が覚めた時には里の人々に囲まれ看病されていた。しかし、彼が現れてから里では里の子供が消えるという事件が日に日に増えていった。里の人々は恐怖した。そして考えた結果、この結論に辿り着いたのだ。
『お前がやったのか?お前が来た時から子供たちが消えていった。きっとお前は呪われている。だから早く里から出ていけ!!そうすれば子供たちは戻ってくる!!』
記憶のない青年は驚き必死に弁解する。しかし里の人々は聞き入れる筈もなく、青年を取り囲み口々にこう言った。
呪われし人。子供拐い。悪魔。厄介者。
青年は絶望した。悲しみの余りその場で泣いてしまった。でも、そんな彼を見ても里の者は誰も助けの手すらくれずにただただ青年を前にして暴言を浴びせていた。
このまま里を追い出されるのだろうか?そして餓死するのだろうか?そんな恐怖が頭の中で連呼ささり、冷静な判断をできなくなっていった。
しかしその時、ある一人の青年と子供が彼を庇った。
その青年が賢二。そしてその妹、林。
彼らのお陰で青年は救われた。里を出ることもなく終いには満足できる物ではないが住居も構えることができた。そして彼は何でも屋として里で暮らし始めた。
生活している内に親しくなり名前も付けて貰った。
休 と。
名前に理由は無いらしい。ただそんな感じがするらしい。しかし休に取っては嬉しい他なかった。
そんな恩人が困っているのだ。助けない訳にはいかない。
彼は荷物を準備し里を出た。急がなければ行けない。
林の体が心配と言うのもあるが、一番の理由は妖怪が出るからだった。
今は夕暮れ。夜になれば妖怪の巣窟になるだろう。そして今から行く場所は森。
ここら辺では大きくは無いが、妖怪の巣窟になるのは間違いなかった。
森に向かって一直線で走る。荷物は少し大きめの袋と携帯食の干し肉のみ。道中で妖怪何かには会いたくない。守矢神社と呼ばれる所には、かなり効果のある御守りがあるらしいが貧乏な休には手が出せるような代物ではなかった。だから、ただ妖怪に会いませんように、襲われませんようにと願うことが精一杯だった。
森に着くと早速探し始める。しかし、上手くは行かなかった。
いつも大量に生えている薬草が一本も無くあったのは薬草の茎のみだった。きっと他の人が取ったのであろうが、辺り一面に生えていた薬草が一本も残っていないのはどう考えても異常だった。
きっと悪質の同業者の仕業だろう。何処にも薬草が売っていないのは偶然ではなく、意図的に仕組んだのだろう。
薬草を全て切り取り保管しておく。そして薬草が何処にも売りに出されなくなったら、その薬草を高値で売り払う。悪質だ。自然と舌打ちが出てしまう。
きっと後数日すれば高値で売られているだろう。
でも、今はそれどころではない。薬草を見つけなければ。
森の様子を伺う。森は静まり返っていて多少不気味ではあるが、まだ夕日が差し込んでいて薬草は探せそうだった。
「・・・しょうがない。行くか」
そうと決まれば早速森に入っていく。時折自分で木の枝を踏み、その乾いた折れた音で驚くこともあったが直ぐに周囲に集中し、薬草を見つける。
可笑しい。既に数十分探しているが、一向に見つかる気配がない。
「彼奴らは森の中の薬草も持っていきやがったのか?」
そんなことは無いだろう。本当は力のある人以外は森の中に入ったりしない。ただ自分の運がないだけだろう。
日は沈みかけ森のなかは薄暗くなってきた。
「賢には悪いが明日にしよう」
流石にこれ以上ここにいると里に帰れなくなりそうだ。それに、アイツの事だ。俺の帰りが遅いとアイツまで此方に来そうだ。
そう思い引き返そうとする。しかし、
「ヴッ!?」
足を滑らせその場に倒れこむ。しかも運悪く頭を何かに打ってしまった。
「いっ・・・てぇ・・・」
目が覚める。悲鳴を上げる頭を押さえながら、周囲を見渡す。
完全に夜だ。辺りに明かりなんて一つもない。
「人生終わった・・・」
こんな状況になればこの後の事なんて予想できる。
妖怪に喰われる
今までに感じていなかった恐怖心が沸き出る。
死にたくない。でもこの状況はいずれ見つかり、喰われる。
その場から逃げて早く里に帰ろうとするが、体が動かなかった。余程怖いのだろうか。少しも動こうとしない。諦めが肝心だろうか。いっそこのまま死のうか。
死んでも心配するやつなんぞそんなにいない。それに里の人達は俺が死んだら喜ぶだろうし。
近くの木に寄りかかる。そして、最後の晩餐として袋から干し肉を取り出す。
「最後くらいは豪勢なもの食べたかったなぁ・・・」
泣き声になりながらかぶりつく。
「固・・・」
賢なら普通に食べられるのだろうか。俺には固くて食えたもんじゃねぇ・・・
肉を食べながらこの後のことを考える。
どんな殺され方で死ぬのだろうか。腕を引きちぎって食べるのだろうか。それとも丸飲みだろうか。
まぁ、死ぬなら一瞬で死にたいよな。
どうでも良いことを考える。
「つまんねぇ人生だったな・・・・・・」
ひとつ目の干し肉を完食し、もうひとつ袋から取り出す。
「お腹一杯だな・・・」
と言い袋に戻そうとした瞬間、背筋も凍るような体験をした。
「ならそれ私に頂戴」
幼く高い子供の声。俺の隣から声がした。瞬時にその方向を見ると小さな女の子が此方を除いていた。
彼女と目が合う。彼女の目は深紅で今にも吸い込まれそうなほど深い、深い紅色だった。
「まぁ、そのお肉より貴方の方が美味しそうだけど」
ショートボブの綺麗な金髪の子が何かを言っているが、休の耳には全く入っていなかった。
惚れた。いや、こんな幼い子供に惚れるのは危ないし、しかも妖怪と来た。自分の好みを疑いたくなったが惚れてしまったのだ。妖怪に。
「可愛い・・・」
「へ?」
拍子抜けな反応をする妖怪。当たり前だろう。今から喰らおうとしている生き物が自分を可愛いといってきたのだ。
「・・・何を言っているの?」
「惚れました」
若干引いている妖怪と、妖怪に惚れた奇行な人間。
「え、えぇ・・・」
彼女は妖怪だが、不思議と恐怖心と言うものがなかった。自分の感性は恐怖のあまり狂ってしまったのか?
「貴方・・・何を言っているの?」
再度確認してくる妖怪。初めてなのだろうか。捕食対象として見ていたやつがこんな事を言い出すなんて。
もし逆の立場だったら俺は引くだろう。
「だから、惚れました」
「そ、そうなのかぁ・・・?」
調子を崩され返事に困る少女。それを見て可愛いと思ってしまう自分。周りは真っ暗で風が草木を靡かせその場がいかに静かなのか強調してきた。
「名前は?」
「え、な、名前?」
完全に主導権を握られた妖怪。人間相手に劣勢だった。名前を聞かれ一瞬戸惑うが、素直に答える。
「・・・ルーミア」
「ルーミア・・・か。俺は休。名字は無いよ」
「聞いてないよ・・・」
もう食べる気なんて失せてしまったのか、休の隣に座り込んだ。
「貴方は私が恐くないのか?」
「全然」
「ヴッ・・・・・・」
ショックだったのかその場に伏せてしまったルーミア。それをあやすように休はルーミアの頭を撫でた。
「ちょ、ちょっと」
少女らしからぬ力で休の腕を掴み頭から手を離させる。
「あ・・・ごめんな。つい」
「つ、つい・・・?」
顔を見ると暗くて良くは見えないが若干顔が赤くなっているような気がした。
「あの・・・私は貴方を食べようとしてるんだけど」
話を戻し、立場を分からせようとするルーミアだったが、休はそんな事お構いなしに干し肉を差し出す。
「正直な話食べられたくないから変わりにこれ食べて」
差し出された干し肉をルーミアは受け取り、睨みながら質問をした。
「ふざけているの?人間の癖に生意気な・・・」
「その肉あんまり美味しくないんだよね」
「は、話を聞けぇ!!」
ルーミアは休の胸元を掴み、必死に睨み付けるが休にとってそれは可愛い子が睨み付けているようにしか見えなかった。
「もう行く・・・」
ルーミアは休を食べることを完全に放棄しその場を立ち去ろうとする。しかし、休はちょっとまてとルーミアに言うと頼み事があるかのように片手を前に差し出し、こう言った。
「ルーミア。お願いがあるんだけど・・・」
「断る」
「お願いします」
「やだ」
「どうか!!」
「ちょ・・・」
押し負けた者は勝った者の言うことを聞く。
妖怪は人間に怒りを覚えるが、何故か目の前の人間を殺そうとは思わなかった。
「里まで連れてってくれませんか・・・」
「・・・分かったよ」
「ここでいい?」
ルーミアが立ち止まった場所は里の門から少しだけ離れた場所。辺りは草原で里の灯りが実に綺麗だった。
「ありがとう。優しいな」
「あんたは少し頭が逝ってるよ」
照れ隠しなのかルーミアは顔を赤らめながら休に言った。しかし、その時妙に突っかかる言葉をルーミアは発したのだ。
「まぁ、最近は沢山食べれてるし今日は見逃してあげるよ」
「ん?」
「ほら、早く行ったら?殺すよ?」
まだ殺されたくないので走り始める休。その姿を後ろから見つめているルーミアだったが休が立ち止まり後ろを振り返った。
「好きだぞ~」
軽くからかってくる休。それに対してルーミアは笑顔で「死ね」と答えた。
里に着くと、辺りは既に静まり返っていてた。物音一つもしない大通りを抜けて、里の隅に移動する。
すると小屋のような我が家が見えてきて安心感を持たせてくれた。
ボロボロのドアを開けると真っ暗で良く見えないが、人がいるのが分かった。
「誰?」
声をかけると人影が動き、顔が此方を振り替えるのが分かった。
「休?休なのか!?良かった!!生きてたんだな!!」
「勝手に殺すな。まぁ、ごめんな。薬草・・・取れなかった」
「気にすんなよ。お前が帰ってきたので十分だ」
蝋燭に火を灯すと部屋の中が薄暗く照らされ、さっきよりは辺りを確認しやすくなった。
賢の目からは涙の後が見え一瞬戸惑ったが、今は笑顔で安心することができた。
「お前が帰ってきて本当に良かった。今日は疲れたろ?なら、さっさと寝ろって。薬草の件は後でいい」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」
賢二が帰り、静かになった部屋で一人考える。
今日あった妖怪。ルーミア。
可愛かったなぁ・・・・・・
それから日がたち、毎日のように夜里から抜け出し彼女に合いにいった。森の近くに行くと決まって彼女が現れる。何故俺が来るのが分かったのかと聞いても何も答えてくれなかった。
最初は何でもかんでも彼女は俺を殺すぞとかキモいなどで罵ってきたが日がたつにつれ、自分の事を言い合う位の仲になっていった。
そしてある日、事件は起こった。
いつものように里から抜け出し彼女に合いに行こうとすると後ろから声をかけられた。
「お前、何か悪巧みしてるだろ?」
振り向くと数人の男が俺を睨み付けており、手には太い木の棒やロープを持っているのが確認できた。
「そんなわけないだろ?悪巧みなんて・・・」
「嘘をつくな。俺は知ってるんだぜ?お前が夜毎日のように妖怪に会いに行っている事なんて」
ばれていた。いや、本当は薄々思っていた。こんな簡単にことが進む筈がないと。
「だからさ、考えたんだよ。俺たちは優しいからな。お前を今里から追い出してやるよ。皆が見ている前では恥ずかしいだろう?」
「それはお前たちが里の守護者に目を付けられたくないだけだろ」
「うるせぇ!!」
一人の男は気の棒で俺の体を叩き始めた。身体中に鈍い痛みが襲い、次第に感覚が無くなっていく。
数分たつともう立ち上がる気力さえもなくなっていた。
「よし、縛るぞ」
三人が俺の手足をロープで縛り、身動きを取れないようにした。そして男三人して俺を担ぎ上げ、里を後にする。
「お前ら此方のほうの森に棄てるぞ。近くの森だとあの妖怪が出てくる」
「分かってるって」
ケタケタと笑いながら運ぶ男たち。少し大きめの森に少し入るとそのまま俺をその場に落とした。
「じゃあな厄介者」
最後の土産だと言うと、木の棒を持った男が俺の頭を目掛けて降り下ろした。それと同時に意識がとんだ。
休が里を追い出され数ヶ月が過ぎた頃。とある妖怪は探していた。初めて殺したくないと思った人間を。
「もうあえないのかな・・・」
自分を恐れてしまったのか?それとも訳があってあえないのか。でも、どちらも違うと思う。彼は毎日会いに来てくれた。
私は嬉しかった。捕食対象としか見ていなかったけど彼と会っているうちに自分から会いたいと思えて。
日に日にその気持ちが大きくなって。でも会えなくて。
辛い。辛いよ。休。会いたいよ。貴方に会いたい。
もう会えないの?もう、話すことすら出来ないの?
こんな気持ちが私の中で疼いた。
そして最近。風の噂で有ることを知った。
厄介者が里を追い出されたと。
これは森に薬草などを取りに来た人間たちが言っていたことだから確信が持てた。だからこそ信じたくなかった。だから、つい、その人間をぶん殴って絶命させてしまった。
「会いたいよ・・・休」
私は彼が生きている事を信じて探す旅にでた。
絶対に生きている事を信じて。私の気持ちを伝えたくて。
まっててね。休。
里から離れた場所に建てられている博麗神社。そこで二人の人物が話し合っていた。
「なぁ、霊夢。俺の怪我が直ってきたからそろそろお願いを聞いてほしいんだ」
「それ、前から言ってたわよね」
縁側でのんびりしている博麗の巫女は隣で呑気にお茶を飲んでいる男を見た。
「それで、願いって?」
彼は立ち上がり、目の前に立つ。そして、
「俺の大切な人を探す手伝いをしてほしい」
と迷いのない声で堂々と喋った。
大切な彼女に会うために。
どうでしたでしょうか。誤字などがありましたら気軽に教えてください。
それではまたどこかで。