ポケモンと共に育った少年のお話。


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ポケットモンスターモルガナイト

火臼山。

カントー地方に存在する、秘境と呼ばれる場所の一つであり、臼のような形をしたこの山はほのおタイプのポケモンが多数生息していることで一部の研究者たちに知られていた。

ただ、人が立ち入ったことはごく少なく生態調査があまりなされていないことから学者には調べようとするものも多い土地である。

携帯獣学、地質学と言ったあらゆる観点から見て研究のしがいのある土地であった。

その秘境に携帯獣学(ポケモン)研究の権威であるオーキド博士が多数の助手を伴って訪れていた。

理由は問うまでもない。

無論、この土地に住まうポケモンの生態調査のためにだ。

ポケモン研究者としてかねてよりこの土地の調査を希望していたオーキド博士は、念願かなってこの土地へと調査をしに訪れたのである。

岩肌の少ないこの山は地面がやや粘土質の土のようで、木もかなり多く食べられそうな木の実も多く見られた。

 

オーキド博士たちがこの山に入ってから最初に思ったことは、暑い、だ。

温度計は29度を指しているこの状況は、季節がもう冬に差し掛かろうとしている秋であり、この山が火山ではない以上、異常であると言えた。

オーキド博士はこの気温の原因こそがほのおタイプのポケモンが多く生息すると言われる理由の一つであると予測した。

調査の途中で川を見つけたが、その水の温度も異様に温い。

土も湿ってはいるが、地面の温度は、熱い。

この土地はまるで、炎のエネルギーに曝されているかのようであった。

土地に関しては殆どデータが無かったので情報収集はそこそこ順調であった。

しかし、調査が始まって1時間以上経っても、一向にポケモンは発見できなかった。

ギャロップやポニータのものと思われる蹄の跡、ロコンやヒトカゲの果実をかじった後の歯形など、辺りにはポケモン生息の形跡はあるのにだ。

その中には数時間以内にできたと思われる新しいものも多数あるのにもかかわらずである。

オーキド博士はその場所での探索を3時間で打ち切り、山の上へと向かった。

ここでこれ以上探していても埒があかないという判断からである。

そして山の、臼の中に入った後から気温はぐんと上がり温度計は38度を指した。

いよいよ、本格的に山の中へと足を踏み入れた証である。

地面の温度はやや熱くなっていた。

 

中へ入って歩くこと300mほどで、あるものが目に入る。

オーキド博士を筆頭とした研究者たちはゴクリと喉を鳴らした。

そこにあったのは、露出部分だけでも人の背丈よりも大きいほのおの石があったのである。

今までに発見されたほのおの石の中でもダントツに大きい石であった。

オーキド博士の助手たちはそのほのおの石を調べようと勢いよく群がった。

しかしその直後、バキッと枝が折れる音が場に響いた。

音に驚いた研究者たちがそちらの方向を振り返ると、そこには一体のギャロップがいた。

通常赤の足、背中や尾の炎の色は灰色。

体の色も通常個体よりやや暗い色に見える体を持った色違いのギャロップ。

足元にはわざと踏み抜かれた枝が落ちていた。

そのギャロップを見て喜色の表情を研究者たちが浮かべるも、それは一瞬で変わった。

自分たちの周囲から囲むようにして、明らかな敵意を持ったポケモンたちが現れたからだ。

まるで、タイミングを合わせたかのように。

実際、ポケモンたちは合わせたのだろう。指示を出したのは、此処のボス。

あのギャロップがそうなのかとオーキド博士は予想した。

ポニータ、ギャロップ、ヒトカゲ、リザード、リザードン、 ロコン、キュウコン、ブーバーやガーディにウインディと言ったほのおタイプのポケモンに、火に強いドラゴンタイプのミニリュウ、ハクリュー、カイリュー。

いわタイプのポケモンもいる。

圧倒的に多いのがほのおタイプのポケモンであることは明白。

故に、彼らのボスがギャロップなのかと思ったのだが、その予想は大きく外れることになる。

直後彼らの目の前に現れた少女にも、少年にも見える子供。

 

『モルガナイト』統率力の高揚の意味の石の名を持つ少年によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタらは、何モノだ? 」

 

 

その子供は背に”黒い”リザードンを引き連れてやってきた。

そして研究者たちの目の前までやってきた彼は淡々とそう告げた。

周りのポケモンたちは、子供とリザードンに向けてそのすべてが頭を垂れていた。

その様子を見てこんな年端もいかない少年がポケモンたちを従えていると言う事実に研究者たちは戦慄した。

そして同時にその子供も敵意を向けていることに彼らは怯え、固まった。

子供は冷ややかな目つきで研究者たちを見回す。

 

 

「またこないだみたいな密猟者ってわけじゃなさそうだが……」

 

 

子供が短くそう言う。

先程より一段トーンの低くなったその声は彼の僅かな苛立ちがにじみ出ていた。

密猟者。その言葉を聞いてオーキドは前へと出た。

 

 

「わしはオーキドと言う。この地にはポケモンの生息分布の調査に来た」

 

「調査……? 」

 

 

子供が首をかしげる。

一般的なものかはどうかは分からないがこの少年にはある程度教養が備わっている様にオーキドは感じた。

身に纏う雰囲気のようなものからそう思ったのだ。

故に慎重に話を進めることにした。

彼を怒らせるのは拙い。

何が逆鱗に触れるかはほとんどわからない以上、密猟者と言われて浮かんだとある組織についても簡単に触れるわけにもいかない。

まずはこの者の望んでいる通りに説明を。

そう判断し、自分たちについて話をすることにしたのだ。

 

 

「そうじゃ。この火臼山にどんなポケモンがいるのかを調べに来たのじゃよ」

 

「……」

 

 

子供は訝しむようにオーキドを見る。

じっとオーキドの目を見つめ、それは何かを確かめているかのような目つきだった。

 

 

「何のためにだ」

 

「む? 」

 

 

いきなりの子供の問いにオーキドは答えを迷う。

一体何を聞かれているかが良くわからなかったからだ。

それを察したように子供は質問を続けた。

 

 

「何のためにそんなことをする」

 

「どういう意味じゃ? 」

 

「俺はアンタらが捕まえるやつを見定めるためにここに何がいるのか調べに来たんじゃないかと疑っている」

 

「なるほどの」

 

 

当然の疑いだとオーキドは思った。

彼の言っていたことによれば最近この地に密猟者が現れたばかりなのだ。

そこに現れたやつらがその者たちと関係が無いなどと言うのはムシが良すぎる考えである。

だが疑っているだけで、実力行使はしてこない。

彼は、試しているのだ。オーキドを、そして後ろにいる助手たちも。

だから、オーキドは正直に答えることにした。

 

 

「ポケモンについてもっと知るためじゃよ」

 

「……」

 

 

彼がオーキドの目を射抜くような視線で見る。

オーキドはその視線に一瞬気圧されたが、目をそらすことなく話を続ける。

 

 

「わしはポケモン博士などと呼ばれておるがその実ポケモンについて知らないことは多い。

だからこそ調べておるのじゃよ。どのポケモンがどのような土地を好むのか。どのような食物を好むのか。

どんなポケモンと共生しているのか。どんな生活をしてるのか、などがの」

 

「……」

 

「ただそれだけじゃよ。付け加えるのなら、わしがポケモンを好きじゃから、ポケモンについてもっと知りたい。本当にただ、それだけじゃ」

 

「……」

 

 

オーキドはそう言うと口を閉じて彼へと視線を返した。

オーキドの視線を受け止めた後、彼はゆっくりと目を閉じた。

そして、しばらく目を閉じて考え込んでいた。

 

1,2分経ってから彼は目を開けたかと思うと、即座にオーキドに向かって言った。

 

 

「余計なことをしないのなら、俺が案内をしてやる。……じーさんが残した資料もあるからくれてやる。

そして用が済んだらとっとと出ていけ。余所者たち」

 

「分かった」

 

 

彼がオーキドたちに背を向けて歩き出すと黒いリザードンが一つ小さく吠え、ポケモンたちがばらばらと解散していく。

そのうちのいくらかは彼の背についていき、それ以外のいくらかは、オーキドたちを見張るかのようについてきた。

オーキドは前を歩く少年の背中を見ながら一つ尋ねた。

 

 

「なあ、おぬし、名は何と言う?」

 

「……」

 

「言いたくないなら構わんが……」

 

「モルガナイト」

 

「ん? 」

 

「名前だ。モルガナイト。それが俺の名前」

 

「そうか……」

 

 

オーキドの問いにそっけなくそう答えると、彼はスタスタと奥へ奥へと歩いていく。

オーキドはそれについていき、研究者たちもびくびくしながらついていくこと15分ほどで木の上に建てられた小屋にたどり着いた。

 

 

「ここだ。ちょっと待ってろ。昔住んでたじーさんがまとめてたここについての資料がある」

 

「分かった」

 

 

するすると木につけられたロープを上っていくと小屋の中へと入っていき、直ぐにいくらかの紙の束を持って帰ってきた。

それをオーキドに渡すと、一つ一つ資料についての説明をしていく。

オーキドから見ても資料は見事なものであった。

簡潔かつ丁寧にまとめられており、重要な点は見やすくなっている。

驚いたことにこの土地における暑さやほのおタイプのポケモンが好んで住む理由なども記載してあった。

その資料や、モルガナイトの説明のおかげで調査はもう必要なかった。

聞けば、資料を作ったその爺さんが死んだのはまだ昨年のことでこの資料は比較的新しいものであったのだ。

大方資料についての話が終わったところで、驚いたことにモルガナイトの方からオーキドに話しかけた。

 

 

「なあ、アンタは他のとこのポケモンとかにも詳しいんだろ? ここじゃあ他のとこの話なんか聞く奴いねえし聞けねえから、教えてくれ」

 

 

その言葉にオーキドは少し驚いた。

彼が外のことを気にするような性格だとは思っていなかったからである。

 

 

「外に興味があるのか? 」

 

 

オーキドが問いを返すと、モルガナイトは少しバツの悪そうな表情をして

 

 

「……あったら悪いかよ」

 

 

小さくそう呟いた。

オーキドは小さく微笑みを浮かべていや構わんよ、と告げた。

それから語り始めたオーキドの話はモルガナイトにとって実に興味を惹かれる話だった。

各地のポケモンの生活の様子、ポケモンと人が共棲する生活の様子、とりわけポケモントレーナーに関する話には興味をより濃く示していた。

そこでオーキドはひとつの提案をした。

 

 

「なあ、お主。この山をおりてわしと一緒に来んか? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

明日返事を聞きに来るとオーキドは言い残し、助手たちと山をおりて行った。

モルガナイトは一人、正確には一人と一匹で夜空を見上げていた。

 

 

「なあ、俺はどうするのがいいかな? 」

 

 

彼は自身の横に立つ黒いリザードンに話しかける。

このリザードンはこの山に十数頭いるリザードンの中で最も強い個体だ。

リザードンとその進化前のポケモンたちを統率し、モルガナイトが手が離せない際は彼に代わって他のポケモンたちも統率してきた彼の最も信頼する相棒にして右腕。それがこのリザードンなのである。

リザードンは答えない。彼にその問いは関係がないからだ。もとより決めている。

彼がここを出る時は自分もここを出る。そのために群れの次のボスも決めている。

彼を支える。それがこのリザードンの決意だった。

自身がヒトカゲであったころから共に育ったのだ。今更離れるつもりも毛頭ない。

そんなリザードンを見てふう、とため息をつく。

 

 

「そうだよなあ……そんなこと、俺が決めることでしかないよなあ……」

 

 

元より誰かに回答をゆだねていい問題でもないか。

そう思いながら夜空を見上げる。

標高の高いこの地点では本来この山と同高度の地点では住めたものではないのだが、この山の地下に大量に眠るほのおの石のエネルギーにより温め続けられているため酸素が薄いことを除けばこの地点が唯一人が快適に暮らせる場所だ。

少し話は逸れたが、標高の高いこの場所は、星が良く見える。

彼が考え事をする時はいつも屋根の上に乗っかりこうして星を見ていた。

目を閉じれば思い返される。

物心つく前から彼はこの山に住んでいた。

彼は横にいるリザードンをはじめとするたくさんのポケモンたちと共に暮らし、共に育ってきた。

一匹一匹の細かい違いが分かる。見た目も、性格も、戦い方も。

他所から敵が来れば、みんなで戦った。他所にいくらかのメンバーでこっそり出かけたこともあった。危険なことをして当時まだ生きていた爺さんに一緒に叱られたこともあった。

思い返せば止まらない。ここには彼の生まれてからのすべてがあるのだ。

ここに留まる思いも強い。

しかし彼の中ではここを出て外へ行きたいと言う、より強い思いが根付いていた。

死ぬ前に爺さんが話してくれたたくさんの外の世界の話。

この限られた枠の外、もっと、限りなく広い世界へ馳せる憧れ。

 

だが、彼はそれを飲み込んだ。

俺がここを出ていけば、コイツもついてくる。

守る奴が少なくなる。ここのやつらはみんなただ守られるほどよわっちい奴らじゃない。

でも、こいつらに認められたボスは俺だ。守ると決めたのだから、外へはいけない。

 

呑み込んだ思いをふり払ってしまおうと屋根から飛び降りる。

走って、振り切ってしまいたい気分だった。

だがそれはできなかった。

目の前に、たくさんのポケモンたちが立っていたからだ。

その中心に立っているのは色違いのギャロップと、他の個体より明らかに大きいカイリュー。

この山のNo.2とNo.3だ。

その様子を見て、彼は顔に作り笑いを作る。

 

 

「どうしたお前ら? ああ、昼間の件か? だいじょうぶだ、俺は出て言ったりしないぞ?

昼間のことならあの妙な爺さんの戯言だ、気にすることじゃあ……」

 

 

そこで、彼は言葉を切った。

ポケモンたちが、悲しげな眼をしていたからだ。

ポケモンたちには分かっていたのだ。彼の外の世界への憧れの、その大きさが。

現在のそれぞれの群れのボス格はみな彼と共に育ったものか、彼の成長を見てきた者たちだ。

彼のポケモンたちに関する理解と同じくらい、ポケモンたちの彼への理解も深い。

故に、ポケモンたちは彼にここから出てほしかった。

足かせになどなりたくない。家族の望むことをかなえてやりたかったのだ。

 

目を見てそれを悟った彼は、深くため息を一つついた。

 

 

「分かった。ありがとな、お前ら。俺はここを出ていく。いつか戻ってくるから、戻るまで、キッチリみんなで守ってくれ」

 

 

ポケモンたちが、嬉しそうに、そして少し寂しそうに鳴き声を上げる。

そしていくつかの群れの中から一頭ずつ、ポケモンたちが彼についていくことを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……夜が明け、やってきたオーキドたちとともに、彼らはこの山から去っていった。

 

そう遠くない未来、ポケモンと人との歴史は、彼を中心にめまぐるしく回っていくこととなる。

 

 

 

 

 

 

 




続くかは、分かりません。
とりあえず短編。



追記 
大量投降されちゃってましたが、ミスです。消しましたのでなにとぞご容赦を。

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