ハイスクールG×E   作:フリムン

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創作の秋です。
筆が乗ってます。


第72話

 悪魔にとってはアウェー中のアウェーな境内にいるからか、兄ちゃんが辺りを見回しながらそわそわしている。

 

「大丈夫よイッセーくん。ここは特別な約定と法陣で守られていますもの。悪魔だって入れますわ」

 

「へぇー、凄いんですね」

 

 ……そういえば、グレモリーっていう名門の眷属とはいえ、どうして一悪魔でしかない朱乃さんの家にはこんな優遇がされてるんだろうか?

 

 ふとその疑問を朱乃さんに問いかけてみる。

 

「それは……」

 

「それは、魔王ルシファーの妹君の眷属であるんだから、これからの協定のための友好の印、という訳ですよ」

 

 答えようとした朱乃さんの言葉を遮って、第三者の言葉が割り込んでくる。

 

 驚いてそちらに顔を向けると、一人の青年が立っていた。

 彼は柔和な笑顔を僕らに向けて、右手を差し出す。

 

「初めまして、赤龍帝の兵藤一誠くん。そして………【()()】の神結悠斗くん」

 

 ―――異端。

 今言われた言葉の意味は理解できても、意図を理解することが出来ず、僕はただその手を見ることしか出来なかった。

 

「おい、あんたがどこの誰かは知らねーがよ、ハルに言った事はどういう意味だよ?」

 

 そんな僕の代わりだろうか、兄ちゃんは少しドスの聞いた声で問いかけ、青年を睨み付ける。

 

「ああ、怒らせてしまったのなら申し訳ありません。別に悪い意味で言ったのではないのです。

 しかし、ふむ、どうやら()()のようですね」

 

「それはどういう……」

 

 まだ、というあの人と同じ言葉をこぼした青年に、僕は問いかけた。

 けど、その問いに、対する答えは得られなかった。

 

「それは君自身で知るべきです。私はあくまで知識として知っているだけですので。

 ただ一つ言えるのは、()()()()()()()()()()()()、ってことだけです」

 

「覚悟?」

 

「ええ、これは私の勘ですが、きっと生半可なことでは無いでしょう」

 

「………」

 

 覚悟、か。

 夢を見たとき、僕は涙を流した。苦しかった。辛かった。それが何かはわからないけれど、それを知ればもっと苦しくなるのは何となく理解している。

 

 怖いなぁ。

 とても怖い。

 

 けど、でも、それを知らない限り僕はおそらく、このモヤモヤをずっと抱えることになる。

 

 それは、嫌だな。

 

「…覚悟は、できてます。多分。ただ少し怖いだけで」

 

「……それなら、安心ですね」

 

 そう言った青年は、アーシアさんのような慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、そっと柔らかく僕の頭を撫でる。

 それがとても暖かくて、少しだけ心が軽くなった気がした。

 

「さて、まだ名乗っていませんでしたね。本題に写る前に名乗るとしましょう」

 

 青年は僕の頭から手を離し、僕と兄ちゃん二人に体を向ける。

 

「改めて初めまして。私は【守護】のミカエル。人々には四人の熾天使(セラフ)の内の一人として知られております。あ、あと天使たちの長をしております」

 

 

 

「………」

「………」

 

 僕と兄ちゃんは顔を合わせ、視線を交差させる。

 

 ―――なあハル。

 ―――なに?

 ―――もしかして大物?

 ―――もしかしなくても天使のトップだね。

 

 

「……――――」

 

 兄ちゃんがなんか面白い顔で僕をみる。

 

「―――…」

 

 僕はニッコリと笑顔を返す。

 

 

 それから数秒の間が空き、

 

 

 

「生意気いってさっせんしたぁぁぁ!!!」

 

 兄ちゃんの土下座と共に響き渡る謝罪が、風に乗せられて空高く響き渡った。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「それで、そんなお偉いさんがどうしてこんなところに?」

 

 土下座を続ける兄ちゃんを無視してミカエル…さまに問いかける。

 

「実はですね、あなた方お二人に用がありまして」

 

「僕らに?」

 

「ええ」

 

 そういって、ミカエルさんは兄ちゃんを立たせて、パチン、と指をならす。

 

 すると、兄ちゃんの目の前に一振りの剣が光と共に現出した。

 

「これは?」

 

 兄ちゃんの問いにミカエルさまは答えた。

 何でも、過去の聖人、聖ジョージことゲオルキウスの使用した聖剣らしい。

 それを、今度の会談での友好の証として悪魔側へのプレゼントとして贈与するとのことだ。

 

「兄ちゃん兄ちゃん、これあれだよ、ラグラージにリーフブレード叩き込む的な」

 

「甦る第三世代のトラウマ………っ!!」

 

 僕の的確な例えに、イマイチ理解してなさそうなアホ面を晒していた兄ちゃんの表情が恐怖に染まる。

 

 と、思ったのだが、何でも魔王さま、アザゼルさま、ミカエルさまが特殊な術式を組み込んでいるらしく、兄ちゃんは持つことができるらしい。

 『特殊な術式』って言葉便利すぎない? て言うか豪華すぎない?

 

 そんなこんなで、なんとかのドライグがサポートすることで、アスカロンは【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】と一体化することができた。

 

「これで、イッセーくんへの用は終わりです」

 

 となれば次は僕か。

 しかし、僕にいったい何の用だろうか。また贈り物だとしたら、お門違いというかなんというか。

 

「あの、僕は確かに兄ちゃんたちといますけど、別に悪魔じゃ無いんですが……」 

 

「いえ、悪魔でなくても、あなたはリアス・グレモリー陣営の戦力の一角として我々から認識されています」

 

 あー、そういう。

 

「それと、申し訳ないのですが、あなたへのは贈り物ではないのです。ただ、見てもらいたいものがあります」

 

 まあ、確かに聖剣とか持ってても持て余すしね。

 見てもらいたいものってなんだろう?

 

 ミカエルさまが先程と同じように指を鳴らし、僕に見てもらいたいものとやらが光と共に現れる。

 今度は僕の前ではなく、ミカエルさまの手の上にだが。

 

 

 ―――異質な匣だ。

 

 

 大きさ的にはティッシュ箱を二つ重ねたようなサイズだ。それはいい。

 だが、その匣はあまりに異質であり異常だった。

 

 

 がんじがらめに巻き付けられた鎖。

 それを覆うように張られている大量の護符。

 その上から張り巡らされたいくつもの呪文のような文字と小さい魔方陣の数々。

 

 そういう知識がなくても分かる。これは封印だ。それも、かなり厳重に、慎重に、執拗にかけられた封印。

 

『主君! 下がってください!!』

 

『この気配は!?』

 

『そんな馬鹿な…!』

 

「…これ、は?」

 

 冷や汗が流れる。

 僕の内のアラガミたちが警鐘をならす。

 

 これほどの封印が施されているにもかからず、そこから漏れ出してくる気配は、僕の背筋を這い上がり、脳髄を刺激する。

 

「お、おい、どうした、ハル! 冷や汗がすごいぞ! この箱がどうしたんだよ!?」

 

「……兄ちゃんは、この匣に何も感じないの?」

 

「え?」

 

 よく見ると、ミカエルさまも、朱乃さんも兄ちゃんも冷や汗どころか、この匣の気配すら感じていない様だった。

 

「やはり、わかりますか」

 

 僕の様子を見ていたミカエルさまが口を開く。

 

「3陣営に加え日本の神社でも封印を施して貰いました。その上で漏れでるこの気配を感じられるのは、我々や魔王、堕天使総督を除いておそらく貴方だけでしょう」

 

 そういって、ミカエルさまは匣の封印を一つづつ、丁寧にほどいていく。

 

「み、ミカエルさま、その匣の中にはいったい何が…?」

 

 朱乃さんが恐る恐る、という風に問いかける。

 

「これは数ヵ月前とある一団、我々と敵対する集団の拠点の一つを討伐した際に、彼らの研究施設から押収したものです。長らくこれの正体がつかめず、しかしその凶悪性から誰も手をつけられなかった。

 ですが、そこに貴方の情報が我々のところに飛び込んできたのです、神結ハルトくん」

 

 ミカエルさまは、そういって僕の目を、僕の内にある力を見つめる。

 

「君の力はあまりに異質だ。君の武器も、能力も、君自身も。まるで、この世界には存在していないかのような異質さ。

 この匣に収めた物質と同じ異質さです」

 

 最後の封印が解かれる。

 その瞬間、この場の空気が変わる。

 

 先程まで何も感じていなかった朱乃さんと兄ちゃんの二人も、その気配に冷や汗をたらし、咄嗟に臨戦態勢をとる。

 

「その反応は正しい。ですがご安心を。この物質は今は触れなければなんともありません。また、この場には現在3陣営それぞれの戦闘員が待機しています。有事の際は、あなた方三人は確実に逃がして見せます」

 

 そうして、匣が開かれる。

 

 

 

 ああ、

 

 

 この気配を、

 

 

 僕は、

 

 

 知らない(知っている)

 

 いや、知っている(知らない)はずだ。その筈なんだ。

 

 

 それから放たれる濃密な気配は、殺意ではない。そして敵意でも、害意でもない。

 

 これは、食欲…?

 

 

 匣に収められていたのは、拳ほどの肉塊だった。

 肉というにはあまりに白く、そして塊でありながら未だに脈を打つ、異質な物質。

 

 その肉塊から、あまねく全てを喰らい尽くしてしまいそうな貪欲なまでの食欲を感じとる。

 

『馬鹿な………』

 

 マルドゥークが驚愕する。

 サリエルが絶句する。

 ボルグ・カムランが息を飲む。

 

『主よ、それは』

 

 言われ無くとも、何故だか理解できた。

 

『それは―――

 

 

      ―――我らの()()だ』

 

 

 つまり、アラガミ。

 

 僕の中に在る、この世ならざる異端の神々が、神々を模した怪物が、この肉体を同胞と言ったのだ。

 

 その意味を理解できないほど、僕は蒙昧じゃない。

 

 

 アラガミの肉片がこの世界に存在する。

 そして、それを3陣営と敵対する組織が持っている。

 

 

 僕は目の前の天使に問いかける。

 

 

「………これを見せて、僕にどうしろと」

 

 声が震えるのを、必死に隠し殺す。

 

「ハルトくん、貴方にはこれが何か、分かるのですね?」

 

「分かる。知らないけど、これがなんなのかしっかりと理解した訳じゃないけど、分かる」

 

「ではこれは」

 

「その肉は、肉の持ち主の名は【アラガミ】 神々の名を冠しあらゆる命を喰らい尽くす星の化け物にして、あまねく文明を喰い破る捕食者」

 

「なぜ貴方がそれを知っているのか、聞いても?」

 

「わからないよ、何も。何でそれがここに在るのか。なぜ僕がこんな力を宿しているのか。僕にはさっぱりだ」

 

「そうですか」

 

 すると、そこに僕らの会話を聞いていた兄ちゃんがもどかしそうに割り込んできた。

 

「な、なあハル! 俺たちにも分かるように説明してくれ!」

 

 その言葉に、僕は返す。

 混乱している心をなんとか宥めて、謝りながら。

 

「ごめん、兄ちゃん。明日、皆と話すよ。僕だって混乱してるんだ。時間が欲しい」

 

「………そうか」

 

 兄ちゃんはそれでなんとか納得してくれたのか、引いてくれる。

 

「ハルトくん我々が貴方にこれを見せたのは、貴方にも会談に加わって欲しいからです」

 

 ミカエルさまが僕の目を見て、僕への用件を伝える。

 

「え? 魔王さまや、堕天使の総督が参加するような会談に?」

 

「はい。この肉塊を持っていた連中は、我々の和平を好ましく思っておらず、必ず襲撃があるでしょう。その時、貴方の【神 器(セイクリッド・ギア)】……いえ、神機、でしたか。その力が必要になるはずです」

 

「つまり、僕に戦えと?」

 

「貴方が戦いを好まないのは私にも伝わっています。ですが、どうか」

 

 そう、僕にミカエルさまは懇願した。

 

 ()()()()()()()、天上の上位存在が、人間の少年に、懇願した。

 その予想外の行動に僕や兄ちゃん、朱乃さんは絶句し、そして周囲の待機しているであろう人たちの動揺も伝わってきた。

 

「無論、対価はあります」

 

「た、対価?」

 

「――その力の解明。および貴方の自由の保護。我々は、それに全面的に協力し、貴方の自由を約束します。貴方がどの陣営に付くのかも、どこへ行くのも、我々は強制せず在ることを約束いたします」

 

 それは、魅力的だった。

 

 自由の保護はいい。おそらく僕は、グレモリー先輩に着いていって、悪魔陣営にいるだろうから。

 

 魅力を感じたのは、僕の力の解明。

 

 僕にすらわからないこの力と知識がどこから来たのか。なぜ僕に宿っているのか。

 それを知る手伝いをしてくれるのなら、僕は―――

 

 

 

 

 

 

 

「私は、嫌です」

 

 不意に、そんな言葉が僕らに届く。

 

 声の主を辿ればそれは、朱乃さんからの物で。

 

「朱乃さん?」

 

「私は嫌です、ミカエルさま」

 

 その声は震えていて、眦には涙が浮かんでいる。

 

 唇を噛み締めながら震えている彼女は、息を吸って、僕らを、ミカエルさまを強い眼差しで見つめる。

 

「それはどうしてですか?」

 

 ミカエルさまは優しく、問い質す。

 

「彼は、ハルトくんは優しい人なんです! 戦うのが嫌いで、怖いことが嫌いな、優しい人なんです! もうこれ以上彼を戦いに巻き込みたくないんです! 私は、彼を愛しています! だから、人間の彼を、私は……っ!!」

 

 悲痛な叫びだった。

 湿った声で、自身の我儘を、エゴを、愛ゆえに叫ぶ悲痛な悲鳴だった。

 

「彼は私を受け入れてくれた! その彼が傷付くのは、もう見たくないんです! せっかくコカビエルの傷も治って、ようやく日常に戻ったのに、また、また!!

 そんなのに、私は耐えられない!!!」

 

 きっと、これを叫ぶ相手が悪魔か、堕天使であったなら、下らぬエゴだと切り捨て、歯牙にもかけなかったのだろう。

 しかし、それをミカエルさまは優しく、慈父のような眼差しで見つめ、僕に視線を向ける。

 

 

 ―――貴方は、どうしたいのですか?

 

 

 

 そう目で問われ、僕は―――

 

 

 

 

 

 

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