死霊使いの従者   作:マサオ02

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森の逃走劇

 ゲイザーが稲妻のように駆け抜け、黒鵜たちに目掛け槍を突き出す。

 黒鵜は受けて立つかと思えば、座り込んでいるドロシーを抱え込むとゲイザーとは正反対の方向へ逃げ出してしまった。

 槍を空振りしたゲイザーは一瞬呆気に取られるが、そのまま二人を追跡していく。

 

「ちょっと!? あいつを倒すんじゃないの!!」

 

 従者の意外な行動にドロシーは驚いた。

 黒鵜は草木の影や隙間を利用して移動し、出来る限りゲイザーが追いにくくして時間を稼ぐ。

 

「あんなの本気で相手にするわけないでしょう。どうせあいつは放っておいても警備に捕まります。それまでの間、僕らはとにかく逃げればいい」

「呆れた。男なら正々堂々戦おうとか思わないわけ」

「お言葉ですが、僕が戦闘で自信あるのは防御だけです。明らかに格上の実力者に真っ向から挑むなんて馬鹿げてる」

 

 黒鵜はセフィラに引き取られてから戦闘訓練を続けている。

 ただし、黒鵜が教えてもらった技術は守りと回避に関するものがほとんどだ。黒鵜には自動人形を扱う才はあまりなく、武器を用いた攻撃も一つを除いてしっくりくるものはなかった。その為、セフィラは黒鵜に私兵としての戦闘能力を求めることは止めた。

 代わりに黒鵜へ任されたのは、身の回りの世話と町の暴漢対策ぐらいには使える護身術の習得だった。それでも特別講師を付けて徹底的に鍛え上げたので、要人警護の護衛役としては十分な実力が備わっている。

 だから黒鵜は敵とは戦わない。黒鵜にとって戦う相手とは、己の護衛対象へ降りかかる全ての脅威だ。

 常に守り続けるための最善の策を講じて動くことが責務。この場における黒鵜の最善手は敵との闘争ではなく逃走。勝利条件は、ドロシーを無事に森の外へ連れ出すことだ。

 だが、敵も簡単には通してくれない。

 さすがに小柄とはいえ、人一人抱えながら暗闇を走るのでは思ったように速度が出ない。次第に両者の距離が詰まっていく。

 

「追い付かれそうよ!!」

「・・・参ったな。やっぱり幼児サイズでもお荷物持ったままだと無理があるか」

「幼児ですってえ!? あんた後で覚えてなさいよ!! その生意気な口が聞けないように頭蓋骨剥いてやーーーーきゃあっ!?」

 

 突如、耳元で響いた破砕音に驚いて悲鳴を上げるドロシー。

 黒鵜が後ろを確認すると、ゲイザーは走りながら片方の手で地面に落ちている小石の中で手頃な大きさのものを拾っていた。

 そして、腕を力強く振り被るとこちらに向かって石を投げ飛ばしてきたのだった。

 

「投石!? くうっ!!」

 

 咄嗟にしゃがみこんで躱す黒鵜。

 直後、黒鵜が立っていた位置を石が通り、その先の幹に当たって粉々に砕け散った。さっきの音はこれが原因だったようだ。

 テニスボール程の岩石が跡形もなく砕けるとは、一体どれほどの腕力があればあんなふざけた威力を出せるのか。

 黒鵜の額を汗が流れる。調査資料にはゲイザーの最も得意なものは槍術だが、他に徒手格闘にも優れ大抵のスポーツは難なくこなせる天才運動児と書かれていた。

 十三歳の時には町で開かれた野球大会に参加して、五試合で投手に付き全て完全試合(一人も塁に出さない投手として最高の成績)でチームを優勝させたとんでもない偉業をもっている。

 そんな男が、さらに魔力で身体能力を高めているのだ。ただの石でも砲丸並の威力はあると見た方が良い。

 まだ後方からの攻撃は続く。後ろからの追撃に気を配りながらではさらに走りは遅くなる。追い付かれるのも、時間の問題だった。

 

「どうすんのどうすんのどうすんのよクロ!! このままじゃあ先に石を喰らってあんたの腐った頭がミカンみたいに潰れるわよ!!」

「そこは腐った蜜柑(みかん)のように頭が潰れるだと思いたいですね。でも、困ったことにドロシーの言う通りだ。これは、いずれ追い付かれる」

「だからそう言ってるじゃない!!」

「落ち着いてくださいドロシー。いいですか、僕がこれから言うことをよく聞いて、必ずその通りに実行してください」

「ふえっ?」

 

 投石の合間を見て、黒鵜はドロシーに何かを耳打ちする。それを聞き終えたドロシーは、まるで苦虫を踏み潰したような嫌な表情になっていた。

 

「・・・いつも思うけど、あんたって涼しい顔してとんだ性悪だわ。こんな嫌味ったらしい手、普通は考えつかないわよ」

「文句なら無事にこの状況を切り抜けてからお願いします」

「文句? 冗談。今は感謝してるくらいよ。これなら二人とも助かりそうだわ」

「では、打ち合わせ通りに頼みます」

「まっかせなさい!!」

 

 夜の森を駆ける二人が、いよいよ反撃の狼煙を上げる。

 

 

 

 

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