死霊使いの従者   作:マサオ02

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乙女人形の対応

 放課後になってようやく黒鵜はマグナスの住まいに来た。

 昼間は寝て休んでいたため身体も心もリフレッシュして今の黒鵜は冴えている。半日使用人の仕事をボイコットしたので今頃ドクロ娘が小言や文句を言ってるかもしれないが、黒鵜は気にしない。

 そんなもの、これからもっと恐ろしい人物と対面することを思えば軽いものだ。

 

「これがマグナスの部屋。てっきり悪の組織の秘密基地みたいに怪しげな建物かと思っていたが、案外普通だな」

 

 大きさで言えば黒鵜たちの住む学院長の別宅より少し小さい。近代的な設計の二階建てに生活スペースとなる寝室やキッチンが入り、その数メートル先に隣接して研究室が見える。互いの建物は屋根壁付きの移動通路で繋がっているので、家を出なくとも研究室には自由に出入りできる仕様だった。

 見るからに特注された造りの建造物。この私室と研究室はマグナスのためだけに新たに学院が用意したものらしい。彼が少しでも学習や研究に集中しやすいようにとの配慮だ。

 一生徒の為だけに新たに家を建てるとは何とも太っ腹な計らいだと黒鵜は呆れる。逆に考えると、これが学院トップ成績者に相応しい待遇であり、マグナスは多大な出資をするだけの価値がある人物ということだ。

 父子家庭でのほほんと育ち、父親の莫大な借金を返済するためにお情けでなんとか働かせてもらっている出来の悪い自分とは大違いだ。

 これで魔術の素養でもあったならば、もっとセフィラお嬢さまに恩返しができるのだけど。

 

「っと、このまま突っ立っていてもしょうがない。とりあえず入るか」

 

 玄関に設置された呼び鈴を鳴らす。十数秒ほど待ち、まだかなと考えていたところでゆっくり扉が開けられた。

 玄関には例の如く乙女型の自動人形が立っていた。華やかさと機動性を両立させた可愛らしいドレスを身に纏い、顔の前には「火」の文字が書かれた黒布を付けている。

 

「申し訳ありませんが、主はお忙しいので来客の相手はできません。お引き取りください」

「え? ちょっとーー」

 

 ばたん。

 いきなりそんな口上を述べると、あろうことか彼女はすぐに扉を閉めてしまった。こちらが碌に口を開くこともできないほど悲しい対応の速さだった。

 

「なんだ、今のは・・・?」

 

 あんまりな物言いに怒りよりも困惑が強い黒鵜。とはいえ、言われた通り引き返すわけもないので再度呼び鈴を鳴らす。

 二回、三回と続けて鳴らしたところでまたあの少女が出てくる。

 

「聞こえてませんでしたか? 我が主は研究に没頭しており、他者の事情に関わっているお暇はないのです。どうかお帰りください」

「それはすみませんでした。しかし、僕が怪しい者ではないことはあなたも知っているでしょう。そんな一方的に門前払いにしなくてもいいんじゃないですか?」

 

 僕がそう言っても、少女は軽く首を傾げるだけだった。布があるので表情は読めないが、おそらく言葉の意味が分からず考え込んでいるのだろう。

 

「いやいや、この間会ったのに忘れたんですか。ほら、派手な黒いドレス来たちっちゃい女の子の従者だった男ですよ。君と仲間の女の子たちに包囲された人」

「・・・ああ。あの主に狼藉を働いたチビ娘の使用人でしたか」

「その節はどうも」

 

 説明してようやく思い出した様子の少女。というかチビ娘って、ドロシーの耳に入ったら怒髪天になって翌朝には屍の軍勢が並んでいるぞ。

 

「今日はあの時のお詫びも兼ねて、さるお方からの依頼によりマグナス殿とお話しに参りました。お忙しいのは重々承知の上で悪いのですが、どうか時間を頂けないでしょうか」

「話は分かりました。しかし、主からは許可がない限り何者も入れるなと厳命されている。主に確認してきますので、それまで扉の前で待っていなさい」

「は、はい」

 

 気のせいか、若干だが高圧的な態度に変わった少女はそう言って戻った。

 黒鵜は言われるままに立って待つ。

 

「何か急に棘のある感じになったなあの娘。やっぱり、最初に会った時の心証がよくないからか?」

 

 しばらくして入室の許可が下り、黒鵜は来客用に宛がわれた部屋の中で椅子に座った。

 室内は何とも殺風景であった。家具などは必要最低限の数しか置かれておらず、これといった調度品の類も見当たらない。如何に男子が暮らす部屋でも、あまりにも生活感が薄すぎた。

 

(棚にある本も魔術に関する専門書ばかり。掃除が行き届いているようだから不快には感じないけど、生活してる気配がなさ過ぎて寒々しいな。この様子だと、身の回りのことは自動人形に任せっきりでマグナス本人は研究室に籠りっぱなしってところか)

 

 部屋の様子を観察していると、先程の少女がお盆に湯呑を乗せて入って来た。

 

「一応お茶を淹れてきました。主が来るまで飲んでなさい」

「これはかたじけないです。そうだ、実はクッキーを焼いてきたのでよければみんなで食べてください」

「クッキーですか。念のため毒見をしますが、構いませんね」

「どうぞ」

 

 黒鵜は湯呑を受け取り、盆を下げた少女はクッキーを詰めた紙袋を受け取る。

 少女は袋の中を覗くと、その場で毒見をするつもりなのか顔に垂れていた布を押し上げる。

 布の奥には、端正で愛らしい女の子の顔があった。自動人形だからか表情は固いが、その綺麗な姿形はとても作りものだとは思えない。

 

(凄いな。普通の人間とほぼ変わらない。いや、もう少し大人だったら間違いなくグラビア雑誌にでも紹介されるぐらい可愛い美少女だ。たぶんマグナスが作ったんだろうけど、どれ程の技術を覚えればここまで完璧な人型自動人形が作れる。まさか、生身の人間を使って部品にしたわけでもないよな)

 

 自動人形の中には通常の機械部品だけでなく、生きた動物から取り出した部品を用いたものも存在する。これは<禁忌人形(バンドール)>と呼ばれ、高い魔力親和性を有し一般的な自動人形よりも強力で僅かだが自力で魔力を供給できるなど様々な利点がある。

 ただし、人間を使って自動人形を作ることは人道に反するので魔術師倫理規定により禁止されている。黒鵜も<禁忌人形>と出会ったことはまだない(本人が気づいてないだけで見たことはあるかもしれないが)。

 黒鵜が見惚れている間も、少女は袋の中を漁り一欠けらのクッキーを取り出していた。

 しばらくクッキーを観察していたが、やがて口元へ運ぶと控えめな仕草で食べ始める。

 広い室内に少女がお菓子を頬張る咀嚼音だけが流れる。

 クッキーを食べ終えると、少女は納得したようで頷いていた。

 

「危険物の類は入ってなさそうですね」

「もちろんですよ。気に入って頂けてよかったです」

「別に気に入ってはいませんが、こちらは後ほど主にお渡ししておきます」

「いえ、折角ですから他の女の子たちも入れてみんなで分けて食べてください。人数がいるのでちょっと多めに作りましたから、君もまだ食べて大丈夫ですよ」

「これは主が頂くべきもの。そういうわけにはーー」

 

 少女が断りを入れている途中、そのお腹の辺りから可愛らしい音が鳴った。

 恥ずかしさから少女の頬が少しだけ色付く。黒鵜はそれを聞いて内心苦笑いしていたが、女性相手にそれは失礼だと思いポーカーフェイスを作り顔に出すことはなかった。

 

「よろしければ、もう少し毒見しておいた方がいいんじゃないですか?」

「・・・そうですね。主の身の安全のためにも、そうします」

 

 マグナスが来るまでの間。特に会話もなかったが、美味しそうにクッキーを食べる美少女を眺めてるだけで来た甲斐はあったと黒鵜は思った。

 

 

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