やがてマグナスがもう一体の乙女人形を引き連れやってきた。
マグナスは対面の椅子に座り、その両隣に乙女人形が立って待機する。
「用件を伺おう」
別に怒られたわけでもないが、この男が喋るだけで部屋の空気が重苦しくなったように思えた。これが、得体の知れない人間と接する怖さであろうか。
「改めまして、私はセフィラ・バルゼル・アプラクサス様にお仕えする使用人の神薙黒鵜と申します。この度は、貴方に主より商談の話をお持ちしました。まずは、こちらの封筒に入っている書類にお目通し下さい」
黒鵜が預かっていた封筒を手渡す。
「それから、この前は私とドロシー・マクガフィン様が大変無礼を働きすみませんでした。遅れましたが、せめてものお詫びの品として質素ですが茶菓子をお持ちしました。そちらのお嬢さんにお渡ししてあるので、後でみなさんでお食べ下さい。毒見も一杯してもらったので大丈夫ですよ」
少女がおずおずとクッキーの入った紙袋をマグナスに渡す。一瞬、布の隙間から見えた瞳がこちらを睨んだように見えたのは気のせいだろうか。
「ありがたく頂く。火垂、鎌切、お前たちで食べておけ」
「イエス、マスター」
「お心遣い感謝します」
二人の少女は主に頭を下げて感謝の言葉を告げる。自分は食べないのかと黒鵜は呆れていたが、単に甘いものが嫌いだったのかもしれないので触れないことにした。
マグナスは静かに書類を確かめていく。全てを読むのに数十分はかかった。
読み終わったことを確認して、黒鵜は再び話を続ける。
「セフィラ様からのご依頼は、貴方にとある魔術回路の開発をしてもらうことだそうです。詳細については今読んで頂いた書類に記載されていると思います。私は魔術師ではないので、専門的な説明はできませんから」
「確かに制作に関する情報は記されていた。設計そのものは問題ないが、材料はそちらで用意してもらわねばどうにもならん」
「それはご心配なく。セフィラ様が物資と資金をいくらでも提供してくださるそうです。必要があるなら人員の手配も私が申しておきますけど」
「人手はいらん。欲しいものがあればこちらで直接伝えておく。お前の主は自身へ直接連絡が可能な手段を書類に書いておいたようだ。今後はそれを用いて連絡する」
「そ、そうでしたか」
英国内の学院と遥か遠くの外国でどうやって連絡を取り合うのか。黒鵜には皆目見当もつかない。
もっとも、セフィラが凄腕の魔術師であるのは魔術に疎い黒鵜でもよく理解していたのでなんとかするだろうと深くは考えなかった。
「それと、場合によってはお前にも手を貸して貰うことがある。お前の主からの命令だが、異論あるか」
「あるわけないですよ。それでは、この依頼お引き受け頂きますね」
「問題ない。ただし、完成には相応の時間がかかる。俺の研究は遅らせるわけにはいかんが、そちらの依頼品は後回しにするかもしれん」
「それでも構わない、と主の伝言にもありました。マグナス殿のご都合に合わせますので、何も気兼ねすることはありません」
「いいだろう。ならば、さっそくお前の手を貸してもらう」
「え?」
突然の申し出に戸惑う黒鵜。
この会合が終わってから一日後。なぜか黒鵜は、英国のとある山中にて遭難する羽目になった。