死霊使いの従者   作:マサオ02

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予期せぬ転送

 翌日の朝。黒鵜はまたマグナスの元を訪れることとなった。

 あの後、マグナスは黒鵜に何日か学院外での仕事を頼むと言ってきた。黒鵜も依頼達成の手助けになるならと二つ返事で了承し、しばらく学院を離れる旨をドロシーとカトレアに伝えた。

 黒鵜が外出すると聞くとドロシーは『好きにすれば』と怒り気味に、カトレアは『お食事の用意はどうしましょ~』と落ち込み気味に返事をした。食事については食堂を利用するようにお願いしておき、黒鵜は身支度を整えて早朝にマグナスの家に来た。

 家の扉を開けると、昨日と同じように桃色髪の乙女、火垂が出迎えた。

 

「おはようございます。それで、今日は一体どこへ向かえばーー」

「主は既にお待ちです。さっさとついてきなさい」

 

 こちらの言葉も聞かずにすぐさま部屋の奥へと向かう火垂。相変わらずとっつき辛い少女だ。

 とりあえず、言われるがままに後へ付いて歩く黒鵜。私室を抜け、渡り廊下を抜けるとマグナスの研究室へと入った。

 

「警告しておきますが、くれぐれもその辺りに置かれたものに触れないように」

「はい。勝手に機械が動き出すと危ないですからね」

「いえ、部外者が主の崇高な研究作品を侵すことがあれば、死体を片づける手間が増えてしまいますので」

「触っただけで殺されるの!?」

 

 怖い怖いと怯えて歩く黒鵜。魔術師の研究は秘匿して行われるものが多い。よって部外者がこうして室内に入れられるだけでも珍しいケースなのだが、黒鵜には知る由もなかった。

 部屋の壁にあるレバーを火垂が引く。歯車が回るような駆動音が鳴ると、部屋の端の床がせり上がり隠し階段が現れる。

 

「地下室ですか」

「主はこの先でお待ちです」

 

 薄暗い地下通路を壁に設置された電灯がぼんやり照らす。

 足元に注意しながら歩き、やがて目的の地下室に辿り着いた。

 

「来たか」

 

 部屋の中央に立っていたマグナスが振り返る。その目の前では、五体の乙女人形が床に文字を書いたり機器を設置したりと何かの準備を進めていた。

 

「おはようございます、マグナス殿。しかしながら見事な設備ですね。どれも貴重そうな機器ばかりです。これだけの機器を自由に扱えるとはさすが学院最高の生徒ですね」

「余計な世辞はいらん。早く陣の中央に移動しろ」

「あっ、はい」

 

 黒鵜は荷物をもって部屋の真ん中に書かれた謎の円陣へと移動する。

 

「あのう、これは一体ーー」

「火垂。お前も一緒に行け」

「イエス、マスター」

 

 質問する間が与えられない。今度は火垂が近づき、黒鵜の右隣へと立つ。

 

「いい加減教えてください。今日は僕に何をさせるつもりですか」

 

 訳の分からない事態が続き、黒鵜にも苛立ちが生まれてきた。少しだけ怒気を込めてマグナスへ事の説明を促す。

 

「お前には、今から英国内のとある山へ向かってもらう」

「山、ですか」

「そこでこの時期にのみ見つかる特殊な鉱石が魔術回路の作成に欠かせない。俺は学院を離れることが出来ない。だから、お前に代わりに取ってきてもらおう」

「そういうことですか」

 

 黒鵜にとっては意外な答えであった。使用人の仕事といえば身の回りの世話などが多いので、てっきり家事や適当な荷運びでもさせられるのだと考えていたのだ。それが、まさか鉱山での発掘作業とは予想外だ。

 

「失礼ですが、そういう仕事は専門の業者を雇えばよろしいのではないですか」

「探してもらうのはかなり稀少な鉱石でな。然るべき場所で売りに出せば数千万単位の値がつくこともある」

「数千万!?」

「だから、万が一にも持ち逃げされたくはない。信用のおける者に任せるしかないわけだ」

 

 思いがけない大金の話になって黒鵜は大声を出して驚いた。

 

(それだけあれば、父さんの借金も返済できるかも)

 

 仕事には誠実な黒鵜が一瞬だけ、邪な考えが脳裏を過るぐらいの驚きだった。

 

「大型の野生生物も生息する山だ。護衛兼補佐として火垂を付ける。分からないことは火垂に聞くといい」

 

 黒鵜は自分の隣に立つ火垂を見る。一見華奢な女の子だが、彼女が優れた自動人形であることは身をもって体感している。彼女が付いて行くなら、身の安全については心配しなくていいだろう。

 と、そこで黒鵜は重大な事実に気付いた。

 

「待ってください。学生の登録された自動人形は卒業まで機巧学院の外に出せないと聞きましたよ」

自動人形使用制限(オートマトンプロトコル)

「そうです。掟破りをすれば、いくら貴方でも退学は免れませんよ。だったら鉱石の採取には僕一人で行きます」

 

 そんなことになれば、関わった自分やその知り合いにも責が及ぶかもしれない。黒鵜はドロシーの身を案じてそう通告した。

 

「それも話は済ませてある。昨晩、学院長に<実験室での魔術実験による事故>を報告した」

「実験の、事故・・・」

 

 その単語を聞いた瞬間、黒鵜の頭を幼い日の忌まわしい記憶がフラッシュバックする。

 川辺から見た、遠くで巻き起こる大爆発。後には燃え盛る業火しかなく、大好きだった父親は跡形もなく消え去った。

 

「どうした?」

「------っ!! いえ、なんでもありません・・・」

 

 顔に苦悶の表情が出てしまったようだ。マグナスの問いかけへ誤魔化すように作り笑いを浮かべて答える黒鵜。

 

「そ、それで実験の事故がどうしたんですか」

「正確には、事故はこれから発生する。鎌切に搭載した魔術回路が暴走を起こし、俺の自動人形の一体がそれに巻き込まれて別の場所に飛ばされるというわけだ。そして、<偶然>その場に居合わせたお前も事故の被害者となる。事故であるなら、自動人形が外へ出ても持ち出したことにはならないだろう」

 

 つまり、事故に見せかけて極秘裏に人形と黒鵜を学院の外へ転移させるらしい。本来なら偶発的に起きる事故を意図的に起こす、正しくは事故に見せ掛けるということになるが。

 

「随分と無理のある筋書きだ。学院側が調査すれば、そんな嘘一発でばれると思いますよ」

「だからこそ、活動できる期限は短い。学院長から指定された限定期日は、三日が限度だ」

「三日間でその鉱石を見つけなければならないわけですか」

 

 かなりシビアな条件だった。発掘の基礎知識も持たない素人に僅か三日間で望みの石を見つけろという。

 

「言っておくが、お前が見つけられなければ今回の依頼契約は白紙に戻させてもらう」

「それはあんまりです!! 大体、俺が絶対行く必要はないじゃないですか!?」

「・・・いいや、お前でなければならない」

「え? なんて言いました?」

 

 最後にマグナスが漏らした言葉は聞き取れなかった。

 

「転送座標の補足を開始。鎌切、準備を始めるぞ」

「イエス、マスター。魔術回路を起動します」

 

 鎌切、と呼ばれた水色の髪の少女に大量の魔力が送り込まれる。少女の身体が眩い光を放ち、強大な魔力の渦は黒鵜と傍の火垂を包み込んでゆく。

 

「待ってください。僕の話はまだ終わってませんーーーー!!」

「マスター。座標軸の固定完了。いつでも可能です」

「対象物二体の転送を開始。火垂、後は任せたぞ」

「イエス、マスター。必ず使命を果たします」

 

 話しを聞かない主従が勝手なことを言っているが、黒鵜はそれどころではない。光がさらに強さを増し、一筋の閃光が柱となって二人を覆う。

 黒鵜は目を瞑った。直後にやってくる浮遊感。そして乗り物酔いに似た奇妙な感覚。それが体感で十数秒続いた。

 体を襲った違和感が消えた時、黒鵜はそっと目を開ける。

 そこはさっきまでの地下室ではなく、全く見知らぬ土地になっていた。

 

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