死霊使いの従者   作:マサオ02

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回想 ~花火の思い出~

 ーー懐かしい夢を見る。

 まだ父さんが生きていた頃、研究に籠りがちな父さんが珍しく一緒に連れ立って出かけたことがあった。なんでも、昔母さんと何度も見に行っていた花火大会へ僕を連れて行きたかったらしい。

 乗り合い馬車で数時間移動した先の訪れたことのない町。そこで年に一回、夏場に多くの観光客が集まり開催される有名なお祭りらしい。僕は祭りに行くのも花火を見るのも初めてだったので、父さんのお話を聞いていた時から心躍らせ楽しみにしていた。

 そして辺りは暗くなり、待ちに待った花火が打ち上がる。

 発破音が鳴ると同時に、夜空で咲き乱れる輝かしい花々。その想像だにしなかった美しく尊大な光景に僕は興奮しっぱなしだった。

 

「見てみて父さん!! お空にあんなおっきな花が飛んでるよ!!」

 

 思わず自分まで飛び跳ねながら浴衣を着た父さんに振り向く。

 父さんは物静かな顔で笑っていて、僕の浴衣の襟元などが乱れるととそっと形を直して注意する。

 それでも僕は何度も動き父さんに話しかけていた。今にして思えば、僕は花火を見ることよりもこの頃研究に時間を取ってあまり遊び相手をしてくれない父さんにもっと構って欲しかったのだろう。

 別に父さんは子供に冷たい人ではない。僕のことをちゃんと見てよく世話を焼いてくれる良き父親だった。仕事の都合でどうしても相手を出来ない時が多かっただけなのだ。

 しかし、子供には大人の都合など言い聞かせても理解できない。特に親しい人間が他にいない僕にとっては、父さんの存在はとても重要で傍になくてはならないものだった。

 

「父さん、このりんご飴美味しいね!!」

「父さん、また花火が上がったよ!!」

「今度は川の中から人形が出てきた!! あっ、筒を持ってる!! そこから長い火柱や火花が出てる!! 面白いね父さん!!」

 

 だから、僕はとにかく父さんの注意を引こうとする。近くの出店で買ってもらった甘いりんご飴を舐めながら、話しが途切れないよう気を配り父さんと並んで河川敷を歩く。

 周りは地元の人間や観光客によって絶え間ない人の壁となっていた。少しでも目を離せば、背の低い子供ぐらいあっという間に迷子になってしまう。

 

「向こうにも何かあるかも、見に行ってみよう!!」

 

 子供心から溢れる好奇心は止まることを知らない。

 僕は小柄な体で上手く人波を避けて隙間を通り進んで行く。でも、大人の父さんは周囲の人に押されて思うように前へ進めなかった。

 父さんがあまり遠くへ行かないよう、戻ってくるように僕を呼んでいる。だけどその声は、花火の音と人々の歓声によってあっさり掻き消されてしまう。

 

「凄い凄い!! 火で文字が作られてるよ!! あれも花火なの父さん? あれ、父さん!?」

 

 ようやく振り返って気が付いた。父さんの姿はもうどこにも見えず、近くに立っているのは見知らぬ人ばかり。僕は迷子になってしまったのだ。

 

「父さんどこーお返事してよー」

 

 必死に声を出すも、呼び掛けに応じる人物がいてくれるはずもない。

 さっきまでの楽しさは一転、今は沢山の人の中に取り残された孤独と不安が僕の心を押し潰してくる。

 

「とうさーん・・・どこだよー・・・おしえてよー・・・」

 

 次第に声に勢いはなくなり、僕は今にも泣き出す寸前だった。

 でも、その時近くで自分以外に泣いてる者がいるのが目に入る。

 可愛らしい女の子だ。紫陽花の絵が描かれた桃色の浴衣を着ており、目元に両手を当てて涙を拭っている。

 

「ひっぐ・・・えっぐ・・・お兄さま・・・お父さま・・・お母さま・・・えっぐ」

 

 弱弱しい足取りで歩きながら、小声で家族を呼び探している女の子。そんなか細い声で呼んでも気づいてくれるわけがない。いや、女の子は泣き疲れてもう大声を出す気力もないのだろう。

 そんな哀れな女の子を見て、僕はなんとかしてあげようと思った。もちろん僕も父さんとはぐれて不安だった。それでも、自分と同じ境遇に遭っている子を見て親近感が湧いたのだ。

 

「どうしたの?」

 

 緊張しながら、勇気を出して声をかける。

 女の子は自分が話しかけられたことに気付くと、手を下ろして泣き腫らした顔で僕を見上げた。

 僕が思っていたよりずっと可愛い女の子だった。くりっとした大きな目。育ちの良さそうな所作に大人しそうな雰囲気は子供ながらに大和撫子と言えなくもない。

 ただでさえ同年代の子とあまり接してこなかったのに、見たこともない可憐な美少女を前に僕は混乱しまくっていた。

 

「あなた、だれ?」

 

 女の子が少し怯えている。一人ぼっちなのは向こうも同じ。きっと、知らない人は誰も彼も怖くて仕方がないはずだ。だって、僕がそうだから。

 とにかく、彼女を安心させるためにも答えないと。

 

「えっと、僕は神薙黒鵜。父さんと二人でこのお祭りを見に来たんだ。君のお名前は?」

「・・・撫子」

「撫子ちゃんか。君に似合う、とっても素敵な名前だね」

「どういうこと?」

「撫子は花の名前なんだよ。その意味は『撫でたくなるほど可愛らしい』って言うんだ。とっても可愛い女の子の君にはピッタリ・・・って、僕は何言ってるんだろ。ははは、変なこと話してごめんね」

 

 自分で言っておいてから台詞の恥ずかしさに顔を背けたくなる。これじゃあ馬鹿にしてると思われてもしょうがない。

 僕は彼女が怒ってないか心配で、気取られないよう顔を覗きそっと様子を伺う。

 

「・・・・・・」

 

 撫子ちゃんは俯いているが、その頬はほんのり赤くなっている。どうやら照れているようだ。

 

「撫子ちゃん?」

「・・・・・・!! は、はい! なんですか黒鵜さん?」

 

 僕が呼びかけると、撫子ちゃんは大慌てで返事をする。

 とりあえずお互いの名前は交換できた。今度こそ本題に入らないと、このまま逃げ去られるとまた僕は見知らぬ土地で孤立する羽目になる。それに、この泣いてる女の子を放っておきたくないという気持ちもあったから。

 

「撫子ちゃんも家族でお祭りに来たの?」

「うん。でも、さっきはぐれちゃったの」

「やっぱりね。実は僕も父さんと離ればなれになってるんだ」

「黒鵜さんも迷子さんなの?」

「う、うん。恥ずかしながらその通りなんだ撫子ちゃん。それでなんだけど、よければ僕と一緒に家族を探さないかい?」

「黒鵜さんと一緒に?」

「一人でいるより、二人の方がきっと見つかりやすいと思うんだ。それに、泣いてばかりいても疲れるだけだと思うよ。そうだ、ついでだからこのりんご飴をあげる」

 

 僕は手に持っていたりんご飴の取っ手を撫子ちゃんに握らせる。

 撫子ちゃんの白い指はとっても細くて、男の自分とは違ったスベスベの感触に今度は僕が赤くなる番だった。

 

「美味しそう。でも、私がもらってもいいの?」

「僕はさっき食べたからもういらないんだ。だから、君にあげるよ」

 

 撫子ちゃんは僕とりんご飴を交互に見比べていたが、やがてりんご飴を口元にもっていきぺろりと舐めた。

 

「甘い!!」

「だよね。少し先のお店で買ってもらったんだけど、甘くて美味しいから舐めるとすぐに元気が戻ってくるはずさ」

「ありがとう黒鵜さん!! この飴、大事に大事に食べるから!!」

「気にしないくていいって。さあ、早く僕らの家族を見つけよう」

「うん!!」

 

 そして一組の小さな男女は、手を繋ぎながらお祭り会場を歩き出すのだった。

 

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