それから僕と撫子は花火会場を歩き回った。僕が撫子に家族の特徴を聞き、率先して周りの大人に聞いて回る。
なんでも彼女は兄二人と両親の五人連れで来ていたらしい。彼女と家族は少し遠くの町外れにある武家屋敷に住んでおり、代々人形使いを排出してきた生粋の魔術師の家系だそうだ。
「撫子ちゃんのお家は凄い魔術師のお家なんだ」
「うん。私もいつかお父さまみたいに立派な人形使いになりたいの」
「そっか。撫子ちゃんは良い子だから、きっとなれるよ」
「黒鵜さんも一緒に人形使いになろうよ」
「僕は・・・無理かな」
「えっ、どうして!?」
「だって、魔術の才能ないから。僕は魔力を練るのが凄く下手なんだ。それじゃあ人形は使えないし、僕はどちらかと言えば研究者になりたい」
「研究者ってなあに?」
「うーんとね。研究者は魔術師の中でも人形を作ったり発明をしたりする人。僕の父さんはとっても凄い研究者だから、僕も大人になったら研究者になって父さんを助けたいんだ」
「黒鵜さんは偉いんだね。それなら、黒鵜さんが研究者になったら私のお人形作ってくれる?」
「む、難しい注文だなあ」
研究者と言っても、人によって専門分野などがあり誰もが人形作りに精通しているわけではない。僕の父さんも、主に制作しているのは人形の内部に搭載する部品か魔術回路だった。
僕も将来は魔術回路の開発に携われるよう勉強するつもりだったので、自動人形そのものを作るかは自分でも分からなかった。
「作ってくれないの・・・えっぐ・・・」
「ああ、泣かないで!!」
僕がはっきり答えなかったので、撫子はまた悲しい気持ちになり泣き出してしまう。
なだめるならばここは『作ってあげる』と言うべきなのだが、僕は根が真面目なので口約束でも出来ないかもしれないことは言えなかった。
そんな感じで僕がオロオロしていると、どこかから男の子の声が聞こえてくる。
「撫子ー。どこだー」
男の子に気付くと、撫子は顔を綻ばせ嬉しそうに声の主へと駆け寄る。
「お兄さま!!」
「なんだ、また泣いてたのか。泣き虫だなあ撫子は」
「な、泣いてないもん」
どうやら、あの男の子が二人いる兄のどちらからしい。
これで撫子は家族と合流できーー。
「兄さま、天兄さまは? それに父さまや母さまは?」
「はぐれた」
--そうにはなかった。
兄の間抜けな回答を聞いてまたしても泣き出す撫子。残念ながらもう飴は持っていない。
すると、お兄さんが撫子に綺麗な玉のようなものを渡す。それで撫子の機嫌は直ったようだ。
「あれ、そっちの奴は誰だ?」
お兄さんが僕に気付き、撫子に質問する。
「黒鵜さん。私たちとおんなじ迷子なの」
「へえ、お前も大変だな。俺は
「僕は黒鵜です。仲良くしましょう」
笑顔で握手を交わし合う。てっきり『俺の妹に何か変なことしてないだろうな!?』とか絡まれるかと思ったのだけど、結構親しみやすい性格みたいでよかった。
「あっ! 言っておくが、撫子に妙なことしたら俺が許さないから覚悟しておけよ」
「に、兄さま!? 黒鵜さんはそんな悪い人じゃないもん!!」
「駄目だぞ撫子。男はみんな狼だから気をつけなさいってお袋がいつも言ってただろ」
「黒鵜さんは違うの! たぶん、大人しい子犬さんだよ!」
「まあ、確かに女みたいに大人しそうな顔してるけど・・・」
お兄さんの言い方にちょっとだけイラッとくる僕。
自分でも、どちらかといえば女寄りの顔立ちであるのは分かっている。父さん曰く僕は母さん似だそうで、写真に写っていた母さんは、言われた通り僕とよく似ていた。
「僕のことはいいですから、早く家族を探しましょうよ」
「う、うん」
「そ、そうだな」
にっこり笑って言い聞かせると、二人はなぜか怯え気味に頷いてくれる。それから雷真とも軽く自己紹介をして、再び見失った家族を捜索した。
人数は増えたものの、探している家族は一向に見つからない。すでに花火を楽しむ余裕など三人ともなく、周囲の人の顔を見回してばかりだった。
そんな時、突然撫子が川辺に向かって走り出した。僕と雷真も慌てて後を付いて行く。
「どうしたんだ撫子」
「誰かいたんですか」
僕たちが聞くと、撫子はなぜか何もないはずの虚空に向かって指差した。
「あのね、この子も迷子なんだって」
「どの子?」
「ここにいる子です」
「誰もいませんけど・・・」
撫子は誰かと話しているようだが、僕と雷真には何も見えなかった。
「もしかして、精霊ですか?」
精霊は人間でも特別素養のある者しか目視することができない。撫子に見えてるその誰かも、他の人間には見えない存在なのだ。
「お兄さまも黒鵜さんも、見えないんですか?」
「見えてねえよ」
「ですね。どうやら僕らには才能がないみたいです」
もっとも、僕と雷真は大して気にしていなかった。いや、雷真は撫子と同じ人形使い
の名門の子供だ。年下の妹よりも才能で劣っていると自覚しているなら、内心では悔しさや後ろめたさを抱いているかもしれない。
だからと言って、この場でそれを指摘するほど僕は馬鹿でもない。目の前には兄想いで泣き虫な妹が立っているのだ。彼女の前では、少しでも兄の威厳を守ってもらいたい。
「じゃあ、その子の家族も探してあげましょう」
「黒鵜さん、ありがとう」
「なんか、呼んでもないのに次々と迷子が集まってくるな」
「お祭りですから」
「いや、関係ねえだろ」
だいぶ動き回ったので、休憩も兼ねて川辺を四人(?)でゆっくり進む。時間が経ったことで最初よりも花火の打ち上げ数は減っており、山のように溢れていた人波も段々とまばらになっている。
そこでふと、雷真が撫子に尋ねた。
「そういえば、その子の家族ってどんなだ? 特徴が分からないと探せないだろ」
「それもそうですね。撫子ちゃん、聞いてもらえますか?」
「うん。まかせて」
撫子ちゃんは空中にいるであろうその子と話している。精霊の見える者にどう映るのか知らないが、僕にはその子とやらは宙に浮かんだ薄い光の玉にしか見えない。
精霊を感知できない人間には、精霊は大抵こんな光の玉みたいな形にしか見えないのだ。故に、本来の姿や声を捉えることはできない。
ただ、こうして小さな光がゆらゆら浮いている姿は
「え? 玉・・・なの?」
何かを聞いた撫子は、さっき雷真がくれたビー玉ほどの銀玉を取り出す。
すると、玉はぼんやりと輝きだして浮いた。
「兄さま。私、この子に返してあげたい」
「いいのか、気に入ってたのに」
「うん。撫子には兄さまも黒鵜さんもいるもの」
「なんか照れちゃうな」
そのまま二つの光る玉は浮上していき、やがて僕らの目の前から消え去った。
数分後、人の減った歩道を僕たちは歩いていた。雷真は歩き疲れが堪った撫子を背中におんぶしている。
「結局、なんだったんだろうな」
「さあ? でも、ちゃんと再会できてよかったですね」
「兄さまと黒鵜さんのおかげです」
「いや、撫子ちゃんが頑張ったおかげだよ。大体、あの子たちを見つけられたのは撫子ちゃんじゃないか。撫子ちゃんみたいな優しい子に見つけてもらって、あの子たちも嬉しかったはずだよ」
「は、恥ずかしいです・・・」
褒められた撫子は赤くなって笑い、背負っていた雷真の視線が厳しくなって僕を見る。向こうからしたら妹をナンパしているように見えるのかな。ただ感心しただけなんだけど。
とそんなことを考えていると、前方にとある家族の一団が見えた。大人の男女と、僕たちよりも背の高い男の子。二人が喜んだ顔をしていることから、あれが彼女たちの家族で間違いなさそうだ。
「親父たちだ」
「よかった。あとは黒鵜さんの父さまが見つかれば」
「それなら平気。僕も丁度見つけたところだから」
撫子たちの家族とは逆の方角。少し先の橋の上で父さんが手を振っていたのに気付いたのだ。向こうが分かるよう、僕も思いっきり手を振り返す。
「残念だけど、ここでお別れですね」
「ええ!? もっと一緒にいたいの!!」
「こら撫子、我儘言ったらダメだろ」
「でもぉ・・・」
撫子は今日何度目かの涙を浮かべる。
僕も彼女たちとこんなに早く分かれるのは寂しいと思った。でも、住んでる場所が違うしあまり顔を合わせる機会はないだろう。僕もそんなに多く人里に下りて来られるわけじゃあない。
だから、彼女を泣き止ますにはこんな約束しか思いつかなかった。
「じゃあ、来年の同じ日にまたお祭りに来るよ。そしたら、あの川辺で花火を見よう。今度は家族みんなでね」
「本当に?」
「本当だよ。約束する」
二人で指切りげんまんをして約束した。実際、お祭りを見に来るぐらいなら難しいことじゃないだろう。
そうして僕たちは別れた。この日の思い出は、魔術が分かる同年代の子と仲良く過ごした貴重な記憶として僕の心に残った。
ただ一つ、心残りがるとすれば、父さんの死によって翌年以降のお祭りに行ってあげることができなかったことだろう。
あの兄妹には悪いことをしてしまった。守れない約束はしないつもりだったのに、見事に約束を破ってしまうなんて不甲斐ない。
あれ。そういえばなんでこんな夢を見てるんだろう。一体僕はどうなったんだろう。
そんなことを考えていると、次第に意識が揺り起こされてーーーー。