「さあ現れなさい!! 私のかわいい死霊ちゃんたち!!」
ドロシーがステッキを振りかざす。
その小さな身体から魔力が吹き出し、彼女の周囲を黒い霧のようなもので包み込んでゆく。次第に霧は姿を変えて、晴れた時には禍々しい姿の骸骨兵が数十体立っていたのだった。
周囲で見物していた生徒たちが息を飲む。
「亡霊・・・否、これは死霊術によって作り出した魔法生物か」
ゲイザーの言う通り、あれは精霊や式神などと同系の擬似生命体だ。魔法生物には魔術効果を減殺する特性もあり、再生能力まで備わっている。上級の魔術師は数十体の魔法生物を操ることで、生身の歩兵千人に匹敵する戦力を有するのだ。
なみの魔術師なら戦う前に逃げ出すのだろうが、対峙するゲイザーは一切臆した様子はない。冷静に槍を構えて臨戦態勢に入っている。
「夜会の規定だと、術者を直接狙うのはルール違反だったっけ? じゃあ、その可笑しな形の槍をへし折っちゃうわ」
ドロシーはゲイザーの武器を破壊するつもりのようだ。
魔術戦闘で生徒を殺した場合、その生徒は学院を退学させられる。夜会のルールでは術者への直接攻撃も基本は禁止事項となっているので、本来なら自動人形を狙うのが定石だろう。自動人形がないのなら、相手の戦う術を奪いリタイアを促すしかない。
「我の槍を折る・・・か」
「なによ。できないとでも思うの?」
「否、誰もが同じことを口にするが、残念ながらそれは無理だ」
「へえ、大した自信じゃない。ならその鼻っ柱ごと折ってやろうじゃないの。お前たち、やっちゃいなさい!!」
ドロシーの号令とともに骸骨兵は一斉に走り出した。
剣や盾を装備した兵隊たちが押し寄せる。ゲイザーはスケルトンの軍勢の接近を見ても構えを崩すことはない。
白い波が青年を覆い尽くす。
「なあんだ。やっぱりあっけなかーーーー」
見物客の何人かが悲鳴を上げたが、即座にその声も鳴り止んだ。
突撃をかけた兵隊の何人かが弾け飛ぶ。凄まじい豪風が辺りを巻き込み、兵隊を薙ぎ払っていった。
舞い上がる土煙の隙間から覗いたのは、目にも止まらぬ速さで槍を振り回すゲイザーの姿だった。捻じれた槍が剣を折り、盾を貫き、骨を砕いて次々敵の数を減らしていく。
「あの槍、死霊の身体だけじゃなく魔力ごと吹き飛ばしている・・・?」
黒鵜が呟いた通り、ゲイザーの槍が振るわれる度に魔法生物の魔力が一気に削られているのだ。どうやら、触れたものの魔力を掻き消すのがあの槍の能力のようだ。
「なななななななによそれ!? そんなの反則じゃないの!!」
ドロシーが泣きたくなるのも無理はない。スケルトンは魔力を糧に動く兵隊だ。魔術に対する抵抗力も高く、痛みも疲れも知らない彼らは魔術戦において非常に使い勝手のいい駒となる。
そんなスケルトンも魔力そのものを絶たれては、軽い一撫でで倒れる木偶人形と大差ない。
そうこうしている内に、ゲイザーは激しい攻防の隙間を縫ってドロシーに肉薄する。
「あっーーーー」
黒鵜の手にじわりと汗が流れる。
ゲイザーはドロシーの顔に切っ先を突き付けた。
「汝、降参するか?」
異を言わせぬ迫力にたじろいだドロシーはしきりに首を縦に振った。
それを確認するとゲイザーはあっさり矛を収めてしまった。
「納得いかなければいつでもかかってくるがいい。我は誰の挑戦でも受けて立とう」
そんな台詞を残し、ゲイザーは一人で演習場を去って行った。
試合が終了したことで野次馬たちも場を離れていく。やがて誰もいなくなったころ、残っていたのはドロシーと黒鵜の二人だけであった。
「ドロシー」
名前を呼ばれたドロシーはビクッと震えたが、いじけているのか体育座りしたまま顔を隠している。
「もう午後の講義は始まってますよ。行かなくていいんですか」
「・・・今日は休む」
ボイコットときた。よっぽど負けたのが悔しかったと見える。
「いじけないでくださいよ」
「うっさいドグサレ。疲れたから家までおぶっていって」
「罵倒しながら甘えないでくださいよ」
やれやれと肩を竦める黒鵜。そのままドロシーを担いで、演習場を去るのだった。