死霊使いの従者   作:マサオ02

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反省会

 黒鵜とドロシーは食堂に入り一休みしていた。

 あの後、ドロシーは黒鵜にみっちりお説教を喰らったことでかなり意気消沈している。無闇やたらと喧嘩を吹っ掛けるからこうなるのですとか、もう少し淑女としての慎ましさを身に付けなさいとか言いたい放題である。

 黒鵜が怒っていたのはドロシーの身を案じてこそだ。今回は黒鵜が近くにいて対処したことで事なきをえたが、こんなことが今後もあるかと思うと胃がきりきり痛む思いである。

 ドロシーは彼の言葉を大人しく聞いていた。普段の彼女ならすぐ啖呵をきって言い返すはずだが、らしくなくだんまりである。

 やがて一区切りついたところで、ドロシーがそっと口を開いた。

 

「ごめんなさい」

 

 顔を俯かせたまま謝るドロシー。表情は読めずとも、相当な落ち込みようであることは分かった。

 

「反省しているならいいです。学院にはどんな危険人物がいるか分かりませんから、以後は不用意な行動を控えーー」

「私のせいで、クロに負担をかけたわ」

 

 黒鵜の目が僅かに見開かれる。

 こんな風にドロシーが自分のことを気にかけたのは珍しい。慣れない態度にどう反応していいのか迷ってしまう。

 黒鵜が押し黙ると、ドロシーはぽつぽつと一人喋りを続ける。

 

「私が悪かったのよね。よりによって、学院最高位のマグナスに文句を言ったりしたから」

「いえ、まあ、そうですね」

 

 曖昧に頷く黒鵜。

 あの後判明したことだが、あの鉄仮面の男子生徒の正体はなんと最高の成績をもつ人物だった。

 学院第一位マグナス。<元帥(マーシャル)>の通称で通っている彼は学院始まって以来の神童と呼ばれ、現状魔王に最も近いとまで言われている男だ。

 その実力の一端は黒鵜も肌で感じている。一瞬で六体もの自動人形を操るあの手腕。数の上ではドロシーのスケルトンが上だが、プログラム通りの単純操作が基本のスケルトンと人型の自動人形では操作難度がまるで違う。

 ドロシーが一流の魔術師の素質をもつとすれば、マグナスのそれは超一流の器と言って過言ないだろう。

 さすがのわんぱく娘も、あんな怪物を見ては委縮してしまったようだ。

 

「私、あんな連中に勝てるのかなぁ」

 

 ああいけない。これは予想以上にダメージが大きいと見える。

 ドロシーは暗い顔で自分の不甲斐なさと未知の敵への不安を呟き続ける。これは黒鵜にとって好ましくない兆候だ。泣いたり怒るのは別に気にならない。そんな彼女の奔放さは百も承知であり、その自信過剰なところこそ彼女の魅力であるとさえ思っているのだ。

 だが、弱音を吐くドロシーは好きじゃない。自分が守りたいのはこんな弱弱しいお嬢さまではないのだ。

 

「はっ、やっぱりおチビのドロシーに学院生活は些か早過ぎましたか」

 

 わざと嘲るように語気を荒げて罵倒する黒鵜。

 それを聞いたドロシーは押し黙っていた。ただし、その肩がピクリとかすかに震えたのを黒鵜は見逃さない。

 

「大体ドロシーは短絡的ですよね。考えなしにピーチクパーチク喚いてばかり。赤ん坊だってもう少し大人しいですよ。ドロシーの知能指数は幼児以下ですか」

 

 また肩が震える。意外と我慢ができていた。

 

「魔術の腕は確かだけど、気概が足りないと思うわけですよ。追い詰められると泣き出す癖は直したほうがいい」

 

 肩の震えが強くなった。もうひと押しといったところか。

 

「そのうえ、びびりまくってついには戦闘中にお漏らしーー」

 

 その一言で、とうとうドロシーの堪忍袋の緒が切れた。

 

「上等じゃないのドグサレばい菌鈍感芋男!! 人が黙っていれば付け上がって、いい加減こっちも我慢の限界よ!!」

 

 一度決壊したら止まれない。ドロシーは言いたい放題黒鵜への不満や自分の憤りを喚き立てて黒鵜の身体を叩きまくる。

 あまりの剣幕に周囲で談笑していた生徒たちが驚き、巻き込まれまいとそーっとその場を離れて行った。残ったのは癇癪を起こした少女と従者の少年。

 

「人が心配してやったのに、あんたはどうしてそんな酷いことばっかり言うのよ!!」

「だって、普段のあなたならこれくらいは言うでしょう?」

 

 ピタっとドロシーの手が止まる。

 

「僕が知っているドロシーという女の子は、誰が相手だろうと高慢ちきな態度を崩すことがない自信家なやつです。自分から弱さを吐露するような貧弱者じゃあありません」

「・・・私だってあそこまで酷いことは言わないわよ」

「似たようなもんでしょう。それとも、お漏らしのことに触れられて勘に触りましたか」

「だから漏らしてないっつてんでしょ!! 誤解を生むこと言わないで!!」

「え? こないだの試合で漏らさなかったんですか?」

「当たり前でしょ!!」

 

 どうやら本当のようだ。幼児体型だからと子供扱いし過ぎてしまったらしい。

 

「ところで、元気は取り戻しましたか」

「口の悪い従者のおかげでね!! 元気が有り余って飛び立つぐらいよ!!」

 

 ドロシーは得意げに鼻を鳴らす。どうやら、いつもの調子を戻したらしい。

 

「やり方はムカつくけど、クロのおかげで気合いが入ったわ。ありがと」

「どういたしまして」

「だけど、あまり無茶な真似はしないでよ。あんたがどうなろうと私は気にならないけど・・・ぜんっぜんこれっぽっちも気にしないけど、従者を勝手に死なせたらお婆様にどんなお仕置きを受けるか分からないからね。あんたは絶対に死なないこと、これは決定事項よ」

「はいはい。それじゃあ、危ない目に遭わないためにも余計なトラブルは起こさないでください」

「し~らないっ」

「あっ、待ちなさいこの!! あなた、実はちっとも反省してないでしょう!!」

 

 笑いながら走っていくドロシーを追い掛け、慌てて黒鵜も食堂を出て行った。

 

 

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