天使はいつだって憧れの君を見てる   作:ぶーちゃん☆

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とつかたん①

 

 

 

こんなにもGWが楽しみだったのは一体いつ以来だろうか。

いや、もちろん長期休暇という観点から見ればとても嬉しいんですよ?泥のようにダラダラ過ごせるからね!

 

ただしそれはあくまで“休み”だからこその楽しみであって“GW”だから楽しみというわけでは決してない。

 

GWなど、リア充共が新生活にウェイウェイフゥーフゥーやる為の一年のスタートラインのようなものだ。

いや、スタートは花見という名のバカ騒ぎ飲み会か。

とにかくGWとぼっちは相反する存在と言える。

 

 

その俺が、まさかこんなにもそのGWのたった1日をここまで楽しみに待つ日が来ようとは……

そう!明日は天使との約束の日、楽園パラダイスなのだ!

興奮しすぎて同じこと二回言っちゃった☆

 

ま、それとてあくまでもその日が楽しみなだけであって、GWだから楽しみだというわけでもないんだがな。

 

× × ×

 

 

俺は長期休暇中だというのに、喜び勇んで自転車を学校へと進めている。

なに?「休日出勤は最高だぜ!」とでも言いながらMacブックを電車の中でカタカタ鳴らせばいいの?

 

そういう《意識の高い》ものに、わたしは、なりたい

 

いや無理ですごめんなさい。

 

そんなどうでもいい事を考えながら到着したのだが、GW中に学校なんか来たのは初めてだ。

今ここに居る連中は部活に青春を捧げているのだろう。俺とは無縁だな。

長期休暇中に部活に縛られるなど、とてもじゃないが考えられん。

なぜ休みに部活動を行わなくてはならないのか?そもそもそれ休みじゃないじゃん。

 

フンッ……馬鹿馬鹿しい。俺は長期休暇に部活に縛られたりなぞせんぞ!フハハハハ!そう、永遠にな!

 

 

なにこれフラグかなんかなのん?

夏休みとか奉仕活動させられないよね?

 

 

なぜか寒々しい未来の想像に思いを馳せながら、俺はまっすぐに天使の元へと向かった。

 

「比企谷くんっ!良かった!来てくれたんだっ!」

 

そこに天使は居た……

テニスコートに入った俺に駆け寄りシャツの裾をちょこんと摘み、なんの穢れもない眩しい笑顔を向けてくれる天使。

 

ああ……俺、このまま戸塚ルート突入でもいいや……

 

「戸塚、今からずっとその笑顔を俺だけに向けてくれ」

 

「ふぇっ?……ひっ比企谷くん!?それってどういう意味……なの!?」

 

「すまん冗談だ。戸塚の笑顔があまりにも可愛かったからな」

 

フォローになってませんよ。

 

「もうっ!比企谷くんは冗談ばっかりっ!……ドキドキしちゃうからやめてよねっ……」

 

最後の方はぽしょぽしょ過ぎて何言ってんのか良く分からなかったが、なんとか誤魔化せたようだ。

 

 

………………。

 

あっぶねぇぇっ!

あまりの可愛さに危うく心の声が出ちまったぜ!

 

そして俺のウィットに富んだジョーク(笑)に未だにぷんぷんと頬を膨らませて怒っている戸塚を抱き締めてしまわないようさらに心を引き締める。

 

ねぇねぇ、とつかたんって何で男の子なの?わけがわからないよ。

 

 

「……ぶぅ……ホント比企谷くんはイジワルだなぁっ…………でも……来てくれてありがとねっ!」

 

やめてっ!引き締めたばかりの心をゼロタイムでほどきにこないでっ!

 

「それじゃあ早速だけどやろっかっ?」

 

……なにをやるんでせう?と思いながら、俺は戸塚に手を繋がれ引かれていった……

 

 

神よ……我に祝福と理性あれ……

 

 

× × ×

 

 

まず俺達はストレッチから始めた。

激しい運動をする前は(意味深)、しっかりと身体をほぐさなくちゃダメですよね(意味深)。

 

 

そーいや戸塚とストレッチすんの初めてだな。

手を繋いで筋を伸ばしたり背中合わせで腕組んで背中に乗せたりしてるのだが、こいつマジで腕は細いし超軽い!

筋を伸ばしてる時、急に悩ましげな表情で「んんっ……」とか言うのマジでやめてもらえませんかね?

だってまだ●RECの準備出来てないんですから。

 

ねぇねぇ、とつかたんって何で男の子なの?わけがわからないよ。

 

 

そんなめくるめく夢のひとときを過ごしたあと、俺達は軽いラリーを始め、徐々に試合形式の打ち合いへと移行していく。

 

 

「……はっ!」

 

「……やっ!」

 

コート上にはボールを打つ際の掛け声と、放たれたボールの風きり音。そしてポーンポーンどころか、かなりの本気の打ち合いの音のみが響く。

 

ああみえても、戸塚はやっぱテニス部員なんだな。素人の俺ではついていくのが精一杯だ。

それでも俺の見る限りじゃ戸塚も結構本気でやってくれてるっぽいし、どうやら役に立ててはいるようで何よりだ。

 

最初の浮かれ気分などどこへやら、気がついたらかなりの長い時間の打ち合いをしていたらしい。

ふぅ……普段チャリ通で体力つけといて良かったぜ……

 

「ハァハァ……ひ、比企谷くーんっ……!き、休憩にしよっかっ……!?」

 

「お、おう……!そうだなー……!」

 

助かった……あんな細い身体のどこにあんな体力あんだよ……

 

戸塚は……やっぱ頑張ってんだな。

 

 

× × ×

 

 

たまらずコート脇のベンチに腰掛けると、輝く汗をタオルで拭いながらすぐ隣に腰掛ける戸塚。

 

いやいや近いっ!なんでゼロ距離なのん?

ベンチもっとスペース空いてるよね!?普通に太ももとかくっついてるからっ!

 

戸塚は用意してあったスポーツドリンクを飲みながら、上気して赤く染まった笑顔で話し掛けてきた。

 

「えへへっ……やっぱり比企谷くんは本当に上手いねっ!ぼく、ついていくのがやっとだったよっ!」

 

「いや、そんな事ねぇよ。俺の方こそ結構限界だったぞ。テニス部員にこんなこと言うのはとても失礼なんだが、戸塚は思ってたよりもずっと強いんだな」

 

すると戸塚は潤んだ上目遣いで俺を見上げる。

 

「ホントにっ……?嬉しいな……比企谷くんに強いだなんて言ってもらえるなんてっ……」

 

いやそんな赤い顔で潤まれたら勘違いしちゃうでしょ?

ああ……もういっそこのまま勘違いして告白して振られちゃおうかな……

振られちゃうのかよ。……いやそりゃ振られちゃうでしょ。

 

「ぼくが……ぼくが頑張れてるのは……ヒッキ……比企谷くんのおかげ……だよ……?」

 

ああもうダメっすわコレ。

神に祈った理性の願いは叶いそうもないです。

でも祝福の願いは叶いました。

 

「わわっ!ぼ、ぼくなに言ってんのかなっ!?……へ、変な意味とかじゃなくって、ただ比企谷くんが強かったからであって……そのっ……」

 

「だ、大丈夫だ。ギリギリ助かったわ」

 

「?……ギリギリ?」

 

目を潤ませ頬を染めながらもきょとんと首をかしげるとつかたん。

いやまじギリギリ。天元突破寸前。

なんならちょっと飛び出しかけてるまである。

 

思わず抱き締めかけた俺に、ようやく神の祝福(理性)が舞い降りた。

神様のばかやろうがっ!

 

 

一旦落ち着けようと、俺も用意してあったマッ缶に手をかける。

スポーツしたあとのマッ缶とか、素人さんには狂気の沙汰だから気を付けろよ?

俺クラスになるとスポーツしたあとの糖分補給はマッ缶しか受け付けないがな。

 

カシュっといい音を立ててひらかれた缶から、溢れ出る蜜の如き魅惑の液体を体内へと流し込む。

やだなんかエロい☆

 

すると隣で座っている戸塚が、クスクスと笑いながら俺を見つめていることに気が付いた。

 

え?脳内で繰り広げられていた妄想を読み取られちゃった!?

その妄想で思わずニヤついちゃってたりしてた!?

 

やめてくれ!戸塚に変態とか思われたら生きていけない!

 

「比企谷くんて……ソレ、すごい好きだよねっ!いつも飲んでるもんね」

 

びっくらこいた……そっちか。

ん?いつも……?

 

「あれ?俺戸塚の前でマッ缶とか飲んだことあったっけ?」

 

「だって、一年生の頃からいっつも飲んでたよっ?」

 

確かに一年の時からずっと飲んではいたが、見られてたのか……?

そういや戸塚とは一年の時から同じクラスだったんだよな。俺全然知らなかったけど。

 

俺自身、一年の時に他のクラスメイトに認識されてるって思ってなかったから、同じクラスだったって事よりも、俺をクラスメイトだったと認識していた事の方がびっくりしたっけな。

 

「そっか。なんか変なところ見られてたんだな。いつも見られてたのか」

 

すると戸塚はハッ!となり、カァァァァァっと真っ赤になった。

 

「べっ!別にいつも比企谷くんの事ばっかり見てたわけじゃないよっ!?……た、ただっ……そっ、その缶が目立つ色してるから自然と視界に入ってきちゃってたというかっ……!」

 

手と首をぶんぶん振って慌てて否定するとつかたん。なにこの可愛い生き物。

 

なんならいつも見ててくれても構わないぞ?と頭をポンポン撫でちゃいたい!

 

「そうか。これ目立つもんな」

 

「うんっ!」

 

 

くっそ……今日は神の祝福どころか悪魔の誘惑がキツすぎて心臓に悪いぜ……悪魔さん頑張ってください!

悪魔さん応援しちゃうのかよ。

 

 

「と、ところで、ソレって……美味しいの……?」

 

「戸塚は飲んだことないのか。これは千葉県民の魂の味と言っても過言ではないぞ」

 

「そ、そう……なんだ……。あの……ちょっとだけ貰っても……いい、かな?」

 

「へ?」

 

「やっぱり……ダメ……かな?」

 

「そっ!そんなことはないぞっ!?」

 

そんなにチワワみたいにウルウルと見つめないでっ!

なんだか八幡パニくって、飲みかけの缶を戸塚に渡しちゃったっ!

こんなサービス、滅多にしないんだからねっ☆

 

「……えへっ!ありがとっ!……えと、その……いただきま……す……」

 

コクッ、コクッ……と。

柔らかそうな唇をつけて、俺の飲みかけのマッ缶を両手で持ちながら飲む戸塚……

心なしか頬が赤い。

 

「ありがと……えへっ……コレ、すっごく甘いねっ……」

 

 

潤んだ上目遣いでマッ缶を返してくる戸塚から缶を受け取ると、「おう」と言いながらなんでもないかのように、その溢れ出る蜜のような魅惑の液体を体内に流し込む俺はこう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まったく、GWは最高だぜ!!

 

 

 

やはり俺と戸塚の友情物語はまちがっていない。

 

 

 

 

続く……の?

 




前回の感想で、読者さんから「たまには八幡視点で見たい」との有り難い?お言葉を頂いたのですが、正直その時はどうしようか迷いました。
なにせこのSSは戸塚視点がウリなのであって、他の読者さんはそれを楽しみにしているのではなかろうか……と。


しかし「よし!執筆するぞ!」といざ書こうと思った時、作者はとんでもない事に気付いてしまったのです。

“戸塚視点は、ちょっとお腹いっぱい気味である”

……と。

なので今回は敢えて八幡視点にしてみましたっ☆

結論から言うと、余計お腹いっぱいになりました。


いやもうこの作者、アタマ大丈夫なんですかね!?
大丈夫でしょうか!?こんなの書いてて(白目)
てかちょっとシリアス気味の相模SSを書き終わらせた直後に書いたのがコレって……人としてどうなんでしょうか?


あ、そういえば『とつかわいい』だと戸塚視点で『とつかたん』だと八幡視点です。
ちなみにこんな説明を真顔でしてる自分もキモくて大好きです。


それではまた次回があったらお会いしましょう!

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