猥褻は一切ないので、青少年のなにかにも安心。
BLAME,BLAME,BLAME! 暗闇の中、フラッシュマズルが火線を浮かび上がらせる。「イヤーッ!」「アバーッ!」銃弾よりも早く人影が走り、銃を持つクローンヤクザの頭を蹴り飛ばした。ニンジャ筋力から繰り出された蹴りはクローンヤクザの頭部をやすやすと引き千切り、首が宙に舞う。
BLAME! 横合いから走る火線を飛び越え、影は一瞬ヨウカイじみた姿を襲撃者に見せ付けた。縄状の血管組織に覆われた猪めいた獣の顔から複数の目が、クローンヤクザ達を見つめ、そして口を大きく開いた。クローンヤクザの網膜にその地獄めいた光景が焼きつく前に、顎が閉じられた。
「GRRRRR!」「アバーッ!」顔面を噛み砕かれたクローンヤクザが倒れる。悪夢めいた獣人は痙攣するクローンヤクザの身体を蹴り上げ、後ろにいたクローンヤクザにもろとも叩きつけ、ランスじみた鋭い蹴りを放った。「イヤーッ!」「アババーッ!」二人の胴体を貫いた足を戻し、さらに跳躍!
着地と同時に喉笛を引き千切られるクローンヤクザ! 鋭い爪で眼球から串刺しにされるクローンヤクザ! ゴアめいた死体を作りながら、なおも悪夢めいた獣人は白いスーツと鬣を靡かせ、モータルを蹂躙するに任せる! 獣人は血に塗れた顔を起こし、バク転で身をかわす。飛来したスリケンが身体を掠めた。
「イヤーッ!」頭上から鷹のように強襲する影を獣人は逞しい腕で受け、振り払った。影は距離を置いて着地する。「ドーモ、プロプティです」「フェイタルです」「インタビューさせてもらおう、どこの手のものだ」「何、大した用じゃない」
醜い獣の顔を歪ませてフェイタルは笑った。「ただのショッピングよ」その言葉が終わらぬうちに、白い鬣が宙を舞う。スリケンを投げつけようとしたプロプティより一瞬早く、獣はその懐へ飛び込んだ。「イヤーッ!」「GRRRRR!」腕を引き、顔面にスリケンを叩き込もうとしたプロプティの腕がフェイタルによってやすやすと引き千切られた。
「ア、アバッ」IRCで救援信号を打とうとしたプロプティの顔面に獣人の牙が食い込む。「GRRRRR!」「ヤッヤメローッ!」叫び声が終わらぬうちに、プロプティの顔面が、ごそりと食いちぎられる! 皮膚を鼻を頬を奪われながら、かろうじて残った眼球が獣を見た。
「GRRRRR!」「グワーッ!」フェイタルは何度も腕を叩きつけ、倒れたニンジャの上に圧し掛かって牙を立てる! 腕がプロプティの喉笛を押しつぶし、肩口を抉り、みるみるうちにプロプティの身体はボロ肉と化していく! フェイタルは首をねじ切ると、大きく跳躍した。
「サヨナラッ!」プロプティの身体が爆発四散! 着地したフェイタルの姿はすでに縮み始め、怪物めいた姿は白い美女へと変化する。フェイタルは手に持っていたプロプティの頭を地面に投げ捨てた。「フム」彼女は少し首を捻り、闇へと跳躍した。
白いボディスーツが、銀の髪が暗闇の中へと消えていく。ボディスーツの前は閉められず、その豊満な乳房は大胆にも曝け出されたままである。「ショッピングもままならんか」フェイタルは小さく呟き、そして笑った。いくつかの影が、彼女のあとを追い、闇を駆けた。
◆
フェイタルがその話を聞いたのは、ネオサイタマの路地裏だ。正気であればまともな市民は寄り付かないであろうそこをショートカットした彼女の手は、多少の血肉で汚れていた。美しい外見に吸い寄せられたヨタモノを何人かネギトロめいた塊にした為で、散乱する人体はうんざりするほどの日常光景だ。
頭を潰され、腹を掻き出され、両腕を引き千切られて転がる仲間の死体に囲まれて、そのヤクザ崩れのヨタモノは必死で命乞いをしていた。楽な獲物だと思った目の前の女は、何の感情も浮かべぬまま、ヨタモノを見た。黒い目にドゲザするヨタモノが映る。肉食獣が、目の前の餌を検分するがごとくの視線。
「お願いします、なんでもします!」涙と鼻水と仲間の血で汚れた顔を地面にこすり付けるヨタモノをつまらなそうに見て、フェイタルはある嗜好品の所持を聞いた。「へ?」「そいつを持っているか?」「ス、スミマセン、ないです」「じゃあ用はない」「マッテ!ちょ、ちょっとマッテ!」
「お、俺が持っていなくても、ここらじゃ、足りないものは全部、マーケットで手にはいりますから!」「マーケット?」「か、会員制です、メンバーカードがないと入れない…」「持ってるのか?」「こ、こいつ」ヨタモノは頭を潰された仲間を指す。フェイタルは死体を無造作に蹴って仰向けに転がした。
懐から取り出した血まみれの財布から、ICチップ内臓のカードが出てくる。フェイタルはそのカードに少し顔を顰めた。真ん中に虹色の刻印が押してある黒いカードからは、微量のニンジャソウルが感じられた。「ブラックマーケットか」「そ、そう。何でも手に入る、スゴイ」「スゴイか」
「ふん」行けば、必ず面倒なことになるだろう。だが、彼女の目的のものが手に入る確立は、実際高かった。彼女が求める物は、特に特筆すべきものでもない、ありふれた嗜好品だ。うらぶれたこの辺では手に入りにくい、ただの高級品。フェイタルは少し考えた。そしてヨタモノを見た。
「いいだろう」「エ?」「生かしてやる。マーケットの場所を教えろ」「ハ、ハイ、ヨロコンデー!」ヨタモノは汚れた顔を上げ、また地面にドゲザした。フェイタルはその姿をつまらなそうに見ながら、カードを少し見つめ、そしてそれを豊満な胸の間に挟んだ。
◆
ショッピングは拍子抜けするほど簡単に終わり、目当ての物は得た。フェイタルはニンジャだ、ザイバツを離れたとて金には困らない。先ほどのモータル共も思いがけず持っていた。望みの品は今懐に入っている。フェイタルは足を速めた。ブラックマーケット。確かに、何でも売っていた。
問題は、マーケットを仕切っていた奴等だ。やはりニンジャだった。大した数ではないようだが、数人ほどいる。マーケットに入った時からフェイタルをマークしていた。こちらは穏便にショッピングをしに来ただけだというのに。彼女の説明を彼等は信じないだろう。だから、フェイタルも説明する気はない。
「か弱い女相手に数で圧そうとは、紳士的じゃないことよな」「ほざけ、プロプティ=サンの死は高くつくぞ」フェイタルを取り囲む三人、そのうちアブサジューと名乗ったニンジャがジュッテを構える。他の二人もおのおの武器を構えた。大したカラテは感じない。モータルめいた雑魚共。
「やれやれ無害な買い物客に、この仕打ち」「お前の事は知っている、フェイタル=サン。ザイバツの残党。ネズミのようにクンクン嗅ぎまわりやがって」「なに、インタビューはじっくりその身体に聞くさ。報告すれば臨時ボーナスだ」「ヒヒ、見ろよあの身体」
「サンシタが」フェイタルは肩をすくめると、大きく開いていたジッパーをさらに下げた。「イヤーッ!」アブサジューがジュッテを振りかざして飛び掛ってくる!それを側転でかわすと、フェイタルは横にいたタイアードと名乗ったニンジャの腹を蹴った。「イヤーッ!」「グワーッ!」
「イヤーッ!」後ろから最後の一人、グローミーがボーを突き出す。間一髪でかわしたボーが胸部上をギリギリに揺らす! フェイタルは飛びすさると、後ろに踏み込んで大きく飛び上がった。「GRRRRR!」白い肌に網目状血管が浮き出し、顔面が変形していく。
美しかった顔面は一瞬で醜い獣のそれへとヘンゲする。グローミーがその冒涜的外見に思わず足を止めた一瞬を逃さず、フェイタルはその頭部を思いっきり蹴り飛ばした。何倍にも膨れ上がり強化されたニンジャ筋肉によって頭部がスイカ割りめいて粉々になる!
「サヨナラ!」グローミーの身体が爆発四散! その血飛沫を掻い潜り、フェイタルはタイアードの双剣を持つ手首を握った。「グワーッ?!」ミシリと嫌な音がして、タイアードの手首が枯れ木めいてへし折られた。フェイタルは獣の顔を歪ませた。
「イヤーッ!」「グワーッ!」力任せにタイアードの両手首がもぎ取られる! なんという陰惨なケジメ! 「イヤーッ!」「ンアーッ!」だがフェイタルはその両手を放り出し、タイアードをカイシャクすることなく大きく跳び退った。その背から血が噴出す!
「お、俺の! 俺の手が!」「手ごときで泣き言を抜かすな、タイアード=サン! サイバネ手術で元通りだ!」両手首から噴出す血に悲鳴を上げるタイアードに、アブサジューが叱りつける。そのジュッテはフェイタルの血で濡れていた。
「おのれ、フェイタル=サン。貴様はインタビューだけじゃすまない…めちゃくちゃにしてやる! その顔を切り刻んで公開マグロ解体ショーだ!」タイアードが鼻を啜りながら喚くのを、フェイタルはしらけた目で見た。「ブザマ過ぎて何も言えん」
その背の傷は浅くなかったはずだが、強靭な身体はもう血を止め、傷を塞いでいる。「イヤーッ!」手負いのタイアードが槍めいたサイドキックを放つ! その蹴りを逆に受け止め、「GRRRRR!」フェイタルはタイアードの足首をねじ切った。
「グワーッ!」「イヤーッ!」もう一本もねじ切る前にアブサジューのインターラプト! フェイタルはアブサジューの蹴りを受けて転がる! その頭に振り下ろされたジュッテを転がってかわすが、さらに斬撃が地面を叩く! 転がってかわす!
アブナイ! このままでは彼女の頭がネギトロめいたミンチにされてしまう! 「イヤーッ!?」「GRRRRR!」ガキンと金属音がして、振り下ろされたジュッテは獣の牙に受け止められていた。「な、何だと!」ジュッテを引こうとするが、牙はジュッテを咥えて放さない!
「GRRRRR!」「グワーッ!」人の言葉にならぬ獣の咆哮を上げ、フェイタルはジュッテを咥えたままアブサジューの腹へ拳を叩き込んだ! 「GRRRRR!」「グワーッ!」「GRRRRR!」「グワーッ!」「GRRRRR!」「グワーッ!」「GRRRRR!」「グワーッ!」
「GRRRRR!」「グワーッ!」今更ジュッテを手放したところでどうにもならず、アブサジューは地面に叩きつけられる! 上に飛び乗ったフェイタルはアブサジューの喉笛に牙を立て、そのまま食いちぎる! アブサジューの目が見開き、何か叫ぼうとした。声は出なかった。
サヨナラと上げる声もなく、アブサジューの身体がフェイタルの下で爆発四散する。強靭な獣人の身体はその爆風から受けた傷を即座に修復した。子焦げて炭化した皮膚がみるみる塞がる「ふざけ…やがって…、ふざけ…やがって…」虫の息ながら、タイアードはちぎられた手首ごと双剣の柄を咥えた。
柄の一部が器用に口で外され、模様の一部が不吉めいた明滅を始める。「クソ女が…キサマも俺と道連れよ…」「すまんが、一人で逝ってくれんかね」「?!」振り向こうとしたタイアードの前に、葉巻が転がった。その先端からはセンコじみた火花が弾けた。
KABOOON! フェイタルの後ろでさらに爆発が起こる。ニンジャソウルの爆発四散と違い、火薬めいた爆発だった。タイアードの身体は一瞬で爆ぜ、焼き鳥めいてその身体が四散した。「死に損ないに使うまでもなかったか。高くついた」
「おやどうした、傭兵殿」フェイタルは口に咥えたアブサジューの肉を吐き捨て、身体を起こした。その肢体がみるみるうちに白く、細くなっていく。「そりゃこちらのセリフだ」呆れた声で返すのはガンメタル装束のニンジャだった。
爆発し、ウェルダンめいたタイアードの残骸を越えてブラックヘイズはフェイタルの前に立つ。「抜け出したと思ったら、こんなところでアマクダリと何を遊んでいる」「ショッピングだ」「は?」眉根を寄せる傭兵に、フェイタルは美しい笑みを見せた。
ボディスーツのジッパーを上げながら、フェイタルは懐深くに入れておいた包みを取り出し、ブラックヘイズへ向って無造作に投げた。それは茶色の紙で包まれた小包で、軽かった。「なんだこれは」「ショッピングの品だ」ブラックヘイズが顔をしかめる。
「中身はわかるだろう」「何でこんな物をわざわざ買ってくる」フェイタルはニンジャの残骸を見た。「仕入れのルートが一時的に切れたと言っていただろう。ここらで手に入ると聞いてな」「わざわざ俺のご機嫌伺いか?」「ノー、ビジネス」「なんだと?」
「集中力でも切れてウカツでもしたらこちらもアブナイ。これで助かるなら安いものよ。WIN-WINの関係よな」「何がWIN-WINだ、アマクダリと小競り合いまでしやがって」ブツブツと言いながらも、ブラックヘイズは小包の紙をはがした。箱の中に納まっていたのは、キューバ葉巻だ。
一本取り出すと、彼は少し匂いを嗅いで、「いい品だ」とつぶやいた。フェイタルがニヤニヤとブラックヘイズを見る。それを無視し、ブラックヘイズはメンポの隙間に葉巻を押し込むと、義手の指先で葉巻に火をつけた。
「お味はいかがか」と猫めいて笑うフェイタルに、ブラックヘイズは肩をすくめ、「悪くない」と答えた。一本フェイタルに投げると、指先で火をつけてやる。フェイタルは葉巻を咥えると、美味そうに吸い、吐き出した。赤い唇から煙が一筋上がる。
紫煙が二本、真っ暗な夜の中にゆるゆると立ち上がり、闇に融けていく。フェイタルはニヤニヤと猫のように笑ったまま、歩き出すガンメタルの背中を追って歩き出した。二人のニンジャは歩き、そして暗闇に消えていった。まるで、立ち上る煙のように。