真・女神異聞録 ペルソナ -Wild of Shadow- 作:日陰。
「で?今日も相変わらずなの?」
談話室にあるソファーに俺を案内したカレンさんは、二人分の紅茶とお茶菓子を手際よく用意すると。
こちらに話しかけてきた。
「そうなんですよ、もう毎日退屈で困っちゃいます」
「ふーん、確かに今は退屈だろうけど。そのうち好きなように動けるわけでしょ?
ならがんばって大きくなるまで待ちましょ?」
「まあそうですね、昔にやっておけばよかったこととか実際に
やり直せるわけですし、恵まれてるのかもしれないです」
「うんうん、そうやってポジティブに考えるのは大切よ。なんだって、
暗いこと考えてたら詰まらなくなっちゃうわ。人生楽しくしないとね♪」
綺麗な金髪を押さえつけていたブーケを外し、完全な休憩モードに突入したカレンさんに。
やさしく諭された、これが本職のシスターの実力かっもう何度も味わったはずだが、今日は妙に感動が強い。
「?、どうしたの急にボーっとしちゃって?」
「あ、あぁいや。ちょっとカレンさんに見とれちゃっただけですよ。真面目にシスターやってるんだなって」
「え?な、なによ急に///でもありがとう。うれしいわっ…て私真面目に見られてなったの!?」
こちらの言葉に反応して、百面相しているカレンさんを見て。
少し心の重荷のようなものが減ったような気がした。
「あーすいません。いつも昨日見たテレビがどうとか、そんな話しかしてなかったから新鮮で」
「ぬぅ…それは明君が聞き上手で話しやすいからついね」
「話しかけやすいですか僕?」
それは意外だ、自分では自己中で好き勝手話すイメージだが。若返って変わったのだろうか?
「それと妹に似てるからかな?明君と会うと色々話したくなっちゃうのよね」
「へー妹さんですか。カレンさんの妹さんなら可愛いんでしょうね」
「アリサって言ってねー明君と同じくらいの歳なんだけどおねえちゃんって可愛いくてねー」
《ゴーンッ ゴーンッ》
どこからか鐘の音が聞こえてくる…どうやら結構な時間話していたようだ。
壁に掛けられた時計は6時を示している。小学生が出歩くにはもう遅い時間だ。
「あーもうそんな時間かー 明君帰らないとねー」
「そうですね、あんまり遅くなるとさすがに…」
食器をかたずけるカレンさんを手伝う。いくら小学生の体でもやりようはあるのだ。
2人で手分けしたため5分もかからずに綺麗になった。
「じゃあ帰ろっか?私も上がらせてもらうし一緒に帰ろ。送ってくよ」
「え、いやいいですよっ歩いて帰れますから」
「ダメだよぉ。中身が大人だって言っても体は小学生なんだから、
暗い中放り出したら私が神父様に怒られちゃうわ」
どうやら憧れのカレンさんとのドライブが確定したようで、
私服に着替えてきたカレンさんに、案内された先に合ったのは真っ赤なスポーツカーだった。
「それじゃあまたねっ明君。またお話しようねー」
そんな軽い言葉で締められたお話のおかげで、なんだか心が軽くなった気がする。
多少晴れやかになった心にうれしく、にこにこしながら玄関をあけ、盛大に母親に怒られた。
* * *
身体がナニかにゆっくりと沈んでいく。この感覚には覚えがある、なんせいつものことだ。
うっすら目を開けるとどす黒い闇とドキツイ赤が俺を招き入れる。
-ああ、また始まった。
すぐさま黒いヤツがやってくるであろうが、俺はかまわずその場で寝転がった。
どうせ逃げても無駄だ、自分が取れる行動は今までの悪夢(ユメ)でやりきった。
それでも捕まったのだ。既に逃げる気力など無くなっていた。
-アイツに捕まれば悪夢(ユメ)から覚めるのは分かってるんだ。なら、なにもしなけりゃこれで終わりさ
静かに目を閉じ、アイツが来るのを待つ。頭の方角から何かを踏みしめる音がする。
きっと近くまで来ているのだろう、恐怖でドキドキと高鳴る心臓を無視しきつく目を閉じる。
〈サク… サク… サク…〉
まだか?まだかっ!マダか‼今すぐ逃げ出したい衝動を抑えその場で待機する。どれくらいたった?5分?10分?
いつまで待てばいいんだっ早く俺を解放しろっ!
俺の頭上で足音が止む、が何も起こらない。
何時までも来ない衝撃にいぶかしんで目を開けると…
アイツが俺の顔を覗き込んでいた。
-…っ‼
びっくりして飛び起きる。が、アイツは何もせずこちらを見ているだけだ。
しばらくにらみ合いが続く。と不意に相手の口が弧を描く。
【ニヤリッ… コンナ所デジットシテイテイイノカ?】
まさか声を掛けて来るとは、そもそも声を出せたことに驚く。
-どういうことだ?お前は何を言っているんだっ‼
【急グノダ若人、汝ガ紡イダ絆ノ先ニ。災厄ガ降リ立トウトシテイルゾ?】
-待ってくれっ いったいなn…
「待ってくれっ‼」
昨日と同じように飛び起きた俺は、言い知れぬ恐怖感に襲われていた。
夢で会った奴の言葉が頭の中を駆け巡る。意味は分からないがとにかく怖いのだ。
だが、現状どうすることも出来ないため。いつもより青ばんだ顔のまま学校へと向かうのだった。
「はーいお疲れ様―。皆よくがんばったねー、今日の授業はこれでおしまいだよー」
いつもより速い竹内先生の挨拶が聞こえ、そういえば今日は土曜日だったと思い出した。
今日は体調がすぐれないのだ。通常と違い半日で終わる日は正直うれしい。
「あーそれと、不審者って言っても分かんないか。なんか危ない人が目撃されてるから、
気を付けて帰るんだよー」
いくら子供だからってその言い方はどうなんだ先生… 俺以外の奴全員、意味が解らず首かしげてるぞ。
* * *
無事に授業を終えた俺は、昨日も向かった教会へ歩いていた。
アイツの言葉に当てはまる〈絆〉とやらの相手がカレンさん達しか思い浮かばないからだ。
決してボッチなどではない。周りが子供すぎてテンションについていけないだけだ。
ふと、そんなことを考えながら歩いていると、視界に奇妙なものが映る。
マントだ、春先でポカポカしている陽気の中。真っ黒なマントを付けた男が立っている。
…あんな格好をして暑くないのだろうか?おそらくあれが竹内先生が言っていた不審者だろう。
ついさっき話題に出たばかりなのに、出くわしてしまうとは運がない。
幸いにも不審者はこちらを見ていないようだ。見つからないうちに違う道にそれようと身を翻したその時。
「-失礼。そこの君、少し聞きたいことがあるのだが」
その声を耳にした途端、全身を恐怖が駆け巡った。ただ声を掛けられただけだ。
それだけで恐怖に侵されてしまった。見えない何かに心臓が掴まれているように、
キュウキュウと鈍い痛みと動悸を脳へと伝えていく。
「-この町にある教会に行きたいのだが、どこにあるか知らないかね?」
逃げろにげろニゲロッ‼全身の細胞が警告を発しているような感覚。
今すぐここから逃げ出したいが、足がすくんで動けない。
「-ふむ、答えないのか答えたくないのか…。どちらにせよ直接聞けばいい話だ」
男の手がこちらに伸ばされる。半ば諦めかけたとき12時を知らせる鐘が鳴る。
「ツッッ-‼‼ 知らないっ‼」
動くようになった足を必死に動かす。身体を蝕んでいた恐怖から逃げるために必死に。
「ハッ‼… ハッ‼… なんだあれ、なんだあれっ‼」
見慣れた道を走りながら思わず愚痴をこぼす。これまで怖いと思う時は多々あったが、
本当の意味での恐怖を味わったのは初めてだ。
「俺だけじゃぁ、どうすることもできない… 二人に、教会にっ」
「-ほぅ、やはり知っていたか。ならばそのまま案内してもらおうか」
「えっ?… ぐぅっ‼」
後ろから飛んできたなにかによって吹き飛ばされる。辺りに肉が焼けるようなにおいが広がる。
「-普段はこんな弱い魔法使わないがな。今のような狩にはちょうどいい」
〈アギ〉その単語が聞こえた瞬間、俺の足元が爆発した。
「-さあ、がんばって走りたまえ少年。あまり遅いと手元が狂ってしまうかもしれんぞ?」