至らぬ点等は暖かい目でスルーしつつ読了後にご指摘戴けると幸いです
今宵は新月だ。こうも暗い闇夜では、出掛けることも出来ない。だから僕はある思い出を記そうと思う。
…あれも新月の夜だった。月は見えなかったが、空気は清み、星がとても綺麗に瞬いていた。
僕はちょっとした用事があって、こんな遅くになって霧の湖の畔を歩いていた。
その頃、あの辺りで妖怪が出没するとの噂があって、とても不安だったのを記憶している。
確か、里の灯りが微かに見えてきた頃に霧が深くなってきたんだったかな。5歩先も見えないほどの深い霧。とても不安だった。いつ妖怪に襲われるかと怯えながら歩いていた。
どれくらい歩いたのだろうか。ふと、足下に人影のようなものが見えた。警戒しつつ近づくと、どうやら倒れているらしかった。近くに石が落ちていた。これに躓いたようだ。
「大丈夫ですか?」
声を掛けてみた。すると彼女──女の子だった──は、倒れた体制のまま
「だ…大丈夫…」
と弱々しく応えた。声だけで大丈夫じゃなさそうなのはすぐにわかった。
「家まで送りましょうか?」
聞いてみたけど、彼女は戸惑った様子で黙ってしまった。初対面の男に家を教えるのは躊躇われるか、と反省して
「とにかく治療しましょう」
と怪我を診せてもらうことにした。昔少しだけ医学を学んだことがあって、簡単な応急処置くらいは出来るんだ。とりあえず霧を抜けるまで背負って運んで、患部を診せてもらった。思ったよりも酷い怪我だった。転んだ拍子に捻挫してしまったらしく、立つこともままならないようだった。この場所では治療出来ない。そう判断して、
「とりあえず僕の家に行きませんか?」
と提案した。彼女は躊躇っている様子は見せたものの、頷いてくれた。
彼女を家に連れて帰り、応急処置を施した。でも、応急処置は所詮応急処置。まだ痛むようで、とりあえず治るまで僕の家に泊まってもらうことにした。
それから、一週間くらいだっただろうか。僕は彼女の治療に専念した。その治療の甲斐あってか傷は回復したものの、彼女は僕が出した食べ物に一切手を付けず、どんどん痩せていってしまっていた。このままでは生命に関わるかもしれない。僕は精一杯のことをして彼女の看病をした。でも彼女は日に日に弱っていくように見えた。
そんなある日だった。いつものように食べ物や薬を買って家に帰ると、彼女がいなかった。奇しくも、それも新月の夜だった。
僕は焦った。彼女が早まった行動に出たのではないか。僕の家にいる彼女は、なんだか辛そうだったから。
僕は必死で彼女を探し、そして、見つけた。
───“狩り”をしている彼女を。
彼女は暗い路地で人を待ち伏せしようとしていた。そう、彼女が例の“妖怪”だったのだ。
全て合点がいった。彼女が自分の家を言わなかった──いや、言えなかった訳も、彼女が僕が出した食べ物に一切手を付けなかった──いや、付けられなかった訳も……。
彼女が僕に気付いた。彼女も驚いた様子だった。僕が声を掛けようとした、その刹那。
「…ごめんね、騙して」
それだけ言って、彼女は宵闇に消えていった。…彼女の頬に、夜空の星に似た輝きが見えた気がした。
…それ以降、彼女に会ったことは無い。元気にしているのだろうか。それとも飢えてしまってもうこの世にいないのだろうか。
…僕は、例え彼女が妖怪であって、人を捕食しているのだとしても、元気であって欲しい。そして、側にもいて欲しかった。例え妖怪であったとしても。例え、僕が餌であったとしても……。
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