よくある転生の話~携帯獣の話~   作:イザナギ

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二話  ホウエンの女の子とジョウトの男の子

 

 

 俺に元気な挨拶をしてくれたユウキ君は、俺を部屋に案内してくれるという。

 いい子だねぇ。

 

「といっても、引っ越してきたばかりだし、何もないんですけど」

 

 苦笑いしながらユウキ君は俺を部屋に招き入れる。……うん、やっぱり良い子だ。

 

 部屋の中はというと、やはりというかユウキ君が言った通り、まだほとんど何もない状態だ。ただ、ベッドやテレビ、パソコンなどはすでに搬入されており、新生活への期待を高めるかのように輝いて見えた。

 と、ユウキ君はおもむろに近くに置いてあった段ボールの封を開けて中身を少し探ると、プチプチシートに包まれた円形の何かを取り出す。

 時計のようだ。それも、青いやつ。

 ふと、どこかで見たような気がして頭をめぐらしてみると、存外すぐに答えにたどり着いた。

 

「――それ」

「えっ?」

 

 いきなり声をあげた俺を見やりながら、ユウキ君は電池を時計に入れるために動かしていた手を止める。

 

「いや、俺、兄弟がいんだけど、それの色違いを妹が持ってんだ。赤色の」

「へぇ~、妹さんがいるんですか?」

 

 手を動かすのを再開しながらユウキ君は、興味を持ったのか疑問形で問いかけてくる。

 

「おお、いるよ。ところでユウキ君は歳いくつ?」

「えっ? えと、今年十二歳になります」

 

 ということは今十一歳か。

 うちのじゃじゃ馬も今のところ十一歳だ。

 同い年だな。 ……よし。

 

「うちの妹もおんなじくらいだな。

 ――ところでユウキ君」

「は、はい?」

 

 おもむろに声のトーンが低くなった俺に少しビビった様子だが、聞く姿勢にはなってくれてるようだ。

 つくづくいい子だなぁ、この子。

 そんな重大なことでもないんだけどさ。

 

「うちの妹と友達になってくれない?」

「えっ? あ、いや、はい」

 

 混乱しながら答えなさんな。まぁいきなりシリアス口調になった俺も悪いんだろうけど。

 

「いやな、うちの妹はお父さんっ子でな、『お父さんのお手伝いしたい』ってフィールドワークの手伝いをするようになってさ」

 

 かくいう俺もそのくらいの年から手伝い始めたんだけどさ。

 あの子も十歳になってから初めて、もう一年経つことになるわけで。

 

「フィールドワークの仕事の間、ミシロにはいないだろ? 滞在先も長くいるわけじゃない。必然的に、同年代の子供たちと接する機会が少ないんだ」

 

 もちろん近所に住む女の子たちは、俺から働きかけると、持ち前の行動力で積極的に妹の友達となってくれたが、いわゆる『男友達』がいないのだ。

 

 ……女の子たちは目を輝かせて協力してくれるのに、男衆はどこか意気地がない。

 まぁ男どもは、いずれは形振(なりふ)り構わないようになるかもしれんが、妹が男嫌いになるのは良くないと思う。

 

「このまま成長してしまえば、『男子への接触の仕方』を知らずに大人になり、いろいろ障害が出てくるかもしれん」

 

 研究者の世界には、最近女性が増えてきたとはいえ、まだまだ男性の比率が高い。もし我が妹がその世界に入りたいと望むのなら、男性と接する方法は心得ておくべきだ。

 

「と、いうわけで、ユウキ君にはわが妹の一人目の『男友達』となってほしい」

「わわ、わかりました」

 

 俺の話がけっこう真面目に聞こえたせいか、神妙にうなずくユウキ君。

 

 

 

 ……ダマすようですまないけど、俺の話ほとんど嘘だぜ、と心の中で謝る俺。

 実際、我が妹には彼氏どころか男友達さえいないのは事実だが、男相手に臆することもなく堂々と張り合うくらい肝は太い。

 その肝の太さは母さん譲りだ。案外、フィールドワークは危険がつきもの。いつ死ぬか分からない、というのも、あながち冗談ではない。それでも帰ってくることをただ待つことができるからこそ、母さんは親父の伴侶となることができたんだ。

 

 おっと、また身内自慢になっちまった。

 で、なぜ俺はこんな嘘をつくかというと、ユウキ君はこのホウエンに来たばかりだ。

 違う地方から来たのだから、当然友達なんかいない。

 じゃあ作っちゃおうよって話で、手始めにうちの妹と友達になってもらう。

 妹は近所にも顔が広いから、すぐに友達が増えるだろう、と俺は考えたわけだ。

 

「じゃ、よろしく頼むよ。あいつも今はフィールドワークで家にいないけど、君が来ることは伝えてあるし、すぐに戻るって言ってたから」

「あ、はい」

「うちの家は君んちのすぐ隣。遠慮なく遊びに来てね」

「わかりました、片付けがある程度終ったら、お邪魔します。お手伝いのお礼もしたいですし」

 

 ……ほんっとによく出来た子だなぁ。前世の俺なんてこの頃にこんな気遣い出来たかよ。

 昔基準で考えるのは、今までの記憶を継承してからもう一度十四年生きているからだ。そりゃ前世の反省を生かして、今世はまともにやるさ。

 そして俺はユウキ君にお礼を言って退出し、ユウキ君のママさん(以後、ママさん) からかなり色を付けてもらったバイト代をもらって、すごく恐縮しながらユウキ君の家を出た。

 

 この後、俺はフィールドワークのレポートを研究所に提出しに行くことになってるから、研究所へ向かう。

 研究所に到着して最初に聞いた言葉は

 

「博士ぇーーー!!!」

「どこですかーーーー!!!」

 

 という助手二人の悲鳴だった。

 おいおい、マジか。またか。またなのか。

 二人の叫びが如実に説明するように、親父はなんの前触れなく突然フィールドワークに出かけることがある。

 その際にすべての仕事(面倒事)任される(押し付けられる)のが、この二人の助手だ。そしてその場に居合わせると、十中八九、俺も巻き込まれる。頭脳労働は苦手な俺としても、親父のこの放浪癖は最近、頭痛の種になってきた。

 しかし、ここまで悲痛な声を上げる二人を放っておけるわけもなく、うんざりしながら研究所への歩みを進める。

 

 ……あ、ちょっと眩暈(めまい)がした……。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 こんにちわ、ユウキです。

 頭の毛は地毛ですよ、染めてません。ついでに釘を刺しますが、白髪ではなく銀髪です。

 くれぐれもよろしくお願いしますからね!?

 

 さて、そんな事はおいといて、オダマキ家の皆さんにご挨拶とお礼をしに行きます。カナタさんの依頼も、ついでという形だけどやらせてもらおうかな。

 お土産は、チョウジタウンの名物『いかりまんじゅう』。オレも怒りの湖に連れてってもらったことが何度かありますし、父さん(ジムリーダーになる前のセンリ)が『修行』としてジョウトやカントーを旅したお土産に買ってくることもありましたので、オレたち一家では馴染みの味として親しまれています。

 

 ホントは引っ越し蕎麦とかがよかったんだろうけど、カナタさんのお母さんや弟君以外は留守にしていることが多いらしいので、みんなで食べてもらえるように、まんじゅうにしました。

 そうしてるうちにオダマキ家へと到着。

 それにしても、カナタさんの妹さんって、どんな人なんだろうか。

 惚気(のろけ)るように「お世辞で可愛いと言われてる」って言ってたけど、男は結構正直者だ。

 そして、カナタさん自身の親しみやすそうな人柄からして、お世辞ではなく、なかなか可愛いのかもしれない。

 う~ん、ちょっと緊張してきた……。

 

 少しだけ期待に胸を膨らませつつ、オダマキ家の呼び鈴を鳴らすと、カナタさんのお母さんが応対してくれた。

 

「あらぁ、君がユウキ君? カナタが『お礼に来るって言ってた』っていうから、待ってたわ」

「はい、積み荷の搬入の際は、お世話になりました」

「うふふっ。カナタの言うとおり、いい子ね。立ち話もなんだから、上がって」

 

 すでにカナタさんからいろいろ聞いてるらしい。すんなりオレを家に上げてくれた。

 あ、そういえば

 

「カナタさんは、どうしたんですか?」

「ああ……カナタは研究所に缶詰めになっちゃったわ」

 

 なんでも、お父さんであるオダマキ博士が突然フィールドワークに出かけてしまい、残されている仕事を助手の皆さんと片付けているらしい。……ご愁傷様です。

 でもすごいな。オレの二つから三つ上だけど結構大人びてるし、研究所のお手伝いもできる。それに、男のオレから見ても整った顔立ちをしてるし。

 それに気もよく回るし、親しみやすい。………完璧人間じゃないですか。

 そんなことをカナタさんのママさん(以後、ママさん)に向けて言ってみたら、

 

「まぁ身内目線になってしまうけど、あの子は確かに顔が良いのよねぇ。誰の遺伝子を受け継いだのかしら。でも、あなたの方が良い顔だってカナタも言ってたし、私も賛成よ。それに、あの子はそう言う言われ方をするのが嫌らしいの」

 

 オレはそんなんじゃないですよ、と返答しておきながら、どうして嫌がるのか理由を尋ねてみた。

 

「あの子は自分の悪いところしか見えてないの。あなたも同じ部類のようね。それに実際、あの子は完璧じゃないわ。

 炊事や洗濯はフィールドワークばかりやってたせいである程度はできるけど、最新家電を扱えないの。パソコンとか電子機器の(たぐい)は研究でも使うからむしろ大得意なんだけど、日常生活では不自由してるのよ。

 それに、部屋を片付けられないの。でも、これは仕方ないわ。フィールドワークって自然観察だから泊まる場所の清掃には常に気をつけなくちゃならなくて、気を張ってるの。帰ってくると気が抜けるから、どうしても部屋が汚くなっちゃうのよ。他にも――」

 

 つらつらとあがるカナタさんの弱点。

 やっぱりママさんだ、伊達にカナタさんを16年育ててきたわけじゃない。

 そんなママさんを敬服しつつ、その『汚い』というカナタさんの部屋を教えてもらい、行ってみることにした。

 

 階段を上って奥の部屋、とママさんは言ってたので、その通りに向かう。部屋に鍵はなく、内開き式らしい。

 「お邪魔します」と誰に断るでもなく言って入ると、確かに片付けはなされていなかった。

 

 シンプルな四角い部屋で最初に目についたのは、本の山。

 部屋の奥にある机を取り囲むように本が重ねて置いてあり、さながら本の城壁みたいになっていた。

 オレから見て右手にある本棚にも本は納めてあるが、あまりにも数が多すぎて溢れ出している。

 なんというか、『研究者の部屋』という感じだったけど、よく見れば左手のベッド付近に小さいテレビとゲーム機があり、ソフトもその脇の収納ボックスに仕舞われていた。

 目を凝らせば、机の上に携帯ゲーム機もある。やっぱり、いくら大人びていようとまだ十四歳の少年だ、ということなんだろうか。

 

 ――でも、プレ〇テや○SPっていうのは、ケンカ売ってるでしょカナタさん。いや、誰にってわけじゃないけどさ。

 あ、D○ Li○eだ。刺さってるのは――黒バージョン。

 でもちゃんと他のシリーズも揃えている様子。

 ……緑でキラキラのパッケージ見たらうれしくなった。なんでだろ。

 

 あまり長居も良くないだろうから、退出することに。

 廊下に出て一回へと続く階段までもう少し、というときに、隣の部屋――おそらく妹さんの部屋のドアが開きっぱなしなのを見つけた。

 思わず、足が止まる。瞬間、カナタさんの言葉が脳をよぎったが、本人がここにいないのでそのままドアを閉めて帰ることに――しようと思ったら、目の前にあるモンスターボールに目がついてしまった。

 なぜか分からないけど興味をそそられ、何かにつられるように中に入ってしまう。

 

 やはりというか、『女の子っぽい』部屋だ。

 壁の色は薄いピンクだったりするし、床にはマットを敷いてあって、ぬいぐるみがちょこんと座ってる。

 そんなことに目を配りながら、おもむろにモンスターボールを取り上げた。

 と、

 

「あっ」

「えっ!」

 

 急に後ろから声が上がったので振り向くと、ちょっと驚いた顔で口に手をおさえている女の子がいた。

 おそらく妹さんだ。脳がそう答えを導くと、案の定、オレは慌てふためく。

 弁解のために口を開こうとするが、その子は何かを納得したように頷くと、オレより先に口を開いた。

 

「あ、えと――」

「そっか、君がユウキ君だね!」

「へっ?」

 

 いきなり自分の名前が出たことに驚いた。

 けどその子は構わず、先を続ける。

 

「そのボール、私のなんだ。昨日急いで出かけたから、忘れちゃって」

 

 てへへ、と頭に手を置き苦笑いをしてる。

 オレはボールを持ったまま話していることに気付いたので、慌ててその子にボールを差し出した。

 

「ご、ごめん、気になっちゃってさ」

「いいよいいよ、戸締りしてなかったのも悪かったし」

 

 にぱっ、と――例えて言えば、ひまわりみたいな笑顔を返され、オレが差し出したボールを受け取る。

 オレはその笑顔に毒気を抜かれ、次第に肩の力が抜けてきた。

 そして彼女はその笑みを浮かべたまま、

 

「私の名前は、オダマキ・ハルカ。今日から友達だから、呼び捨てしてね!」

「あ、ああ、うん……よろしくね、ハルカちゃん」

「ハ・ル・カ!」

「う、うん……ハ、ルカ」

「うん!」

 

 『ちゃん』とつけられたことが不服だったのか、釣り目になりながら訂正を要求してきたので、慌てて訂正する。

 すると満足したのか、またひまわりの笑顔を見せて一つ頷くハルカちゃ「ハルカ!」

 心の中もダメですか、そーですか……。

 はぁ……と、観念したかのように肩を落とすオレを見て、ハルカはなぜか満足そうにすると

 

「今日の夜は私の家で歓迎パーティだって! 私もちょっと雑用があるから今は休めないけど、パーティには参加できるよ。

 その時、“向こう”のお話聞かせてね!」

「“向こう”?」

「ユウキ君は本州の――たしかジョウト出身だったでしょ。私、本州に行ったことないから、お話が聞きたいの!」

「あ、ああ……うん、良いよ。友達だからね」

 

 そんなオレの言葉に、やったーっ!! と大喜びしながらハルカは飛び上がった。

 そしてちょっと気になったので“雑用”とは何かを聞くと、

 

「え? レポートをお父さんの研究所に持ってくことだけど」

 

 なんて言ったので、事情を説明して、全力で止めておいた。

 そうしたら、今度はウチの家の片付けを手伝うと言う。

 それも遠慮したが、

 

「暇なんだもん。お兄ちゃんと違って、整理整頓は得意だよ」

 

 それにご挨拶もしたいし、なんて言われると止められる理由もなく、ハルカは元気よく部屋を飛び出した。

 

「――――ぐっじょぶ、お兄ちゃん」

 

 去り際に何か聞こえた気がするけど、気のせいかな?

 

 ……まぁドタバタしてたけど、なんだか心は暖かかった。

 あと、カナタさんに伝えとかないと。

 

 ハルカは本当にかわいいですよ。

 間違いない。

 

 これがオレと彼女との、出会いだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 予定以上に俺の作戦がうまくいったその頃、俺は書類の山に埋もれ研究設備をいじくり、助手の二人と一緒に研究所内を駆けずりまわっていた。

 

「博士ぇーーーーー!!」

「どこにいるんですかぁーーーーーーーー!!!」

「帰ったら説教じゃ、クソ親父ぃ!!!!」

 

 ……これでも、育ててくれた感謝はしているんですよ?

 

 

 




前の話よりは長くなったかな。
ハルカちゃんとユウキ君が出会いました。しかし『この世界の物語』が始まり、『物語の主人公』がユウキ君であろうとも、『この小説の主人公』はカナタです。
ユウキ君を中心に世界は回ることになりますが、その中心を見つめ続け、時に助ける存在として、カナタは動くことになります。
それを、カナタの目線、そして周りの目線から描いていけたらなーと思います。

まぁ偉そうなことを言いましたが、この小説は『転生者がとりあえずポケモンの世界でいろいろがんばる』話です。それ以上でもそれ以下でもない……はず。

次は結構かかりそうだなー……
それではっ

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