よくある転生の話~携帯獣の話~   作:イザナギ

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四話  少年、旅に出る

 ユウキ君が旅立ちを決意した日からすでに二日ほどたった。

 今日この日、ユウキ君は旅立つ。

 

 ってか早いな。まだミシロに来て三日ぐらいしか経ってないじゃん。

 まぁ思い立ったら吉日ともいうし、俺がけしかけたのもあると思うんだけど。

 ちなみにユウキ君はすでに旅に出ることは許可されてるし、この二日間は旅に出るときの準備に費やされたらしい。

 小さい頃、センリさんとたまに二人だけでキャンプをして、自炊や野営の仕方を学んだそうだ。

 そんな事を小さいうちから仕込んでたってことは、センリさんもいずれユウキ君が旅に出るってことに薄々感づいてたのかもしれないな。

 

 実際、十歳を過ぎたあたりから旅に出る子供は少なくない。

 一人で全国各地を、自らの足と旅の供となるポケモンたちの力を借りて巡り歩くことで、子供の自立心や自主性をかなり養うことができるというのが理由の一つだ。

 まさにことわざの如く『かわいい子には旅をさせよ』。確かに旅には危険もあるが、その分だけ子供たちの情操面の発達は、旅に出ない子供と比べて早くなる、ってテレビでも言ってた。

 俺も十歳の時に旅に出させてもらったし。その時の経験は、俺の一生の宝物になっている。

 ユウキ君もそんな経験を―――していくんだろうなー。なんたって“主人公”だし。ざっと内容を思い返すだけでも、かなり濃い旅になりそうな道のり(ストーリー)だったし。

 

 たった十歳に背負わせるには重い話だよなぁ。

 俺が選んでしまったのは“エメラルド”の世界。知ってる人間も多いが、お約束のごとく現れる予定なのだろう“悪の組織”は、この世界には二つも存在する。ホウエンに巣食う二つの秘密結社を、たった一人の少年が相手にするわけだ。

 大人の皆さんに解決してもらうのが最善なんだろうけど、相手は悪役の設定でお馴染みの“秘密結社”。存在するかどうかも怪しいような存在を子供の口から聞かされても『テレビの見すぎ』とかいう理由で取り合ってくれないだろう。

 俺も手伝えればいい、というか俺がその組織を相手できればいいんだろうけど、俺にそんな実力があるのかも疑わしい。結局はこの世界の主人公(ユウキ君)頼みなわけで、絶対に苦労がかかってしまうのが確定的なユウキ君の旅に多少の思いを馳せ、俺は複雑な思いを抱きながら門出の見送りに来ていた。

 

 ユウキ君の目の前には、このミシロに至る、そして世界へ繋がるたった一本の道、101番道路。ここからユウキ君の冒険が始まる。

 

 見送りは、俺と親父と母さん、そしてユウキのママさん。

 センリさんはジムの仕事で忙しくて、どうしても来られないらしい。

 少しくらい暇を取ればいいのに、と直接言ってみたら、

 

「旅に出る前のユウキはもうずっと見てきた。いまさら見たところで変わらない。

 もしユウキがトレーナーとして私のいるジムに来たときは、一人前となったその姿をしっかり目に焼き付けるさ」

 

 自分のジムに挑戦できるほど力を付け、なおかつ自分を倒せたら一人前だ、と言っているのだ。

 センリさんはワクワクしてるんだろう。ユウキ君がどんな人間になって『父親』という、男にとっての人生最初の壁を乗り越えるのかを。

 あとハルカがこの場にいないのは、親父が見送りに出るために、親父がこなすべきだったフィールドワークを肩代わりしたからだ。

 確かこの先のコトキタウンの北、103番道路にいたと思う。

 そのことはすでにユウキ君に伝えてあるから、旅に出る途中であいさつしに行くだろう。

 

 さて、そろそろ出発のようだ。

 

「それにしてもよくなついたな、そいつ」

「あの後、手当てをしたのを恩に感じたみたいですよ。どうも義理堅い性格のようです」

 

 ユウキ君の足元にじゃれ付くポチエナを見ながら、そんな会話を交わす。

 このポチエナは博士を襲った三匹のうち、ユウキ君に挑みかかった奴だ。

 気絶したところをユウキ君が介抱してやると、どうも優しい人柄が気に入ったのか、すぐになついて手持ちの一匹となったらしい。

 なんにせよ、仲間が増えるのは良いことだ。

 というわけで

 

「ほい」

「え? なんですか?」

 

 ユウキ君に一つの包みを渡す。

 まぁ、俺からのささやかなプレゼントだ。

 

「あ、モンスターボール……」

「手持ちは六匹までしかダメだけど、一応五つ入れといた」

「いえ、とてもうれしいです! 大事に使います!」

 

 ちなみにこれは俺からのプレゼントだが、ママさんからも『ランニング・シューズ』をプレゼントされた。そして、親父からはなんと

 

「はいこれ」

「あ……これ、あの時の……」

「これは『ポケモン図鑑』だよ。出会ったりゲットしたポケモンの記録の詳細なデータがすべて詰まってる。君なら、これを有効活用してくれるはずだ」

「あ、ありがとうございます!!」

 

 ホウエン地方専用のポケモン図鑑が手渡された。

 これはカントー地方の有名な博士、オーキド博士が最初に作った“図鑑”であるカントー地方版『ポケモン図鑑』を参考にして開発された、ホウエン地方にたった三台しかない貴重なものの一つだ。

 “図鑑”は多機能なハイテク機器で、情報の収集から戦闘の補助まで何でもこなし、防水性や耐衝撃性も全く問題なく、水の中だろうが空の上だろうがどこでも使える画期的なもの。

 もっとも、それだけ高性能であるということはコストもバカにならず、量産化が難しいので、今のところ三台しかないのだ。

 ユウキ君に渡したやつ以外の残りの二台は、俺とハルカが持ってる。開発者の親族、というのもあるが、俺たちが若くしてホウエン地方の研究に多少なりとも貢献しているから。

 

 ちなみにイメージ的にはアニメ版のポケモン図鑑みたく、すでにほとんどのポケモンの記録が入っている状態。

 これは俺たちの功績だ。少なくとも、“この世界”ではそうなってる。ポケモンを見つけて発見済みか未発見かを確認し、未発見なら調査をしてデータを作り、研究所に持ち帰ってそのデータをインプットする。

 この地方に伝わる伝説のポケモン以外は、けっこう網羅してるはずだ。

 あ、そうそう。『ポケモン図鑑』に説明文ってついてるじゃん。あれ、俺たちが書いたことになってるんだぜ。

 今回ユウキ君には、俺たちが発見し損ねたポケモンを発見してもらい、ゲットなどをしてデータを取ってもらう意味も含めてポケモン図鑑を渡した。俺たちが調べ損ねたこともあるだろうから、そういうものも見つけてくれたらうれしいなぁ。

 

 ――さて。

 準備は万全かい?

 忘れ物はないね?

 ここからは、ユウキ君の力だけでどんな困難も乗り越えていかなければならない。

 もちろん手助けができれば俺たちは手助けする。ただし、いつでもどこでもできるわけじゃない。

 でも、それこそが冒険なんだ。

 

 さぁ行ってらっしゃい。

 がんばってね。

 

 

 

 とある初夏の日。

 俺たちに見送られながら、一人の少年が、世界へと旅立った。

 

 




……みじかっ
久しぶりの更新がこんだけって……

なんでこんなに短いかと言うと、にじファン連載時点で章分けをしていたうちの第一章の最終話だからです。そしてただでさえ短いというのに添削校正もしてしまったものだから、多分もっと短くなっちゃったと思うんだ……
こっちでも章分けできるらしいのですが、やめときます。どーせ章分けしたって意味もなさそうですし……まぁそういう機能があったのをつい最近知ったんですけどね(ぇ

次はえっと……人物紹介、かな。これも結構かかりそうな気がする……
それではー。

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