よくある転生の話~携帯獣の話~   作:イザナギ

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いつぶりだろう。3/4年ぶりか
とりあえず、いろんな意味で小説を書く暇が出来た。うれしくない方向で、だけど
ということで、まぁリハビリがてらひっさし振りに投稿させてもらいます


八話  カナタ、飛ぶ

 

 

「ちょぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおっっっっと待ったぁぁぁあああああああ!!!!」

「!!」

「ぅおっと!!」

 

 突然の怒声に俺もセンリさんも動きが止まる。

 ボールは放り投げられたまま開かずに床に落ちてしまった。

 怒声のした方向を見ると、案内役の石像がこっちに向かってくる。

 どうやら、ジムの人が俺たちの様子を見て止めたらしい。

 

「いったいどうした」

「びっくりするじゃないですか」

「どーしたもこーしたもなかでしょうが!! ここは『フィールド』じゃなかとですよ!!?」

「「――あっ」」

「あっ、じゃない!」

 

 危ない危ない。

 ポケモンという生き物は小柄な個体であっても、途轍もないエネルギーを体に秘めていたりする。それこそ、軽く一軒家を吹っ飛ばせるくらいの物も。

 ポケモンバトルとは、その途轍もないエネルギーをぶつけ合う競技だ。

 それ故に道端や空き地などの『破壊されて困るものがない』スペースが無ければバトルはできず、もしもバトルで損害が出た時は、最悪の場合には逮捕されてしまうケースもある。

 なので、ジムの役割はトレーナーの鍛錬の場所となる以外にも、トレーナー達に壊されて困るものがない空間『バトルフィールド』を提供する面もあり、トレーナー達による損害事件の件数低下に貢献しているらしい。

 

 ――そして俺とセンリさんは興奮しすぎて、『フィールド』の存在を完全に忘れていた。

 いや、挑戦者の俺がフィールドのことがすっぽ抜けるのはまだ良いとして。

 センリさん、あなたが忘れるのはダメでしょ。

 

「む、つい興奮しすぎてな。君も頭から飛んでいたんだろう?」

「俺は挑戦者だからいいんです。俺よりジムリーダーであるセンリさんが忘れてた方が問題じゃないですか?」

「私も感情を持った人間だ。多少の間違いくらい起こす」

 

 少々口の悪い反論をすれば、開き直られました。

 開き直るのってどうだよ、と思ったけどお互い様だからこれ以上は何も言わないことにした。

 

 ジムの少し奥にある『フィールド』。

 大体、バスケットボールのコートぐらいかな。中央にはモンスターボールを模したセンターライン。

 長方形の短い辺にトレーナーが立つ場所が設けられていて、そこからポケモンに指示を出す形になる。

 ポケモンから指示を出す場所は『トレーナーズ・スクエア』というのが正式な名称らしい。その目の前には、水ポケモンを出した場合や“ダイビング”“なみのり”などを使う場合のために水槽が備えられていた。

 このフィールド内に設置してあるものなら、いくら破壊しても構わないので、“あなをほる”で穴ぼこにしても問題ない。次のバトルが始まるまでには、いつの間にか元の状態に戻ってるし。

 

 そして。

 俺とセンリさんはそれぞれフィールドの両端に立ち、石像を通して事務の人からルールの説明を受けていた。

 

「ルールは三対三の入れ替えあり。道具は使用禁止ですが、ポケモンが所持、使用する事は認めます」

 

 センリさんが俺に見せたポケモンは全部で四体。対する俺は六体フルメンバーだ。

 このままじゃ俺の方が数的有利なので、対戦ルールは三対三に。

 で、道具はトレーナーが使うのは禁止だけどポケモンに持たせて使わせたりはできる。

 

 要約すれば、そういうこと。

 三対三は良く使われる対戦方式で『3 on 3(スリー オン スリー)』と呼ばれ、少数精鋭を基本として五匹程度しか手持ちを持たないジムリーダー戦でよく採用されてる。

 他にも『タイマン』などと呼ばれる『1 on 1(ワン オン ワン)』、六体フルメンバーでやる『フルマッチ』など、様々な対戦方式があるし、最近では三匹同時に戦闘に出す『トリプルバトル』なるものもあるらしい。

 

 とにもかくにも、センリさんも俺も、手持ちから三匹選抜しなければならなくなった。

 まぁ、センリさんが選ぶポケモンの見当はついてるんだけど。

 

「準備は良いですか?」

「ああ」「はい」

 

 石像から声がかけられる。この石像はバトルの審判役もやるんだそうな。

 ちなみにどうやってジャッジするかというと、『フィールド』に何台も備えられたカメラで多角的に観察し、ポケモンの状態などを確認、試合の続行・終了・中断を判断するとのこと。

 ……実際にジャッジの人がフィールドで審判した方が早いと思うのは、俺だけなのかな。

 このシステムは全国的に採用されてるらしいから、俺のような疑問を抱く人は少なかったらしい。

 

 

 さて、おしゃべりもここまで。

 俺は今から『ジムリーダー』に挑戦するんだ。

 

 目の前にいるのは、知り合いの男の子の父親ではなく、“トウカジムリーダー・センリ”。

 

 そして“ジムリーダー・センリ”の目の前にいるのは、彼の息子の先輩ではなく“挑戦者・カナタ”だ。

 身内としてではなく、ただ純粋に『ポケモントレーナー』として、俺たちは『フィールド』に立っている。あとはもう、相手の出してくるポケモンを倒すために全力を尽くすだけ。

 腰のホルダーからボールを外して構えた。

 一匹目はすでにセンリさんが宣言してるけど、俺も変更はしていない。

 

「ではこれより、『ジムリーダー・センリ』対『挑戦者・カナタ』の勝負を行います」

 

 全身に力が籠る。

 

「――始め!!!!」

 

 石像からの声で、俺とセンリさんは同時にボールを放り投げた。

 ボールが地面につくと同時にボールが開き、両方とも小柄な影が躍り出る。

 その片方に、俺は即座に指示を出した。

 

「『セッカ』、“かげぶんしん”!!」

 

 飛び出した俺のポケモン、『テッカニン』は俺の言葉に即座に従って、目の錯覚を利用した分身“かげぶんしん”を大量生産する。

 おびただしいほどのテッカニンの分身が出来上がり、出てきて早々にフラフラしだすパッチールを囲んだ。

 これで、相手の攻撃はなかなか当たりにくくなったはず。

 

「……なるほど、厄介(やっかい)だな」

 

 とか言う割に涼しい顔が怖いんですけど。

 それに、まだ一回だけだから、十分じゃ無い。

 

「セッカ、もう一度“かげぶんしん”!」

「むっ! パッチール、“フラフラダンス”だ!」

「パッチールを見るなよ、セッカ!!」

 

 パッチールがさらにフラフラしだす。

 あれは一種の催眠効果があり、じっと眺めてると目が回ってきて、最終的には混乱状態に陥れるという、なかなかにえげつない技だ。

 けど、どうにかセッカの目には入らなかったらしい。ラッキーだったな。

 さらに数の増えた“かげぶんしん”が、パッチールの周りを囲む。

 ここからのパターンとしては“バトンタッチ”を覚えていれば、この状態から“こうそくいどう”→“つるぎのまい”をある程度繰り返してから“バトンタッチ”で他のポケモンに今の状態を引き継ぐのが理想的だが、あいにく『セッカ』は“バトンタッチ”を覚えるようなレベルにまで達していない。

 “こうそくいどう”は特性『かそく』があるので問題ないけど、それを引き継がせる手段がないんだ。

 

 テッカニンはほとんどの種族に対して先制できるほどの素早さを持ちながら、あまり強力な攻撃を持たないし、HPもそんなに高くない。

 だから、テッカニンは種族的な特性から『自軍の有利な状況を演出して、後続に文字通り『バトンタッチ』すること』を主な任務とされる。

 

 まぁそんなこと、今現在はどうでもいいわけで。

 

 “つるぎのまい”をやったらパッチールの“アンコール”がヒットしたけど、結果的にはプラスだった。

 “サイケこうせん”も繰り出してきたけど、こっちは分身の方にヒットして事なきを得て、俺の反撃の時間だ。

 

「セッカ、“きりさく”!!」

 

 それほど高威力じゃないけど、高確率で相手の急所に命中する技。

 さらに先ほど“つるぎのまい”を重ね掛けしてたから、急所じゃなくてもだいぶ痛いかも。

 パッチールの“サイケこうせん”による迎撃を躱しながらセッカが“きりさく”をヒットさせると、パッチールが倒れる。どうやら急所にも命中したようだ。

 

「パッチール、戦闘不能!」

 

 常に目がぐるぐるで戦闘可能か不可能か一瞬わかりづらかったけど、審判の声が響き、センリさんがパッチールをボールに戻した。

 

「……ふむ、なるほど。“かげぶんしん”、か」

 

 呟いて、俺の方を見る。……どうやら、気づかれたっぽい。

 “かげぶんしん”とは某ニンジャアクションマンガと違い、目が錯覚を起こすほどの高速で移動し続けることで攻撃を回避しているに過ぎない。攻撃を当てるためには、一瞬だけ動きを止める必要がある。

 つまりその一瞬だけ本体をさらすことになり、そのタイミングを見極められると、最悪の場合カウンターを簡単に食らってしまう。

 

 この世界の面白いところは、『ゲームの通りにはいかない』ことだ。

 さすがにアニメのポケモンのように『気合』やら『根性』やらでどうにかなるわけではないけど、バトルはリアルタイムで進んでいる。

 こちらが即座に指示を出さなければ、相手が鈍足だろうと先手を取られることもあったりするし、“かげぶんしん”を“こころのめ”とか使わずに攻略する方法もあるわけ。

 

 センリさんほどの実力者なら状況にすぐ適応して、対策を講じてくるはず。

 セッカは種族的にHPも少ない。

 どちらかのポケモンが倒れた時に認められるポケモンの交代で、俺はセッカを戻すことにした。

 

「ほう、まだ十分戦えるはずのテッカニンを下げるとは……それだけ余裕なのかい?」

「んなわけないじゃないですか。さっそく『かげぶんしんのカラクリ』に気付かれたようなので、下げただけですよ」

 

 センリさんの挑発に、俺はとりあえず当たり障りなく答える。

 

「ふっ、圧勝しても油断も隙も見せない。やはり君を倒すのは骨が入りそうだな。――ゆけ、ヤルキモノ!」

「買いかぶり過ぎです。センリさんだからこそ、こうやって慎重になってるんですから。――いけっ、『クチハ』!!」

 

 センリさんのボールからヤルキモノが飛び出し、センリさんの足元でシャドーボクシングみたいなことをやり始めた。

 

 対して俺が繰り出したポケモンは、クチート。『クチハ』と名付けている。

 愛くるしい外見だが、綺麗なバラにはとげがある。

 頭についてる口のようなものは本体の意思で噛みつくこともできるという、可愛いくせにえげつないポケモンだ。

 ポケモンの中でもチャンピオンロードあたりにしか生息しない、けっこうレアなポケモンで、出せばほぼ全員が見た目に油断してくれたりする。

 

 そして、俺が選んだ最大の理由は――

 

「ヤルキモノ、“きりさく”!」

 

 ヤルキモノの鋭い“きりさく”攻撃。

 胴を狙った攻撃は、しかし『胴』に弾き返される。

 

「堅い……なるほど」

「――そう。こいつのタイプは、“はがね”です」

 

 ――外見に反して、タイプの中で最も高い防御力を持つものが多い、“はがね”タイプだからだ。

 そして、このクチハは“かくとう”タイプの技も覚えたりできる。

 

「いけっ! “かわらわり”!!」

 

 ヤルキモノの脳天に、鋼のツノが変形してできた大顎による、クチハの容赦ない一撃が振り下ろされる。

 

「かわせ!」

 

 だが、センリさんの言葉で回避された。当てれば一発でいけたかな? いや、無理か。

 

「ヤルキモノ、“だましうち”!」

「“てっぺき”だ! ツノで受け止めろ、クチハ!」

「連続して“きりさく”!」

 

 ヤルキモノの“だましうち”をクチハがツノの大顎を盾のように使って防ぐと、好機と見たのかヤルキモノが追撃をかけてくる。クチハは大顎を盾にしたままだ。さらに“てっぺき”を指示しておく。

 タイプ相性の不利からダメージは微々たるもの。だけど、このまま攻撃を受けるだけだったら体力を削り取られてそれで負けだ。

 

「クチハ、“かわらわり”!」

 

 だから距離を取るために技を出させたんだけど、これがマズかった。

 覚えているとは思わなかったよ……。

 

「待っていた! “カウンター”だ!」

「げぇっ!?」

 

 わざと攻撃を受けるかわりに、威力を倍にして相手に返す技。しかもタイプも出した技と同じと来た。

 ヤルキモノの攻撃がクチハの腹に入る。幸いなことに急所には当たらずに済んだらしいが、やばい。これは大ダメージだ。

 

「て、“てっぺき”積んどいてよかった……」

「む……決まったと思ったんだが」

 

 “積む”というのは、能力を向上させる補助系の技を複数回行うことだ。俺がセッカに“かげぶんしん”を二回やらせたり、偶然だけど“つるぎのまい”を二回やることになったのが良い例だな。

 本来ならやられてたところだったよ。クチハは防御力を大きく向上させる“てっぺき”を二回やったので、どうにか耐えることが出来た。というかカウンターによる攻撃力二倍×タイプ一致によるダメージ二倍で元のダメージから四倍になってたのに、よく耐えた。感動した。あとでうんと誉めてやろう。

 けど、体力を大きく削られたのは確かだ。こっちは“かわらわり”を一回当てただけ。与えたダメージは向こうの半分以下だ。

 どうにかしねぇと……。けど、ヘタに反撃しようものならカウンターで終わりだ。なにか、ヤルキモノとセンリさんの不意をつけるもの……。

 

 ――――よし、これなら。

 

「クチハ、“みがわり”だ!」

「なっ!?」

 

 “はがね”というタイプは総じて鈍重と思われがちだが、案外身軽な奴もいたりする。うちのクチハもけっこう身軽でね。

 たとえば、たった今作り出した自分の分身に攻撃させるために真上に跳びあがったりとか、簡単にできたりするのだ。

 そして“みがわり”という技は、自分の体力を犠牲にして自分の分身を作り出し、それを攻撃させるもの。その作り出された“みがわり”はぬいぐるみみたいな形をしていて、作ったポケモンはそれを手に持ち、攻撃を受けるたびに盾にするようにして身を守っている。

 ただし“みがわり”は本体が分けた体力に比例して耐久力が決まっており、体力が少ない状態では一撃で消えてしまうことだってある。

 

 まぁ、今の状況ならそれで十分だけど。

 ヤルキモノの攻撃が分身を捉え、一瞬で消してしまう。が、今までさんざん堅く動かない相手に攻撃してきた反動からか、急に手ごたえが消えてヤルキモノのバランスが崩れた。

 そんな好機を、逃すもんか。

 

「“かわらわり”ぃっ!!」

 

 宙を舞うクチートが、ツノに備える(あぎと)を目下のヤルキモノに叩きつける。ヤルキモノがフィールドに叩きつけられた。

 だが、まだだ。ヤルキモノはまだ立ち上がれない。

 

「追撃だ!」

 

 もう一発の“かわらわり”がヤルキモノを襲う。うつぶせに叩きつけられて、すぐには立ち上がれないらしい。これじゃカウンターもできない。

 “かわらわり”が命中すると同時に土煙が上がる。

 少しして煙が上がると、ヤルキモノは目を回して倒れていた。

 これで、残り一匹。

 

「……なるほど」

 

 だが、特に焦るでもなく、センリさんは最後の一匹を呼び出そうとする。

 俺のクチハは続投。おそらく出してくるであろう最後の一匹に対して、やっておかなきゃならないことがあるんだ。

 

「……それは、余裕かい?」

「いいえ、『保険』です」

 

 俺の答えを聞いて、センリさんは最後の一匹を繰り出す。

 

「ゆけ、『ケッキング』」

 

 センリさんの手持ちの中で最強であろう一匹。

 

「ケッキング、“あくび”!」

「っ!!」

 

 いきなりその場でデッカイ“あくび”をされたのはビビった。

 

 特性“なまけ”は、この世界では動作が緩慢であるだけだ。最初の行動を打ち合わせておけば出た瞬間に先手を取るのは容易。

 出鼻を挫かれたけど、まだやれることはある!

 

 “あくび”は相手を“ねむり”状態にする技だが、発動までに時間がかかる。

 その間に、これだけはやっておきたい。

 

「クチハ、“どくどくのキバ”!」

 

 クチハが鋼の大顎を使ってケッキングの腕に噛みつく。パッと見はただの“かみつく”かもしれないが、見えないところで猛毒が流し込まれているはずだ。

 三割の確率だから微妙なんだけど。

 

 ……最初に技を確認したときはビビったぜ。

 なんたって、野生だったからな。野生じゃ覚えるはずのない“どくどくのキバ”を覚えてるとか、まさにゲームじゃありえない現象だろう。

 ハブネークのオスと、クチートのメスが親だろうか。

 とにもかくにも珍しい個体だったけど、研究とかはせずに育てることにした。ちょうど捕まえたのが、新しいパーティを考えてた時だったし。

 

 そのクチハは“あくび”の効果で眠り始めた。

 すぐさま俺はクチハを下げて、残り一匹を取り出す。

 相手が『猛毒』状態になっていない場合も考えて、こいつにしよう。

 持久戦ならこいつでもいけるはずだ。

 

 俺は目前の水槽に向けて、ボールを放り投げた。

 

「頼むぞ、『トキハ』!」

「ほぉ……」

 

 思わず、といった感じでセンリさんが声を出す。

 出てきたのは、太古の昔に絶滅したとも言われていたポケモン『ジーランス』。

 一億年前のものと断定されたジーランスの化石とまったく姿が変わっていない、まさに『生きた化石』とも言えるポケモンだ。

 

「しかし、つい三年前発見されたばかりで個体数も少ないと聞く。どこで手に入れたんだい?」

「あれ、知りませんでしたか?」

 

 かなり珍しいのか、センリさんがそんなことを訊ねてきた。

 センリさんはジョウトの人だから知らなかったのかな。

 

「このポケモン、発見したの俺ですよ」

 

 ルネシティに向かうときのダイビング中に偶然にも遭遇、すぐ捕獲した。

 そのあとは仲間の場所を教えてもらい、いつも通り観察して図鑑に情報を記録。

 それを親父に見せたら、椅子から転げ落ちるほどびっくり仰天してたなぁ。

 

 いや~、あの時は大騒動になった。まぁ論文とかは俺もまだ十一歳だったし全部親父がやったから、俺の名前はほとんど表に出てないけど。

 でも、この功績で親父の名前は全国的に有名になったし、カントーのオーキド博士、ジョウトのウツギ博士、シンオウのナナカマド博士とともに『ポケモン界の権威』とまで呼ばれるようになった。

 

 この『トキハ』自体は三年前からいる古参だが、長らくベストメンバーの候補からは外れていた。すでに水タイプ枠は埋まっていたし、ダイビング要員として少しの間手持ちに入れていた程度。

 しかし今回の『ベストメンバーの一新』という計画の際に、俺が真っ先に白羽の矢を立てるほど実力は持っている。

 

「トキハ、“ダイビング”!!」

「……“あくび”対策として“ダイビング”か」

 

 予想通り、まず“あくび”を繰り出そうとしていたので指示が飛ばされる前に潜る。

 もちろん“あくび”はその技を見ていないと発動しないので、“ダイビング”で回避した形だ。

 

 そしてトキハが水槽から躍り出て、ケッキングに頭突きを食らわせる。“ダイビング”はこうやって潜った勢いを頭突きや体当たりのような打撃技に変えて攻撃する技だ。

 

 ボケッと突っ立ってたケッキングの脳天に命中したが、あまりダメージを食らったように見えない。

 無駄にHPも防御力も高いからな。タイプ一致の攻撃だったけど、深刻なダメージとまではならなかったようだ。

 

 ただ、ちょっと顔色が悪い気がする。

 もしや……。

 

「ちっ、“もうどく”か……」

 

 センリさんの呟きが、なぜか耳に届いた。

 もしセンリさんの言葉が本当なら、俺にとても有利な状況になる。これを逃す手はない!!

 

「トキハ、たたみ掛けるぞ! “とっしん”!!」

 

 本来なら自分もダメージを受ける代わりに大ダメージを与える技だが、トキハの特性は『いしあたま』。反動によるダメージを一切受ける心配がないから、思う存分に技を繰り出せる。

 

 と、センリさんの口元が微笑んでいるのが見えた。

 ……あ、やべ、今思い出した。

 センリさんの手持ちって、全員さ。

 

「ケッキング、“からげんき”だ!!」

 

 そんな技、覚えてましたよね……。

 

 カウンターのようにケッキングのぶっとい右腕が、トキハの“とっしん”と真っ向からぶつかり、トキハを吹っ飛ばした。

 いくら“いしあたま”で岩タイプとはいえ、結構ダメージを食らった模様。やっぱり、頭部はどの生物も弱いのか。

 

 けど、これで次の動作までの隙ができた。

 トキハに声をかける。元気な声を返してくれたから、まだいけるだろう。

 

 『からげんき』とは、それ自身の攻撃力は高くないが、自身がまひ・どく・やけどなどの異常状態になると威力が二倍に跳ね上がる恐ろしい技だ。

 単純な計算でいえば、異常状態で『からげんき』を繰り出せば、その威力は“すてみタックル”を抜き、“はかいこうせん”にも迫る威力になる。

 

 今回はこっちに有利な相性だったから、どうにか最小限で食い止められたが、このままだと流石にキツイ。

 

 ……これで行くか。

 『なまけ』を持つケッキングに対して、確実に攻撃を食らわずに体力を削る方法は、今のところ、これしかない。

 

「ケッキング、“からげんき”!」

「トキハ、“ダイビング”!」

 

 トキハの動きがケッキングよりも速かったようで、ケッキングの攻撃が当たる前に水中に潜りこめた。

 ケッキングの攻撃はただ単に水面に水柱を立てるだけ。

 その水柱のせいで、俺ビッショビショなんですけど……。

 

 まぁ、今は置いとこう。

 ケッキングは相手を探して水面を凝視してる。けど、水中は暗くて俺でもよく見えない。

 

「いけ、トキハっ!」

 

 凝視していたケッキングの眉間に、本日二度目の頭突きが決まる。

 大きくケッキングがよろめいた隙に、トキハに“ダイビング”をさせた。

 

 これが俺のケッキング対策。

 “ダイビング”が無かったら“そらをとぶ”でも代用できるかもしれない。

 これらの技は攻撃までの時間差があるので、ケッキングのような攻撃ペースの遅いポケモンのタイミングを外すことで、確実に体力を削りながら、こちらがダメージを受けることはない。

 

 何度か繰り返したら、さすがにケッキングもフラフラし始めた。……“フラフラダンス”を覚えていないことを切に願う。

 “もうどく”状態だし、ここらで一気に決めよう。

 

 この技を取得するレベルまで育てるのが面倒くさくて、さっさと教えさせた技だ。

 『いしあたま』だからこそ遠慮なく使える技。

 

「決めろ、トキハ! “すてみタックル”!!」

 

 ルネシティジムリーダー・アダンにアタックしたいという女性から教えてもらったんだが……ポケモンに教えられるほど極めたら、逆に命の危険がありそうな気が――いや、もう気にしないでおこう。ときに人間はポケモンさえ超える力を発揮することがあるらしいからな。

 ――そういうことにさせてください。

 

 “すてみタックル”で水面から一気に飛び出し、トキハはケッキングのもとへ一直線に飛ぶ。

 それを見たセンリさんも、この一発で決着をつける気なのだろう。真正面から迎え撃つ体勢になった。

 

「最後だ、ケッキング! 振り絞れ! “からげんき”!!」

 

 もう一度、トキハとケッキングの右腕が真っ向からぶつかる。

 空中での支えがなく威力的にも相手に劣るトキハの攻撃だが、ケッキングも『もうどく』の影響で体のキレもなく威力も下がってるように見えた。

 

 つまり、互角。

 あとは……運任せ。先に吹っ飛ばされた方が負けだ。

 

 

 

 

 

 

 ――――ズドンッ!!!! と音がした。

 ケッキングの腕がはじかれ、みぞおちにトキハの“すてみタックル”が決まった音だ。

 

 平均全長2.0m、平均体重130.5㎏の巨体が宙を浮き、センリさんの手前の水槽に叩き込まれた。

 人の背丈の倍はあろうかという大きな水柱が立ち、飛沫をセンリさんに食らわせる。

 

「ケッキング、戦闘不能!! これにより、ジムリーダー・センリの手持ちポケモンがすべて戦闘不能になりました!

 ――よって、勝者 挑戦者・カナタ!!」

 

 

 ……ふぅ。

 わりとギリギリだったな。

 セッカの“かげぶんしん”が破られる可能性もあったし、クチハの場合はかくとうタイプの技を覚えられてたらアウトだった。トキハの場合も同様で、しかも結局はゴリ押しだったし。

 ゴリ押しってのはあんまり好きじゃないんだよなぁ。ポケモンにも無茶させるし。

 

「流石だ、カナタ君。私の完敗だよ」

 

 センリさんが声をかけてきた。

 上から下まで水浸しだよ。大丈夫かな……まぁ俺も似たような状態だけど。

 

「最後は相打ちのようなものです。“からげんき”であそこまでやられるとは思いませんでしたから」

「それでも、最後は力で私のケッキングをねじ伏せた。それにジーランスに換える直前に、クチートに“どくどくのキバ”をさせただろう? “からげんき”の強化になってしまったが、やはり『もうどく』の状態では厳しかった」

「成功率はたったの三割です。『当たればいいな』的なものですから、運が良かっただけですよ」

 

 なんで、しきりに俺を褒めてくるかなぁ……本当に俺もギリギリだったのに。

 そう言ってみると、センリさんは微笑んだ。

 

「運も実力のうち、というじゃないか。『強者(つわもの)』とは、自らの運さえ自分で引き寄せるものだ。

 君は強い。間違いなく。

 現に、君はホウエンで最初にバッジ八つを手に入れた。それは今現在、君がこのホウエンのトレーナーの中で『最強』であることを示している」

 

 さすがにそれは買いかぶり過ぎですってば。

 

「そうか? 私はそうは思わないがな。

 さぁ、これが君が『最強』である証、『バランスバッジ』だ」

 

 おぉ、これでやっと“なみのり”が使える。

 ひでんマシン自体は持ってるから、これですぐにでも海に乗り出せるな。

 

「それと、これを」

 

 センリさんが、子供がつけられる程度の大きさの、腕輪のような装置を差し出す。

 

「これは……“からげんき”?」

「そうだ。さすがによく分かってるな」

 

 ジムリーダーには、すべての手持ちが覚えている技が一つあり、その技マシンの所持が認められている。

 で、俺みたいにジムリーダーを打ち倒したやつに、自分を倒した証として技マシンを授ける仕来(しきた)りがあるんだ。

 

 つまり、センリさんは『からげんき』を手持ち全員に覚えさせてたことになる。恐ろしや恐ろしや……補助技を中心にしなくて良かった。

 次にセンリさんと戦うときは、異常状態の使い方だけは気を付けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムを出るが、日はそんなに傾いてなかった。まぁ、一時間やそこらの戦いだったしな。

 

「……それにしても、気になる話を聞いたな」

 

 話とは、ジムを出る直前に交わしたセンリさんとの会話だ。

 簡単に言えば、『最近、怪しい格好の者たちが事件を起こしたが、なかなか捕まらない』というものだ。

 犯人の特徴は状況によって違うそうで、ある時は赤や黒をベースにした格好をしていたり、またあるときは白や青を基調にした格好だったりと、まちまちとのこと。

 ……まぁ、思い当たる節はあるんですけどねぇ。でも俺の『本当の』身の上を話したところで信用される訳ないので、黙ってたけど。

 

 ところでなぜセンリさんがそんな情報を持っていたかといえば、地域の治安維持もジムリーダーの仕事に含まれるからだ。

 もちろん、警察に類する組織もあるが、ポケモンが事件に絡むとジムリーダーは、ほぼ全員参加する。ジムリーダーの情報網はかなり広大であり、知識の面からも組織のサポートを任されることも多い。

 ジムの壁に張り紙をすれば、それだけでかなりの人目につく。

 『ジム』は町の誇りであると同時に、ある種平和の象徴なんだ。

 

 それにしても、まさに『秘密結社』だな。正体をさらさず世間に気付かれることもなく、着々と行動を起こしてる感じがする……。

 きっと確認されてる行動は、下っ端たちがボロを出したからだろう。水面下じゃ、もっと大きなことが動いているはずだ。

 ……もっとも、俺はもうその『目的』の内容も結果も分かり切ってるんだけど。

 けど、やっぱり不安だ。

 

「――みんな、出てこい」

 

 腰の六つのボールを放り投げて、中にいた俺の手持ちをすべて出す。

 その面々を見て、さらに不安が募った。

 

 今回、俺が育てているのは、いわば『トレーナー戦』に特化したパーティだ。

 公平公正なルールの下で相手を上回ることができるように育てている。

 

 ……けど、その『ルール』を『敵』が守るとは思えない。

 悔しいが、今のチームじゃおそらく実力不足だ。

 

 セッカみたいに『トレーナー戦』に特化してしまったポケモンだけ下げて、その穴を主力で埋めるか。

 まだ『敵』が本格的に動くまで時間はあるだろうし、『主力』に追いつけなくてもレベルの底上げはできるはずだ。

 トレーナー戦に特化した奴を育てるのは、そのあとでも十分間に合う。

 

 ま、こんな風に育成計画を練っては見たけど、俺はせいぜい裏方止まりだろうな。

 『主人公』はもう旅に出た。『悪の組織』を倒すのは、『主人公』の役目さ。

 

「さて、『ヨカゼ』。サイユウシティに行こうか」

 

 俺の言葉で、クロバットの『ヨカゼ』が俺の両肩を掴んで浮かび上がる。かなりの距離があるが、クロバットは翼を休ませながら一日中飛ぶことができるので、すぐに着くはずだ。

 何が起こってるのか、まずは確認しないと。

 

 風を切り裂いて、俺はホウエンの東の果てへと飛び立った。

 

 




暇を利用してこの話の後の話も修正してますんで、近々投稿しようかとは思ってます
が、まぁちょっと色々ありまして、少しお待ちいただくかと思います。ちょっとまだやる気になれないもので

まぁ、がんばります

P.S.ちょっとおかしい部分があるので、小説に全体的に修正かけます。遅くなるのはそのせいになるかと

それではっ

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