終わりのセラフと鬼の手   作:六甲山のココア

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お腹が痛い。


初めてのトウコウ

 

 

家を出て数分ほど歩いたころ、一人の少女に呼び止められた。

似たような制服から、同じ学校であることが伺える。……というより、俺は彼女を知ってる。

 

 

「シノア、どうしたんだよ」

 

 

柊シノア。

柊家の直系のご息女だそうだが、その扱いは割とぞんざいだ。

おそらく、彼女の姉の柊真昼が関与しているのだろう。具体的には何をしたか、までは知らないが。

 

シノアとは過去に何度か面識がある。

その度に、何かにつけこうして絡まれるのだ。シノアのことは嫌いではないから問題ないけど。

 

 

「いえいえ。ただ、慣れない場所にいきなり放り込まれた氷くんがちゃんと馴染めるか私は不安で…」

 

 

そう言って泣く素振りを見せてくる。

が、チラチラこっちを見てるのがバレバレだ。

 

 

「わざとやってんの? それ」

 

 

笑いながら茶化すように言う。

するとシノアはこちらに向き直り、先ほどとは違う可愛らしい笑顔で言った。

 

 

「心配してるのは本当ですよ? 氷くん、同年代の子で仲が良いのって私くらいじゃないですか?」

 

「そういえば…」

 

 

俺が関係をもってる人といえばグレン隊の人達と、このシノアくらいのものだ。

そして同年代と言われるとシノアだけになる。

 

 

「おい。私を忘れるな」

 

 

眠鬼が声だけでわかるほど膨れていた。

 

 

「あー…ごめん。忘れてたっていうか、眠鬼はいつも一緒にいるからさ」

 

「まぁ… そういうことにしといてあげるわ」

 

 

なんとか眠鬼の機嫌をとった。

そう思った矢先、

 

 

「同年代って、私言いましたよね?」

 

「「………」」

 

 

俺と眠鬼の世界が止まる。

眠鬼は外見だけでいえば15、6歳ほどの少女だ。鬼だから実際はもっと上なんだろうけど…。そう見えるならそれでいいじゃないか、と思ったがすでに遅かった。

俺にはわかる。今眠鬼がキレていることが。

右手が焼けるように熱い。以前に眠鬼が暴走した時と同じ感覚。

 

付けていた手袋は破れ、メキメキとその姿を現す。

鬼の手だ。

禍々しい黒色をしたその手からはとても強い妖気を放っているのがわかる。

こうなってしまっては方法は一つしかない。

 

肩にかけていた制鞄から数珠を取り出し、やや強引に鬼の手に巻きつける。

 

 

 

「宇宙天地 與我力量 降伏群魔 迎来曙光

 

吾人右手 所封百鬼 尊我号令 只在此刻

 

天地混沌 乾坤蒼范 人世蒙塵 鬼怪猖狂

 

天空海闊 鬼面仏心 鬼哭啾啾 霊感散消……眠れ、眠鬼」

 

 

お経を唱え終えると、段々と俺の右手を侵食していた鬼の手が消えていくのがわかる。妖気の消滅を確認した後、念のため用意しておいた手袋を右手に付ける。

 

 

「シノア、あんまり眠鬼をからかわないでくれ」

 

 

元に戻った右手をポンポンと叩きながらシノアに言う。

 

 

「意外と沸点低いんですね。その鬼」

 

 

シノアはいつも通りの様子だ。

こいつは過去に一度暴走状態の眠鬼を見ているハズなのに、よくもまぁ物怖じ一つしないものだ。

 

 

「えらく余裕だな」

 

「ええ。だって、もし何かあっても氷くんが守ってくれるでしょう?」

 

 

したり顔でそう言うシノアが、無性に可愛く思えた。

こういうとこあるからシノアは少し苦手だ。うっかり好きになりそうになる。

 

 

「俺の手に負える範疇ならな」

 

 

肩をすくめ、笑いながら言った。

 

 

「あ、そろそろ急がないとマズイですよ?」

 

「なんだって!? ダッシュだシノア!」

 

 

俺はシノアの手を握り、走り出した。

 

 

 

 

 

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どうやら間に合ったようだ。

少し余裕があるくらいに。

 

ただシノアの方はかなりギリギリのようだ。

教室に着くなり、倒れかけるものだから本当に焦った。

肩を貸して彼女の席まで連れて行くと、瞬間に机に突っ伏した。

 

 

「はぁ……」

 

「あー、いや悪かった」

 

「…もう少し私のことも考えてください」

 

「ごめん…」

 

 

珍しく脱力しきっているシノアに、なんと声をかければいいかわからない…。

今回は完全に俺の過失だし、何かできることはないものか……。

 

 

「氷くん」

 

 

そんなことを考えていると、フッとシノアが顔を上げた。

 

 

「ああ。どうした」

 

「そろそろ彼が来る時間です…。私の代わりに監視をお願いします……」

 

 

シノアはそれだけ言うと、また机に突っ伏してしまった。

彼、とはおそらく監視対象の百夜優一郎のことだろう。

 

…問題が一つ。

俺はまだこのクラスの生徒として紹介されていないため、居場所がない。

教室の場所だけは姉さんから聞いていたからなんとかなったものの、自分の座席がないのだ。

 

つまり、立ったまま彼を見ていなければならないことになる。

……目立ちすぎる! 今もなおこの教室の生徒達が俺の方を見てなにやら話している。「柊さん、何かあったのかな」と聞こえてくる辺り、注目しているのは俺のことではないらしい。他の教室の生徒だと思っているのだろう。

 

今はここを出るしかない。

というより、始業のベルとやらが鳴る前に職員室という場所に行くように言われてたんだ。完全に忘れていた。

 

目立たないようにやや早歩きで教室を出た。

 




ギリギリまで粘ってこれでした。
豆腐メンタルなもので。

amazonで原作8巻セットが4,000で売っていたので注文しておきました。
届いて読み次第、更新しようと思います。

お付き合いいただけると幸いです。




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