やはり俺の魔法科高校入学はまちがっている。   作:T・A・P

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やはり俺の魔法科高校入学はまちがっている。  拾捌

 

 

 それから何事もなく、一週間が過ぎた。

 

 その間、いつものように比企谷は雪ノ下と由比ヶ浜に生徒会室へ連行され、限定的ではあるが、雪ノ下と由比ヶ浜の二人に生徒会権限でCADの携帯許可が下りた。

 それは、雪ノ下と由比ヶ浜が自身のCADを生徒会室に持ってきた時の事だ。CADと聞いて中条書記が黙っているはずがなく、比企谷が近くに居るのもかかわらず二人の目の前で目を輝かせていた。

 雪ノ下と由比ヶ浜の二人はそれぞれ机の上にCADを置いた。

 二人とも汎用型と特化型の二種類所持しており、汎用型はSWT製(スノー・ホワイト・テクノロジーズ)の市販されているCADで、雪ノ下は携帯端末型を所持し由比ヶ浜はブレスレッド型を所持している。もちろん二人は知らないことだが、外見は市販品ではあるが中身は比企谷達が極限までチューンナップしている。

 そして、ここで特筆すべきは二人の特化型であり、中条会計が食いついた特化型の話である。普通の特化型と言えば拳銃型が一般的なのだが、二人の特化型はそこからかけ離れていた。

 二人が所有している特化型はアーマーリング型だった。体力が少ない雪ノ下に合わせ限りなく小型化を目指し、人差し指の動きで使用するタイミングを操作できる特化型CAD。

 ここまでの小型化されたCADは他にはなく、それに加え発売どころか発表されてさえいない、完全に中条書記がよだれを垂らし、尻尾を振るレベルだった。

 中条書記はその二人と一緒に居る比企谷のCADも気になったのか、いつもの態度とは打って変わって話しかけた。比企谷は困惑しながら、SWT製の市販品を使っていると答えた。その時、中条書記の犬耳と尻尾が垂れるのをその場に居た全員が見た、様な気がした。

 

 

 授業が終わった直後、放課後の冒頭。

 これからクラブ活動の生徒はロッカーへ着替えや荷物の入ったバックを取りに、タブレットや紙のノートを持ち込んでいる生徒は机の横に懸かる鞄を手に、そのどちらでもない生徒はそのまま身軽に、各々がそれぞれの帰り支度を始めようとしたまさにその時、

『全校生徒の皆さん!』

 ハウリング寸前の大音声が、スピーカーから飛び出した。

「何だ何だ一体こりゃあ!」

「チョッと落ち着きなさい、ただでさえアンタはあつぐるしいんだから」

「……落ち着いた方が良いのは、エリカちゃんも同じだと思う」

 少なくない生徒が慌てふためく中、

『―――失礼しました。全校生徒の皆さん!』

 スピーカーからもう一度、今度は少し決まり悪げに、同じセリフが流れた。

『僕達は、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』

「「有志ね……」」

 スピーカーから威勢良く飛び出した男子生徒の声を聞いて、司波達也と比企谷は同じタイミングでシニカルに呟いた。

『僕達は生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』

 その放送を静かに聞いていた司波達也は、内ポケットの携帯端末にメールの着信に気がついた。携帯端末を取り出し内容を確認すると立ちあがった。

「風紀委員長からの呼び出しがかかった」

 そう言い残し、放送に戸惑って誰も教室から出ない中、一人だけ教室を後にした。

 比企谷は司波達也が完全に教室から出ていったのを確認すると、席から立って教室の端に移動して携帯端末を取り出しどこかに連絡を取り出した。

「……ああ、放送室の方は俺が行く。お前らは二人の警戒に回ってくれ」

 携帯端末をしまうと、比企谷も遅れて教室を後にした。

 

 

 

「どういうことなの、これ!」

 比企谷が放送室前についた時にはすでに扉が開かれており鎮圧が完了され、放送室の中に入ると司波達也が剣道部の壬生に詰めよられていた。

 見るかぎり、放送室を占拠していたのは捕まっている四人と壬生を含めて五人。

 自由である壬生の手は、司波達也の胸元に伸びており、その手首を司波達也の手に掴まれていた。

「あたしたちを騙したのね!」

 手を振りほどこうともがく壬生を、司波達也はあっさり解放した。

 そしてなおも言い詰ろうとした壬生の背中に、声が掛けられた。

「司波はお前を騙してなどいない」

 重く、力強い響きに、壬生の身体がビクッと震えた。

「十文字会頭……」

「お前たちの言い分は聞こう。交渉にも応じる。

 だが、お前たちの要求を聞き入れる事と、お前たちの執った手段を認めることは、別の問題だ」

 壬生の態度から攻撃性が消えた。

 全課外活動を束ねる十文字の迫力に、壬生の怒りは呑まれていた。

「それはその通りなんだけど、彼らを放してあげてもらえないかしら」

 しかしその時、この言葉と共に、司波達也と壬生の間に小柄な人影が割り込んできた。

「七草?」

 十文字が訝しげな声を発し、

「だが、真由美」

 渡辺風紀委員長が反論の構えを見せる。

 しかし七草会長は、それを未発段階で遮った。

「言いたいことは理解しているつもりよ、摩利。

 でも、壬生さん一人では、交渉の段取りも打合せできないでしょう。

 当校の生徒である以上、逃げられるということも無いのだし」

「あたしたちは逃げたりしません!」

 七草会長の言葉に、壬生は反射的に噛みついた。

 しかし七草会長は、直接には壬生の言葉に反応しなかった。

「生活主任の先生と話しあってきました。

 鍵の盗用、放送施設の無断使用に対する措置は、生徒会に委ねるそうです」

 遅れてきた事情と、彼らが現在置かれている立場についての、さりげない説明。

「壬生さん。これから貴方たちと生徒会の、交渉に関する打合せをしたいのだけど、ついて来てもらえるかしら」

「……ええ、構いません」

「十文字くん、お先に失礼するわね?」

「承知した」

「ごめんなさい、摩利。何だか、手柄を横取りするみたいで気が引けるのだけど」

「気持ちの上では、そう言う、面も無きにしも非ずだが、実質面では手柄のメリットなどがないからな。

 気にするな」

「そうだったわね。

じゃあ、達也くん、深雪さん、貴方たちは、今日はもう帰ってもらっていいわ」

「……それでは会長、失礼いたします」

 意表を衝かれて生じた短い間。

 そこから先に回復したのは司波深雪の方だった。

 丁寧に一礼する司波深雪に続いて、司波達也も無言で一礼し、その場を後にした。

 比企谷は司波達也が出て行った後、少し間を開けて放送室から出て行き、そこから生徒会室までの通路にある角で市原会計が通るのを待った。そこで待つこと数分も経たず、市原会計が姿を現した。

「……何でしょう」

「いえ、明日からCADの所持を許可してもらおうと思いましてね」

「……分かりました、許可いたします」

「ありがとうございます」

 比企谷はそれだけ聞くと、教室に向かって歩き出した。途中、誰もいないのを確認して立ち止り、携帯端末を取り出した。

「こっちは終わった。そっちに異常はないか」

 比企谷は廊下の窓を背にしながら、周りを気にして話している。携帯端末を操作していない方の手が手持無沙汰なのか、制服の内ポケットの中から手に収まるくらいのスイッチのついた棒状のCADを取り出して手の中で回し始めた。

「……それで、明日からだがCAD所持の許可を取りつけた。それぞれ隠して持ち込んでおいてくれ」

 と、指示を出し携帯端末とCADをしまい、再び教室に向かって歩き出した。

 

 


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