神々の戦争   作:tuki21

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第102話:復讐者は闇を行く

 和輝の攻撃は、残念ながら城崎のライフを削るには至らなかった。

 

「遠いな……!」

 

 思わず呟いてしまう。その声を聞き取って、ネメシスが微笑した。

 

「当然だ、少年。隼人の執念を甘く見るな。隼人の憎悪を薄く見るな。この程度で倒れられるほど、安易な道はたどっていない」

「いい、ネメシス」

 

 眼光鋭く。けれど口調は淡く。城崎は和輝を見据える。

 

「貴様が人形でなくとも、オレのやることは変わらない。貴様がナイアルラトホテップに繋がる何かを持っているなら、残らずさらけ出せ。そのために、貴様を痛めつけようとも、オレの心はいささかも痛まない。躊躇はない」

「ふっざけんな! 誰彼構わずかよ! そんなに復讐が第一か!」

「その通りだ。オレにはもう、他に成したいことがない」

 

 怒りに任せた和輝の感情に、冷水を浴びせるがごとき言葉(いちげき)だった。

 城崎に抱いていた憐憫の情が薄れ、代わりに最初に感じた怒りが再燃する。

 このとりつく島のない男は、このまま野放しにしていいのだろうか?

 ガチン! 徹底的にやらなければならない。それこそ、ここで宝珠を破壊して、無理矢理で求めなければならないのではないだろうか?

 

「そんなの、理不尽を押し付ける神と変わらない!」

「神と手を組み、神の力に頼る以上、オレは違うというつもりはない」

 

 二人の会話はどこまでいっても、悲しいほどに平行線だった。

 

 

 

和輝LP4600手札0枚

ペンデュラムゾーン赤:小鼠の魔術師(スケール1)、青:

モンスターゾーン マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX(守備表示、攻撃力2800→1800)、閃珖竜スターダスト(守備表示、攻撃力2500→1500)、ブラック・マジシャン(攻撃表示)、

魔法・罠ゾーン 伏せ1枚

フィールドゾーン なし

 

城崎LP3400手札3枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン なし

魔法・罠ゾーン RR-ネスト、

フィールドゾーン なし

 

 

「オレのターンだ!」

 

 相変わらず、城崎の気配は荒々しい。眼光の鋭さも一切衰えていない。これはきっと、城崎が今の城崎である限り変わらないものだ。

 

「隼人、どうする?」

「決まっている。オレはオレの復讐を遂げる。そのために取る手段は躊躇しない! たとえ何人が血にまみれ、涙を流そうと!

 成金ゴブリンを発動! 貴様のライフを1000回復させる代わりに、オレは一枚ドロー!」

「回復……」

 

 和輝は訝しんだ。

 ドローを加速させ、デッキの周りを早めたいのだと思う。それに高々1000のライフ回復は、現在の環境ではないも同然だ。

 だがそれだけではないような気がする。もっと、和輝にとって危険な狙いがある気がする。

 和輝の直感はそう遠くないうちに現実になった。

 

「二枚目の闇の誘惑を発動。二枚ドローし、RR-スカル・イーグルを除外!」

 

 ()()()。軋むような笑みを、城崎は浮かべた。その様は錆びついて、それでも弾丸が放たれる時を待つ巨大な銃を思わせた。

 そして、弾丸が放たれる瞬間はそう遠くなく、間違いなく和輝に喰らいつくだろう。

 

RUM(ランクアップ・マジック)-リィンカーネーション・フォース発動! ライフを半分払い、墓地のRR-ライズ・ファルコンを蘇生!」

 

 復活するライズ・ファルコン。勿論ORUのない状態ではただ低い攻撃力を晒すXモンスターに過ぎない。

 勿論、RUMなのだから、続きがある。

 

「そして、特殊召喚したライズ・ファルコンをオーバーレイ! 一体のモンスターで、オーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!

 怨恨の彼岸より、飛翔せよ爆炎の翼! 天より降り注ぐ炎の矢が、我が敵、我が仇のことごとくを灰燼に帰さしめん! RR-ブレイズ・ファルコン!」

 

 X召喚のエフェクトが走り、虹色の爆発が起こり、噴煙を紅蓮の炎が突き破った。

 炎を振り払って飛翔するのは、これまた炎のように真っ赤なカラーリングを持つ機械の隼。

 メインカラーは赤と黒。翼を広げ、翼にはいくつもの可動式の砲塔が装備され、無機質なアイカメラが和輝を見下ろす。

 

「くそ!」

 

 和輝は城崎がやろうとしていることを推測。これはまずいと思い、デュエルディスクのボタンを押した。

 

「リバースカードオープン! 永遠の魂!」

 

 翻るカード。そして、永続罠の効果が発揮。ブラック・マジシャンをカード効果から守る。つまり、スターダストの効果と合わせれば、ブレイズ・ファルコンの破壊効果による被害も最低限に抑えることができるのだ。

 

「フン。それがどうした! オレはバニシング・レイニアスを召喚! RR-ネストの効果を発動し、墓地のRR-ナパーム・ドラゴニアスを回収し、バニシング・レイニアスの効果によって特殊召喚!

 ナパーム・ドラゴニアス効果発動! 貴様に600のダメージを与える!」

 

 再び召喚されたナパーム・ドラゴニアスが、怒りを吐き出すように火炎弾を和輝に向かって放つ。和輝は宝珠を庇ってガード。相変わらず重い一撃だったが、今度は揺るがない。

 この男に、ただ負けるわけにはいかない。和輝の精神の防壁が、彼のもベーションの上昇にとって強固になっている。

 

「オレは! バニシング・レイニアスとナパーム・ドラゴニアスでオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 X召喚のエフェクトが展開。渦巻く銀河を思わせる空間に向かって、二体のRRが飛び込み、虹色の爆発を起こす。

 

「憤怒の空より、来たれ灼熱の翼! 熱を回せ、動力を回せ、怒りを回せ! その怒りはいかなるものも凌駕する! RR-ブレード・バーナー・ファルコン!」

 

 爆炎を突き破って飛来する隼が一体。

 機械の身体。白銀の鎧を纏ったようなボディ、翼を広げた姿に、鋭い眼差し。機械の姿だがそんな冷たい身体に、火傷しそうな熱い怒りを感じる。

 

「ブレード・バーナー・ファルコンの効果発動! オレと貴様のライフ差が3000以上なため、このカードの攻撃力は3000アップする!」

「成金ゴブリンを使ったのはこのためか!」

 

 攻撃力4000。今の和輝のどのモンスターよりも高い。

 さらに畳みかけるように城崎の声が飛ぶ。

 

「ブレイズ・ファルコンの効果発動! ORUを一つ使い、貴様の場にいる特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、貴様にダメージを与える!」

「スターダストの効果発動! スターダスト自身を、効果破壊から守る!」

 

 ブレイズ・ファルコンの全身に装備された砲塔から赤光(しゃっこう)が放たれる。

 破壊の一撃は雨のように和輝のフィールドに降り注ぐ。だがブラック・マジシャンは永遠の魂の効果によって相手のカード効果を受けず、スターダストもまた、自身の効果で身を守った。

 なので破壊されたのはマジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX一体のみ、和輝が受けたダメージも500止まりだ。

 もっとも、500止まりなのは、今この瞬間だけだが。

 城崎が更なるカードを繰り出した。

 

「RUM-スキップ・フォース! ブレイズ・ファルコンをダブルランクアップ!」

「おいおい、何枚RUMため込んでるんだい」

「いいや、隼人の執念が、ナイアルラトホテップにたどり着くという誓いが、引き寄せるのだ」

 

 神々の言葉の応酬の眼前で、虹色の爆発が起こる。

 

「オレは! ブレイズ・ファルコンでオーバーレイ! 一体のモンスターで、オーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!

 怨嗟の空より、来たれ黒鉄の翼! 内包せし武器庫より飛来せよ殲滅兵器! RR-アーセナル・ファルコン!」

 

 爆発の向こうから巨体が現れる。

 漆黒の体躯、大きく広げられた両翼を持つ隼。その体から延びるのは甲板のようで、空中の空母や要塞を思わせる。

 

「バトルだ! ブレード・バーナー・ファルコンでブラック・マジシャンを攻撃!」

 

 バトルが始まる。ブレード・バーナー・ファルコンが火を噴き飛翔、上昇から一気に滑降。ブラック・マジシャンと交錯する。すれ違った時、ブラック・マジシャンは胸部を切り裂かれて崩れ落ちた。

 

「この瞬間、ブレード・バーナー・ファルコンの効果発動! ORUを一つ使い、閃珖竜スターダストを破壊する!」

 

 城崎に容赦はない。スターダストもあっさりと破壊され、和輝を守るモンスターは全ていなくなった。

 

「アーセナル・ファルコンでダイレクトアタック!」

 

 攻撃宣言が下される。アーセナル・ファルコンが、その巨体の装甲各所をスライド、中から無砲塔式の砲口が出現。一斉に黒のレーザーを放った。

 レーザーは緩やかなカーブを描くものもあれば、鋭角に迫るものもあり、その全てが和輝を狙う。

 和輝は避けない。もとより全方向を囲まれているので、回避は不可能。和輝は宝珠だけを庇う。

 

 ――――楽しい楽しい楽しいなぁ!

 

 頭の中、胸の奥、そんな自分では触れられない位置で、怪物が笑った。

 衝撃は一瞬後に来た。体がはじけ飛びそうな痛みが全身から湧き出てきた。

 それと同時に、脳裏に映像が過った。

 凄惨な現場。血と臓物にまみれた部屋。テーブルに並べられた四人分の頭。まるで一家団欒のような悪趣味な演出。それを作り上げた少年。そして彼と契約を交わした、邪神。

 見覚えがあった。

 ああ、間違いない。一度しかあっていなくても、こんな訳の分からない映像越しでも、はっきりとわかる。

 黄泉野平月(よみのひらつき)と、ナイアルラトホテップ。

 

「ッ!」

 

 映像はそこで終わった。今のが何なのか、和輝は直感的に理解していた。

 

「これ、が……」

 

 城崎の記憶だ。今の彼の原点。彼が復讐の道を歩み始めた、その始まりだ。

 見れば城崎の方もまた、頭を押さえていた。その目つきは険しい。

 

「貴様……これは……」

 

 城崎の脳裏にも映像が流れたようだ。何を見たのだろうか?

 

「君の記憶だよ、和輝。彼はそれを見たんだ」

「何?」

 

 傍らのロキが、静かにそういった。

 

「芽吹いたようだね」

「なんだと……?」

 

 一体何を言っているのか分からない。

 

「前に言ったろ? 神々と人間との距離が近かった時には、人間の中に特殊な能力を持った者が生まれることがあったと。

 神の血を引いた人間とか、神々の時代の残滓。それは今でもそうだ。数は少なくなっても、ゼロではない」

 

 分かる。和輝のカウンセラーにしてデュエルの師匠、クリノは常人には見えないものを見ていた。

 国守咲夜(くにもりさくや)と始め出会った時に戦った、エリスの契約者、オデッサは触れているものの内容を透かすことができた。それで彼女はノーリスクでデーモンの宣告を当てていた。

 

「だが俺は、今までそんな能力を自覚したことなんざ……」

「言ったろ? 芽吹いたって。和輝、君は七年前にボクの心臓の半分を移植された。濃度で言うなら、君はどの参加者よりも濃い神の血を、その身に宿している。だから、こういった能力に目覚めても不思議じゃない」

「…………」

「精神感応。相互か、一方か、とにかく相手と繋がり、伝わってくる能力」

 

 そんなものが何の役に立つのか。和輝には分からない。否――――

 分かることはある。伝わった。繋がった。和輝には城崎の憎悪が、怒りが、言葉ではなく、心で理解できた。

 彼は止まれない。止まらない。それが痛いほど()()()()()()

 

「くそ……!」

 

 だが、やはり復讐のために誰彼構わずその怒りをぶつけるのは看過できない。

 デュエル続行だ。

 

「おい! あんたのモンスターは全て攻撃した。これでバトルは終了、ターンも終了か!?」

「く……ッ! カードを一枚セットし、ターンエンドだ」

「ならあんたのエンドフェイズに、永遠の魂の効果発動! 墓地からブラック・マジシャンを特殊召喚する!」

 

 

成金ゴブリン:通常魔法

(1):自分はデッキから1枚ドローする。その後、相手は1000LP回復する。

 

RUM-リィンカーネーション・フォース:通常魔法

(1):LPを半分払い、自分の墓地の「RR」Xモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、そのモンスターよりランクが1つ高いXモンスター1体を、対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。

 

RR-ブレイズ・ファルコン 闇属性 ランク5 鳥獣族:エクシーズ

ATK1000 DEF2000

鳥獣族レベル5モンスター×3

(1):X素材を持っているこのカードは直接攻撃できる。(2):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。(3):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える。

 

RR-ブレード・バーナー・ファルコン 闇属性 ランク4 鳥獣族:エクシーズ

ATK1000 DEF1000

鳥獣族レベル4モンスター×2

(1:自分のLPが相手より3000以上少なく、このカードがX召喚に成功した場合に発動できる。このカードの攻撃力は3000アップする。(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、このカードのX素材を任意の数だけ取り除いて発動できる。取り除いたX素材の数だけ、相手フィールドのモンスターを選んで破壊する。

 

RUM-スキップ・フォース:通常魔法

(1):自分フィールドの「RR」Xモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターよりランクが2つ高い「RR」モンスター1体を、対象の自分のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。(2):自分の墓地からこのカードと「RR」モンスター1体を除外し、自分の墓地の「RR」Xモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

RR-アーセナル・ファルコン 闇属性 ランク7 鳥獣族:エクシーズ

ATK2500 DEF2000

レベル7モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。デッキから鳥獣族・レベル4モンスター1体を特殊召喚する。(2):「RR」モンスターをX素材として持っているこのカードは、その数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。(3):「RR」モンスターをX素材として持っているこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。エクストラデッキから「RR-アーセナル・ファルコン」以外の「RR」Xモンスター1体を特殊召喚し、墓地のこのカードをそのXモンスターの下に重ねてX素材とする。

 

 

RR-ブレード・バーナー・ファルコン攻撃力1000→4000、ORU×1

 

 

和輝LP4600→5600→5000→4500→3000→500手札0枚

城崎LP3400→1700手札0枚

 

 

「俺のターンだ、ドロー!」

 

 声に力はあるが、和輝の顔色は悪い。

 彼が見た城崎の過去は映像としてだけではない。城崎が復讐を誓ったあの晩に、彼が感じた心臓の鼓動や、鼻腔を突く血の臭い。体に走った衝撃、命が流れ落ちていく冷たさ。

 それ等全てを、和輝もまた感じたのだ。

 あの時の城崎の慟哭も、全て。

 

「和輝、相手に感情移入しすぎたのかな?」

 

 ロキが言う。その顔にいつものにやにや笑いは張り付いていない。和輝は黙って首を横に振った。

 

「いいや、違う。大丈夫だ。俺は戦える。相手の過去を垣間見て、()()()()、怒りも悲しみも、全部分かった。

 理不尽に叩きのめされたんだ。だけど、だからってあれじゃあ、()()()()()()()()()()()

「……じゃあ、どうするの?」

「復讐を止めるつもりはない。あの炎は消えない。消せない。だけど、誰彼構わず燃やすようじゃあ、いつか復讐ですらなくなっちまう。だから、頭を冷やしてもらう」

 

 確固たる決意を秘めて、和輝はカードを抜きだした。

 

「俺はスケール3の白蛇の魔術師を、Pゾーンにセット!」

 

 和輝の隣に、もう一本、青白い光の柱が屹立する。光柱の中に納まっているのは、着崩した黒地に銀と金色の蛇柄のアクセントが入った着物を着た、黒髪金目の妖艶な雰囲気を放つ妙齢の女性。その下には3の数字が浮かんでいる。

 

「白蛇の魔術師のP効果! Pゾーンのこのカードと、反対側のPゾーンにあるカードを破壊し、二枚ドロー!」

 

 ドローしたカードを、鋭い視線で見る和輝。そのまま一気に言葉を放つ。

 

「永遠の魂の効果で、デッキから千本ナイフ(サウザンド・ナイフ)を手札に加え、発動! ブレード・バーナー・ファルコンを破壊する!」

 

 ブラック・マジシャンの周囲に、無数のナイフが出現する。千本、そういわれれば信じられるほど、人の目で数えられる数を超えた銀の刃。

 その刃先が一斉にブレード・バーナー・ファルコンを向き、発射された。

 周囲全てを覆った刃の群。それが一斉に空飛ぶ隼に襲い掛かり、囲んで捕え、刺し貫いた。

 

「まず一つ!」

「ただではやられん! 墓地のRR-リターンの効果発動! このカードを除外し、デッキからRR-インペイル・レイニアスを手札に加える!」

 

 やはり手ごわい。ただでは倒れないというのが、復讐者を体現しているように、今の和輝には感じられた。

 手が折れれば足で、足が折れれば喉笛に食らいつく。死んだ後も、骨の尖った部分を上に向け、相手が踏むのを待つ。どんな状態になろうとも仇を諦めない執念。

 

「けど、それじゃあ破滅するだけだ!」

「関係ない」

 

 思わずついて出た声に、返答があった。地獄の炎を内包したような眼差しを浴びせながら、城崎が吠える。

 

「全てを奪われた! 守りたかったものも、育みたかった幸福も! 全てこの手から零れ落ちた! ならば、仇を討つ! ナイアルラトホテップとその契約者に報いを! オレの命、人生、そのために全て使う!」

「そのために辺り構わず傷つけていいことにはならない! アメイジング・ペンデュラム発動! EXデッキから牛刺の魔術師と、小鼠の魔術師を手札に加える。

 そして、今手札に加えた二体の魔術師をPゾーンにセット!」

 

 再び和輝の両隣に青白い光の柱が屹立する。

 

「これでオレは、レベル2から7のモンスターを同時に召喚できる! ペンデュラム召喚! 再び現れろ、俺のモンスターたち!

 ペンデュラム召喚! EXデッキから現れろ、白蛇の魔術師、群鳥の魔術師!

 

 和輝の頭上、異界への門が展開され、そこから光となって二体の魔術師が現れる。和輝の声が飛ぶ。

 

「P召喚された白蛇の魔術師の効果により、一枚ドロー! バウンド・ワンドをブラック・マジシャンに装備する。

 バトルだ! ブラック・マジシャンで、アーセナル・ファルコンを攻撃!」

 

 今やブラック・マジシャンの攻撃力はバウンド・ワンドの効果にっとって3200、アーセナル・ファルコンも撃破できる。

 ふわりと浮き上がるような軽やかな跳躍。ブラック・マジシャンの杖が振るわれ、先端から黒い稲妻が幾条も放たれる。

 雷は黒い蛇のようにうねり、アーセナル・ファルコンに殺到。装甲に食らいつき、内部に侵入し、内外から焼き尽くす。

 断末魔の咆哮はない。機械の隼は各所から爆炎の花を咲かせて瓦解した。

 和輝はここで、アーセナル・ファルコンの効果が発動されると思っていた。アーセナル・ファルコンの効果で後続を呼ぶのだと。

 だが、城崎の宣言が和輝の予想を裏切った。

 

「リバースカードオープン! RUM-ラプターズ・フォース発動! 今破壊されたアーセナル・ファルコンを蘇生し、オーバーレイ! 一体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!」

「何!?」

 

 和輝の目が見開かれる。その眼前で、X召喚のエフェクトが展開。渦巻く銀河を思わせる粒子の渦に、紫色の光となったアーセナル・ファルコンが飛び込んだ。

 

「絶望の底より、飛翔せよ夜天の翼! 彼方からの光を(しるべ)に、どこまでも高く、鋭く突き進め! 現れろ月光の隼!RR-サテライト・キャノン・ファルコン!」

 

 虹色の爆発を突き破り、飛翔する翼。

 月光のような金色、月を思わせる白、そして白のアクセントを加える赤いカラーリングの隼モンスター。

 やはり機械の身体で、翼と腰骨の付け根にキャノン砲を携えている。

 

「サテライト・キャノン・ファルコンの効果発動! X召喚成功時に、相手の魔法、罠を全て破壊する! 消え失せろ!」

「ッ! このために、アーセナル・ファルコンの効果で特殊召喚するのではなく、RUMを使ったのか!」

 

 気付いた時にはもう遅い。サテライト・キャノン・ファルコンの砲口がターゲットを固定、発射される。

 エメラルドグリーンの光が、文字通り和輝の魔法や罠を薙ぎ払う。

 

「くそぉ!」

「永遠の魂が破壊された!」

 

 ロキの悲鳴のような声。その通りの光景が展開される。

 

「く……! 永遠の魂が破壊されたため、俺の場にモンスターは全て破壊される……」

 

 中空に浮かぶ白い翼。これこそが城崎の奥の手か。

 だがアルティメット・ファルコンを破壊された以上、ここで出てきたランク8、これが、城崎の最後の手段でもあるのだろう。

 お互いに、あとがない。

 

「悟っているだろうが……」

 

 愕然とする和輝に、城崎の声が届く。

 

「このサテライト・キャノン・ファルコンが、現状オレが出せる最後の大型モンスターだ。貴様がオレの復讐に物申すなら、突破してみろ」

「……あんたの復讐そのものを否定する気はない。だけど、そのために出る無関係な被害、犠牲が、俺は()()()()()()。俺は大欲な壺を発動! 除外されてる二体のブラック・マジシャンとギャラクシーサーペントをデッキに戻して、一枚ドロー!

 二枚目のペンデュラム・ホルトを発動し、二枚ドロー! カードを一枚セットして、ターンエンドだ!」

 

 

白蛇の魔術師 地属性 ☆3 魔法使い族:ペンデュラム

ATK1200 DEF1100

Pスケール3

P効果

このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):自分メインフェイズにもう片方の自分のPゾーンに「白蛇の魔術師」以外の「魔術師」または「オッドアイ」カードが存在する場合に発動できる。このカードともう片方のPゾーンのカードを破壊し、カードを2枚ドローする。

モンスター効果

このカード名のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードを含む魔法使い族モンスター2体以上のP召喚に成功した時に発動する。カードを1枚ドローする。

 

千本ナイフ:通常魔法

(1):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が存在する場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターを破壊する。

 

アメイジング・ペンデュラム:通常魔法

「アメイジング・ペンデュラム」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分のPゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。自分のエクストラデッキから、カード名が異なる表側表示の「魔術師」Pモンスター2体を手札に加える。

 

バウンド・ワンド:装備魔法

魔法使い族モンスターにのみ装備可能。(1):装備モンスターの攻撃力は、装備モンスターのレベル×100アップする。(2):装備モンスターが相手によって破壊され、このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。そのモンスターを墓地から自分フィールドに特殊召喚する。

 

RUM-ラプターズ・フォース:速攻魔法

(1):自分フィールドの「RR」Xモンスターが破壊され墓地へ送られたターン、自分の墓地の「RR」Xモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、そのモンスターよりランクが1つ高い「RR」モンスター1体を、対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

RR-サテライト・キャノン・ファルコン 闇属性 ランク8 鳥獣族:エクシーズ

ATK3000 DEF2000

鳥獣族レベル8モンスター×2

(1):このカードが「RR」モンスターを素材としてX召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。(2):このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力は自分の墓地の「RR」モンスターの数×800ダウンする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

大欲な壺:速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):除外されている自分及び相手のモンスターの中から合計3体を対象として発動できる。そのモンスター3体を持ち主のデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから1枚ドローする。

 

RR-サテライト・キャノン・ファルコンORU×1

 

 

和輝LP500手札1枚

城崎LP1700→1000手札1枚

 

 

「オレのターンだ、ドロー!」

 

 カードをドローしながらも、城崎の心もまた千々に乱れていた。

 和輝が城崎の過去と、そこに付随する感情、五感を感じたのに対して、城崎もまた、和輝の過去を垣間見たのだ。

 七年前の東京大火災。その地獄の只中をさ迷い歩き、最終的に力尽きた後、ロキと出会った時のことを。

 あの地獄は神々によるものだった。あれは余波だったが、それでも、城崎は和輝の気持ちが、押し付けられる理不尽に対する怒りの根源が分かった。

 あの少年もまた、一歩間違えばこちら側だったのだと理解した。

 そして、境界線上で踏みとどまっていることも。

 

「く……! だが、今更オレの道は変えられん。そして、この攻撃でデュエルは終わりだ! 沈め! サテライト・キャノン・ファルコンでダイレクトアタック!」

 

 攻撃宣言が下る。サテライト・キャノン・ファルコンが、両腰の砲門を和輝に向ける。

 チャージは最速。直後に空気を焼くエメラルドグリーンの光が放たれた。

 

「いいや、まだだ! まだ終わりじゃない! リバースカードオープン! 戦線復帰! 守備表示で甦れ、閃珖竜スターダスト!」

 

 舞い散る粉雪のような光の粒子を伴って、和輝のフィールドに星屑の竜が復活する。以下に厄介な効果を持っていようと、一体であるならば閃珖竜スターダストは耐えられる。

 

「く……!」

「まだ終わらない。終われない! あんたの復讐を否定するつもりはない。それに、何が起こったのかも知った。協力だってしてやりたい。だけど、俺にやったように問答無用で、まずは暴力――理不尽――でいったん屈服させるってやり方が気に入らない!」

「理不尽に抗うのが和輝だよ、ミスター・アヴェンジャー」とロキ。

「だが、復讐の業火こそが力の源。制御できねば他者を焼くは道理。違うかロキよ」ネメシスが反論する。

「言葉で止まると思うな。意志を通したいなら、行動で、力で示せ」あくまでかたくなな城崎。だが和輝はそれが表面だけだと分かった。伝わってきた。

「そうさせてもらう」和輝が力強く頷く。城崎は誰にも気づかれぬよう、ほんの微かに笑った。

 

「バトル終了。モンスターとセット。そしてRR-ネストの効果で、墓地のRR-ナパーム・ドラゴニアスを手札に加える。カードを一枚セットし、ターンエンドだ」

 

 

戦線復帰:通常罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

 

「俺のターン!」

 

 今のは首の皮一枚だった。もし相手に追撃の手段があれば、和輝の負けだった。

 

「そして窮地は去っていない。彼の手札にはナパーム・ドラゴニアスがある。召喚されれば600ダメージで負けだ」

 

 それも分かっている。負けるつもりはない。なにより――――

 

「ここであの人に勝って、俺の意志を通す。そうしなければ、あの人はきっと何もかもを巻き込んで、破滅する」

 

 決意を秘めた和輝の言葉。ロキは口元だけで微笑を作った。

 

「そのために、まずはこいつだ! 強欲で貪欲な壺発動! デッキトップから十枚除外し、二枚ドロー!」

 

 ドローカードを確認、和輝はいったん手を止めた。

 

「どうした?」

「一つ、聞きたい」

「なんだ?」

 

 和輝の城崎の二人、交わされる会話は簡素でそっけない。

 

「あんたは、復讐を終えたらどうするんだ?」

「……さぁな。考えたこともない」

 

 痛みを絶えるような表情を浮かべる和輝。

 

「だから、周囲を巻き込むことも厭わないんだ」

「…………」

 

 無言。だが和輝は、頑なだった城崎の心が、ほんのわずかにほぐれた様に思った。

 

「勝つぜ。ニトロ・ユニットをサテライト・キャノン・ファルコンに装備!

 そしてEXデッキの小鼠の魔術師のモンスター効果発動! EXデッキに表側表示で存在するこのカードを、俺のPゾーンにセット! さらにオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをPゾーンにセッティング!」

 

 何度でも蘇る、諦めない。和輝の想いを体現するかのように、彼の両隣に青白い光の柱が屹立した。

 Pスケールは1と4。

 

「これで、俺はレベル2と3のモンスターを、同時に召喚できる! これがこのデュエル、最後のペンデュラム召喚だ! EXデッキから現れろ、白蛇の魔術師!」

 

 展開されるモンスターたち。それを見ながら、ネメシスが言う。

 

「ロキのパートナーは、このターンで決めるつもりか……」

「そのようだ。そして、オレに意志を届かせるつもりでいる」

 

 和輝の過去を見た。あの地獄を見た。城崎の中で、復讐心は根源で、今の原点だ。だが、誰彼構わず燃やし尽くす黒い炎のような感情は、確かに少し静まっている。

 目的のためなら手段を択ばず、誰彼構わず傷つける。その姿勢は、理不尽を押し付ける神と変わらないと、和輝は言った。

 そんなことは城崎も分かっている。だがその一方で、あの少年の言うことは正しい。それでも止まれない。

 復讐を果たせるなら、命はいらない。もうこれしかないのだ、自分には。

 だから城崎隼人はこの暗黒の道を歩き続ける。

 だが――――

 

「魔法カード、ペンデュラム・フュージョン発動! 俺の場にいる白蛇の魔術師と、Pゾーンのオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを融合!

 

 光とともに現れる、神秘を内包した虹彩異色(ヘテロクロミア)のドラゴン。背後にリング状のパーツを備え、オリジナルのオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンよりもスマートなフォルムになった。

 

「P召喚されたモンスターを素材にしたルーンアイズは、相手のカード効果を受けない! これでサテライト・キャノン・ファルコンの効果で攻撃力が下がることもない!

 さらにレベル4以下のモンスターを素材にしたルーンアイズは、相手モンスターに二回攻撃できる! バトルだ!」

 

 和輝の手札はゼロ。これが正真正銘、最後の攻撃だ。

 強い意志を秘めた瞳。何と熱い感情か。そして優しい。こちらの、こんな暗闇を歩くことを決めた男のことさえ慮っている。

 ふと、昔を思い出した。思えば死んでしまった婚約者も、時々きついことを言うが、相手のことを思いやる優しい女性(ひと)だった。

 城崎は、自分の口元に淡い笑みが浮かぶのを自覚した。

 その眼前で、守備表示を取っていたインペイル・レイニアスが破壊された。

 二回目の攻撃が来る。笑みそのものが幻であったかのように、城崎は獣のように吠えた。

 

()の意志は届いた。だが! 勝ちまでは譲れん。宝珠にまで、その手は届かせない! リバースカードオープン! 破壊指輪(リング)!」

「なんだと!?」

 

 和輝の目が見開かれる。驚愕を顔で表した少年の眼前、サテライト・キャノン・ファルコンの首に、爆弾付きの指輪が嵌められる。

 起爆装置は作動済み。爆破までの猶予は皆無。ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃が届く前に速やかに爆散。  

 轟音が空になり、衝撃波が両者を打ちのめした。

 

 

強欲で貪欲な壺:通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外して発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

ペンデュラム・フュージョン:通常魔法

「ペンデュラム・フュージョン」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを自分フィールドから墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。自分のPゾーンにカードが2枚存在する場合、自分のPゾーンに存在する融合素材モンスターも融合素材に使用できる。

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 闇属性 ☆8 ドラゴン族:融合

AT3000 DEF2000

「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」+魔法使い族モンスター

(1):このカードは、「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」以外の融合素材としたモンスターの元々のレベルによって以下の効果を得る。●レベル4以下:このカードは1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃できる。●レベル5以上:このカードは1度のバトルフェイズ中に3回までモンスターに攻撃できる。(2):フィールドのP召喚されたモンスターを素材としてこのカードが融合召喚に成功したターン、このカードは相手の効果を受けない。

 

破壊指輪:通常罠

自分フィールド上の表側表示モンスター1体を破壊し、お互いに1000ポイントダメージを受ける。

 

 

和輝LP0

城崎LP0

 

 

「くそ……! 勝ちきれなかったか」

 

 悔し気に呻く和輝。デュエルディスクに表示された、-2000DPも目に入らない。

 だが半面、ロキは楽観的だった。

 

「けれど、君の意志は届いたみたいだよ?」

 

 視線を向ければ、そこには立ったままの城崎の姿。だが一目でわかった。今の彼の身体からは、あの禍々しいまでの憎悪は鳴りを潜めていた。

 なくなったわけではない。ただ、彼の身の内に納まったのだ。

 静まった憎悪は激情と怒りはそのままに、しかし無暗に周囲を傷つけることはなくなった。

 ややあって、城崎の方から口を開いた。

 

「復讐を終えたらどうするか、お前は言ったな」

「ああ」

 

 呆れたような、疲れたような吐息が漏れる。城崎はデュエルディスクを停止し、カードを回収しながら、(きびす)を返した。

 

「やはり答えはない、だ。オレは復讐のために生きる。最早それだけが、オレがすべきことだからだ」

「先があったっていいじゃないか……」

「そんなものは、全てが終わってからだ」

 

 息が漏れた。深くて重い吐息だった。

 去っていく城崎の後ろ姿。あれだけこちらを痛めつけてでも情報を得ようとしていたのに、何も問おうとしない。ネメシスも、契約者の意向に従うのか、何も言わずに背を向けた。

 ただ、その口元にほんのわずかに笑みがあったのは、和輝の錯覚だろうか。

 

「ゾディアックビル」

 

 だから、和輝は我知らずの内に口にしていた。

 城崎の足が止まる。

 

「ナイアルラトホテップと黄泉野平月がいるとしたら、そこかもしれない。

 ジェネックス杯が始まってから、ギリシャ神話の怪物とかが出てきてる。けどそれとは別にクトゥルフ神話の怪物も出ているらしい。

 だったら、ゾディアック社にいるティターン神族と、ナイアルラトホテップは繋がっているかもしれない。てゆーかその可能性は高いと思う。一度しかあってないが、あの邪神たちはこういうイベントを隅っこで観戦して、ケタケタ嘲笑っているんだろう」

「人間も神々も冷笑する混沌の神、それがナイアルラトホテップだものね」

「俺たちはジェネックス杯三日目にゾディアック本社に向かう。そこでティターン神族と決着をつけるつもりだ。その時なら、うまくすればナイアルラトホテップと会えるかもしれない」

 

 城崎は無言だ。ただ、一つだけ頷いて、再び歩き出した。

 和輝は何も言葉を駆けられず、その背中が見えなくなるまで見つめていた。

 

「彼の炎は消えたわけじゃない。ずっとずっと、燃え続けるだろう。いつか彼自身を燃やし尽くしても」

「それじゃあ、救われない」

「そうでもないさ」

 

 苦いものを吐き出すような声音の和輝に対して、ロキは軽く言って肩をすくめた。

 

「今の彼にとって、復讐ことが我が人生。しかしそれから考えるとはいえ、復讐の後を、ほんの少しでも意識した。だったら、変わっていくかもしれない」

 

 勿論変わらないかもしれない。ロキは言外でそう言いながら、

 

「ただ、あの炎はもうむやみやたらに誰かを傷つけるものじゃなさそうだ。それだけでも、デュエルした価値はあったんじゃないかな?」

「そう、だといいけどな……」

 

 ジェネックス杯二日目。和輝はすでに疲労の極みにあったが、とにかく始まった。

 戦い、そして勝つ。和輝は闇を行く復讐者のことを心に留めながら、そう誓った。


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