神々の戦争   作:tuki21

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第103話:未熟者の初陣

 ジェネックス杯二日目。午後。

 日本にはいろんな食事がありますね、とその少女は思った。

 人目を惹く少女だった。

 やんわりとした、柔らかそうな金の髪に春の日差しのような金色の瞳。野に咲く小さな花のような可憐さを持つ少女。いつもはフリルの付いたロングスカートの、昔の貴族が着ているような服だったが、その服で東京の夏は辛いので、今日はシンプルな水色のロングスカートと白のブラウス姿。首からは銀色のネックレスを提げている。

 可憐な少女の名前は、エーデルワイス・ルー・コナー。

 神々の戦争の参加者で、契約した神はケルト神話の光の神、ルー。

 

「今日こそ、ティターン神族や、その眷属をまみえます……!」

 

 ぐっと握り拳を作り、誰も聞いていないのにエーデルワイスは「ふんっ」と自分に気合を入れた。

 

「実際、昨日はナンパされたり、それを断ったりで、結局ティターン神族と出会えなかったわけだしな」

 

 嘆息交じりにそう言った人影は、エーデルワイスのすぐ傍から。まるで彼女を守護するような立ち位置にいたのは三十代から四十代に見える男。

 短めの金髪、深い海を思わせる青い右目と奥深い森を思わせる緑の左目。わずかな光が差す森を人の形に凝縮したような深さと雄大さを思わせる佇まい。

 身に纏うのは暑い夏だというのに三つ揃いのディープブルーのスーツ。地獄のような暑さだろうに男は汗一つ流していない。

 それもそのはず。男は人間ではない。

 

「そ、そういうことは言わないで下さい、ルー……!」

 

 真っ赤になってエーデルワイスが抗弁する。彼女が言ったように、男の正体はルー。昨日は姿を消し、エーデルワイスを見守っていたが、一日中言い寄ってくる男を躱し、断ることでいっぱいいっぱいで戦いどころではなかったので、今日はこうして実体化。エーデルワイスのボディガードを買って出たというわけだった。

 

「そ、それよりルー。さっきの話は本当ですか? この先で、神の気配を感じたと」

「その通りだ」

 

 微笑まし気な微笑を浮かべていた表情を引き締めて、ルーが言う。その重々しい声音に、エーデルワイスの表情も自然、緊張に引き締まる。

 

「では、行きましょう。私も、戦います」

 

 

 ルーの案内に従い、やってきたのは一軒の飲食店だった。

 どうやら中華料理屋のようだ。エーデルワイスは東洋の知識にまだ乏しかったが、赤を基調にした店の外観に、でかでかとある漢字の看板。それに入口の自動ドアの両脇の柱に巻き付いた龍の姿は、中華な印象だった。

 

「ここですか?」

「そうだ、エーデルワイス。ここから、神の気配を感じる。それも異質な気配だ。聞くところによると、ティターン神族はほかの神々とは気配が違うとか。ならば――――」

「ここに、岡崎さんの敵がいるのですね」

 

 ぐっと握り拳を作るエーデルワイス。その様子に軽く微笑を浮かべ、ルーが注釈を加えた。

 

「正確には、岡崎少年()のだな。勿論、我々の敵でもある」

「わ、分かってます……!」

 

 顔を耳まで真っ赤にさせたエーデルワイス。だが次の瞬間、エーデルワイスを取り巻く世界が激変した。

 周囲に誰もいなくなった。エーデルワイスとルー以外、人っ子一人いない。

 さらに空気が重くなったように感じる。これが神々の戦争の舞台、バトルフィールドだと、エーデルワイスの感覚が訴えていた。

 

「当たりのようだ。バトルフィールドに取り込まれた」

「……行きましょう」

  

 緊張した面持ちで、エーデルワイスが一歩を踏み出したその瞬間だった。

 店の窓が全開に開かれた。何事かと上を見たエーデルワイスの視界の中央に、窓から何かが飛び出してきたのが見えた。

 

「え!?」

 

 それが人型をしていることに気づいた瞬間、エーデルワイスは己の神に呼び掛けた。

 

「ルー!」

「承知した」

 

 ルーの右手が翻る。その右手が黄金の光を放っていたかと思うと、地面から無数の光の樹木が一斉に屹立した。

 樹木は枝を伸ばし、葉を生い茂らせ、一瞬にして成長。巨大なクッションとなって窓から放り投げられたと思われる人々をキャッチ。そのままするすると逆回しのように縮小していく。

 小さくなり、芽に戻り、地面に消えていく。そのころには投げ出された人たちは安全に地面に着地できた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 エーデルワイスが駆け寄り、声をかけるが。反応はない。手近な少年の心臓に耳を押し当ててみる。鼓動があった。口元に手を当てれば、ちゃんと呼吸もしている。

 

「全員、意識は失っているが、生きているようだ」

 

 投げ出されたのは全部で七人。全員腕にデュエルディスクを装着していた。

 

「ジェネックス杯の参加者たちのようだ。どうやら、ティターン神族が神々の戦争の参加者以外も強制的にバトルフィールド内に取り込み、襲撃しているという話は真実だったようだ」

 

 ルーの言葉に微かな怒りが感じられた。反対にエーデルワイスの胸中には悲しみが広がった。なぜこんなことを、という気持ちが沸き上がる。 

 それらを振り払って、彼女は立ち上がった。

 

「行きましょう、ルー。こんなひどいことをするなら、私は止めます」

「無論だ」

 

 そして一人と一柱は敵がいることが確定した店内に入った。

 

 

 店内に入って、最初に感じたのは香りだった。

 料理の香り。その匂いに誘われるように、そちらの方に行ってみると、そこに、いた。

 回転テーブルの上に乗った中華料理を、黙々と食べる少女の姿。

 セミショートの茶色の髪、赤みがかった黒い瞳、エーデルワイスの知識にはないが、どこかの学校のブレザー姿。色白の肌に、右手の爪にだけ塗られたピンクのマニキュア。

 物静かなくせに、食べるペースは速く、量も多い。さっきまで広がっていた皿の上の料理がどんどん減っていく。

 あまりに見事な食べっぷりだったので、エーデルワイスは敵地に乗り込んだという緊張もどこかに消えて、ただ少女の食べる姿に見入ってしまった。

 デザートと思われる杏仁豆腐を平らげて、少女は水を飲んで、口元を布巾で拭った。

 

「えと……、終わりました、か……?」

「うん」

 

 こくりと頷いて、少女は席をたった。人形のように動かない表情。瞬きの数も少ないが、それがあるから人間だと認識できる。

 少女はじっとエーデルワイスを見た。

 そして頷き、

 

「ああ、今度は本当に神様を連れた子が来たんだ」

 

 表情に変化はない。ただ、そばの椅子の上に置いておいたデュエルディスクを手に取った。

 

「じゃ、やろうか。それとも外がいいかな?」

 

 淡々と、少女が言う。完全に相手のペースに飲まれていたが、エーデルワイスはそれでも己の疑問を晴らしたいと思った。

 

「その前に、一つ、聞きたいことがあります」

「何?」

「なぜ、神々の戦争の参加者でもない人たちを――――」

「ああ、バトルフィールドに取り込んで、デュエルして、痛めつけて気絶させたのか?」

 

 エーデルワイスの言葉の先を読む少女。エーデルワイスは青ざめた表情で頷いた。

 

「簡単だよ。神がぼくに言ったから。だからやるの」

「そんなことで?」

「そんなことで」

 

 簡単に頷く少女。だってしょうがないよと続ける。

 

()()()()()()()()()()()()()()。だから、そのお礼さ」

「選んで……」

「最悪なことばかりが続く人生だったけど、()()()()()()()()。それだけで報われる。だからなんだってできるんだよ。もうぼくの人生は報われているんだから。そうだよね? イアペトス」

「その通りだ」

 

 まるで鉄管が喋っているような響きの声だった。

 いつの間にいたのか。少女の傍らに大柄な男が一人立っていた。

 二メートルを超える体躯を、窮屈そうに三つ揃いのスーツに収めた男。

 髪は金と銀のストライプ。瞳は鉄色、肌の色はやや浅黒く、右手の五指に金の指輪、左手の五指に銀の指輪をはめた、いかにも危ない雰囲気漂う男。

 そして誰もいなかった空間にいきなり出現したことから、この男が人間でないことは確実だった。

 イアペトス、ティターン神族の一柱で、その名の意味は槍で貫くもの。それゆえ、武器、または殺し合いをもたらした神とされている。

 

「イアペトス。戦うんでしょ?」

「勿論だ、春。早乙女春(さおとめはる)。オレの契約者の女」

「じゃあ、()()()()()()

「応とも」

 

 春と呼ばれた少女に応えるように、神、イアペトスが両腕を広げた。

 その指先が銃口に変化しているのと確認した瞬間、ルーはエーデルワイスを抱えて跳躍した。

 発砲。というよりも大砲を発射したような轟音がマシンガンの連射のように鳴り響き、連なる。

 閃光、轟音、硝煙が乱舞し、放たれた弾丸――砲弾――が店の壁に次々に激突。壁をクッキーのように簡単に砕いていく。

 ルーがエーデルワイスともども脱出し、着地した時には店は跡形もなく崩落していた。瓦礫さえも細かく打ち砕かれた、徹底的な破壊だった。

 周りに倒れていた人たちの姿はない。バトルフィールドからはじき出されたようだ。

 

「これで広くなった」

 

 イアペトスと春が地上に降り立った。

 デュエルディスクが起動される。エーデルワイスも、圧倒されながらもデュエルディスクを起動させた。

 

「行きます」

「楽しくやろう」

 

 一拍の間が二人と二柱の間に満ちる。そして――――

 

決闘(デュエル)!』

 

 どうにも噛み合わないものを感じながら、エーデルワイスはティターン神族に対する初陣を開始した。

 

 

エーデルワイスLP8000手札5枚

早乙女LP8000手札5枚

 

 

「ぼくの先攻だ」

 

 先攻は春のものに。ドローフェイズ、スタンバイフェイズを消化して、メインフェイズ1に入る。

 一体どんなデッキなのか。固唾をのんで見守るエーデルワイスの前で、春がカードを繰り出した。

 

「これにしよう。魔弾の射手 カスパールを召喚」

 

 春のフィールドに現れたのは、金髪、青のバンダナ、赤のマント、異形の銃を持つガンマン。見た目は人間なのだが、銃を持つ右腕だけは青く変色し、不気味に脈打った悪魔の腕となっていた。

 

「それから、魔法カード、打ち出の小槌を発動。手札二枚をデッキに戻して、二枚ドロー」

「……手札交換カード。手札が悪かったのでしょうか?」

 

 頭の上に疑問符を浮かべるエーデルワイス。だが彼女の疑問は次には氷解した。

 

「この瞬間、カスパールの効果が発動するよ。魔弾の射手はね、自分と同じ縦列で魔法、罠が発動した時、デッキから魔弾カードを一枚手札に加えることができるの。ぼくは魔弾-クロス・ドミネーターを手札に加えるね」

「同じライン……。それはひょっとして、私のフィールドで発動した魔法や罠も!?」

「そういうこと。ただ漫然とカードを発動するんじゃ、ぼくにアドバンテージを与えるだけになるね。よく考えることだ。ぼくはこれでターンエンド」

 

 

魔弾の射手 カスパール 光属性 ☆3 悪魔族:効果

ATK1200 DEF2000

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分・相手ターンに自分は「魔弾」魔法・罠カードを手札から発動できる。(2):???

 

打ち出の小槌:通常魔法

(1):自分の手札を任意の数だけデッキに戻してシャッフルする。その後、自分はデッキに戻した数だけドローする。

 

 

「私のターンです、ドロー!」

 

 緊張を紛らわすため、必要以上に大きな声を上げて、エーデルワイスはカードをドローした。ドローカードを確認し、手札に加えた後に考える。

 

「どうしてサーチしたカードを使ったり、セットしなかったのでしょうか?」小首をかしげるエーデルワイス。

「手札に加えておくことに意味があるのか、今は使いどころではないが、デッキのキーカードか。とにかく油断はしないように」教師のようなことを言うルー。

「分かりました。手札の銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトンドラゴン)を捨てて、トレード・インを発動します。二枚ドロー!

 そして、銀河眼の雲篭(ギャラクシーアイズ・クラウドドラゴン)を召喚します!」

 

 エーデルワイスのフィールドに、小さな影が現れる。

 影の正体は小型のドラゴン。青白く発光する身体に、甲殻を被ったような頭部は、銀河眼の光子竜の幼生体を思わせる。

 

「銀河眼の雲篭の効果発動! このカードをリリースして、墓地の銀河眼の光子竜を特殊召喚します!」

 

 幼いドラゴンが小さな口を精いっぱい広げて咆哮を上げた。

 次の瞬間、銀河眼の雲篭の全身が光り輝き、その体がみるみるうちに大きくなっていく。

 成長が春の眼前で行われる。光が収まった時、そこにいたのは小さなドラゴンではなく、銀河を瞳の中に内包した、青白く光り輝く勇壮なるドラゴン。

 

「バトルです! 銀河眼の光子竜でカスパールを攻撃します!」

 

 攻撃に躊躇がない。エーデルワイスの命令を受けて、銀河眼の光子竜が咆哮を上げる。その口腔内に光が収束していく、その刹那、春が動いた。

 

「この瞬間、手札から速攻魔法、魔弾-クロス・ドミネーターを発動!」

「え!?」

 

 今までの、ボーイッシュだが少しゆったりとした、静かな声音から一転、凛とした声を張り上げた。

 そして次の瞬間、エーデルワイスの眼前で、春が手札から引き抜いた速攻魔法を、デュエルディスクにセットする。

 通常、速攻魔法や罠はセットしなければ相手のターンに発動できない。なので、エーデルワイスのターンに春が手札から速攻魔法を発動することはできないはずだ。

 にも拘らず、デュエルディスクは正常に動作。カスパールの右腕の銃から弾丸が放たれた。

 目をみはるばかりの早撃ち(クイック・ドロウ)。放たれた弾丸は魔弾となり、銀河眼の光子竜の頭頂部、眉間の中央に着弾した。

 

「一体、何が――――」

「絡繰りは簡単。ぼくの場にいるカスパール。正確には魔弾モンスターは、相手ターンに手札から魔弾を発動できる効果を持っている。この効果で、ぼくは手札から魔弾-クロス・ドミネーターを発動した。そしてクロス・ドミネーターの効果は、相手モンスター一体の効果を無効にして、攻撃力を0にすること!」

「つまり、射抜かれるだけの案山子に過ぎなくなるわけだ」

 

 半透明のイアペトスが嘲笑う。次の瞬間、バトルが成立。眉間を射抜かれ、息吹(ブレス)も中断された銀河眼の光子竜にカスパールが三発の弾丸を発射。

 左胸、腹、眉間に命中(ヒット)。光の竜はなす術なく(くずおれ)れた。

 

「そして、忘れてないよね? カスパールの効果も発動していたよ!」

「そういえば、早乙女さんがクロス・ドミネーターを発動した位置は、カスパールと同じ列……!」

「つまり、カスパールの効果が発動し、新たな魔弾を補充できるというわけか」

 

 無駄のないプレイングに唸るルー。一人と一柱の視線を受けて、春がにこりと笑う。

 

「カスパールの効果で、デッキから魔弾-デスペーラドを手札に加える」

「……私は、カードを二枚伏せて、ターン終了です」

 

 

トレード・イン:通常魔法

(1):手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

銀河眼の雲篭 光属性 ☆1 ドラゴン族:効果

ATK300 DEF250

このカードをリリースして発動できる。自分の手札・墓地から「銀河眼の雲篭」以外の「ギャラクシーアイズ」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚する。「銀河眼の雲篭」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。また、このカードが墓地に存在する場合、自分のメインフェイズ時に自分フィールド上の「ギャラクシーアイズ」と名のついたエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。墓地のこのカードを選択したモンスターの下に重ねてエクシーズ素材とする。「銀河眼の雲篭」のこの効果はデュエル中に1度しか使用できない。

 

銀河眼の光子竜 光属性 ☆8 ドラゴン族:効果

ATK3000 DEF2500

(1):このカードは自分フィールドの攻撃力2000以上のモンスター2体をリリースして手札から特殊召喚できる。(2):このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップに、その相手モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターとフィールドのこのカードを除外する。この効果で除外したモンスターはバトルフェイズ終了時にフィールドに戻り、この効果でXモンスターを除外した場合、このカードの攻撃力は、そのXモンスターを除外した時のX素材の数×500アップする。

 

魔弾の射手 カスパール 光属性 ☆3 悪魔族:効果

ATK1200 DEF2000

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分・相手ターンに自分は「魔弾」魔法・罠カードを手札から発動できる。(2):このカードと同じ縦列で魔法・罠カードが発動した場合に発動できる。その発動したカードとカード名が異なる「魔弾」カード1枚をデッキから手札に加える。

 

魔弾-クロス・ドミネーター:速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分フィールドに「魔弾」モンスターが存在する場合、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力・守備力は0になり、効果は無効化される。

 

 

エーデルワイスLP8000→6800手札2枚

早乙女LP8000手札4枚

 

 

「ぼくのターン、ドロー」

 

 今、エーデルワイスのフィールドにモンスターはいない。一気に展開すれば彼女のライフを大きく削れるだろう。

 

「だが、あの伏せカードがいかにも臭うな」

 

 イアペトスの言う通りだ。実際、さっきまで戸惑ってばかりいた相手は今、程よく緊張して、落ち着いている。

 

「こちらの攻撃に対して、あまり恐れはない。手札はあまり使うなよ。こちらの()()は、多く思わせるに越したことはない」

 

 魔弾モンスターは手札から魔弾速攻魔法、罠を発動できる。つまり相手にとって、手札の数がそのまま魔弾の数だと誤認させることができる。実際はモンスターカードもあれば、魔弾以外の汎用カードもあるのにだ。

 

「とりあえず、()()()()と行こうかな。魔弾の射手 スターを召喚」

 

 春のフィールドに、新たな魔弾の射手が現れる。

 踊り子のようなスカート衣装、細い腰つき、楽器のように揺れ奏でる腕輪、頭には黒い頭巾、口元も黒い布で隠した、扇情的で蠱惑的だが、隠しきれぬ殺気を醸し出す女ガンマン。踊り子風の衣装に不釣り合いな脚絆(きゃはん)も併せて、異様な雰囲気だ。

 

「ッ!」

 

 そしてエーデルワイスにとって気掛かりなのはモンスターの見た目ではなく、その位置。

 スターが召喚されたのは、エーデルワイスの伏せカードと同じ縦列。つまり、ここでエーデルワイスが伏せカードを発動すれば、魔弾の射手の何らかの効果が発動してしまう。

 威嚇射撃、というのはまさにこれだ。これで春は、エーデルワイスに伏せカードを使うか使わないかの二択を迫ることができる。相手のメリットを嫌い伏せカードを沈黙させるか、メリットに目を瞑ってでも、自分のすべきことを貫くか。

 

「さぁバトルだ! スターでダイレクトアタック!」

 

 攻撃宣言が下る。スターのステップで、彼女のスカートが風をはらんで舞い上がる。その際、脚絆に備えられていた拳銃を目にもとまらぬ速さで引き抜き、エーデルワイスに向けて銃口を向けた。

 

「この瞬間! リバースカードオープン! 聖なるバリア-ミラーフォース-発動!」

 

 翻ったのは、魔弾モンスターとは違う縦列にセットされていたカード。エーデルワイスの前面に、彼女を守るように光の壁が立ちはだかる。

 

「ダメダメダメ! 手札からカウンター罠、魔弾-デッドマンズ・バースト発動! ミラーフォースを無効にして、破壊するよ!」

「あっ!」

 

 ガラスが砕け散ったような音が響き渡り、光の壁が粉砕された。守るもののなくなったエーデルワイスの宝珠を狙い、弾丸が叩きこまれる。

 とっさに体をうずめてガードはできた。肩から跳ね上がった激痛に、歯を食いしばって耐える。

 

「そして、デッドマンズ・バーストはぼくのスターと同じ縦列で発動した。つまりスターの効果が発動する。デッキから魔弾の射手 ドクトルを守備表示で特殊召喚するよ!」

 

 医師(ドクトル)の名の通り、白衣に眼鏡姿の、長身の男が新たに現れる。その手にしたのは長大なライフル。右¥手は脈打つ銀色の異形と化していた。

 当然というべきか。特殊召喚された位置はエーデルワイスのもう一枚の伏せカードと同じ縦列だった。

 

「まだぼくのバトルフェイズは続いている。カスパールでダイレクトアタック!」

 

 もう一体の魔弾の悪魔が銃を掲げる。最早是非もない。エーデルワイスはデュエルディスクのボタンを押した。

 

「トラップ発動! 戦線復帰! 墓地の銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚します!」

 

 エーデルワイスの墓地から光が溢れ出し、ドラゴンの形を成した。復活した銀河眼の光子竜の攻撃力を前にしては、魔弾の射手もまた無力。

 ただし、今の射手たちにはまだ残弾があった。

 

「ドクトルの効果が発動! 墓地の魔弾-デッドマンズ・バーストを手札に加える。

 まだまだ! 手札から魔弾-デスペラードを発動! 銀河眼の光子竜を破壊する! 勿論この瞬間、同じ縦列にいるカスパールの効果発動! デッキから魔弾-ネバー・エンドルフィンを手札に加える!」

 

 力ある声音で、立て続けに春が叫ぶ。その言葉通りのことが次々に起こった。

 破壊される銀河眼の光子竜。魔弾が補充され、結果、守りを失ったエーデルワイスにカスパールの魔弾が叩きこまれた。

 

「くぅ……!」

 

 耐えるエーデルワイス。だがアドバンテージは完全に春のものになってしまった。

 有利を確信したのか、春が――その名の通り――朗らかに笑った。

 

「ターンエンド」

 

 

魔弾の射手 スター 光属性 ☆4 悪魔族:効果

ATK1300 DEF1700

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分・相手ターンに自分は「魔弾」魔法・罠カードを手札から発動できる。(2):このカードと同じ縦列で魔法・罠カードが発動した場合に発動できる。デッキから「魔弾の射手 スター」以外のレベル4以下の「魔弾」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

聖なるバリア-ミラーフォース-:通常罠

(1):相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

魔弾-デッドマンズ・バースト:カウンター罠

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分フィールドに「魔弾」モンスターが存在する場合、相手が魔法・罠カードを発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

魔弾の射手 ドクトル 光属性 ☆3 悪魔族:効果

ATK1400 DEF1200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分・相手ターンに自分は「魔弾」魔法・罠カードを手札から発動できる。(2):このカードと同じ縦列で魔法・罠カードが発動した場合に発動できる。その発動したカードとカード名が異なる「魔弾」カード1枚を自分の墓地から選んで手札に加える。

 

戦線復帰:通常罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

魔弾-デスペラード:通常罠

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分フィールドに「魔弾」モンスターが存在する場合、フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

 

エーデルワイスLP6800→5500→4300手札2枚

早乙女LP8000手札4枚

 

 

「分かっていたことですけど、強い……!」

 

 敵の実力を、エーデルワイスは痛感していた。

 まだ実戦経験の乏しいエーデルワイスは、こういう時に動揺しやすい。

 

「落ち着け、エーデルワイス。まずは落ち着け。君は、ここに動揺するために来たわけではないだろう?」

 

 ルーの声。その重厚な声のおかげで、叫びだしたくなるような気持ちが幾分和らいでいく。

 

「敵が強いことは当たり前だ。君の経験不足もまた当たり前だ。だが、それに立ち向かう姿こそが美しい、だろう?」

 

 ルーの言う通りだ。あの、ウェールズの森で見た背中を思い出す。

 あの少年は最後まで諦めなかったし、バロールと戦っている時も、あの背中を見たから自分も諦めなかったし、その結果、勝利を掴んだ。

 諦めるな。まだ自分は未熟で、弱いけれど、心まで弱いままでいるな。

 エーデルワイスは不利な戦況をどう覆すべきか、頭を働かせ始めた。

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